Short dream
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ユウはかれこれ数時間、携帯と睨めっこをしていた。
呆れたグリムは既に隣で夢の中…
うーん…と唸りながら、ある画面を開いては閉じを繰り返し、小休止という名目の逃避をしている。
SNSでは帰省した友達や先輩達が楽しげな写真を沢山あげ、大いに賑わっているよう。
豪勢な食事や家族との団欒の様子、人気の特番のRTや、手こずっている課題等、多岐に渡り興味をそそられた。
顔馴染みの面子に片っ端からリプライし、少しだけ寂しさを紛らわせる。
あと数十分もすれば新しい年を迎えるのだが、異世界で過ごす年明けの夜は家族もいなくて心細い。
熟睡するグリムに毛布を掛け直し、ひんやりした空気と静寂から隠れるように、ユウもまた もそもそと毛布の中で体を丸めた。
「あと五分…」
元いた世界では、カウントダウンの特番を家族揃って見ていた。
今年はこんな事があったねと他愛のない話をして、炬燵の中で足を伸ばしては、来年はもっと良い年になるといいねなんて毎年同じ話をする。
明けましておめでとう、今年も宜しくとお決まりの言葉を述べて、母の作る年越し蕎麦に異様にはしゃぐ大晦日と元旦。
深夜に食べる熱々のお蕎麦や分厚い掻揚げは、いつも食べている物より何故か数倍美味しい。
食後、ごろごろしながら生放送のバラエティ番組を見ていると、初詣に行くんだから早く寝なさいと食器を洗い終えた母からお尻を叩かれる。
翌朝は御節を食べて、厚着して参拝をして御神籤を引いて、屋台で買物をして人混みに疲れて、ぐったりと帰宅する…
そんな恒例の行事も今年は皆無。
自分がいなくなった事で当たり前の日常を過ごす事が出来なくなっているかもしれないと思うと、胸が痛んだ。
「…寂しい」
寝息を立てるグリムに背を向け、自身の膝を抱え込んでぽつりとそう溢した瞬間、枕元に置いた携帯が着信を告げる。
静寂の中に木霊するバイブ音に弾かれたように毛布から顔を出し、慌てて携帯に手を伸ばす。
こんな時間に一体誰から?と首を傾げ画面を見やった瞬間、息を呑んだ。
ホリデーが始まる直前、学園長から支給された携帯の画面に“デイヴィス・クルーウェル”の文字が眩しく光っている。
どうせ連絡をとるような事はないだろうと思っていたのだが、有無を言わさず番号の交換をされ、そして何の前触れもなく着信があったこの現状に戸惑いと緊張感が入り混じった。
「…はい」
「遅くにすまない。もう寝てたか?」
「いえ…」
「そうか」
微かに笑みを含んだ耳心地の良いテノールが耳元で響く。
どうという事はない筈の電話なのに、大好きな人の声をこんなにも近くで聞ける喜びは胸の鼓動を速めた。
「どうしたんですか?何か急用でも?」
「いや、夜更かししている仔犬共を強制的に寝かしつける巡回の途中だ。携帯を支給されたからといってSNSに夢中になるなよ」
「ごめんなさい…」
「冗談だ。お前がどうしているか気になってな」
どきりと胸が鳴り、頬はいやに熱を持った。
「こんな時間に急用でもないのに連絡するのは気が引けて」
「私も、です。今年いっぱいお世話になったので、お礼を伝えたくて…でも迷惑かなって思ってたら時間ばかり過ぎちゃって…」
「そうか、そんなに俺の声が聞きたかったのか」
揶揄うような声が告げる心を見透かしたような言葉に、全身に熱が回り口籠った。
折角大好きな人の声を聞けているのに、いざ直面すると何を話して良いのか分からなくなってしまう。
もどかしさに焦れつつ、話のネタはないかと思案した矢先、テノールがその思考を止めた。
「食事はきちんととったか?」
「今日は和風ツナパスタにしたんです!寒かったのでスープ多めにして」
「…栄養面が心配だな。まさかホリデー中、ほぼ同じメニューになるんじゃないのか?」
「明日の朝はツナマヨサンドで、お昼はクリームツナパスタ、夜はツナとエノキの炊き込みご飯なので大丈夫です!」
「分かった、食材送るから一旦ツナから離れろ」
「でもグリムが」
「お前はそうやってすぐグリムを甘やかすんじゃない」
「でも一応サラダとかも」
「俺の気の所為か?無駄吠えが聞こえたようだが」
「…はぁい…」
「Good girl」
お叱りを受け、布団から抜け出して正座をするとクスクス笑う声が耳元に響いた。
…柔らかく笑うその顔を、間近で見られたら良いのに。
「もう寝るか?」
「…あと少しだけ」
「仕方ないな、少しだけだぞ」
嬉しい時間の終わりを悟り再び寂しさを覚えた直後、切り出された話にパッと顔を上げる。
「こっちでの生活はどうだ?慣れたか?」
「えっと、はい…」
「何かあったらすぐに言えよ」
「ありがとうございます。あの、先生は今どちらに?」
「北国だ。雪がよく降り、夜は煩いくらいの静寂が続く」
「寒そう…風邪ひかないように気を付けて下さいね」
「愛しい毛皮がたっぷり温めてくれる。お前こそ薄着でいるんじゃないぞ」
「はい、先生」
「良い仔だ」
「………」
ホリデーが終わるまでまだ何日もある。
それまでは会いたくても会えないし、こうして声を聞く事も叶わない。
きっかけも何も持っていない身としては、幕引きとなる沈黙が恐ろしく悲しかった。
「あの、先生…」
「早くお前の顔を見たい」
心臓を鷲掴みにされた心地に、息をするのも忘れる。
カチリと鳴った枕元の時計の針へ何気なく目を動かし、その瞬間から新たな年の始まりを迎えた。
「Wishing you a great year.お前がまた笑顔で学園生活を送れる事を祈っている」
「っ…ありがとうございます」
なんて嬉しい年の終わりに、なんて幸せな年の始まりだろうかと声が震える。
「新たな一年が、クルーウェル先生にとって充実したものになりますように」
「ありがとう。お前が祈ってくれたなら、きっと実現するだろう」
小さく笑い合い、やがて途絶えてしまった声に今度こそ終わりを感じ取る。
やはり寂しい事に変わりはないが、それでも胸に満ちた幸せは一入だった。
「先生、わざわざ電話くれてありがとうございます。嬉しかったです」
「仔犬の世話をするのは飼い主の役目だからな」
気にする必要はないと足された言葉に、それでも自分の事を考えてとってくれた行動は何よりも心強いと感じる。
クールな外見の割に情が深く、その優しさについ甘えたくなってしまう。
我儘を言って嫌われてしまう前にと、今度はユウから切り出した。
「ホリデーが明けたら、お土産話いっぱい聞かせて下さいね」
「明けたらで良いのか?」
「え」
「また電話する」
「えっと…どういう…?」
「それまでゆっくりお休み、可愛い仔犬」
大量の疑問符にまみれ言葉を失う様子を、電話の向こうの相手は愉快そうに笑う。
「お…お休みなさい?」
当惑しながら返した夜の挨拶に、甘いリップ音が木霊する。
まるで本当に耳元でされたかのような艶やかなその音に、堪らず放心した。
「…早く会いたいな…」
「明日の昼には着く。お利口にしてろ」
「!」
切れていなかった電話と驚きの言葉に、思わず声をひっくり返した。
日の出まであと七時間程…
昼までは更にあと五時間。
こんなにも待ち遠しい半日は今まで経験がなく、驚愕はやがて歓喜へと変わり、緩んでしまう表情を両手で隠しては毛布の中でゴロゴロと寝返りを打った。
呆れたグリムは既に隣で夢の中…
うーん…と唸りながら、ある画面を開いては閉じを繰り返し、小休止という名目の逃避をしている。
SNSでは帰省した友達や先輩達が楽しげな写真を沢山あげ、大いに賑わっているよう。
豪勢な食事や家族との団欒の様子、人気の特番のRTや、手こずっている課題等、多岐に渡り興味をそそられた。
顔馴染みの面子に片っ端からリプライし、少しだけ寂しさを紛らわせる。
あと数十分もすれば新しい年を迎えるのだが、異世界で過ごす年明けの夜は家族もいなくて心細い。
熟睡するグリムに毛布を掛け直し、ひんやりした空気と静寂から隠れるように、ユウもまた もそもそと毛布の中で体を丸めた。
「あと五分…」
元いた世界では、カウントダウンの特番を家族揃って見ていた。
今年はこんな事があったねと他愛のない話をして、炬燵の中で足を伸ばしては、来年はもっと良い年になるといいねなんて毎年同じ話をする。
明けましておめでとう、今年も宜しくとお決まりの言葉を述べて、母の作る年越し蕎麦に異様にはしゃぐ大晦日と元旦。
深夜に食べる熱々のお蕎麦や分厚い掻揚げは、いつも食べている物より何故か数倍美味しい。
食後、ごろごろしながら生放送のバラエティ番組を見ていると、初詣に行くんだから早く寝なさいと食器を洗い終えた母からお尻を叩かれる。
翌朝は御節を食べて、厚着して参拝をして御神籤を引いて、屋台で買物をして人混みに疲れて、ぐったりと帰宅する…
そんな恒例の行事も今年は皆無。
自分がいなくなった事で当たり前の日常を過ごす事が出来なくなっているかもしれないと思うと、胸が痛んだ。
「…寂しい」
寝息を立てるグリムに背を向け、自身の膝を抱え込んでぽつりとそう溢した瞬間、枕元に置いた携帯が着信を告げる。
静寂の中に木霊するバイブ音に弾かれたように毛布から顔を出し、慌てて携帯に手を伸ばす。
こんな時間に一体誰から?と首を傾げ画面を見やった瞬間、息を呑んだ。
ホリデーが始まる直前、学園長から支給された携帯の画面に“デイヴィス・クルーウェル”の文字が眩しく光っている。
どうせ連絡をとるような事はないだろうと思っていたのだが、有無を言わさず番号の交換をされ、そして何の前触れもなく着信があったこの現状に戸惑いと緊張感が入り混じった。
「…はい」
「遅くにすまない。もう寝てたか?」
「いえ…」
「そうか」
微かに笑みを含んだ耳心地の良いテノールが耳元で響く。
どうという事はない筈の電話なのに、大好きな人の声をこんなにも近くで聞ける喜びは胸の鼓動を速めた。
「どうしたんですか?何か急用でも?」
「いや、夜更かししている仔犬共を強制的に寝かしつける巡回の途中だ。携帯を支給されたからといってSNSに夢中になるなよ」
「ごめんなさい…」
「冗談だ。お前がどうしているか気になってな」
どきりと胸が鳴り、頬はいやに熱を持った。
「こんな時間に急用でもないのに連絡するのは気が引けて」
「私も、です。今年いっぱいお世話になったので、お礼を伝えたくて…でも迷惑かなって思ってたら時間ばかり過ぎちゃって…」
「そうか、そんなに俺の声が聞きたかったのか」
揶揄うような声が告げる心を見透かしたような言葉に、全身に熱が回り口籠った。
折角大好きな人の声を聞けているのに、いざ直面すると何を話して良いのか分からなくなってしまう。
もどかしさに焦れつつ、話のネタはないかと思案した矢先、テノールがその思考を止めた。
「食事はきちんととったか?」
「今日は和風ツナパスタにしたんです!寒かったのでスープ多めにして」
「…栄養面が心配だな。まさかホリデー中、ほぼ同じメニューになるんじゃないのか?」
「明日の朝はツナマヨサンドで、お昼はクリームツナパスタ、夜はツナとエノキの炊き込みご飯なので大丈夫です!」
「分かった、食材送るから一旦ツナから離れろ」
「でもグリムが」
「お前はそうやってすぐグリムを甘やかすんじゃない」
「でも一応サラダとかも」
「俺の気の所為か?無駄吠えが聞こえたようだが」
「…はぁい…」
「Good girl」
お叱りを受け、布団から抜け出して正座をするとクスクス笑う声が耳元に響いた。
…柔らかく笑うその顔を、間近で見られたら良いのに。
「もう寝るか?」
「…あと少しだけ」
「仕方ないな、少しだけだぞ」
嬉しい時間の終わりを悟り再び寂しさを覚えた直後、切り出された話にパッと顔を上げる。
「こっちでの生活はどうだ?慣れたか?」
「えっと、はい…」
「何かあったらすぐに言えよ」
「ありがとうございます。あの、先生は今どちらに?」
「北国だ。雪がよく降り、夜は煩いくらいの静寂が続く」
「寒そう…風邪ひかないように気を付けて下さいね」
「愛しい毛皮がたっぷり温めてくれる。お前こそ薄着でいるんじゃないぞ」
「はい、先生」
「良い仔だ」
「………」
ホリデーが終わるまでまだ何日もある。
それまでは会いたくても会えないし、こうして声を聞く事も叶わない。
きっかけも何も持っていない身としては、幕引きとなる沈黙が恐ろしく悲しかった。
「あの、先生…」
「早くお前の顔を見たい」
心臓を鷲掴みにされた心地に、息をするのも忘れる。
カチリと鳴った枕元の時計の針へ何気なく目を動かし、その瞬間から新たな年の始まりを迎えた。
「Wishing you a great year.お前がまた笑顔で学園生活を送れる事を祈っている」
「っ…ありがとうございます」
なんて嬉しい年の終わりに、なんて幸せな年の始まりだろうかと声が震える。
「新たな一年が、クルーウェル先生にとって充実したものになりますように」
「ありがとう。お前が祈ってくれたなら、きっと実現するだろう」
小さく笑い合い、やがて途絶えてしまった声に今度こそ終わりを感じ取る。
やはり寂しい事に変わりはないが、それでも胸に満ちた幸せは一入だった。
「先生、わざわざ電話くれてありがとうございます。嬉しかったです」
「仔犬の世話をするのは飼い主の役目だからな」
気にする必要はないと足された言葉に、それでも自分の事を考えてとってくれた行動は何よりも心強いと感じる。
クールな外見の割に情が深く、その優しさについ甘えたくなってしまう。
我儘を言って嫌われてしまう前にと、今度はユウから切り出した。
「ホリデーが明けたら、お土産話いっぱい聞かせて下さいね」
「明けたらで良いのか?」
「え」
「また電話する」
「えっと…どういう…?」
「それまでゆっくりお休み、可愛い仔犬」
大量の疑問符にまみれ言葉を失う様子を、電話の向こうの相手は愉快そうに笑う。
「お…お休みなさい?」
当惑しながら返した夜の挨拶に、甘いリップ音が木霊する。
まるで本当に耳元でされたかのような艶やかなその音に、堪らず放心した。
「…早く会いたいな…」
「明日の昼には着く。お利口にしてろ」
「!」
切れていなかった電話と驚きの言葉に、思わず声をひっくり返した。
日の出まであと七時間程…
昼までは更にあと五時間。
こんなにも待ち遠しい半日は今まで経験がなく、驚愕はやがて歓喜へと変わり、緩んでしまう表情を両手で隠しては毛布の中でゴロゴロと寝返りを打った。