最愛の消失(ラギー✕女監督生/連載/完結)
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初めて見たときから、それは特別だった。
ナイトレイブンカレッジへの入学を果たした日に、見つけた薄紫色の香水。
スラムでは絶対見られない輝きを放つ、美しい香水瓶。
匂いに敏感なラギーだったが、試しに嗅がせてもらったものは、ほのかな甘みがあり、直ぐに気に入ってしまった。
ポムフィオーレ寮の生徒たちぐらいしか買い手がいないと嘆くサムに、ふうんと気のない返事をしたが。
その香水瓶を見るたびに、足を止めてしまう。
きらきらと輝く、まるで宝石だ。
特別な特別な宝物のように、ラギーには見えていた。
憧れて、焦がれる。
本当に特別なーー。
サバナクロー寮の広い一室で、ラギーは呆然と立ち尽くした。
「もう、一度、言ってくださいッス」
聞き間違いだと思った。
声が震える。
喉が引くついた。
広いベッドに寝そべるレオナが、つまらなさそうな顔をして口を開く。
「何度言っても変わらない。例の魔物は討伐対象から外れた」
「は……」
「兄貴からの情報だ。ヤツはこれからも野放しにするだとよ」
皮肉に笑うレオナに、ラギーは拳を握りしめた。
爪が皮膚に食い込む。
「なんで、ですか」
「刺激したくないんだとさ。ヤツの能力は危険だが、今は大人しくしているらしくてな」
ラギーは感情が昂るのを感じた。
「被害は出てるじゃないッスか!」
脳裏に浮かぶ、微笑む少女の姿。
いつも、甘く笑んでくれていたのに。
ラギーが失ったもの。
「だからだよ。アイツの記憶に満足したのか。ヤツはあれから何もしてねぇ」
「なんだよ、それ」
腹が膨れた獣は狩りをしない。
ユウの記憶で満足した魔物も、他を襲わなくなった。
最小の犠牲で、皆が救われた。
そう判断したのだ。大人は、国は。
ラギーの世界は、崩壊したというのに。
「それじゃあ、彼女は……!」
「アイツは何か困ってんのか?」
ラギーはレオナの言葉に息を呑む。
心が軋む。
「誰かに助けを求めたか。恐ろしいと泣き喚いたか。何もない。至って普通に暮らしている。唯一の被害者がそれだからな。利害でしか動かんヤツらは、何も問題視しないのさ」
ぐっと、奥歯を噛む。
誰もわからないだろう。
ラギーの苦しみ、悲しみ、怒りを。
誰も、共感しない。
当たり前だ。
二人の関係を知らないのだから。
レオナが身を起こし、ラギーを静かに見る。
「何を熱くなってんのかわからねぇが、あまり騒ぎ立てるなよ。権力者の狸どもに目を付けられたくはないだろ」
「……はい」
ラギーは俯くと、レオナの部屋から出ようとした。
「おい、ラギー」
だが、静けさを好む彼が珍しくラギーを引き留めた。
「なんスか」
「貯蓄の好きなお前にしては、少し前に高い買い物をしたよな?」
何故知っているのか。
サムが話すとは思えない。
そんな気持ちに気づいたのか、レオナは鼻で笑う。
「あんな甘ったるい匂いさせてたんだ。気づくだろ」
「それは……」
「最近は全く匂わなくなったがな。それが、お前が感情的になる理由か?」
反射的に振り向けば、レオナの有無を言わさない目とかち合う。
さすが王族だ。
ひとを従わせる力がある、ラギーは思った。
しかし、これは抜けない棘を刺激し、ラギーの心を痛みを走らせるだけで終わってしまう。
「レオナさんには、関係ないッスよ」
それだけ言うと、ラギーは部屋を出る。
残されたレオナは、頬づえをつき笑った。
「そうだと言ってるようなもんだな」
そして、眉をひそめた。
「厄介なことになりそうだ」
ひと月近く前に、ラギーは全力で逃げていた。
昼休み前の授業で手を抜いていたのが、バルガスにバレてしまい。追加で特訓をされそうになったのだ。
冗談じゃない。
ラギーは暴君の相手をしなくてはならないのだ。
時間は有限。有効に活用してこそだ。
つまり、特訓などクソ食らえ、である。
「待て! ラギー・ブッチ!」
「へへーん、イヤっすよー!」
身軽に走り回り、撹乱する。
校舎近くの木に登り、開いていた窓に飛び込む。
その先の廊下に、彼女はいた。
昼食用のパンを抱えて、驚き立ち止まっていた。
走り回り空腹を覚えていたラギーは、一番大きなパンを抜き取った。罪悪感など、ラギーにはない。
そして、再び走る。
「ぶなあ! 返せなんだゾ!」
グリムが喚いたが、ラギーは気にせずに走り抜けた。
その時、彼女がどんな顔をしていたかは、残念ながら覚えていない。
だが、これが始まりだった。
ラギーとユウの間に、道ができたのは。
確かにこの瞬間だったのだ。
最初は、彼女の一方的な興味。
それがいつしか、互いに繋がり。
そして、花開いた。
『え、こ、これ、貰っちゃっていいんですか?』
『当たり前ッス』
『で、でも。ラギー……』
高級な香水に、面白いぐらい慌てる彼女に、ラギーは笑ったのを覚えている。
嬉しかった。
価値観が同じで、でも、可愛いと。
彼女が隣に居てくれて、幸せで。
『ユウに貰ってほしい。だから、オレと会う時は付けてくださいッてね』
茶化してしまおうとしたのだが、恥ずかしさが勝ってしまい、頬が熱かったのを覚えている。
だけど。
『ありがとう』
彼女は大切に香水瓶を抱きしめ、ラギーを愛おしく見つめてくれた。
想いが通い合う幸福が、そこにはあったのだ。
奪われた、幸福が。
ナイトレイブンカレッジへの入学を果たした日に、見つけた薄紫色の香水。
スラムでは絶対見られない輝きを放つ、美しい香水瓶。
匂いに敏感なラギーだったが、試しに嗅がせてもらったものは、ほのかな甘みがあり、直ぐに気に入ってしまった。
ポムフィオーレ寮の生徒たちぐらいしか買い手がいないと嘆くサムに、ふうんと気のない返事をしたが。
その香水瓶を見るたびに、足を止めてしまう。
きらきらと輝く、まるで宝石だ。
特別な特別な宝物のように、ラギーには見えていた。
憧れて、焦がれる。
本当に特別なーー。
サバナクロー寮の広い一室で、ラギーは呆然と立ち尽くした。
「もう、一度、言ってくださいッス」
聞き間違いだと思った。
声が震える。
喉が引くついた。
広いベッドに寝そべるレオナが、つまらなさそうな顔をして口を開く。
「何度言っても変わらない。例の魔物は討伐対象から外れた」
「は……」
「兄貴からの情報だ。ヤツはこれからも野放しにするだとよ」
皮肉に笑うレオナに、ラギーは拳を握りしめた。
爪が皮膚に食い込む。
「なんで、ですか」
「刺激したくないんだとさ。ヤツの能力は危険だが、今は大人しくしているらしくてな」
ラギーは感情が昂るのを感じた。
「被害は出てるじゃないッスか!」
脳裏に浮かぶ、微笑む少女の姿。
いつも、甘く笑んでくれていたのに。
ラギーが失ったもの。
「だからだよ。アイツの記憶に満足したのか。ヤツはあれから何もしてねぇ」
「なんだよ、それ」
腹が膨れた獣は狩りをしない。
ユウの記憶で満足した魔物も、他を襲わなくなった。
最小の犠牲で、皆が救われた。
そう判断したのだ。大人は、国は。
ラギーの世界は、崩壊したというのに。
「それじゃあ、彼女は……!」
「アイツは何か困ってんのか?」
ラギーはレオナの言葉に息を呑む。
心が軋む。
「誰かに助けを求めたか。恐ろしいと泣き喚いたか。何もない。至って普通に暮らしている。唯一の被害者がそれだからな。利害でしか動かんヤツらは、何も問題視しないのさ」
ぐっと、奥歯を噛む。
誰もわからないだろう。
ラギーの苦しみ、悲しみ、怒りを。
誰も、共感しない。
当たり前だ。
二人の関係を知らないのだから。
レオナが身を起こし、ラギーを静かに見る。
「何を熱くなってんのかわからねぇが、あまり騒ぎ立てるなよ。権力者の狸どもに目を付けられたくはないだろ」
「……はい」
ラギーは俯くと、レオナの部屋から出ようとした。
「おい、ラギー」
だが、静けさを好む彼が珍しくラギーを引き留めた。
「なんスか」
「貯蓄の好きなお前にしては、少し前に高い買い物をしたよな?」
何故知っているのか。
サムが話すとは思えない。
そんな気持ちに気づいたのか、レオナは鼻で笑う。
「あんな甘ったるい匂いさせてたんだ。気づくだろ」
「それは……」
「最近は全く匂わなくなったがな。それが、お前が感情的になる理由か?」
反射的に振り向けば、レオナの有無を言わさない目とかち合う。
さすが王族だ。
ひとを従わせる力がある、ラギーは思った。
しかし、これは抜けない棘を刺激し、ラギーの心を痛みを走らせるだけで終わってしまう。
「レオナさんには、関係ないッスよ」
それだけ言うと、ラギーは部屋を出る。
残されたレオナは、頬づえをつき笑った。
「そうだと言ってるようなもんだな」
そして、眉をひそめた。
「厄介なことになりそうだ」
ひと月近く前に、ラギーは全力で逃げていた。
昼休み前の授業で手を抜いていたのが、バルガスにバレてしまい。追加で特訓をされそうになったのだ。
冗談じゃない。
ラギーは暴君の相手をしなくてはならないのだ。
時間は有限。有効に活用してこそだ。
つまり、特訓などクソ食らえ、である。
「待て! ラギー・ブッチ!」
「へへーん、イヤっすよー!」
身軽に走り回り、撹乱する。
校舎近くの木に登り、開いていた窓に飛び込む。
その先の廊下に、彼女はいた。
昼食用のパンを抱えて、驚き立ち止まっていた。
走り回り空腹を覚えていたラギーは、一番大きなパンを抜き取った。罪悪感など、ラギーにはない。
そして、再び走る。
「ぶなあ! 返せなんだゾ!」
グリムが喚いたが、ラギーは気にせずに走り抜けた。
その時、彼女がどんな顔をしていたかは、残念ながら覚えていない。
だが、これが始まりだった。
ラギーとユウの間に、道ができたのは。
確かにこの瞬間だったのだ。
最初は、彼女の一方的な興味。
それがいつしか、互いに繋がり。
そして、花開いた。
『え、こ、これ、貰っちゃっていいんですか?』
『当たり前ッス』
『で、でも。ラギー……』
高級な香水に、面白いぐらい慌てる彼女に、ラギーは笑ったのを覚えている。
嬉しかった。
価値観が同じで、でも、可愛いと。
彼女が隣に居てくれて、幸せで。
『ユウに貰ってほしい。だから、オレと会う時は付けてくださいッてね』
茶化してしまおうとしたのだが、恥ずかしさが勝ってしまい、頬が熱かったのを覚えている。
だけど。
『ありがとう』
彼女は大切に香水瓶を抱きしめ、ラギーを愛おしく見つめてくれた。
想いが通い合う幸福が、そこにはあったのだ。
奪われた、幸福が。