拗らせ合った32歳達
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部内で取り纏めた提出物を手に、白衣を羽織ったトレイとルークは歓談を楽しみながら顧問のいる魔法薬学準備室までやってきた。
次はどんな素材を元にどういった化学反応を観察しようか、目下検討中である。
辿り着いた扉の前までその話は続き、いざ扉をノックしようとルークが腕を上げた所で、ふと中から聞こえてきた声に静止した。
「え、本当にやるんですか?」
「当然だ、早くしろ」
「でも…」
「お前が言い出したんだろう」
「そうだけど…ちょっと恥ずかしい」
「恥じらっても結果は変わらん」
「よくそんなドライな事言えるね」
「ほら、さっさとしろ」
おや?と濃淡の異なる二つのグリーンの目が僅かに見開かれ、静かに視線が交差する。
室内の主であるクルーウェルと、同い年であるオンボロ寮の監督生 ユウである事は声で分かったものの、状況がいまいち掴めずに息を潜めた。
「ちょ…待ってよ、そんなにー」
「大人しくしてろ」
「待ってってば」
「散々待ってやっただろうが」
「そんなに急がなくてもいいじゃん」
「煩い奴だな…」
おやおや?と今度は二人して空を仰ぐ。
何ともイケナイ会話が聞こえくるが、どういう経緯でそんな事になったのか全く見当がつかない。
どうしたものかと手を引っ込めた後も、妖しげな会話は続いた。
「ねぇ、もうちょっとやさしくしてよ」
「充分してるだろ」
「もっと」
「我儘を言うな」
「あ、そこはダメ!」
「いいから手を退けろ」
「待ってってば!ヤダ!」
デイヴィス・クルーウェルとの付き合いも早いもので三年経った二人の頭は高速回転をし、きっと試着か何かの話が少し如何わしく聞こえただけではと思い耽る。
となればサイズを測っている可能性もあり、あまり人に見られたくないような格好である事も充分考えられる訳で、これは出直した方が良さそうだとアイコンタクトをとり苦笑を浮かべた。
が
「あっ、それはイタイ…」
「仕方ないだろう、我慢しろ」
「やだ、本当に待って!無理無理!痛い!」
「手を退けろ」
「これ以上はやだ…もう許してよ…」
「聞けない相談だな」
「ね、もうちょっとだけ やさしくしてってば」
「他の奴にそれが効いたからって俺にも通用すると思うなよ」
「嫌だ!助けて!誰か!」
すまない、薔薇の騎士…と小さく呟いたルークは、トレイの静止を振り切り性急なノックをする。
そして狼狽するトレイの声を背に、中からの返事を待たずに扉を開いた。
「無事かい、トリックスター!?」
突然開いた扉に、中にいたクルーウェルとユウは目を丸くして来訪者を見つめる。
しかし最初に過ぎった試着や採寸の最中という感じには見えない。
更には不埒な状況ともとれず、二人はいつも通りの服装で机を挟んで向き合っているだけ。
強いて言えば、クルーウェルが採点しているプリントの上にユウが手のひらを置いているという、少し変わった風景ではあるものの全く問題らしい箇所はなかった。
「あ、丁度良い所に!ねぇ、ちょっと来て!」
早く早く!と手招きされ、ルークとトレイはおずおずと中へ足を進める。
対しクルーウェルは大きな溜息を吐き出し、背凭れに背を預けて採点用のペンを放った。
「これ見て!ココ!薬草の名前ちょっと間違えただけでバツ付けるの、この男!」
「だから月華草と月下草は別物だと何回言ったら分かるんだ」
「もう一つの方は知らないもん!まだ習ってないし!ニュアンスの問題じゃん!」
「全然違う。一昨日来い」
「せめて△にしてよー!」
「駄目だ」
「嘘でしょ!?その下もバツなの!?ねぇこれ以上バツ貰ったら補習確定じゃん…」
「苦しいのはお前だけじゃない。サビ残させられる俺の身にもなってみろ」
「そっちは教育の義務でしょ。放棄しなよ」
「…一度、徹底的に躾直した方が良さそうだな」
ぎろりと睨みを効かせるシルバーグレーの瞳に、トレイは まぁまぁと間に入った。
隣では顔に手をやったルークが 成る程…と小さく呟く。
指の間から見えた白い肌は僅かに朱が差しているようだった。
「二人共、この駄犬に薬学の知識を叩き込め」
「いや、でもー」
「ほう、この俺に口答えする気か?クローバー」
「…あまり期待しないで下さいよ。ルーク、手伝ってくれないか?」
「ウィ、勿論だとも」
思わぬ勘違いから微かに肩を揺らしながら、ルークはユウヘ手を差し伸べる。
何事もなくて良かったと二人は密かに胸を撫で下ろしていたが、そんな配慮があったとは露ほどにも思っていないクルーウェルとユウは犬と猫のように威嚇し合っていた。
「二人とも仲良いな」
「邪魔をしてしまって申し訳なかったね、トリックスター」
「え、居残り確定になった人間にかける言葉がそれ?」
今度は虫の居所が悪いらしいユウに睨まれ、二人は乾いた笑いを漏らす。
だがその直後に怒声が廊下に響き渡った。
「顔が良いからって何しても許される訳じゃないんだからね!」
笑って誤魔化すんじゃないと付け足され、微かに肩を揺らし合いながら後輩にして人生の先輩が齎す言葉を胸に刻んでいた。