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バレンタイン2024

〜バレンタイン当日、高校の正門前

バル「持ってくれてありがとう、ホズ。重くありませんか?」
ホズ「全然。…兄さんは人気者だね。さっきもなかなか人が捌けなかったし…」(片手にでっかい紙袋を2つ持っている。全部バルドル宛のチョコである)
バル「ふふ。ほとんど学校に来ていなかった僕にこんなにくれるなんて、皆さんとっても優しいですよね。…うーん、お返しはどうしましょう…」
ホズ「マシュマロとかいいと思うよ」(ニコーッ)
バル「わぁ、いいですね!甘くて美味しいですもんねっ。お返しにぴったりな可愛いものを、今度一緒に買いに行きましょう」
ホズ「うん、喜んで」
バル「ありがとう。…そういえば、ホズはいくつ貰えたんですか?」
ホズ「え?ぼ、僕…?僕は…2つ…」
バル「わぁ!誰からですか⁉︎本命っていうやつですか⁉︎」
ホズ「ち、違うよ…。兄さんと…姉さんから貰ったやつだよ…」(自嘲気味に笑う)
バル「そうですか…。で、でも、今日はまだ終わってませんから。これから貰えるかもしれませんよ」
ホズ「…僕は別に、誰からも貰わなくたっていいけど…」
バル「ホズ…。そんなこと…あれ?」
ホズ「…どうしたの?」
バル「校門の前にいるの…あ!やっぱりヴァーリくんです!ヴァーリくーん!」
ホズ「え゛っ!い、いいよ兄さん無視して…」
ヴァ「バルドルじゃないか!ってことはホズも…ああ、いた!ようやく出てきてくれたねホズ!」
ホズ「げぇ…間違いなくあの子の声だ…」
バル「ホズを探していたんですか?」
ヴァ「ああ。チョコを渡したくてね」
バル「…!ホズに!ホズ…!ホズにですって…!」(飛び跳ねそうなほど喜んでいる)
ホズ「は、はは…」(引き攣った笑み)
ヴァ「ああ、ホズにだ。丹精込めて作ったから、ぜひ受け取ってくれたまえ」
ホズ「つ、作った…」
バル「しかも手作り…!はっ!クラスの人が言ってましたよ、手作りチョコは本命チョコなんですって…!すっごく大好きってことですよ…!」
ヴァ「ご名答だバルドル。まさにそう、本命だ。大本命だよ」
バル「わあぁ…!大本命!大本命チョコですよホズ!」(大はしゃぎ)
ホズ「へ、へえ…そ、そうなん、だね…。き、気持ちは嬉しいけど僕は遠慮して…」
バル「そんな。折角、後輩が心を込めて作ってくれたんですよ?受け取ってあげてください。…ね、ホズ」
ホズ「う…。そ、そうだね…。兄さんがそう言うなら…受け取ろう…かな…」(手を差し出す。内心では処分の仕方を考えている)
ヴァ「本当かい?受け取ってくれるのかい?」
ホズ「う、うん…。だから早く…」
ヴァ「それは良かった。じゃあ…」(ホズの手を握る)
ホズ「ひっ⁉︎」
ヴァ「バルドル、今からホズを借りてもいいかな」
バル「今から遊びに行くんですか?もちろんいいですよ!」(にっこにこ〜)
ホズ「え゛っ。でで、でも、僕は兄さんのチョコを持ち帰らないといけないから…!」
バル「ふふ、大丈夫ですよ、ホズ。お迎えを呼びますから。ホズは気にせず楽しく遊んで来てください」
ホズ「そ、そんな…兄さん…」
ヴァ「気遣いありがとう、親愛なるバルドル。君にはこっちのチョコをあげよう」(ケーキ屋さんで買った可愛いやつ)
バル「僕にもくれるんですか?わぁ可愛いクマさん…!ありがとうございます、ヴァーリくん。ホズをよろしくお願いします」
ヴァ「もちろん。…じゃあ行こうかホズ。僕が手を引くから君は安心して着いてきたまえ」
ホズ「むっ、無理…!安心できない…!に、兄さん…!」
バル「ふふ、ホズったら照れてるんですね。いってらっしゃ〜い」(清らかな笑顔)
ホズ「あああ…兄さん…なんでそんなに嬉しそうなんだ…」(諦めて手を引かれていく)



ホズ「…どこに連れて行く気…?廃ビル…?倉庫…?」
ヴァ「僕をなんだと思っているんだい。…僕の家だよ」
ホズ「一番危険な所だ…!や、やめて、離して…!」(思いっきり手を振り解く)
ヴァ「いっ…!お、落ち着いてくれホズ、別に取って食おうなんてわけじゃないんだから」
ホズ「し、信用できないよ…。だって君…バレンタインに本命チョコってことはやっぱり、僕のこと…そ、そういう目で見てるんでしょ…。盲目だしどうせ抵抗できないだろうとか…そんな風に思ってるんでしょ…。そんな人の家にまんまと上がり込むほど僕は馬鹿じゃないから…!」
ヴァ「…?そういう目…?何の話だい…?本命チョコって、本気で頑張って作ったチョコって意味だろう?」
ホズ「は?…ま、まあ、それもあるだろうけど…。付き合って欲しいとか愛してるとかそういう意味が一番でしょ…。まさか知らないで言ってたの?兄さんじゃあるまいし…」
ヴァ「…」
ホズ「…え、嘘。知らなかった…?」
ヴァ「…悪いねホズ…訂正させてくれ。君にあげるのは、本気で作った普通のチョコだ。君と仲良くはなりたいけれど、他意は全くないよ」
ホズ「そ、そう…なの…?普段あんなにストーカーしておいて?廊下や帰り道で待ち伏せしたり、しつこくお茶に誘ってきたり、重くて気色悪い口説き文句を言ってくるのに?」
ヴァ「…?君の中ではそれは、僕が君を愛している証拠になるのかい?」
ホズ「え。う…そ…そう言われると…なんか…なんか…。ぼ、僕が異常だった…のかな…。あ、ああ…清らかな兄さんとは違って、僕はドス黒く汚れたダメな子だから…きっと…きっと僕の方が間違っていたんだ…」(うずくまる)
ヴァ「…。地雷でも踏んだかな…」
ホズ「で…でも…まだだ…まだ僕は負けてない…!」(よろりと立ち上がる)
ヴァ「…(何と戦っているんだろう、彼は…)」
ホズ「たとえ僕の勘違いだったとしても、君を信用することはできないよ…!君がおかしな人だっていうのは変わりないんだからね!チョコに何か仕込んでるんだ!」
ヴァ「フフ…落ち着きたまえ。思い込みが激しくて愉快なところは昔から変わらないね」
ホズ「ほら『昔から』とかそういうやつ…!僕たちは去年会ったばかりだよ。君は一体、僕の何を知ってるっていうんだ…!」
ヴァ「ああ失礼。忘れてくれ。夢の向こうで君と会ったことがあるだけだからね」
ホズ「い、意味がわからない…。やっぱりこの子怖い…。ぼ、僕は帰るから…!」(踵を返し走り出す)
ヴァ「あ…!待て、今は赤だ!」
ホズ「赤…?…っ!」(信号ーーそう思った瞬間、危険を察知した足が反射的に止まった)
「(ここは…車道?それともまだ歩道?)」(慌てて耳を澄ますが、自分の鼓動の音が煩くて何も聞こえない。焦れば焦るほどに、意識に靄がかかったように感覚が消えていく)

プアァー‼︎キキィーッ‼︎

(突如意識の中に飛び込んできた大きなクラクションとブレーキ音。反応が遅れて動けないままでいると、腕が何かに強く引かれ、ホズは背中から倒れ込んだ)

「あぶねーぞ‼︎」

(知らない人の怒号が遠くから聞こえ、ガスの匂いのする風が顔に吹き付けてきた。その冷たさに、徐々に頭の中が晴れていく)

ホズ「はぁっ、はぁっ…な、何…何が…。ここは…?」(起き上がろうと地面に手を付いたところで、彼は自分以外の息遣いに気付いた)

「はぁ…はぁ…ま、全く…心臓が一つ取れたかと思ったよ…」

ホズ「っ⁉︎」(やたらと澄んだ声が耳元で響き、思わず勢いよく身を起こす。その声のしたところを手で探ってみると、誰かの顔があった)

「…やめたまえ」

(澄んだ美しい声が、若干の怒りを含んで静かに響く。ホズは慌てて手を離した)

ホズ「あ、ご…ごめん…ヴァーリ、くん…」(急いでヴァリの上から退く。今の状況が飲み込めてきて、血の気が引いていくのを感じた)
ヴァ「やれやれ…いたた…」(痛む背中を押さえながら起き上がり、ホズの手を取る)「もう少しこっちだ。まだ安全地帯とは言えないからね」
ホズ「あ、ああ…うん…ごめん…」(もはや謝ることしかできない。フラつきながらも立ち上がって、手を引かれるままに数歩歩いた)
ヴァ「ふう。…いや、僕も迂闊だった。君が『見えない』ことをすっかり忘れていたよ。いつも普通にしているものだから」(手を離し、ホズの鞄を拾って背負う)
ホズ「そ、そんなの…。別に君の責任じゃない…僕が勝手に、状況把握もせずに飛び出したから…。ごめん…本当に…」
ヴァ「…君が僕に謝る日が来るとは思っていなかったよ。僕が君に謝るのはあるとしても。…顔を上げたまえ。僕としては、君が無事ならそれでいい。…怪我はないかい?」(ホズの肩についた砂をポンポンと払う)
ホズ「…僕はいいよ。それより怪我してるなら君の方じゃないの?さっきどこか痛がってなかった?」(大人しく砂を払われる。さすがに拒絶しづらい)
ヴァ「ああ、背中を少しやったくらいだよ。でももう痛みは引いてきているし、問題ない」(軽い調子で言うが、まだ背中を押さえている)
ホズ「…そっか…それならいいけど…」(俯く)「…あの…。家…行くよ」(手を差し出す)
ヴァ「…!いいのかい?あんなに僕を怖がっていたのに」
ホズ「も、もちろんまだ信用したわけじゃないけど…。このまま借りを作って帰るなんて…もっと嫌だから…」
ヴァ「ふむ…なるほど。…ありがとうホズ。その選択、絶対に後悔させないと誓おう」(ホズの手を取り、ゆっくり歩きだす)
ホズ「…」(不安そうな表情を浮かべながらも、そのまま手を引かれていった)
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