最愛の消失(ラギー✕女監督生/連載/完結)
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重なって、重なって、それは体の芯を貫いていった。
まるで絡めとる蔦のように、逃げることを許さない。
熱く、灯った炎。
それが恋だとは、もう分かっている。
分かってしまった。
何故、彼を好きになったのだろうという疑問は、不思議とない。
まるでそれが定めであるかのように、当たり前に好きになっていた。
関わった時間は短く、交した言葉は少ない。
それでも、彼を思えば胸の熱は、炎は燃え盛る。
恋をするのに、時間は関係あるの?
内なる自分が囁いた。
するりと、言葉が出る。
「私は、ラギー先輩が好きだ」
そう、それが真実なのだ。
感情に理屈などいらない。
恋に理由は必要ない。
好き。
彼が、大好き。
それだけ分かっていれば、いい。
ユウは目を開けた。
見慣れたオンボロ寮の天井。
体を起こせば、古いベッドが軋んだ。
最近のユウは、ずっと考えていた。自分の感情に戸惑いながらも、真摯に向き合うと決めたからだ。
脳裏から離れない、彼の笑顔と絶望。
その原因は自分にあるのだと、そう思ったからだ。
感情に振り回されるままではなく、向き合うことを選んだ。
ここ数日、授業が終われば全て思考する事に時間を割いた。
グリムは真剣なユウに何やら思うところがあるのか、自室にひとりきりにしてくれた。
そうやって得た時間で、辿り着いた答えは納得のいくもので。ユウは、微笑んだ。
「好き……うん、好きだ」
なんだろう。
ユウはようやく本来の自分になれたような、大事なものを取り戻したような充足感を覚えていた。
何か、そう。とても大切な何かを掴めるような、そんな気分になったのだ。
無意識に手を伸ばした瞬間、部屋のドアが勢い良く開いた。
「わ……っ」
「何やってんだ、お前」
入ってきたのはグリムだった。
スマホらしきものを抱えている。
「あれ、それ……」
スマホには見覚えがあった。
普段使わないので、棚の上に置きっぱなしだった気が……。
ユウは、棚を見た。
「……ない」
ということは、グリムが抱えているスマホは、学園長からもらったユウのもので合っているのか。
グリムはとことこ歩いてくると、ベッドに腰掛けたユウに向けて持ち上げた。
「壊れてたコイツの修理が終わったって、学園長のヤツが持って来たんだゾ!」
「あ、壊れてたの?」
「……お前が目覚めなかった時に、そばにヒビの入ったコレがあったんだ。それで学園長が持っていったんだゾ」
「そう、だったんだ。ありがとう、グリム」
「おう!」
目覚めなかった時とは、ひと月分の記憶を失った時のことだろう。
グリムからスマホを受け取り、ベッド横にある棚の上に置こうとした。
すると、グリムは不思議そうに首を傾げた。
「なんだぁ? スマホ見ないのか?」
「え?」
聞き返すユウに、グリムは腕を組んで怒った様子で言う。
「お前、俺様を放って。いつも、スマホ弄ってたじねーか」
「私が?」
この世界のスマホは使い方がわからず、ずっと放置していた覚えしかない。
もし。もしも。
触れた期間があるとすれば。それは……。
「空白のひと月……?」
「何言ってんだ?」
グリムのなかではもうユウから失われた時間があることは、忘却の彼方なのだろう。
ユウはスマホを両手で包むと、早くなる鼓動を抑えて電源ボタンに触れた。
「なんだ、やっぱり見るんじゃねーか」
そう言うとグリムはつまらなさそうに部屋から出て行く。
どうやらグリムのなかで、スマホを弄るユウは構ってくれない存在として根付いているようだ。
それだけスマホに熱中していた自分がいた。
それは未知でほんの少しの怖さを感じさせた。
だけど、それでも。スマホの画面を見た瞬間に高揚した感情を、信じたいと思った。
スマホの画面は、メッセージ一覧になっていた。固定できる設定があるのかもしれない。
何件もあるメッセージからある名前を見つけて、ユウは呆然と目を見開いた。
息を切らし、走る、走る。
校舎のなかを、ひたすらに。
無我夢中で、ただ、ひとりを求めて。
廊下の曲がり角で、誰かとぶつかりそうになる。
直前で立ち止まり、荒い呼吸を何度も繰り返した。
「あら、ユウじゃない」
透き通る上品な声が聞こえ、ユウは顔を上げた。
「ヴィル、先輩……」
「廊下を走るなんて、淑女のすることじゃないわね」
眉をひそめる彼に、ユウは慌てて頭を下げる。
「す、みま、せん! 急いでいて……っ」
息を整えながら謝罪するユウに、ヴィルは片眉を軽く上げた。
「アンタ、確かもう補習は受けてなかったわよね。なのに、そんなに慌てて校舎に来て何かあったの?」
ヴィルの指摘にユウはハッと息を呑み、ヴィルの腕を掴んだ。
「ヴィル先輩! ラギー先輩をっ、見ませんでしたか!?」
「は? え、ラギー?」
尋常ではないユウの様子に、ヴィルは面食らう。
しかし、彼女の目は真剣だ。
「アンタ……、そう、そんな目もできたのね」
ヴィルはそっと息をつくと、ユウを見下ろした。
「アタシは見てないわ。でも、最近鏡の間をよく使っているみたいよ」
「あ、ありがとうございます!」
ユウは顔を輝かせて、身を翻した。
ヴィルはその背中を見つめる。
必死なユウの様子に、ヴィルは何やら胸騒ぎを覚えた。
「……勘なんて曖昧なもの信じないけど、アイツに知らせておこうかしら」
気は進まないが、可愛い後輩の為だ。そう言い聞かせてヴィルは歩き出した。
『おはようございます! ラギー先輩! 今日、一緒にお洗濯していいですか!』
『ラギー先輩、今、何してます?』
知らないメッセージ。
だけど、とても楽しげで浮かれているのだとわかる文面たち。
『ラギー先輩』が『ラギー』に変わり、親密さが増していくメッセージ欄。
そして、彼からの返信も親しみが込められていた。
『ユウくん、宿題手伝うッスよー? マドルはもらいますけど』
そんな打算的な返信が、どんどん変わっていって。
親愛は増すばかり。
『ユウ、会いたい』
短い文章でも、あの日見た優しい笑顔が浮かぶほどに感情が伝わってきた。
やり取りの日付けは、失われたひと月のもので。
欠けたものが、カチリとハマった気がした。
「ラギー、先輩……っ」
ユウは必死に鏡舎に向かう。
会いたい。
今、すごく貴方に会いたい。
失った記憶の自分ではなく、今のユウ自身の気持ちが訴えてくるのだ。
ラギーをひと目見て、そして……許されるならば。
「伝えなきゃ……っ」
ユウの気持ちは固まっていた。
『ユウ、今日は会えるッスか?』
『オレ、その、伝えたい事があるんだ。だから、あの場所に……』
『今日は、ありがとう。アンタの気持ちに報いる為にも、オレ頑張るから』
『だから。一生、一緒ッスからね!』
『大事にするから』
『また、明日』
未来に繋がる言葉の先は、希望に満ちていて。
幸せな想像に溢れ、キラキラと輝き。
そして、唐突に途切れた。
ユウが記憶を失い目覚める直前から、何も送られていない。
ラギーの絶望を宿した目が忘れられない。
それが自分のせいだというのが、許せない。
不可抗力だとしても、あんな悲しい顔を彼にさせてしまったのだ。
もし、もしも。絶望を取り除けるというなら、何でもする。
ユウは必死に考え、でも、逸る感情は止まらない。
まだ、間に合うというのならば。少しでも許されるならば、足掻きたい。
途切れた道を、繋ぎたい。
鏡舎まで、あと少し。
まるで絡めとる蔦のように、逃げることを許さない。
熱く、灯った炎。
それが恋だとは、もう分かっている。
分かってしまった。
何故、彼を好きになったのだろうという疑問は、不思議とない。
まるでそれが定めであるかのように、当たり前に好きになっていた。
関わった時間は短く、交した言葉は少ない。
それでも、彼を思えば胸の熱は、炎は燃え盛る。
恋をするのに、時間は関係あるの?
内なる自分が囁いた。
するりと、言葉が出る。
「私は、ラギー先輩が好きだ」
そう、それが真実なのだ。
感情に理屈などいらない。
恋に理由は必要ない。
好き。
彼が、大好き。
それだけ分かっていれば、いい。
ユウは目を開けた。
見慣れたオンボロ寮の天井。
体を起こせば、古いベッドが軋んだ。
最近のユウは、ずっと考えていた。自分の感情に戸惑いながらも、真摯に向き合うと決めたからだ。
脳裏から離れない、彼の笑顔と絶望。
その原因は自分にあるのだと、そう思ったからだ。
感情に振り回されるままではなく、向き合うことを選んだ。
ここ数日、授業が終われば全て思考する事に時間を割いた。
グリムは真剣なユウに何やら思うところがあるのか、自室にひとりきりにしてくれた。
そうやって得た時間で、辿り着いた答えは納得のいくもので。ユウは、微笑んだ。
「好き……うん、好きだ」
なんだろう。
ユウはようやく本来の自分になれたような、大事なものを取り戻したような充足感を覚えていた。
何か、そう。とても大切な何かを掴めるような、そんな気分になったのだ。
無意識に手を伸ばした瞬間、部屋のドアが勢い良く開いた。
「わ……っ」
「何やってんだ、お前」
入ってきたのはグリムだった。
スマホらしきものを抱えている。
「あれ、それ……」
スマホには見覚えがあった。
普段使わないので、棚の上に置きっぱなしだった気が……。
ユウは、棚を見た。
「……ない」
ということは、グリムが抱えているスマホは、学園長からもらったユウのもので合っているのか。
グリムはとことこ歩いてくると、ベッドに腰掛けたユウに向けて持ち上げた。
「壊れてたコイツの修理が終わったって、学園長のヤツが持って来たんだゾ!」
「あ、壊れてたの?」
「……お前が目覚めなかった時に、そばにヒビの入ったコレがあったんだ。それで学園長が持っていったんだゾ」
「そう、だったんだ。ありがとう、グリム」
「おう!」
目覚めなかった時とは、ひと月分の記憶を失った時のことだろう。
グリムからスマホを受け取り、ベッド横にある棚の上に置こうとした。
すると、グリムは不思議そうに首を傾げた。
「なんだぁ? スマホ見ないのか?」
「え?」
聞き返すユウに、グリムは腕を組んで怒った様子で言う。
「お前、俺様を放って。いつも、スマホ弄ってたじねーか」
「私が?」
この世界のスマホは使い方がわからず、ずっと放置していた覚えしかない。
もし。もしも。
触れた期間があるとすれば。それは……。
「空白のひと月……?」
「何言ってんだ?」
グリムのなかではもうユウから失われた時間があることは、忘却の彼方なのだろう。
ユウはスマホを両手で包むと、早くなる鼓動を抑えて電源ボタンに触れた。
「なんだ、やっぱり見るんじゃねーか」
そう言うとグリムはつまらなさそうに部屋から出て行く。
どうやらグリムのなかで、スマホを弄るユウは構ってくれない存在として根付いているようだ。
それだけスマホに熱中していた自分がいた。
それは未知でほんの少しの怖さを感じさせた。
だけど、それでも。スマホの画面を見た瞬間に高揚した感情を、信じたいと思った。
スマホの画面は、メッセージ一覧になっていた。固定できる設定があるのかもしれない。
何件もあるメッセージからある名前を見つけて、ユウは呆然と目を見開いた。
息を切らし、走る、走る。
校舎のなかを、ひたすらに。
無我夢中で、ただ、ひとりを求めて。
廊下の曲がり角で、誰かとぶつかりそうになる。
直前で立ち止まり、荒い呼吸を何度も繰り返した。
「あら、ユウじゃない」
透き通る上品な声が聞こえ、ユウは顔を上げた。
「ヴィル、先輩……」
「廊下を走るなんて、淑女のすることじゃないわね」
眉をひそめる彼に、ユウは慌てて頭を下げる。
「す、みま、せん! 急いでいて……っ」
息を整えながら謝罪するユウに、ヴィルは片眉を軽く上げた。
「アンタ、確かもう補習は受けてなかったわよね。なのに、そんなに慌てて校舎に来て何かあったの?」
ヴィルの指摘にユウはハッと息を呑み、ヴィルの腕を掴んだ。
「ヴィル先輩! ラギー先輩をっ、見ませんでしたか!?」
「は? え、ラギー?」
尋常ではないユウの様子に、ヴィルは面食らう。
しかし、彼女の目は真剣だ。
「アンタ……、そう、そんな目もできたのね」
ヴィルはそっと息をつくと、ユウを見下ろした。
「アタシは見てないわ。でも、最近鏡の間をよく使っているみたいよ」
「あ、ありがとうございます!」
ユウは顔を輝かせて、身を翻した。
ヴィルはその背中を見つめる。
必死なユウの様子に、ヴィルは何やら胸騒ぎを覚えた。
「……勘なんて曖昧なもの信じないけど、アイツに知らせておこうかしら」
気は進まないが、可愛い後輩の為だ。そう言い聞かせてヴィルは歩き出した。
『おはようございます! ラギー先輩! 今日、一緒にお洗濯していいですか!』
『ラギー先輩、今、何してます?』
知らないメッセージ。
だけど、とても楽しげで浮かれているのだとわかる文面たち。
『ラギー先輩』が『ラギー』に変わり、親密さが増していくメッセージ欄。
そして、彼からの返信も親しみが込められていた。
『ユウくん、宿題手伝うッスよー? マドルはもらいますけど』
そんな打算的な返信が、どんどん変わっていって。
親愛は増すばかり。
『ユウ、会いたい』
短い文章でも、あの日見た優しい笑顔が浮かぶほどに感情が伝わってきた。
やり取りの日付けは、失われたひと月のもので。
欠けたものが、カチリとハマった気がした。
「ラギー、先輩……っ」
ユウは必死に鏡舎に向かう。
会いたい。
今、すごく貴方に会いたい。
失った記憶の自分ではなく、今のユウ自身の気持ちが訴えてくるのだ。
ラギーをひと目見て、そして……許されるならば。
「伝えなきゃ……っ」
ユウの気持ちは固まっていた。
『ユウ、今日は会えるッスか?』
『オレ、その、伝えたい事があるんだ。だから、あの場所に……』
『今日は、ありがとう。アンタの気持ちに報いる為にも、オレ頑張るから』
『だから。一生、一緒ッスからね!』
『大事にするから』
『また、明日』
未来に繋がる言葉の先は、希望に満ちていて。
幸せな想像に溢れ、キラキラと輝き。
そして、唐突に途切れた。
ユウが記憶を失い目覚める直前から、何も送られていない。
ラギーの絶望を宿した目が忘れられない。
それが自分のせいだというのが、許せない。
不可抗力だとしても、あんな悲しい顔を彼にさせてしまったのだ。
もし、もしも。絶望を取り除けるというなら、何でもする。
ユウは必死に考え、でも、逸る感情は止まらない。
まだ、間に合うというのならば。少しでも許されるならば、足掻きたい。
途切れた道を、繋ぎたい。
鏡舎まで、あと少し。