最愛の消失(ラギー✕女監督生/連載/完結)
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オンボロ寮の自室で、ユウは悩んでいた。
学校でも悩みすぎて授業にも身が入らないし、エースたちとの会話もそぞろになってしまった。凄く心配された。
玉子サンド奢ってくれたデュースは神だ。
だが、悩みは消えない。玉子サンドはお腹に消えたが。
「うぬう」
腹を見せ眠るグリムをモフりながら、ユウは今日も悩んだ。
こんなに考え続けることは今までなかったのに。
元々能天気な人間だし、周りのおかげで楽しく過ごさせてもらっていることもあり、悩みとは無縁であった。
だというのに。
ラギーの顔が頭から離れないのだ。
あの悲しい笑みが。
「あー……っ」
ユウは呻いた。
胸が苦しい。切ない。
どうしてだろう。
なんでこんなにも、彼の笑みが忘れられないのだろう。
すごく幸せそうな微笑みだった。
それが絶望に変わる瞬間を見てしまった。
それが、ユウの心を揺さぶる。
自分のせいで、ラギーの幸せを壊してしまった気がして。
そんなはずないのに。
自分はラギーとの関わりは少ない。
そんな大きな存在ではないのだ。
「……でも」
ラギーの絶望を見てしまった。
幸せそうな顔を知ってしまった。
前の自分には戻れない。
心にはもう刻まれてしまっているのだから。
「ぶなあー。うるさいんだゾ」
「あ、ごめん。起こしちゃった?」
グリムが目を瞬かせながら、身を起こした。
不機嫌そうだ。
「何悩んでんのか知らねーけど、悩むぐらいなら動けばいいんだゾ」
「え……?」
グリムはふんっと胸を張った。
「俺様は、行動した。だから、こうしてここにいるゾ」
真理だと思った。
過程での騒動はどうあれ、グリムは行動し、結果ナイトレイブンカレッジの生徒となった。
対してユウはどうだ。
うじうじ悩むだけで、何もしていない。
何も変わらないままだ。
「そう、だね。何もしなければ、変わらないままだ。ありがとう、グリム!」
「礼はツナ缶でいいんだゾ!」
「あはは、良いの買っておくね」
「約束だからな!」
グリムをひと撫でして、ユウは立ち上がった。
「どこ行くんだ?」
「購買!」
ユウは走り出した。
目的の物を入手する為に。
「で、その双眼鏡?」
「そう!」
ユウは、真剣に頷いた。
双眼鏡を覗きながら。
それを見たエースの頬が引きつる。
「いやいや」
「何かおかしい?」
「いや、おかしいだろーよ。なんで、双眼鏡? なんで、隠れて覗いてんの?」
「隠れてなきゃいいの?」
「いや、意味わかんねーよ」
エースは呆れ顔だ。
しかし、ユウはなおも教室の窓から双眼鏡で覗いている。
真っ直ぐな目で。
エースはため息をはくと、自分の席に戻った。
ひと月分の記憶を失ってしまったが、変わらない友人が嬉しいと思ったのは秘密だ。
双眼鏡の向こうにはラギーがいる。
飛行術の授業が終わったのかタオルで汗を拭き、友人らと談笑していた。
ユウが知るいつものラギーだ。
明るく朗らかで、でも野心がある。
それがユウの知っているラギーなのだ。
ラギーが校舎に向かい、姿が見えなくなった。
ユウは双眼鏡を下ろし、席に戻る。
ラギーを観察しよう。
それがユウの出した答えだったのだ。
ラギーを知れば、ラギーの微笑みと絶望の理由が分かるかもしれない。
自分のなかにある、もやもやの意味も。
ユウは、真剣にラギーに近づこうと考えたのだ。
ラギーを観察して分かったこと。
彼はよく笑う。友人も多いようだ。
昼はよくレオナのお使いで走り回っていた。
そして。
放課後になると、姿を消す。
どこを探してもいないのである。
数日、放課後はラギー捜索に費やした。
それでも、見つからない。
ユウは諦めずに探し回った。
グリムは付き合ってくれない。薄情者め。
いや、これは自分の力でやり遂げねばならないと、思い直す。
気合いを入れた時、鏡のある部屋からラギーが出てくるのを発見した。
久しぶりに放課後に彼を見た。
確か、今日はラギーは午後から居なかったように思える。
なんだか嬉しくなり、ラギーに声を掛けようとして、踏みとどまる。
ラギーは見るからに、ボロボロであった。
頬や腕に擦り傷があるし、服は泥だらけ。
なのに、目だけは爛々と強い意思で輝いている。
「ラギー……先輩」
つい、名を呼んでしまった。
ラギーが、こちらを見る。
「ユウ、くん」
目を見開いている。驚いているようだ。
ハッとしたユウはラギーに駆け寄った。
「ラギー先輩! 大丈夫ですか!」
近づくユウに、ラギーは戸惑うように目を揺らした。
「ユウくん、オレは大丈夫ッスよ」
へらりと笑うが、時折眉をしかめている。
怪我が痛いのかもしれない。
「大丈夫だってば。ちょーと、出先で転んだだけッスから」
「で、でも……」
転んだにしては、酷い有り様だ。
納得できないユウだったが、ラギーの目がゆらりと揺れたのを見て黙る。
ラギーが見ているのは、ユウが首から下げている双眼鏡だった。
「それ、どうしたんスか?」
「え、あ……!」
ユウは慌てふためきながら、双眼鏡を持つ。
やましいことがあると言っているようなものだ。
「……最近、視線を感じてたんスよね」
「え!?」
まさか、気づかれていたのか。と、ユウの背中に冷や汗が流れた。
だが。そんなユウに、何故かラギーは笑いかけたのだ。
「……気のせい、だと思ってたのに」
「え?」
声が優しい気がして、ユウはラギーを見た。
ラギーは、目を細めて、愛しそうにユウを見ている。
「気のせいじゃ、なかったんスね」
嬉しそうな声に、ユウの胸が跳ねた。
どくどくと、苦しい。
何か言わなくてはいけないのに、何も口にできない。
立ち尽くすしかないユウに、ラギーは優しい手つきで頭を撫でた。
「女の子なんだから、早く帰るッスよ」
そう言ってラギーは、ユウの横を通り過ぎて行く。
頭に残る感触に、ユウは頬が熱くなるのを感じた。
視線を感じた。
毎日毎日、誰かの視線を。
振り向いたら、双眼鏡を持った彼女がいた。
問い詰めれば、ラギーのことが知りたかったのだと白状した。
変な子だと、最初は思った。
それが、いつしか変わっていく。
想いは深く深く。変わったのだ。
ラギーは、素早く自分の部屋に入った。
ボロボロの姿を見られるのはまずい。
ずるずると扉を背に座り込む。
ラギーは上を向いた。
先ほど見た彼女を思い出す。
双眼鏡を持った彼女を。
「……やっぱり、君は君なんスね」
泣きそうな顔で微笑んだ。
想いは色褪せることなく、在り続けるのだ。
学校でも悩みすぎて授業にも身が入らないし、エースたちとの会話もそぞろになってしまった。凄く心配された。
玉子サンド奢ってくれたデュースは神だ。
だが、悩みは消えない。玉子サンドはお腹に消えたが。
「うぬう」
腹を見せ眠るグリムをモフりながら、ユウは今日も悩んだ。
こんなに考え続けることは今までなかったのに。
元々能天気な人間だし、周りのおかげで楽しく過ごさせてもらっていることもあり、悩みとは無縁であった。
だというのに。
ラギーの顔が頭から離れないのだ。
あの悲しい笑みが。
「あー……っ」
ユウは呻いた。
胸が苦しい。切ない。
どうしてだろう。
なんでこんなにも、彼の笑みが忘れられないのだろう。
すごく幸せそうな微笑みだった。
それが絶望に変わる瞬間を見てしまった。
それが、ユウの心を揺さぶる。
自分のせいで、ラギーの幸せを壊してしまった気がして。
そんなはずないのに。
自分はラギーとの関わりは少ない。
そんな大きな存在ではないのだ。
「……でも」
ラギーの絶望を見てしまった。
幸せそうな顔を知ってしまった。
前の自分には戻れない。
心にはもう刻まれてしまっているのだから。
「ぶなあー。うるさいんだゾ」
「あ、ごめん。起こしちゃった?」
グリムが目を瞬かせながら、身を起こした。
不機嫌そうだ。
「何悩んでんのか知らねーけど、悩むぐらいなら動けばいいんだゾ」
「え……?」
グリムはふんっと胸を張った。
「俺様は、行動した。だから、こうしてここにいるゾ」
真理だと思った。
過程での騒動はどうあれ、グリムは行動し、結果ナイトレイブンカレッジの生徒となった。
対してユウはどうだ。
うじうじ悩むだけで、何もしていない。
何も変わらないままだ。
「そう、だね。何もしなければ、変わらないままだ。ありがとう、グリム!」
「礼はツナ缶でいいんだゾ!」
「あはは、良いの買っておくね」
「約束だからな!」
グリムをひと撫でして、ユウは立ち上がった。
「どこ行くんだ?」
「購買!」
ユウは走り出した。
目的の物を入手する為に。
「で、その双眼鏡?」
「そう!」
ユウは、真剣に頷いた。
双眼鏡を覗きながら。
それを見たエースの頬が引きつる。
「いやいや」
「何かおかしい?」
「いや、おかしいだろーよ。なんで、双眼鏡? なんで、隠れて覗いてんの?」
「隠れてなきゃいいの?」
「いや、意味わかんねーよ」
エースは呆れ顔だ。
しかし、ユウはなおも教室の窓から双眼鏡で覗いている。
真っ直ぐな目で。
エースはため息をはくと、自分の席に戻った。
ひと月分の記憶を失ってしまったが、変わらない友人が嬉しいと思ったのは秘密だ。
双眼鏡の向こうにはラギーがいる。
飛行術の授業が終わったのかタオルで汗を拭き、友人らと談笑していた。
ユウが知るいつものラギーだ。
明るく朗らかで、でも野心がある。
それがユウの知っているラギーなのだ。
ラギーが校舎に向かい、姿が見えなくなった。
ユウは双眼鏡を下ろし、席に戻る。
ラギーを観察しよう。
それがユウの出した答えだったのだ。
ラギーを知れば、ラギーの微笑みと絶望の理由が分かるかもしれない。
自分のなかにある、もやもやの意味も。
ユウは、真剣にラギーに近づこうと考えたのだ。
ラギーを観察して分かったこと。
彼はよく笑う。友人も多いようだ。
昼はよくレオナのお使いで走り回っていた。
そして。
放課後になると、姿を消す。
どこを探してもいないのである。
数日、放課後はラギー捜索に費やした。
それでも、見つからない。
ユウは諦めずに探し回った。
グリムは付き合ってくれない。薄情者め。
いや、これは自分の力でやり遂げねばならないと、思い直す。
気合いを入れた時、鏡のある部屋からラギーが出てくるのを発見した。
久しぶりに放課後に彼を見た。
確か、今日はラギーは午後から居なかったように思える。
なんだか嬉しくなり、ラギーに声を掛けようとして、踏みとどまる。
ラギーは見るからに、ボロボロであった。
頬や腕に擦り傷があるし、服は泥だらけ。
なのに、目だけは爛々と強い意思で輝いている。
「ラギー……先輩」
つい、名を呼んでしまった。
ラギーが、こちらを見る。
「ユウ、くん」
目を見開いている。驚いているようだ。
ハッとしたユウはラギーに駆け寄った。
「ラギー先輩! 大丈夫ですか!」
近づくユウに、ラギーは戸惑うように目を揺らした。
「ユウくん、オレは大丈夫ッスよ」
へらりと笑うが、時折眉をしかめている。
怪我が痛いのかもしれない。
「大丈夫だってば。ちょーと、出先で転んだだけッスから」
「で、でも……」
転んだにしては、酷い有り様だ。
納得できないユウだったが、ラギーの目がゆらりと揺れたのを見て黙る。
ラギーが見ているのは、ユウが首から下げている双眼鏡だった。
「それ、どうしたんスか?」
「え、あ……!」
ユウは慌てふためきながら、双眼鏡を持つ。
やましいことがあると言っているようなものだ。
「……最近、視線を感じてたんスよね」
「え!?」
まさか、気づかれていたのか。と、ユウの背中に冷や汗が流れた。
だが。そんなユウに、何故かラギーは笑いかけたのだ。
「……気のせい、だと思ってたのに」
「え?」
声が優しい気がして、ユウはラギーを見た。
ラギーは、目を細めて、愛しそうにユウを見ている。
「気のせいじゃ、なかったんスね」
嬉しそうな声に、ユウの胸が跳ねた。
どくどくと、苦しい。
何か言わなくてはいけないのに、何も口にできない。
立ち尽くすしかないユウに、ラギーは優しい手つきで頭を撫でた。
「女の子なんだから、早く帰るッスよ」
そう言ってラギーは、ユウの横を通り過ぎて行く。
頭に残る感触に、ユウは頬が熱くなるのを感じた。
視線を感じた。
毎日毎日、誰かの視線を。
振り向いたら、双眼鏡を持った彼女がいた。
問い詰めれば、ラギーのことが知りたかったのだと白状した。
変な子だと、最初は思った。
それが、いつしか変わっていく。
想いは深く深く。変わったのだ。
ラギーは、素早く自分の部屋に入った。
ボロボロの姿を見られるのはまずい。
ずるずると扉を背に座り込む。
ラギーは上を向いた。
先ほど見た彼女を思い出す。
双眼鏡を持った彼女を。
「……やっぱり、君は君なんスね」
泣きそうな顔で微笑んだ。
想いは色褪せることなく、在り続けるのだ。