Beside you
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
微睡みながら寝返りを打ち、求めるように伸ばした腕が虚しくシーツをなぞる。
そこにいる筈の体温に触れられず、クルーウェルの脳は一気に覚醒し、弾かれたように身を起こした。
「ユウ…?」
隣で眠っていたユウの姿がなく、心臓を握り潰されているかのような気分を味わう。どくどくと速まる心音に耳を支配され、全身からは嫌な汗が噴き出した。
まさか…と最悪の事態が過ぎり、探さなければと衝動に突き動かされるも、その当てはない。ベッドから降ろした足には無力さの枷が付けられ、ただ呆然と立ち尽くしてしまう。
そんな折、がちゃりと寝室の扉を開けたユウは佇む人影に奇妙な声をあげて後ずさった。
「ぇ…先生…?起こしちゃいました?」
蒼白な顔で目を見開くクルーウェルに、思わずたじろぐ。
睡眠の邪魔をしてしまったのかと申し訳なさそうに眉を下げたユウの姿を前に、クルーウェルは息をつく間もなく駆け寄ると華奢な体を軋む程に抱き締めた。
「先生?くるし…」
服越しに伝わる体温が、血の気の失せた顔に触れる頬の柔らかさが、吸い込んだ息に混じるユウの香りが、ゆっくりと“ここ”にいる事を感じさせる。
心音は未だ早まったままだったが、ぎこちなく背中を摩られている内に安堵を得た。
「どうしたんですか?」
何事かと驚いたユウもまた、微動だにしないクルーウェルをあやすように撫でつつ、事態を探ろうとしたが返答はなく、抱き締める力を込められるだけで苦笑を漏らす。
「大丈夫ですよ」
首元に埋められたクルーウェルの顔に頬を擦り寄せ、ユウは穏やかな口調で囁いた。
まだ夜明け前なのか、カーテンの向こうは闇が広がっている。少し冷えた物音のしないその一室には、背を摩る衣擦れの音だけが響いていた。
そしてどれほど経ったのか、漸く首元から顔を離したクルーウェルは弱々しい声で呟く。
「何処にも行くな…」
懇願するような言葉に大凡を察したユウは、困った顔をしながら冷たい頬に口付け、肯定を返した。
だがそれでも不安を払拭しきれなかったクルーウェルは、ユウを抱え上げるとベッドに潜り込み、抱き締めたまま体を横たえる。
絡められた長い足に拘束され、ユウはまた別の憂いに表情を曇らせた。
*****
ほんの数分前、誰かに呼ばれたような気がして目を覚ましたユウは、その弱々しい声の主が誰なのか、暫く耳を澄ませていた。
しかしそれから声が聞こえる事はなく、隣にいたクルーウェルは熟睡したままで、正体を掴めずに気の所為かとやり過ごそうとしたのだが…
どうにも寝付けずにトイレに行って帰ってきたら、こんな事になっていた訳である。
ざわざわとしたものが胸の奥で波風を立て、暗闇の中で立ち尽くしていたクルーウェルの蒼白な顔が脳裏から離れない。
ほんの僅かな不在すら絶望と焦燥を与えてしまうのかと思うと、いかに自分の存在が安定していないのか知らしめられる。
自分が思っている程、大丈夫でないのかもしれないと感じながら、クルーウェルを不安に貶めてしまっている事に後ろめたい気持ちを抱く。
自身の体を抱く力が一向に弱まらず、ユウは朝が来るまでの間、髪で隠れ表情の見えない頬を撫で続けた。