拗らせ合った32歳達
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ある日の昼休み。
一定の気温に保たれている中庭では生徒が何組か食事をとっていたり、楽しげな声をあげて談笑をしている。
購買で買った蜂蜜入りのミルクティーに息を吹き掛けながら、ユウは悴んだ手を制服のポケットに突っ込んでその様子をちらりと見やった。
もう十年以上前に過ごした学生時代の日々よりも、男子校とあってか賑やかさは一入。
はしゃいで回る姿を横目に、魔法の有無は関係ないのだと表情を緩めた矢先、奥の木陰にツートンカラーのコートを見つけた。
長い足を優雅に組み、周囲の喧騒を物ともせずに一定の間隔で手を動かしている。
「…?」
いつもは根城の魔法薬学準備室にこもっている担任がこんな所で一体何を…?と興味に突き動かされ、そろりと足音を忍ばせてベンチへと向かえば、先日行った小テストの採点中だと分かり思わず顔を歪める。
今回の出来はグリムと良い勝負だなんて思いながら、容赦なくバツを付けていく赤いグローブを恨めしい目で見やり、踵を返そうとした。
が
「ステイ、話がある」
「私はない」
「無駄口を叩くんじゃない、カム」
人を犬扱いするなんてと内心ぼやき、踵を芝生に擦りながら背を向けたままの担任の隣に立つ。
冷たくベンチの上に放られた答案用紙は丸の数が極端に少なく、あーぁと口が動いた。
「でもこの前より答えられたよ」
「空欄埋めてもそれが悉く不正解だから問題視してるんだろうが」
「えー、けどこの問題は意地悪だと思う」
「だからあれ程、問題集をよくやっておけと」
「課題多過ぎだってば。時間足りない」
「ここで躓いてたら先になんていけないぞ」
「いいよ別に、成り行きだし」
「お前…」
整った顔が不快を露わに歪み、シルバーグレーの目が鋭い眼光で射抜く。
地雷を踏んでしまった自覚はあったが、間違った事は言っていないと目を逸らして紅茶を口に含む。
「人が説教してるのに呑気に飲んでるんじゃない。没収だ」
「うっわ、ズル…」
「狡いとかそういう問題じゃないだろ。大体お前はー」
「もー、すぐ怒んのやめなよ。カルシウム不足?あ、甘いの飲んだら?それあげるよ」
「話をすり替えるな」
「いいから糖分摂っておきなって」
ひんやりとしたベンチに腰掛け、ハイハイと宥めるようにカップを担任の口元へと持っていく。
眉間の皺は増えたが、店長一押しのハニーミルクティーを飲めば機嫌も少しは直るだろう。
「あっま…」
「美味しいでしょ」
「おい、口直しにコーヒー買って来い」
「はあ?」
「ブラックな」
「行くなんて一言もー」
「今ここで個別指導してやってもいいんだが?」
「イッテキマース」
くっそ。職権濫用だ。
差し出されたマドルを引ったくり、泣く泣く購買へと出戻る事になってしまった。
あの鬼教師め…
エスプレッソを大量に頼んでMサイズにして持って来てやろうか…
いや、どうせならLサイズの方が嫌がらせになるかもしれない…
そんな事を考えほくそ笑んでいた為、ジャックとエペルがすぐ近くにいた事など露知らず、その会話もまるで耳に入っていなかった。
「本当に仲良いよね、あの二人」
「満更でもない顔してるからな。特に先生の方」
「付き合ってる…んだよね?」
「そんな野暮な事、聞くもんじゃねぇだろ」
「そっか、それもそうだね」
そんな会話を小耳に挟んだルチウスは、間もなく終わる昼休みに大きな欠伸をし、うんと体を伸ばしては二番目にお気に入りの日だまりを後にする。
少し冷たい廊下を行き、授業の準備を整えた主人の姿を見つけると足元で抱っこをせがんだ。
「お帰り、ルチウス」
快く抱いてくれる腕にゴロゴロと喉を鳴らし、今日もやんちゃな猛犬の所為でユウの膝を逃してしまったと文句を垂れる。
口煩く熱心過ぎる指導を煩わしがっていたユウの様子も伝えると、主人のトレインは静かに笑った。
「まったく…誰に似たのだか…」
どの口が言うのだかと出かけた言葉は飲み込んだ。
しかしまぁ夫婦喧嘩は犬も食わないというが、グルメな猫にとっては問題外の下手物である。
くっついているのだか いないのだかよく分からないが、ほぼ公認の仲であるあの二人がくっつかない事を祈るばかりだ。
何故って?
そんな物は決まっている。
この学園で唯一極上のベッドならぬ膝の持主であるユウを、あんな野蛮な獣好きの男に盗られたとあってはコートを八つにも割きたくなるだろう。
ただでさえ喋る魔獣が四六時中彷徨いて邪魔をされているというのに、そこへあの男も加わるだなんて冗談じゃない。
「エスプレッソをこの量で寄越す馬鹿が何処にいる!?」
「サムさんは良いって言ったもん!」
「間に受けるんじゃない!」
少し離れた所で今日も怒声が廊下に響き渡る。
この見慣れた光景が日常化してどれくらい経ったのか…
やれやれと深い溜息を落とす主人に続き、フンと鼻を鳴らす。
頼むから恋仲になんてなってくれるなよ。
あのでかい問題児の恨みがましい目を見るのはもう沢山なのだから。
「彼ももう落ち着いた恋愛をするべきだとは思わんかね、ルチウス」
いや、全く。
他を当たって欲しい限りだ。
その問いを投げる相手も、異性の相手も。
「どうした、今日はやけに静かじゃないか」
…どうにも嫌な予感がするのでね。
あの柔らかな膝を独占出来る日を夢見て、今暫くはうたた寝でもしておこう。
「あ!トレイン先生、助けて下さい!理不尽な職権濫用教師が今日もいたいけな生徒をこき下ろしています!」
「お前、何でもトレイン先生に言い付ければ済むと思うなよ!」
「やめなさい、騒々しい。そもそも二人はー…」
これはまた長くなりそうだと大きな欠伸をした間際、そろりと主人を盾にして逃亡を図ろうとする焦茶の瞳と目が合う。
人差し指を唇に当てがい悪戯っぽく笑って駆け出した背に、説教の最中やんちゃ坊主が吠えた。
「逃げるな!」
「私の話が終わっていないでしょう、クルーウェル先生」
「いや、あいつがー」
「口答えをするんじゃない、全く幾つになっても…」
これは好機ではと主人の腕から飛び降りて、笑い声を置いていく甘い香りの背中を追う。
後は好きにやってくれ。
「お言葉ですがトレイン先生」
「少々、彼女にキツくあたり過ぎているのでは?」
「はあ?何でそんな根拠のない事を」
「年齢も性別も異なる彼女をもっと労るべきだ、紳士ならば」
「これ以上ないくらい労ってますが?」
「そういうところがまだ青いんだ」
「本当に頭が固い…」
「それから猫好きの女性にはもっと優しくしなさい」
「個人的な意見ですよね、それ」
予鈴が鳴り響く中、二人の不毛な言い争いは通りすがりの学園長が仲裁に入るまで続き、特等席を奪われたグリムはユウの膝で気持ち良さそうに眠るルチウスを苦々しい顔で睨んでいた。
そんな何の変哲もない日常を過ごしたある週末ー…
一定の気温に保たれている中庭では生徒が何組か食事をとっていたり、楽しげな声をあげて談笑をしている。
購買で買った蜂蜜入りのミルクティーに息を吹き掛けながら、ユウは悴んだ手を制服のポケットに突っ込んでその様子をちらりと見やった。
もう十年以上前に過ごした学生時代の日々よりも、男子校とあってか賑やかさは一入。
はしゃいで回る姿を横目に、魔法の有無は関係ないのだと表情を緩めた矢先、奥の木陰にツートンカラーのコートを見つけた。
長い足を優雅に組み、周囲の喧騒を物ともせずに一定の間隔で手を動かしている。
「…?」
いつもは根城の魔法薬学準備室にこもっている担任がこんな所で一体何を…?と興味に突き動かされ、そろりと足音を忍ばせてベンチへと向かえば、先日行った小テストの採点中だと分かり思わず顔を歪める。
今回の出来はグリムと良い勝負だなんて思いながら、容赦なくバツを付けていく赤いグローブを恨めしい目で見やり、踵を返そうとした。
が
「ステイ、話がある」
「私はない」
「無駄口を叩くんじゃない、カム」
人を犬扱いするなんてと内心ぼやき、踵を芝生に擦りながら背を向けたままの担任の隣に立つ。
冷たくベンチの上に放られた答案用紙は丸の数が極端に少なく、あーぁと口が動いた。
「でもこの前より答えられたよ」
「空欄埋めてもそれが悉く不正解だから問題視してるんだろうが」
「えー、けどこの問題は意地悪だと思う」
「だからあれ程、問題集をよくやっておけと」
「課題多過ぎだってば。時間足りない」
「ここで躓いてたら先になんていけないぞ」
「いいよ別に、成り行きだし」
「お前…」
整った顔が不快を露わに歪み、シルバーグレーの目が鋭い眼光で射抜く。
地雷を踏んでしまった自覚はあったが、間違った事は言っていないと目を逸らして紅茶を口に含む。
「人が説教してるのに呑気に飲んでるんじゃない。没収だ」
「うっわ、ズル…」
「狡いとかそういう問題じゃないだろ。大体お前はー」
「もー、すぐ怒んのやめなよ。カルシウム不足?あ、甘いの飲んだら?それあげるよ」
「話をすり替えるな」
「いいから糖分摂っておきなって」
ひんやりとしたベンチに腰掛け、ハイハイと宥めるようにカップを担任の口元へと持っていく。
眉間の皺は増えたが、店長一押しのハニーミルクティーを飲めば機嫌も少しは直るだろう。
「あっま…」
「美味しいでしょ」
「おい、口直しにコーヒー買って来い」
「はあ?」
「ブラックな」
「行くなんて一言もー」
「今ここで個別指導してやってもいいんだが?」
「イッテキマース」
くっそ。職権濫用だ。
差し出されたマドルを引ったくり、泣く泣く購買へと出戻る事になってしまった。
あの鬼教師め…
エスプレッソを大量に頼んでMサイズにして持って来てやろうか…
いや、どうせならLサイズの方が嫌がらせになるかもしれない…
そんな事を考えほくそ笑んでいた為、ジャックとエペルがすぐ近くにいた事など露知らず、その会話もまるで耳に入っていなかった。
「本当に仲良いよね、あの二人」
「満更でもない顔してるからな。特に先生の方」
「付き合ってる…んだよね?」
「そんな野暮な事、聞くもんじゃねぇだろ」
「そっか、それもそうだね」
そんな会話を小耳に挟んだルチウスは、間もなく終わる昼休みに大きな欠伸をし、うんと体を伸ばしては二番目にお気に入りの日だまりを後にする。
少し冷たい廊下を行き、授業の準備を整えた主人の姿を見つけると足元で抱っこをせがんだ。
「お帰り、ルチウス」
快く抱いてくれる腕にゴロゴロと喉を鳴らし、今日もやんちゃな猛犬の所為でユウの膝を逃してしまったと文句を垂れる。
口煩く熱心過ぎる指導を煩わしがっていたユウの様子も伝えると、主人のトレインは静かに笑った。
「まったく…誰に似たのだか…」
どの口が言うのだかと出かけた言葉は飲み込んだ。
しかしまぁ夫婦喧嘩は犬も食わないというが、グルメな猫にとっては問題外の下手物である。
くっついているのだか いないのだかよく分からないが、ほぼ公認の仲であるあの二人がくっつかない事を祈るばかりだ。
何故って?
そんな物は決まっている。
この学園で唯一極上のベッドならぬ膝の持主であるユウを、あんな野蛮な獣好きの男に盗られたとあってはコートを八つにも割きたくなるだろう。
ただでさえ喋る魔獣が四六時中彷徨いて邪魔をされているというのに、そこへあの男も加わるだなんて冗談じゃない。
「エスプレッソをこの量で寄越す馬鹿が何処にいる!?」
「サムさんは良いって言ったもん!」
「間に受けるんじゃない!」
少し離れた所で今日も怒声が廊下に響き渡る。
この見慣れた光景が日常化してどれくらい経ったのか…
やれやれと深い溜息を落とす主人に続き、フンと鼻を鳴らす。
頼むから恋仲になんてなってくれるなよ。
あのでかい問題児の恨みがましい目を見るのはもう沢山なのだから。
「彼ももう落ち着いた恋愛をするべきだとは思わんかね、ルチウス」
いや、全く。
他を当たって欲しい限りだ。
その問いを投げる相手も、異性の相手も。
「どうした、今日はやけに静かじゃないか」
…どうにも嫌な予感がするのでね。
あの柔らかな膝を独占出来る日を夢見て、今暫くはうたた寝でもしておこう。
「あ!トレイン先生、助けて下さい!理不尽な職権濫用教師が今日もいたいけな生徒をこき下ろしています!」
「お前、何でもトレイン先生に言い付ければ済むと思うなよ!」
「やめなさい、騒々しい。そもそも二人はー…」
これはまた長くなりそうだと大きな欠伸をした間際、そろりと主人を盾にして逃亡を図ろうとする焦茶の瞳と目が合う。
人差し指を唇に当てがい悪戯っぽく笑って駆け出した背に、説教の最中やんちゃ坊主が吠えた。
「逃げるな!」
「私の話が終わっていないでしょう、クルーウェル先生」
「いや、あいつがー」
「口答えをするんじゃない、全く幾つになっても…」
これは好機ではと主人の腕から飛び降りて、笑い声を置いていく甘い香りの背中を追う。
後は好きにやってくれ。
「お言葉ですがトレイン先生」
「少々、彼女にキツくあたり過ぎているのでは?」
「はあ?何でそんな根拠のない事を」
「年齢も性別も異なる彼女をもっと労るべきだ、紳士ならば」
「これ以上ないくらい労ってますが?」
「そういうところがまだ青いんだ」
「本当に頭が固い…」
「それから猫好きの女性にはもっと優しくしなさい」
「個人的な意見ですよね、それ」
予鈴が鳴り響く中、二人の不毛な言い争いは通りすがりの学園長が仲裁に入るまで続き、特等席を奪われたグリムはユウの膝で気持ち良さそうに眠るルチウスを苦々しい顔で睨んでいた。
そんな何の変哲もない日常を過ごしたある週末ー…