最愛の消失(ラギー✕女監督生/連載/完結)
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休日の朝、ユウは鏡台の引き出しを開けた。
「……本当に、あった」
ユウは薄紫色の小瓶に手を伸ばす。
グリムの言った通り、香水瓶だ。
シンプルなデザインだが、なんというか、高級感がある。
「ふ、奮発したなあ、私」
どれだけ頑張って貯めたのだろう。
少し手が震えているのは、気のせいじゃない。
「わ、割らないように、大事に仕舞っておこう」
ぱたんと引き出しを閉めた。
グリムが言うには実際に付けていたという、知らない私。
なんという猛者だ。
自分にそんな勇気があったことに、驚きを隠せない。
きっと、本当に欲しいと思ったのだろう。
その熱意が、なんだか羨ましく思う。
「んなあー、オレ様はグリム様だゾー!」
まだ夢の世界にいるグリムの寝言が聞こえ、くすりと笑う。
「よし!」
ユウは拳を握った。
「探検に出かけよう!」
今日は晴天だ。
出かけないのはもったいない。
ユウは着替える為にクローゼットに向かった。
ひとり、カレッジを歩く。
思えば入学してから、こうやって探検するのは初めてのような気がする。
知らない場所も多い。
ユウはなんだか気分が高揚してくるのを感じた。
鼻歌混じりで、歩く。
どこに行こうか。
ユウは立ち止まる。
気になる場所があるのだ。
「そうだ、森へ行こう」
そんな軽いノリで行き先を決めたのだった。
森は静かだった。
鳥のさえずりはあるが、さわさわと葉の揺れる音まで聞こえる。
「ほー……」
なんというか、癒される。
これが、森林浴効果か。
もっと早く来ても良かったかな、と思う。
色々刺激的な日常を送る自分には、この癒しこそ必要だったのだ。
のんびり歩きながら、ユウは森林浴を堪能する。
「ん?」
さらさらと水の流れる音がした。
川が近いのだろうか。
ユウは足下に気をつけながら進む。
川の音が近い。木々が開けた。
「川だ!」
さらさらと流れる綺麗な川だ。
時折花びらが混じっている。
「川上に花が咲いているのかな?」
可憐な薄紅色の花びらに、興味がわく。
今日の気分は探検家だ。
行けるところまで行ってみよう!
ユウは意気揚々と歩き出した。
川上に、楽園があった。
辺り一面の花畑だ。
なんて美しい光景だろう。
スマホがあればな、と残念に思ったが。
そういえば、学園長から端末をもらっていたことを思い出した。
「あー、持ってこればよかった」
そうしたらマジカメデビューできたのに。
端末は使い方がよくわからず、放置気味だ。
最近は開いてすらいない。
「本当に綺麗だな……」
見惚れながら数歩進んで立ち止まった。
花畑の奥に、大樹があるのが見えた。
そこに、誰かがいる。
幹に座っているようだ。
「先客かな」
邪魔をするのは悪い気がした。
したのだが。
ユウは目を凝らした。
先客のシルエットに見覚えがあったからだ。
「ラギー先輩……?」
そうだ。
大樹のもとにいるのは、ラギーであった。
足を伸ばし、寝ているようだ。
「どうしよう……」
ユウは悩んだ。
寝ているのだから、速やかに立ち去るべきだ。
だが、先日のラギーが見せた様子が、ずっと心に残っている。
あれからラギーとは話していない。
元々接点が少ない相手だ。
今を逃したら、次いつ会えるかわからない。
逡巡し、ユウは決めた。
「起こしちゃったら、謝ればいいよね」
頷き、彼女は大樹に近づいた。
ラギーは目を閉じている。やはり眠っているようだ。
一歩足を出したところで、ラギーの耳がぴくりと動いた。
ゆっくりと目が開かれる。
やはり起こしてしまったと、背中が僅かに冷えた。
だが。
ぼんやりと目を開けた彼は、ユウを目に移すと。
柔らかく笑ったのだ。
「……やっと、来てくれた」
「え?」
意味がわからず、ユウは戸惑う。
ラギーは更に続けた。
「いつもオレが待つんスよね」
寝ぼけているんだと、遅れて理解した。
「あの、ラギー……」
先輩と言う前に、ユウの声は止まる。
ラギーが、くしゃりと泣きそうな笑みを浮かべたからだ。
今にも泣き出しそうなのに、安堵の色のある笑みを。
「……悪い夢を見たんだ。凄く、怖い夢だった」
苦しげな声に、ユウの胸が痛む。
ラギーの目は深く傷ついていた。ゆらゆらと揺れて、ユウを映し出す。
「でも、来てくれた……だから、あれは夢だった」
と、そこでラギーの鼻がくんっと動く。
そして、それまでの夢うつつが嘘のように俊敏な動きで身を起こした。
「匂い、が……」
ラギーの目が絶望に染まるのを、ユウは見てしまった。
「あ、あの」
「忘れてくださいッス」
ユウの言葉を遮り、ラギーは強い声で言う。
固まるユウに、へらりと笑いかけてきた。
「いやあ、疲れてたんスかねー。寝ぼけるなんて。レオナさんにこき使われてるッスからねー」
「えっと」
「ユウくんも散歩ッスか?」
「え、は、はい」
態度の違いに理解が追いつかない。
「迷子にならないよう気をつけてくださいよ」
そう言うと、ラギーは立ち上がった。
「さて、休憩は終わり終わりっと」
そして、ユウの横を通り過ぎていく。
引き留めなくては、と一瞬思ったが。
ラギーの横顔が笑っておらず、竦んでしまった。
「ラギー先輩……」
ユウはただ見送ることしかできなかった。
鮮明に焼き付いた笑みを抱いて。
さくさくと草を踏み、ラギーは歩き続ける。
「キッツいなぁ……」
と、掠れた声で呟いた。
「……本当に、あった」
ユウは薄紫色の小瓶に手を伸ばす。
グリムの言った通り、香水瓶だ。
シンプルなデザインだが、なんというか、高級感がある。
「ふ、奮発したなあ、私」
どれだけ頑張って貯めたのだろう。
少し手が震えているのは、気のせいじゃない。
「わ、割らないように、大事に仕舞っておこう」
ぱたんと引き出しを閉めた。
グリムが言うには実際に付けていたという、知らない私。
なんという猛者だ。
自分にそんな勇気があったことに、驚きを隠せない。
きっと、本当に欲しいと思ったのだろう。
その熱意が、なんだか羨ましく思う。
「んなあー、オレ様はグリム様だゾー!」
まだ夢の世界にいるグリムの寝言が聞こえ、くすりと笑う。
「よし!」
ユウは拳を握った。
「探検に出かけよう!」
今日は晴天だ。
出かけないのはもったいない。
ユウは着替える為にクローゼットに向かった。
ひとり、カレッジを歩く。
思えば入学してから、こうやって探検するのは初めてのような気がする。
知らない場所も多い。
ユウはなんだか気分が高揚してくるのを感じた。
鼻歌混じりで、歩く。
どこに行こうか。
ユウは立ち止まる。
気になる場所があるのだ。
「そうだ、森へ行こう」
そんな軽いノリで行き先を決めたのだった。
森は静かだった。
鳥のさえずりはあるが、さわさわと葉の揺れる音まで聞こえる。
「ほー……」
なんというか、癒される。
これが、森林浴効果か。
もっと早く来ても良かったかな、と思う。
色々刺激的な日常を送る自分には、この癒しこそ必要だったのだ。
のんびり歩きながら、ユウは森林浴を堪能する。
「ん?」
さらさらと水の流れる音がした。
川が近いのだろうか。
ユウは足下に気をつけながら進む。
川の音が近い。木々が開けた。
「川だ!」
さらさらと流れる綺麗な川だ。
時折花びらが混じっている。
「川上に花が咲いているのかな?」
可憐な薄紅色の花びらに、興味がわく。
今日の気分は探検家だ。
行けるところまで行ってみよう!
ユウは意気揚々と歩き出した。
川上に、楽園があった。
辺り一面の花畑だ。
なんて美しい光景だろう。
スマホがあればな、と残念に思ったが。
そういえば、学園長から端末をもらっていたことを思い出した。
「あー、持ってこればよかった」
そうしたらマジカメデビューできたのに。
端末は使い方がよくわからず、放置気味だ。
最近は開いてすらいない。
「本当に綺麗だな……」
見惚れながら数歩進んで立ち止まった。
花畑の奥に、大樹があるのが見えた。
そこに、誰かがいる。
幹に座っているようだ。
「先客かな」
邪魔をするのは悪い気がした。
したのだが。
ユウは目を凝らした。
先客のシルエットに見覚えがあったからだ。
「ラギー先輩……?」
そうだ。
大樹のもとにいるのは、ラギーであった。
足を伸ばし、寝ているようだ。
「どうしよう……」
ユウは悩んだ。
寝ているのだから、速やかに立ち去るべきだ。
だが、先日のラギーが見せた様子が、ずっと心に残っている。
あれからラギーとは話していない。
元々接点が少ない相手だ。
今を逃したら、次いつ会えるかわからない。
逡巡し、ユウは決めた。
「起こしちゃったら、謝ればいいよね」
頷き、彼女は大樹に近づいた。
ラギーは目を閉じている。やはり眠っているようだ。
一歩足を出したところで、ラギーの耳がぴくりと動いた。
ゆっくりと目が開かれる。
やはり起こしてしまったと、背中が僅かに冷えた。
だが。
ぼんやりと目を開けた彼は、ユウを目に移すと。
柔らかく笑ったのだ。
「……やっと、来てくれた」
「え?」
意味がわからず、ユウは戸惑う。
ラギーは更に続けた。
「いつもオレが待つんスよね」
寝ぼけているんだと、遅れて理解した。
「あの、ラギー……」
先輩と言う前に、ユウの声は止まる。
ラギーが、くしゃりと泣きそうな笑みを浮かべたからだ。
今にも泣き出しそうなのに、安堵の色のある笑みを。
「……悪い夢を見たんだ。凄く、怖い夢だった」
苦しげな声に、ユウの胸が痛む。
ラギーの目は深く傷ついていた。ゆらゆらと揺れて、ユウを映し出す。
「でも、来てくれた……だから、あれは夢だった」
と、そこでラギーの鼻がくんっと動く。
そして、それまでの夢うつつが嘘のように俊敏な動きで身を起こした。
「匂い、が……」
ラギーの目が絶望に染まるのを、ユウは見てしまった。
「あ、あの」
「忘れてくださいッス」
ユウの言葉を遮り、ラギーは強い声で言う。
固まるユウに、へらりと笑いかけてきた。
「いやあ、疲れてたんスかねー。寝ぼけるなんて。レオナさんにこき使われてるッスからねー」
「えっと」
「ユウくんも散歩ッスか?」
「え、は、はい」
態度の違いに理解が追いつかない。
「迷子にならないよう気をつけてくださいよ」
そう言うと、ラギーは立ち上がった。
「さて、休憩は終わり終わりっと」
そして、ユウの横を通り過ぎていく。
引き留めなくては、と一瞬思ったが。
ラギーの横顔が笑っておらず、竦んでしまった。
「ラギー先輩……」
ユウはただ見送ることしかできなかった。
鮮明に焼き付いた笑みを抱いて。
さくさくと草を踏み、ラギーは歩き続ける。
「キッツいなぁ……」
と、掠れた声で呟いた。