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”twisted wonder land”
ある日突然、捩れた世界に放り出されて、訳も分からぬず様々な出来事に巻き込まれ、不思議な体験をした日々をぼんやり思い出す。
始まりは突然だったが、終わりも同じように突然だった。
満足に挨拶もできず、気付いたら自宅の部屋のベッドに寝転がっており、おまけに日付は過去のまま。
今となっては長い夢だったのかもしれないと思える程、記憶は次第に曖昧になってしまった。
「………みんな、どうしてるかな」
心も体も疲れきっていた。
確かにトラブルメーカーは隣にいないし、首を刎ねたがる暴君も出自を呪う反逆者も会社にはいない。
商魂逞しい努力家を目の当たりにしていた手前、そこまでやる気のある人物には出会えていないし、大なり小なり画策を企てる策謀家は身近どころか世に五万といるが、あれ程までに自分を押し殺し役目を全うしている者にも会ったことはなかった。
メディアを賑わせる圧政者は目まぐるしく入れ代わり、玉座に君臨し続ける者—そう呼ぶに値する者は、久しくお目にかかっていない。
役割を担った番人は各々の役割も今日も淡々とこなしているだろうし、一国を担う孤高の支配者は今日も明日を憂いているかもしれない。
「…みんな…」
魔法があって、獣人がいて、人魚がいて、妖精がいて…
この世界と似たようで まるで異なる捩れた世界。
まさか経過していた時間まで捻れていたとは思わなかったが、何事もなかったかのように日常は押し寄せてくる。
そんな中で、いつしか大変ながらも楽しかった思い出を忘れてしまっている自分がいた。
エースやデュースの声も、顔も、グリムの重さも、ぬくもりも…
あの騒々しい日々には劣るが、こちらはこちらで自分の人生を歩むのに必死で、いつしか意識を向けることすらなくなっていた。
が、何故かこの日たまたま、ふと思い出したのだ。
水底から小さな泡が浮かび上がってくるかのように、一つ二つと。
お風呂上がりの火照った体にタオルを巻き付け、鏡に映る疲弊しきった顔に溜息を漏らし、のろのろと化粧水をはたいていた時に。
“みんな”
マブに同級生に沢山の先輩達、そして頼もしい教師陣。
とりわけ担任は厳しいながらも懐の深い人で、異世界から来た異性である負い目を感じていただけに、迷惑になるようなことは極力控えるよう振る舞ってきた。
分からない事だらけの自分を幾度となく気にかけ、救いの手を差し伸べてくれていたのは本当に感謝している。
けれどそれが何度も重なれば他の生徒から妬みを買い、贔屓だと弾糾され、関係を深読みなどされる可能性が否めない。
教師としての立場を危ぶませてしまうことなど、できる筈がなかった。
上手く甘えることもできずに、のらりくらりと過ごしてきた訳だが…
それらがどこまで上手くいったのかは定かではない。
そんな答えをあの口から聞くのは、あまりに恐ろしくて確かめられなかった。
仮に肯定や否定の言葉をもらったとして、「あぁ、そうか」と素直に飲み込める自信などまるでない。
だから聞かなかったことが最善の道で、胸に燻っていた恋心を漏らさずにいたこともまた、正しい選択だった。
「ですよね、クルーウェル先生…」
教師と生徒という建前も、自分の戸籍や将来の不安定さも、何もかもがネック。
想いを伝えたとして、万が一にも恋人になれたとしても、相手には何のメリットもない。
ただの重荷にしかならない。
大好きな人を苦しめたいなどと思う者が、この世のどこにいるだろうか。
だから、これで良かった。
それなのに
「先生…会いたいよ…」
もうあの声を聞くことも、顔を見ることも、触れてもらうことも、叶わないというのに…
実らなかった恋が悲しいと、どうしようもなく苦しいと痛む胸が、疲れた顔をさらに歪ませた。
これでは叱咤されてしまうと無理矢理口角を上げ、滲んだ視界の中、情けない表情を浮かべる鏡の中の自分に手を伸ばす。
その瞬間、とぷんと脈打った鏡に目を見開き、手を引く間もなく物凄い力で引き摺り込まれた。
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