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ある日突然、この捩れた世界へやって来てからというものの、夢物語であった魔法に触れ、個性の強過ぎる面々と交流を持ち、数多の出来事を経験すると共に濃厚な喜怒哀楽を味わって四年が経過した。
「ふぅ…」
無事に卒業式典を終え、世界を一周してモテモテの大魔法士になると豪語したグリムを見送り、肩を並べた学友達も諸先輩方に倣い、それぞれの夢を叶えるべく散り散りになってしまった。
賑やかな日々を送っていただけに、オンボロ寮で一人きりになってしまったここ数日は寂しさに押し潰されそうになっている。
オンボロ寮に一人きり。
卒業したにも関わらず、一人ぼっちでオンボロ寮に残っているのには勿論、理由があった。
というのも、この世界の生まれではない上に魔力を全く持たない事から、進路について長らく悩んでいた。
帰る方法が分からないまま時間は過ぎ、年数を重ねてしまっては、担任であるクルーウェルの気苦労や焦燥は随分増していたようで。
一方、クロウリーの方は終始のらりくらりと催促の声を避け、飄々と、もしくは狙い通りにある一言を言い放ったのだ。
「卒業後はこの学園で用務員として働けばいいんじゃないですか?」と。
何を呑気な事をと噛み付いたクルーウェルを他所に、当人は面倒な就職活動をしなくて済むのならと二つ返事をした次第である。
面倒臭がったのは履歴書の作成や面接の練習といった点だけではない。
事情を知っている学友達はあまり触れてこないが、出身地や母校の語らいがコミュニケーションの一種である以上、適当な嘘を重ね続けるのは中々に骨が折れる。
ましてや名門NRCの出身ともなれば、「何故男子寮に女子生徒が?」と質問責めにあうのは明白。
その情報が漏れてしまっては、学園の長たるクロウリーが火消し役を務めなければいけない訳で、それならばいっそ…とお互いにとって有益な取引を行ったという流れだ。
「静かになっちゃったな…」
そんな事や、今まで重ねてきた日々を回顧しつつ、静寂が広がる談話室の掃除を終えたユウはソファの上で小さな溜息を漏らす。毎日のように何かしら起きた騒動に巻き込まれ、危険な思いをしながらも実に貴重で面白い体験を沢山してきた。このオンボロ寮で作った思い出に浸りつつ、不意にある噂について語らった日の事が頭を過ぎる。
———…
二年生に進級し、新たにできた後輩に自身の気を引き締め直して少し経った頃の週末。
すっかり馴染みとなった同学年のメンバーとお菓子やジュースをつまみながら、だらだらとテレビを見ていたある夜の事。
そういえばと口にしたエースが、真偽不明な怪奇現象を取り上げたテレビ番組から視線を外し、寛ぐメンバーに投げかけた。
「〝開かずの間〟の噂って知ってる?」
その問いにグリムは怪訝な顔をしながら復唱し、ユウと揃って首を傾げる。
同じような反応を見せたのは半分程だった。
「ダイヤモンド先輩が言ってたやつか…結局見つけられなかったって、残念がってたな」
「一時、『探し出せたら懸賞金!』とか騒がれてたよね。いつの間にかその話もなくなってたけど」
「くだらねぇな。ラギー先輩でさえ食い付かなかったホラ話だろ」
あぁ、アレねと懐かしがって話しているデュース、エペル、ジャックの横で、ユウはセベクに視線を送ってみる。
が、すぐに一蹴されてしまい、くすくす笑ったオルトが噂について簡潔に纏めてくれた。
「NRCで語り継がれているソース不明の噂話だね。この学園内の何処かに突然現れるという扉の事だよ。中には財宝や貴重な魔導書、願いが叶う魔法石なんかがあるって囁かれてるんだって」
「へぇ、凄いね」
「でもあくまでも噂止まりの夢物語だね」
「そうなの?」
「だってその扉を開いたって人は一人もいないんだ」
有名な噂話なら、その中へ入ったという人物が現れたら大騒ぎになるだろう。それがないという事は…と、オルトが出した結論に納得せざるを得ない。
「ふん、実にくだらん。これだから俗物の人間共は」
「セベクだって財宝や魔導書に興味はなくても、願いが叶う魔法石には惹かれるんじゃない?」
「馬鹿を言うな!僕がそんなー」
「ツノ太郎の護衛に相応しい力を授かれますようにー、とか」
「!」
「ツノ太郎から絶大な信頼を置かれますようにー、とか」
「それはっ…悪くない…かもしれないな…」
「でしょー?」
「オレ様は世界一カッコいい大魔法士になって皆からチヤホヤされたいんだゾ!」
「親分はブレないねぇ」
誰にだって叶えたい夢はある。
卒業も見え始めた頃とあれば殊更だ。
皆、しっかり現実を見据え、向かうべき道を決めている。
そんな中で、元の世界に戻れるかもしれない可能性を完全に手放せないままに、この世界で生きていく術も身につける保険に勤しんでいた。
働かなければ食べていけないのだから、仕方がない。
そう言い聞かせてきた日々を脳内の端に追いやり、何故こんな話になったのかと記憶を遡る。
「で、その〝開かずの間〟がどうしたの?」
もっと!とお菓子を強請るグリムから食べ過ぎだよと袋を引き剥がす。
当然、不満だと言わんばかりに大暴れされたが、未来のモテモテ大魔法士様がメタボリックな我儘ボディでは少々格好がつかない。
心苦しいがこれも親分の為である。
「なーんだ、お前等も結局見つけられなかったのかよ」
「だから所詮、噂話だろ。そんなもんガキみたいに信じてんじゃねぇ」
「デマだったら何年も語られなくね?」
「そもそも開かずの間を見かけたって話を聞かねぇんだ。って事は存在自体がないって事なんじゃねぇのか」
「まぁまぁ、二人とも…」
ヒートアップするエースとデュースの間に割って入り、おかわりのジュースを注ぐ。
無いものの証明ほど難しいものはないだけに、この話はそろそろ終わりにした方が良さそうだ…と思ったのだが、徐ろにオルトがぴんと腕を伸ばしてそれを阻んだ。
「そうとは言いきれないよ、ジャック・ハウルさん!開かずの間を見たって人は今まで何人かいるみたいなんだ」
「マジかよ!?でもさっき一人もいないって…」
「うん、〝開かずの間を開いた人は〟ね」
「誰も開けられないから〝開かずの間〟なんでしょ?」
オルトに続きそう告げれば、全員が「確かに…」と空を見た。
そして改めて開かずの間とは何なのかという疑問に戻る。
「じゃあその噂を踏まえてさ、開かずの間って何処にあるか…オルト、解析出来る?」
「うーん…それが皆の証言がバラバラなんだよね。時間も場所も全く法則性がないんだ」
「え、いつ何処に現れるか分からないって事?怖」
「そうだね、神出鬼没の扉みたい」
「遭遇もレアなのに扉を開ける事も出来ないなんて…何の為の一室なの?」
「それが噂に尾ひれをつけた所以なんじゃないかな」
「成る程…」
一定の目撃情報と、噂通り開ける事が出来なかったという証言が長らく語り継がれてきたという訳だ。
元の世界でも各地で噂されていた学校の七不思議を彷彿とさせ、俄然興味が湧く。
「じゃあ目撃情報を元に、扉の色とか形は分からないかな?」
「どうやらドアノブは黄金色で、両開きの白い扉らしいよ。それに鳥の羽の装飾が刻まれてるんだって」
「へぇー………………ん?」
「どうかしたの?ユウさん」
「………私、見たかも」
「え」
五人と一匹の驚いた声が響き渡り、怒涛の質問攻めにあったのは言うまでもない。
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