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「お世話になります…ユウです…」
おどおどしながら不安げに見上げ、か細い声でそう呟いて顔合わせをしたのは、もう随分前の事のように思える。
一際小柄で華奢な体型に疑問を抱き、肩幅や骨格、声色から確信を得た。
あとは宜しくと適当に押し付けていった鴉はろくな説明もせず、頭を抱えて溜息を吐いたのを今でも覚えている。
強ばった顔で自身の手をきつく握った姿に、困っているのはそっちだったなと反省をした事も。
どうせ悪戯目的で忍び込んできた無謀な愚か者だと思っていたが、何処から来た誰なのか突き詰めても、答えは一向に得られない。
そんな馬鹿な話があるかと更に詳しく話を聞いたが、聞けば聞くほど互いに困惑するだけだった。
男子校に女子生徒が一人、それも魔力無しの異邦人…
ツッコミどころが多過ぎて何処から手をつけるべきか大いに悩む。
「………まずは制服だな。その式典服より着る頻度が高いし、オーバーサイズで彷徨かれては気が散る。サイズを測るから脱げ」
「えっ」
「全部な訳ないだろう。仮にも教師だ」
顔を引き攣らせた異邦人は おずおずと式典服のフードを脱ぎ、露わになった黒髪と白い肌に一瞬、呼吸を忘れる。
胸まである黒髪は艶めいて、癖のない毛先に誘われるように指を絡めた。
「…あ、の…?」
「っ…すまない」
慌てて手を引っ込め、妙に速まる鼓動に気付かぬふりをす押し通す。
初めて会うその人物は何処か見覚えがあるような気がして、しかし つい先程耳にした出自に、それは他人の空似だと頷く他なかった。
サイズを測り終え、制服と運動着、実験着の用意を約束し、少しばかり自分や学園の事を話して、ふと置かれた沈黙に咳払いを一つ…
それから、まだ不安そうな顔をしている異邦人—ユウの髪を指差した。
「勿論、そのままでも構わないが…説明した通り、ここは男子校だ。お前が女であると周りに知られては色々問題が起き兼ねん」
「………分かりました」
「!」
とはいえ、やはり強要するような真似はよくないと訂正しようとした矢先、ユウは真っ直ぐこちらを見つめて口を開いた。
「髪、切ってもらえませんか?」
「………あぁ」
女にとって髪は命と同等の価値を持つ。
それを無情に奪ってしまうのは どうしたって気が引けた。
それでも、このか弱い存在が馬鹿共の毒牙にかかるのを黙って見過ごせる筈もなく、リスクを一つでも減らせるのなら喜んで労を取る。
そしてその役目は自分が担おうと、そうするべきであると自分に課した。
「Come、仔犬」
「…はい…」
大人しく言う事を聞く足音を背に、魔法薬学準備室という根城へと場所を変え、壁に掛かった鏡の前に座らせる。
薬草や裁断用の鋏は幾つかあるが、流石に散髪用はないな…
引き出しの中で並ぶ鋏達を睨み、新品のトリミング鋏を取り出した。
………多少、魔法で加工すれば人間にも使える…か?
「あの…先生?」
「クルーウェル様と呼べ」
「………」
いつになったら従順な仔犬に出会えるのか…
初見できちんと呼べた優秀な仔犬は今まで一人しかいなかった。
そういえば、あの仔犬は何処で何をしているのだろう…
「綺麗な黒髪だな。切るのが惜しい」
「…ありがとう、ございます…」
「長さは少し残しておくか…あとは全体的に梳いて軽くする。伸びたらまた俺の所に—…」
「?」
顎を捕らえて正面を向かせ、髪の短くなったユウを鏡越しに見つめた瞬間、朧げな記憶が一つ二つと蘇る。
いや、でも、まさか…そんな筈はない…
「クルー…エル、先生?」
「………クルーウェルだ」
今日は訳のわからない事ばかり続くな。
これからどうなるやら…