最愛の消失(ラギー✕女監督生/連載/完結)
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目の前には、双眼鏡が二つ。
「あれ?」
ユウは不可解な顔で首を傾げた。
部屋を掃除したら見つけたもう一つの双眼鏡。
買った覚えはない。
なのに先日買った購買のものとまったく同じ物が、部屋のタンスのなかにあった。
ふと、思い出す。
『もう失くさないでねー』
双眼鏡を購入した時のサムからの不可解な言葉。
あれは既に同じ物を購入していたことを指していた?
しかし、記憶にはない。
「……どういうこと?」
ユウは首を傾げた。
もしや、またも空白のひと月だろうか。
ひと月の自分は何をしていたのだろう。
双眼鏡を使う理由とは? と、悩んでしまう。
「いや、私も双眼鏡使ったしなあ」
案外簡単な理由なのかもしれない。
ユウは納得した。
自分は自分なのだから、何か観察対象がいたのだろう。きっと、そうだ。
現に自分だって……。
「ラギー先輩……」
傷だらけだったラギーを思い出す。
何か思い詰めたような顔をしていた。
そして。
双眼鏡を持ったユウを、嬉しそうに見ていた。
ラギーの笑う顔が忘れられない。
胸が締めつけられるのだ。
苦しい。
ラギーが辛そうな表情をすると、苦しくて仕方ない。
幸せそうに笑うと、胸がざわざわと揺れて、温かいのに悲しくなる。
不思議な感情だ。
ユウは、ラギーをあまり知らない。
そのはずなのに。
何故、感情はこんなにも揺さぶられるのだ。
ラギーが気になる。視線で追ってしまう。
それは紛れもない事実だ。
「ラギー、先輩……」
今、彼は何をしているのだろうか。
見上げた窓には、眩しい星明りが輝いていた。
「……いってぇ」
血の滲む腕に、ラギーは包帯を巻いていく。
消毒は済ませた。
ただ、真新しい傷が痛みを訴えてくるのが堪える。
だが。
「こんなの、平気ッス」
もっと鋭い痛みを知っている。
胸を抉られたかと、錯覚するほどの痛みを経験しているのだ。
あらかたの治療を終えて、ラギーは立ち上がる。
レオナがそろそろ夕食を所望する時間だ。
食事を用意しなくては。
よろよろと立ち上がり、ラギーは自室を出た。
翌日の昼、ユウはグリムを抱えて走った。
「ぶなぁっ! もっと早く走るんだゾ!」
「グリムがっ、後片付けをサボらなきゃ、もっと早く終わってた!」
「うるさいんだゾ! あんなの、大魔法士の仕事じゃないんだゾ!」
「いいから、早く食堂行かなくちゃ! お昼終わっちゃう!」
「腹減ったんだゾー!」
エースやデュースは先に行ってしまった。
いや、恨むまい。昼時の食堂は戦場なのだから。
息を切らしたユウは曲がり角に人影を見つけて、立ち止まる。危ない。ぶつかるところだった。
「なんだ、お前か」
曲がり角に居たのは、レオナだった。
まるで王者のような風格を漂わせるレオナは、ユウを見下ろしている。
「レオナ先輩、すみません。急いでいたもので……」
「ぶなー! 早くしないと、食いっぱぐれるんだゾー!」
ユウの腕のなかで暴れるグリムを見て、レオナはふんっと鼻を鳴らす。
「なんだ、腹が減ってんのか」
まるで野良の猫に言うかのような物言いだが、事実だから仕方ない。
レオナは悠然と後ろを振り向く。
「おい、ラギー!」
その名に、ユウの心臓が跳ねた。
レオナの声に応えるようにして、少し遠くから返ってきたのは、やはり……。
「もー、何スか。レオナさん、先に行き過ぎッスよ! なんで、置いて行くんスかー」
パンがいっぱい詰まった紙袋を抱えたラギーが、レオナの後ろから姿を現した。
「そもそも、買い過ぎッスよ!」
「分けてやれ」
文句を言うラギーに、レオナは短く言う。
「何を言って……」
「腹空かせた草食動物に、お優しい俺が分け与えてやると言ってんだよ」
「草食動物、て」
そこでラギーはようやくユウとグリムに気がついた。
わずかに目を見張り、そして苦笑いを浮かべる。
その目に親しみが込められているのに気づき、ユウの胸がまたざわついた。
「あー、腹減りは辛いッスもんねー。レオナさんに感謝してくださいねー」
皮肉たっぷりなのに、声は優しい。
「お前ら、良いやつなんだゾ!」
グリムは上機嫌だ。
ユウは、ラギーから視線を外せないでいた。
なんで、そんな優しい目を向けてくるのだろう。
ラギーは紙袋からいくつかの包みを出した。
グリムが飛びつき、大きなパンを抱きしめた。
「ほら、ユウくんも」
「あ、りがとうございます」
ラギーの目が見られなくなり、俯き加減でパンを受け取る。
その際、指が触れ合った。
ユウは頬が熱くなり、そして。ラギーは、そっとユウの手を握った。
それは一瞬のことで、すぐさま熱は離れていく。
「グリムくん、がっつき過ぎッスよー。男は余裕を持たなくちゃ」
「うるさいんだゾ!」
「あーはいはい。あんたは良いッスよね」
いつも、傍に居られて。
微かな呟きが耳に届いたが、ユウはまだ手に残る温もりにドキドキしていて、あまり深く考えなかった。
「おい、ラギー」
「はいはい、今行くッスよ!」
レオナの声にラギーは駆け寄っていく。
離れていくラギーに、寂しさを覚えて。ユウの鼓動はうるさいほど高鳴った。
ラギーたちの姿が見えなくなるまで、ユウは立ち尽くしていた。
「ラギー」
「何スか。レオナさ」
「消毒薬臭え。お前、何をしてんだ」
レオナの鋭い眼差しを受けても、ラギーは顔色ひとつ変えない。
目には強い光がある。
「毎日、レオナさんの世話に明け暮れてるッスかねー」
「言う気はないのか?」
「何の事ッスか?」
「……もう、いい」
わずかに息を吐くレオナを、ラギーは普段と変わらない様子で見ていた。
痛みなど、どうでもいい。
もっともっと、辛いことを知っているから。
傍に居られない痛みを、味わい続けているのだから。
恥ずかしがらず、関係を隠さなければ良かった。
そうすれば、今も……。
だから、ラギーは笑った。
笑顔を浮かべ続けた。
「あれ?」
ユウは不可解な顔で首を傾げた。
部屋を掃除したら見つけたもう一つの双眼鏡。
買った覚えはない。
なのに先日買った購買のものとまったく同じ物が、部屋のタンスのなかにあった。
ふと、思い出す。
『もう失くさないでねー』
双眼鏡を購入した時のサムからの不可解な言葉。
あれは既に同じ物を購入していたことを指していた?
しかし、記憶にはない。
「……どういうこと?」
ユウは首を傾げた。
もしや、またも空白のひと月だろうか。
ひと月の自分は何をしていたのだろう。
双眼鏡を使う理由とは? と、悩んでしまう。
「いや、私も双眼鏡使ったしなあ」
案外簡単な理由なのかもしれない。
ユウは納得した。
自分は自分なのだから、何か観察対象がいたのだろう。きっと、そうだ。
現に自分だって……。
「ラギー先輩……」
傷だらけだったラギーを思い出す。
何か思い詰めたような顔をしていた。
そして。
双眼鏡を持ったユウを、嬉しそうに見ていた。
ラギーの笑う顔が忘れられない。
胸が締めつけられるのだ。
苦しい。
ラギーが辛そうな表情をすると、苦しくて仕方ない。
幸せそうに笑うと、胸がざわざわと揺れて、温かいのに悲しくなる。
不思議な感情だ。
ユウは、ラギーをあまり知らない。
そのはずなのに。
何故、感情はこんなにも揺さぶられるのだ。
ラギーが気になる。視線で追ってしまう。
それは紛れもない事実だ。
「ラギー、先輩……」
今、彼は何をしているのだろうか。
見上げた窓には、眩しい星明りが輝いていた。
「……いってぇ」
血の滲む腕に、ラギーは包帯を巻いていく。
消毒は済ませた。
ただ、真新しい傷が痛みを訴えてくるのが堪える。
だが。
「こんなの、平気ッス」
もっと鋭い痛みを知っている。
胸を抉られたかと、錯覚するほどの痛みを経験しているのだ。
あらかたの治療を終えて、ラギーは立ち上がる。
レオナがそろそろ夕食を所望する時間だ。
食事を用意しなくては。
よろよろと立ち上がり、ラギーは自室を出た。
翌日の昼、ユウはグリムを抱えて走った。
「ぶなぁっ! もっと早く走るんだゾ!」
「グリムがっ、後片付けをサボらなきゃ、もっと早く終わってた!」
「うるさいんだゾ! あんなの、大魔法士の仕事じゃないんだゾ!」
「いいから、早く食堂行かなくちゃ! お昼終わっちゃう!」
「腹減ったんだゾー!」
エースやデュースは先に行ってしまった。
いや、恨むまい。昼時の食堂は戦場なのだから。
息を切らしたユウは曲がり角に人影を見つけて、立ち止まる。危ない。ぶつかるところだった。
「なんだ、お前か」
曲がり角に居たのは、レオナだった。
まるで王者のような風格を漂わせるレオナは、ユウを見下ろしている。
「レオナ先輩、すみません。急いでいたもので……」
「ぶなー! 早くしないと、食いっぱぐれるんだゾー!」
ユウの腕のなかで暴れるグリムを見て、レオナはふんっと鼻を鳴らす。
「なんだ、腹が減ってんのか」
まるで野良の猫に言うかのような物言いだが、事実だから仕方ない。
レオナは悠然と後ろを振り向く。
「おい、ラギー!」
その名に、ユウの心臓が跳ねた。
レオナの声に応えるようにして、少し遠くから返ってきたのは、やはり……。
「もー、何スか。レオナさん、先に行き過ぎッスよ! なんで、置いて行くんスかー」
パンがいっぱい詰まった紙袋を抱えたラギーが、レオナの後ろから姿を現した。
「そもそも、買い過ぎッスよ!」
「分けてやれ」
文句を言うラギーに、レオナは短く言う。
「何を言って……」
「腹空かせた草食動物に、お優しい俺が分け与えてやると言ってんだよ」
「草食動物、て」
そこでラギーはようやくユウとグリムに気がついた。
わずかに目を見張り、そして苦笑いを浮かべる。
その目に親しみが込められているのに気づき、ユウの胸がまたざわついた。
「あー、腹減りは辛いッスもんねー。レオナさんに感謝してくださいねー」
皮肉たっぷりなのに、声は優しい。
「お前ら、良いやつなんだゾ!」
グリムは上機嫌だ。
ユウは、ラギーから視線を外せないでいた。
なんで、そんな優しい目を向けてくるのだろう。
ラギーは紙袋からいくつかの包みを出した。
グリムが飛びつき、大きなパンを抱きしめた。
「ほら、ユウくんも」
「あ、りがとうございます」
ラギーの目が見られなくなり、俯き加減でパンを受け取る。
その際、指が触れ合った。
ユウは頬が熱くなり、そして。ラギーは、そっとユウの手を握った。
それは一瞬のことで、すぐさま熱は離れていく。
「グリムくん、がっつき過ぎッスよー。男は余裕を持たなくちゃ」
「うるさいんだゾ!」
「あーはいはい。あんたは良いッスよね」
いつも、傍に居られて。
微かな呟きが耳に届いたが、ユウはまだ手に残る温もりにドキドキしていて、あまり深く考えなかった。
「おい、ラギー」
「はいはい、今行くッスよ!」
レオナの声にラギーは駆け寄っていく。
離れていくラギーに、寂しさを覚えて。ユウの鼓動はうるさいほど高鳴った。
ラギーたちの姿が見えなくなるまで、ユウは立ち尽くしていた。
「ラギー」
「何スか。レオナさ」
「消毒薬臭え。お前、何をしてんだ」
レオナの鋭い眼差しを受けても、ラギーは顔色ひとつ変えない。
目には強い光がある。
「毎日、レオナさんの世話に明け暮れてるッスかねー」
「言う気はないのか?」
「何の事ッスか?」
「……もう、いい」
わずかに息を吐くレオナを、ラギーは普段と変わらない様子で見ていた。
痛みなど、どうでもいい。
もっともっと、辛いことを知っているから。
傍に居られない痛みを、味わい続けているのだから。
恥ずかしがらず、関係を隠さなければ良かった。
そうすれば、今も……。
だから、ラギーは笑った。
笑顔を浮かべ続けた。