Long dream
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普通の家で普通に育った極普通の女子高生。
自分を表すには何とも特徴のないその言葉で充分事足りた。
死にたい訳ではないが、特段生きたいと強く望んでもいない。
絶望する事もないが、希望を抱いてもいない。
なりたい職業がある訳ではないし、将来の夢はお嫁さんなんて軽くこぼす事も出来なくなってきた昨今。
部活や恋に青春を捧げてこなかった身としては、漠然とした進路に鬱々としているだけだった。
仲の良い友達に、ちょっと苦手な子。
好きな授業と、何度教科書を見てもまるで頭に入ってこない科目。
先生の目を盗みながらルーズリーフに綴る友達との雑談に、悪戯書き。
漫画の貸し借りをする休み時間と、昨日見たテレビの話題で盛り上がる昼休み。
そんな何処にでもあるような日々を送りながら、物足りなさを感じていた。
刺激を欲しているといっても、どんな事かまでは明言出来ない。
それなりに楽しいけれど、何か面白味に欠けるような毎日。
ドラマやバラエティ番組、漫画の最新刊に今期のアニメと、話題は豊富なのに何となく満たされていなかった。
学校という箱庭を好きか嫌いかで分けるとするならば、別にどうでも…という三択目を口にしてしまう。
酷いイジメを経験した訳ではないし、かと言ってクラスをまとめ上げて何かで成し得たという功績もない。
近しいような事は ぽつぽつとあったが、どれも大した思い出として残らなかったのは、ひとえに担任の所為だと思う。
人の所為にするのは良くない。
それは重々、分かっている。
ただ平凡界の中でも下層に揺蕩う身としては、担任ガチャの引きの悪さがトップに立てない理由であると声を大にしたいのである。
小学生の一年時は新米の女性が担任だった。
明るい笑顔で親しみやすかったが、半年も経つとその笑顔も消え、終始苛々しながら怒鳴るようになり、二年生に上がる頃には学校を辞めた。
次の担任は和やかな女性で好きだったけれどすぐに産休に入ってしまい、後任は二つのクラスを掛け持っていた為、あまり構ってもらえなかった記憶がある。
お互いに顔と名前が一致していたかどうかすら怪しい。
保護者の前でがだけニコニコして猫撫で声を出す人。
一度も目が合う事がなかった、死んだ魚のような目をした人。
情緒不安定なのか、気分の浮き沈みが激しい人。
お気に入りの生徒だけを周りに囲って、他の生徒には見向きもしない塩対応な人。
問題が起きても事なかれ主義で関心を寄せない人。
覚えているだけでこのラインナップ。
とりわけ一番最後が酷かった。
助けてと縋った手を軽くあしらわれてしまったのだ。
あの時の心底面倒臭そうな顔と重たい溜息、払われた手の冷たい感触は二度と忘れない。
助けてくれないのだと失望すると同時、大人は頼れない生き物だと悟ってしまった。
日中、親の代わりに大事がないかぼんやり見守りながら、ただ粛々と業務をこなして保護者の顔色を窺う生き物。
それが教師というものだと、義務教育間に得た最大の学びである。
ほんの少しだけ捻くれて育ってしまった訳だが、教師が全員頼りないと毛嫌いしている訳ではない。
残念ながら“たまたま”自分の身の回りにそういう人が多かっただけで、きちんと職務を全うしている素晴らしい人も多くいるだろう事は頭では分かっているつもりだ。
何故そんな突っかかるような物言いになってしまうのかと問われれば、やはり色眼鏡で見てしまい自ら一線を引いているからだろう。
所詮は他人。
人の子なんてさして可愛くはない筈だ。
ましてやそれが複数人にもなり、大きな怪我がないよう常に目を光らせていなければならないともなれば、苦労は尽きない。
他人なのだから仕方がない。
ちょっとした表情、仕草、物言いに、諦めるように自分に言い聞かせていた言葉である。
それがある日、予想だにしない出来事に巻き込まれ、平凡な日常とサヨナラをした挙げ句、一人の教師へ狂おしいまでの想いを傾ける事になるだなんて露ほども思わず、いつも通りに目を閉じ夢の中へ沈んでいった。
『あぁ、やっとー…』
恋焦がれたようなそんな言葉が聞こえた気がした。
所詮は夢とやり過ごし、ぷつりと意識が途切れる。
そしてガタガタと耳元で鳴る物音に目を醒まし、何処もかしこも真っ暗な状況に酷く困惑した。
ぶつぶつ聞こえる不満げな声に耳を傾けながら、そろりと手を動かしてみると壁のようなものにぶつかる。
少しばかり力を入れると、それは軋んだ音を立てながらも呆気なく開いた。
目に飛び込んできたのは、耳に青い炎が灯った喋る狸と宙に浮いた沢山の棺。
狸じゃないと喚くそれは青い炎を吐き出し、服を寄越せと襲いかかってきた。
丸焦げになったら目は醒めるのだろうかと思案し、逃げ惑う感覚や息苦しさは妙にリアルで、更に怪しげな格好をした人物に出会した所で考える事を放棄した。
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