運命は泡となった(フロイド✕女監督生/短編/悲恋注意)
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フロイド・リーチは、オンボロ寮の監督生であるユウの恋人だ。
気分屋な彼にしては珍しく、恋人には常に甘い。
少食な彼女を心配して、口当たりの良い物を作り。
様々な悩みで眠れないと聞けば、子守唄を口ずさんだ。
甲斐甲斐しい彼を見て周りは驚いたが、ユウが美しい笑顔を咲かせていたのであまり騒ぎにはならなかった。
愛し愛され、それはとても美しい姿だった。
そう、彼が悪癖を出さずにいれば。
フロイドは、好奇心旺盛であった。
楽しいことが好き。珍しいものが好き。
そして、時にスリルも愛した。
それは、片割れであるジェイドが目を離した瞬間のこと。
「あはっ、何だこれぇ」
雑踏のなか、黒い蝶がフロイドの前に翔んでいた。
フロイドが指を伸ばす。
ジェイドはそれが闇の魔法であると気づいていた。
フロイドも分かっていたはずだ。
だから、ジェイドはフロイドを止めようとしたのだ。
手を伸ばし、黒い蝶を振り払おうと。
フロイドの悪癖を知っていたからこそ。
こんな人通りの多い街中では、魔法を作り出した元凶を見つけるのは難しい。
ジェイドは、フロイドを殴り飛ばしてでも止めるつもりだった。
だが、間に合わなかった。
フロイドは蝶に触れた。
そして、闇がフロイドを覆った。
それは一瞬で成された。
フロイドは地を蹴り、駆け出した。
その先には、ひとりの美しい女。
血のように紅いルージュが、弧を描く。
フロイドが女を抱きしめ、口づけを交わす。
ジェイドは呻き声を上げ、隣を見た。
そこには、恋人を奪われるのを見せつけられたユウが呆然と立っていたのだ。
「あいつは、馬鹿か!」
アズールが腹立たしげに、机を叩いた。
机に積まれた書類が揺れる。
「ええ、馬鹿ですね」
ジェイドも同意した。
今はモストロラウンジの開店前。
普段ならばフロイドも開店準備の為に、既に待機している時間だが、姿が見えない。
ここひと月、ずっとそうだ。
「……フロイドは、またあの女のところでしょうね」
「自ら魔法に掛かる奴がいるか、馬鹿め」
「よほど珍しかったようで」
ジェイドの言葉に、アズールは深いため息をついた。
フロイドは、今やひとりの女に骨抜きだった。
恋人の為に愛を囁き、恋人の為に装飾品を捧げ、恋人の為にそばにいる。
まるで悪夢のようだ。
「……彼女は、どうしていますか?」
アズールは冷静さを装い、ジェイドに尋ねる。
ジェイドは沈痛な面持ちになった。
「見ていられません。今はご友人が慰めていますが……あまり食事も召し上がっていないようで」
「そうですか」
アズールはなんとも言えない気持ちになった。
フロイドとユウ。
二人には確かな絆があったというのに。
フロイドの好奇心が全てを壊したのだ。
「解呪はいかがしましょう」
「放っておけ。自分で撒いた種だ」
「……了解いたしました」
会話が終わった頃、扉が叩かれた。
机の書類に手を伸ばし、アズールは「どうぞ」と応じる。
遠慮がちに扉は開けられ、入ってきた人物に二人は息を呑んだ。
「ユウさん……」
そう。扉を開けたのはユウだったのだ。
ユウは悲しげに微笑んだ。
「お話が、あるんです」
夜遅くにフロイドは鏡舎に姿を現した。
愛する女との逢瀬を終え、一見すると機嫌が良い。
だが、彼を良く知る者からしたら違和感しかない姿だ。
フロイドはネクタイを締めていた。
女がだらしないのを嫌がったからだ。
本来の彼は束縛を嫌がるのに、だ。
匂いがキツイものを嫌うのに、女からの移り香を漂わせている。
なんというザマだ、と。アズール辺りならば嘆くだろう。
そんなフロイドは鼻唄混じりに、辺りを見渡す。
そして、月明かりの差す窓辺に小柄な人物を見つけた。
オンボロ寮の監督生だ、と認識したフロイド。
「こんな時間に何してんのー?」
フロイドは熱の宿らない目でユウを見る。
ユウは悲しそうに笑った。
「挨拶を、しようと思って……」
「挨拶う? なに、おやすみなさいってやつ? いいよ、いいよ。オレ疲れてんし」
「フロイド先輩」
それはとても静かな声だった。
そのことに妙に気持ちがざわつき、フロイドは首を傾げた。
ユウは小走りに駆け寄ると、フロイドのネクタイを引っ張った。
「ちょっ、何す」
言い終わる前に、唇に温かいものが触れ、そして離れていく。
ユウはすぐさまフロイドから距離をとると、ひとつの鏡の前に立った。
知らない鏡だ。
その場所に鏡はないはずなのに。
ユウは鏡の前で、笑った。
「さよなら、フロイド先輩」
そして、鏡に触れ。
消えた。
それを見たフロイドは、へたりと座り込んだ。
何か、体を縛っていた何かが消失した気がした。
そして、何故かフロイドの目から涙が溢れたのだった。
オンボロ寮の監督生が、元の世界に帰ったことは瞬く間に広まった。
予め話を聞いていたアズールとジェイドは、通常通りモストロラウンジの業務をこなしていた。
「彼女、人気者でしたね」
「そうでしょうね。で、アレは?」
アズールの問いかけに、翳りのある笑みをジェイドは見せるだけだった。
オクタヴィネルの寮室のベッドで、フロイドはぼんやりと天井を見ていた。
昨日までなら、恋人のもとに向かっていた時間だ。
なのに、体が動かない。動かしたくない。
今まであった靄が、だんだんとかすれていく。
女を思い出す。
だが、姿がわからない。
あんなに愛し合ったのに、何も情がわかない。
ずきずきと頭が痛み、フロイドは呻いた。
そして両手を見る。
この手は何の為にあるのだろう、と。
女を喜ばせる為?
違う。
違う違う。
違う!
これは、あの子が食べられる料理を作る為に……。
この口は、あの子を心地よい眠りに誘う為にあった。
この体は、あの子を抱きしめる為の。
あの子?
あの子って、誰だっけ?
「小エビ、ちゃん」
呼んだ瞬間、フロイドは叫んだ。
魔法が解けた反動だった。
すぐさまジェイドが駆けつける。
「小エビちゃん! 小エビちゃん!」
泣き叫ぶフロイドをジェイドは抱きしめた。
闇に囚われた王子様は、お姫様の口づけで開放された。
でも、めでたし、めでたし、じゃないの。
だって、お姫様は泡になって消えちゃったんだもの。
後日、違法な魔法を使ったとしてひとりの女が捕まった。
だが、何があったのか。
真っ赤なルージュを引いた口からは、恐怖を叫ぶ言葉しか出なかったという。
気分屋な彼にしては珍しく、恋人には常に甘い。
少食な彼女を心配して、口当たりの良い物を作り。
様々な悩みで眠れないと聞けば、子守唄を口ずさんだ。
甲斐甲斐しい彼を見て周りは驚いたが、ユウが美しい笑顔を咲かせていたのであまり騒ぎにはならなかった。
愛し愛され、それはとても美しい姿だった。
そう、彼が悪癖を出さずにいれば。
フロイドは、好奇心旺盛であった。
楽しいことが好き。珍しいものが好き。
そして、時にスリルも愛した。
それは、片割れであるジェイドが目を離した瞬間のこと。
「あはっ、何だこれぇ」
雑踏のなか、黒い蝶がフロイドの前に翔んでいた。
フロイドが指を伸ばす。
ジェイドはそれが闇の魔法であると気づいていた。
フロイドも分かっていたはずだ。
だから、ジェイドはフロイドを止めようとしたのだ。
手を伸ばし、黒い蝶を振り払おうと。
フロイドの悪癖を知っていたからこそ。
こんな人通りの多い街中では、魔法を作り出した元凶を見つけるのは難しい。
ジェイドは、フロイドを殴り飛ばしてでも止めるつもりだった。
だが、間に合わなかった。
フロイドは蝶に触れた。
そして、闇がフロイドを覆った。
それは一瞬で成された。
フロイドは地を蹴り、駆け出した。
その先には、ひとりの美しい女。
血のように紅いルージュが、弧を描く。
フロイドが女を抱きしめ、口づけを交わす。
ジェイドは呻き声を上げ、隣を見た。
そこには、恋人を奪われるのを見せつけられたユウが呆然と立っていたのだ。
「あいつは、馬鹿か!」
アズールが腹立たしげに、机を叩いた。
机に積まれた書類が揺れる。
「ええ、馬鹿ですね」
ジェイドも同意した。
今はモストロラウンジの開店前。
普段ならばフロイドも開店準備の為に、既に待機している時間だが、姿が見えない。
ここひと月、ずっとそうだ。
「……フロイドは、またあの女のところでしょうね」
「自ら魔法に掛かる奴がいるか、馬鹿め」
「よほど珍しかったようで」
ジェイドの言葉に、アズールは深いため息をついた。
フロイドは、今やひとりの女に骨抜きだった。
恋人の為に愛を囁き、恋人の為に装飾品を捧げ、恋人の為にそばにいる。
まるで悪夢のようだ。
「……彼女は、どうしていますか?」
アズールは冷静さを装い、ジェイドに尋ねる。
ジェイドは沈痛な面持ちになった。
「見ていられません。今はご友人が慰めていますが……あまり食事も召し上がっていないようで」
「そうですか」
アズールはなんとも言えない気持ちになった。
フロイドとユウ。
二人には確かな絆があったというのに。
フロイドの好奇心が全てを壊したのだ。
「解呪はいかがしましょう」
「放っておけ。自分で撒いた種だ」
「……了解いたしました」
会話が終わった頃、扉が叩かれた。
机の書類に手を伸ばし、アズールは「どうぞ」と応じる。
遠慮がちに扉は開けられ、入ってきた人物に二人は息を呑んだ。
「ユウさん……」
そう。扉を開けたのはユウだったのだ。
ユウは悲しげに微笑んだ。
「お話が、あるんです」
夜遅くにフロイドは鏡舎に姿を現した。
愛する女との逢瀬を終え、一見すると機嫌が良い。
だが、彼を良く知る者からしたら違和感しかない姿だ。
フロイドはネクタイを締めていた。
女がだらしないのを嫌がったからだ。
本来の彼は束縛を嫌がるのに、だ。
匂いがキツイものを嫌うのに、女からの移り香を漂わせている。
なんというザマだ、と。アズール辺りならば嘆くだろう。
そんなフロイドは鼻唄混じりに、辺りを見渡す。
そして、月明かりの差す窓辺に小柄な人物を見つけた。
オンボロ寮の監督生だ、と認識したフロイド。
「こんな時間に何してんのー?」
フロイドは熱の宿らない目でユウを見る。
ユウは悲しそうに笑った。
「挨拶を、しようと思って……」
「挨拶う? なに、おやすみなさいってやつ? いいよ、いいよ。オレ疲れてんし」
「フロイド先輩」
それはとても静かな声だった。
そのことに妙に気持ちがざわつき、フロイドは首を傾げた。
ユウは小走りに駆け寄ると、フロイドのネクタイを引っ張った。
「ちょっ、何す」
言い終わる前に、唇に温かいものが触れ、そして離れていく。
ユウはすぐさまフロイドから距離をとると、ひとつの鏡の前に立った。
知らない鏡だ。
その場所に鏡はないはずなのに。
ユウは鏡の前で、笑った。
「さよなら、フロイド先輩」
そして、鏡に触れ。
消えた。
それを見たフロイドは、へたりと座り込んだ。
何か、体を縛っていた何かが消失した気がした。
そして、何故かフロイドの目から涙が溢れたのだった。
オンボロ寮の監督生が、元の世界に帰ったことは瞬く間に広まった。
予め話を聞いていたアズールとジェイドは、通常通りモストロラウンジの業務をこなしていた。
「彼女、人気者でしたね」
「そうでしょうね。で、アレは?」
アズールの問いかけに、翳りのある笑みをジェイドは見せるだけだった。
オクタヴィネルの寮室のベッドで、フロイドはぼんやりと天井を見ていた。
昨日までなら、恋人のもとに向かっていた時間だ。
なのに、体が動かない。動かしたくない。
今まであった靄が、だんだんとかすれていく。
女を思い出す。
だが、姿がわからない。
あんなに愛し合ったのに、何も情がわかない。
ずきずきと頭が痛み、フロイドは呻いた。
そして両手を見る。
この手は何の為にあるのだろう、と。
女を喜ばせる為?
違う。
違う違う。
違う!
これは、あの子が食べられる料理を作る為に……。
この口は、あの子を心地よい眠りに誘う為にあった。
この体は、あの子を抱きしめる為の。
あの子?
あの子って、誰だっけ?
「小エビ、ちゃん」
呼んだ瞬間、フロイドは叫んだ。
魔法が解けた反動だった。
すぐさまジェイドが駆けつける。
「小エビちゃん! 小エビちゃん!」
泣き叫ぶフロイドをジェイドは抱きしめた。
闇に囚われた王子様は、お姫様の口づけで開放された。
でも、めでたし、めでたし、じゃないの。
だって、お姫様は泡になって消えちゃったんだもの。
後日、違法な魔法を使ったとしてひとりの女が捕まった。
だが、何があったのか。
真っ赤なルージュを引いた口からは、恐怖を叫ぶ言葉しか出なかったという。
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