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夢を抱いてもいいですか

 スマホの時間割表を開く。この後はもう講義がない。特に何の意味もないが、図書館に行こうかと思った。
 大学の図書館は、私のお気に入りの場所だ。本をめぐる音と、ペンを走らせる音しか聞こえない。図書館の自動ドアが閉まった途端、静寂が私を癒した。
 全部で三つの階層があって、一番下は地下二階となっており、少し古い本が所蔵された倉庫のような空間が広がっている。私は暇さえあればここに来る。ここならほとんど、人の気配を感じない。
 本の並んだ棚をゆっくりとした足取りで見て回る。優雅な美術展に来たかのように。背表紙だけを楽しんで、本には一切手を触れず。読みたくないわけではないが、こんなにたくさんの本があると、面食らってしまうのだ。大学生という肩書きにも期間がある。この短い時間の中、どれを読むべきで、どれを読まなくてもいいか、私はいつも悩み通す。悩み通すだけ悩み通して、何も読まずにその日を終える。
 結局、一冊も手に取らないまま図書館を後にした。すっかり用事が終わったんですという顔をして、できるだけ足音を立てないように自動ドアをくぐる。図書館から遠ざかりながら、ふと時間を確かめたくなってスマホを探した。どうやら鞄の奥に入れてしまったらしく、思うように取り出せない。思わず立ち止まって、不器用に鞄を漁る。すれ違った人々が笑っている気がした。
 やっと取り出したスマホには、一件のメッセージが入っていた。差出人の名前はハナ。
『この後暇?』
 今からつい十分前に受信したメッセージだ。もっと遅くに気づいていれば良かった。心の底から、煤混じりのため息がこぼれる。暇だと答えれば、きっと夜まで彼女のお喋りに付き合うことになる。だからといって誘いを断る理由には在庫がない。
『暇だよ』
 私はそれだけ送って画面を伏せた。あちらがメッセージに気づきませんようにと願いながら、目を閉じる。しかしそう経たないうちに、ブル、と手の中のスマホが震えた。ハナはいつも返信が早いのだ。さすがに観念しなくては。短く息を吐き、ハナの返信に書かれていた待ち合わせ場所へと足を引きずった。
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