お題短編小説

【今回のお題】

・ブーメラン・アーティスト
・お気に入り・サボテン・先生


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私には推しのバンドがいる。
その中でも特に好きなのがドラム担当の人。
彼の奏でる力ずよい音とパフォーマンスに初めて見た時から惹かれていた。
多分一番好きなアーティストだ。

「は~、今日のライブも最高だった~」
1人、干渉に浸りながら夜の街を歩く。
今日は推しのバンドのライブがある日だった。

まだ有名とまではいかないがそこそこ名前も広まってきている。
チケットが取りづらくなる前にたくさん推しを拝んどかないと!
と言っても、私もまだ高校生。

お小遣いもそんなにあるわけじゃないし、毎回ライブを見に行けるわけじゃない。
もっと間近で推しが見れたらなぁ・・・、いや、今でも十分見れるだけでもありがたい事だ。
欲張りは良くない。
ぶんぶんと首を振って、袋に入っている今回のライブ限定のタオルを眺める。
部屋に飾って今日も拝もう・・・。

そう思っていた時、知らない男性に声をかけられた。
「あれぇ?お姉さん1人?ヒック。
良かったらさぁ、俺とこの後飲みに 行かなーい?」
へらへらと笑いながらいきなり私の腕を掴んでくる。

「ちょっ・・・!」
酒臭!
この人酔ってるの!?
「ちょっと、放してください!
警察呼びますよ!?」

「いいじゃーん、硬い事言わないで一緒に行こうよ~」
「いい加減に・・・!」
私の怒りも頂点に来てガっと腕を振り払おうとした時。

「おじさん、何してんの?」
「・・・!」
若い男性が現れ、私の腕を掴んでる酔っぱらいおやじの腕を掴んでいた。
「いたたたっ!
ちっ、萎えたじゃねぇかよ!」
そういって酔っ払いおやじは怒りながら腕を離してそそくさと去っていく。

その後ろ姿をポカンと見ていたら
「気を付けろよ、この辺変なやつ多いから」
「あ、ありがとうございます、助かりました」
「ん・・・」
頭を下げた後、マジマジと失礼ながらも彼の顔をよく見ると・・・。
「・・・は?推し・・・?」
「はぁ?」

私の意味不明な言葉を聞いて彼が眉を潜める。

いやいやいや!
待って?
そんなことあるはずない、私の推しのバンドの最推しがこんな所にいるわけ・・・!
しかも私を助けてくれただと!?
推しが!?

混乱する頭で口をパクパクと動かしていると、
「ちっ、ちょっとこっち来い」
何か察したのか、腕を引っ張られて夜の街から遠ざかる。

「この辺で良いか…」
連れてこられた場所は、静かな広い公園だった。
「悪いな、他のファンとかに見られたら面倒ごとになると思って場所移動させてもらった」
「いえ、それは大丈夫ですけど・・・」
少し急ぎ足で歩いて汗をかいたのか、彼の決まっていたオールバックが少し崩れている。

彼はふぅっと息を吐きながら乱れた髪をかき上げた。
推しだとわかると何もかもがカッコよく見えてしまう。

「はぁ、あんたの家どこ?」
「え?」
ほわぁと彼を眺めていると、切れ長の彼の目がこっちを向いて視線が合う。

「・・・送ってく。
さっきみたいな変な奴に絡まれて後で事件とかに巻き込まれても後味悪いし」
「え、え、推しに送ってもらえる・・・?
これは夢?」
「残念ながら現実だ。
さっさと行くぞ」
「あ、待ってください!」

歩き出す彼の後ろを急いで追いかける。
これが現実・・・。
残念かって?
全然残念なわけあるか!
むしろ光栄だわ!
推しの後ろを付いて歩けるだけでドキドキと鼓動が高鳴った。

推しと会話するのは実はこれが初めてではない。
推しのバンドは、アイドルみたいな握手会が度々行われる事があった。
私は毎回彼の所に握手しに行って、一言二言応援メッセージを送ったりしていた。

彼が私に気付いてるかどうかはわからないけど。
彼のバンドは夜に活動する事が多いから、大変だろうなぁ・・・。
なんてボーと考えていたら彼から話しかけてくれた。

「あんた、握手会とか参加してくれた子だろ?
いつも応援してくれてありがとな」
「・・・・っ!
お、覚えてたんですか!?」

ビックリして彼の方を見ると、フッと小さく笑っていた。
「当たり前だろ。
ファンは大切だし、それに・・・」
一瞬言葉が途切れる。

「・・・それに、あんたいつも俺の所に最初に来てくれるだろ・・・?」
少し恥ずかしいのか、彼は口元に手を添える仕草をする。

は?可愛いか?
見た目めちゃくちゃカッコいいのにこういう可愛い所が見れるとか、ギャップ萌えで息絶えそう。
気付かれないように悶えていると、私の家が見えてきた。

「あ、もうこの辺で大丈夫です。
家まですぐそこなので」
「・・・そうか。
家の中に入るまで気を付けろよ」
「はい、送ってくださってありがとうございました!
これからも活動応援してます!」
ぺこりと頭を下げてからニッコリとほほ笑む。
「あぁ、ありがとな」
彼も優しく笑っていた。

そうしてその場を別れたのが昨日なんだけど・・・。

私は今日、推しの正体に気付いてしまったかもしれない・・・。

昼休憩に科学の授業ノートを集めて持ってくるように言われ、科学の先生がいると他の先生が言っていた科学準備室にノートを持っていく。

「失礼しまーす。
せんせー、ノート持って来ましたー」
ノートの束を持って机に向かって本を読んでいるメガネをかけた先生に話しかける。
「あぁ、そこに置いといてくれ」
「はーい」

言われた通り、机の上にノートを置いて少しキョロキョロと周りを見渡す。
あまり科学準備室に入る事がないから何だか新鮮。
色んなものが置かれていていたが、私の目にある物が映った。

「さぼ・・・てん?」
窓際に1つちょこんと小さな鉢に入った小ぶりの可愛いサボテンが置いてあった。

何故サボテン?とも思ったが、別に先生の趣味なら飾ってても可笑しなことはないだろう。
でもあのサボテン・・・。

私が推しに送った物と同じだ。
いや、見間違いかもとも思った。
でもあの推しカラーのリボンが巻いてある鉢といい、サボテンの形といい、私が送ったやつとまったく同じものだ。
偶然とは思えない・・・。

私はおそるおそる先生に質問してみる。
「あの、先生…。
そのサボテン、どうしたんですか・・・?」

窓際に置いてあるサボテンを指さして聞いてみる。
するとさっきまで本を読んでいた先生が私の方をチラッと横目で見て、サボテンの方に目を映して言った。
「あぁ、あれは・・・」

ギィッと椅子を引いて立ち上がり、私の方に向かって歩いてくる。
え、何!?
そう思った一瞬に、先生は私と距離を詰めて間近で顔を覗いてきた。

「あれはお前がくれた物だろ?
覚えてないのか?」
「え?」

ニヤリと意地悪そうに笑ったかと思うと、メガネを外して髪をかき上げる。
・・・何で私は今まで気づかなかったのか。

いや、先生が髪をおろしててメガネしてたって事もあるだろうけど、あまり私が気にしてなかったというのもある。

まさかこんな顔の整った推しがこんな近い場所に存在していたなんて・・・。
またしても昨日助けてもらって相手が推しだとわかった時みたいに口をパクパクとさせる事しかできなかった。

「ふっ、やっと気づいたのかよ。
俺は少し前から気付いてたのに」
眉を寄せてククッと笑う先生。

こんな表情もできたんだ。
バンドしてる時はいつも楽しそうな顔だけど、学校にいる時はいつも無症状というか、やる気のない感じだったから何か推しと先生が同一人物って言うの意外というかなんというか・・・。

先生は私から少し体を離しす。
「あのサボテン、結構お気に入りなんだ。
ありがとな」
「~~っ!!」

昨日と同じありがとう!
やっぱり本物だ!

「い、いえ・・・どういたしまして?
それにしても、先生がバンドしてる推しだったなんて・・・」
「・・・がっかりした?
こんな奴が推しと同一人物で」

「はぁ!?
がっかりするわけないじゃないですか!
これで毎日推しと会えるってわかって今猛烈に私の心はぴょんぴょん跳ねてますよ!?
あ、でも心配しないでください。
推しが嫌がるようなことはしないし、先生だってわかって言いふらすこともしないし付きまとったりもしませんから!
でも影からそっと見守る事は許してください!」

推しを前にしてオタク特有の早口が炸裂する。

全部言い切ったあと、呼吸をするのを忘れていたかのようにすぅっ!とめいっぱい空気を吸った。
私の言葉を聞いた先生は最初ビックリして少し目を見開いていたけど、すぐにプッと吹き出し小さく笑っていた。

「うんうん、お前ってそういう奴だよな。
良かったわ、正体バレたのがお前で」
ククッと口元に手を添えて笑う先生、もとい推し。

その笑顔、プライスレス!
尊いものを見て、そっと心の中で先生を拝む。

「・・・てことだからさ、これからは学校でもよろしくな?」
「あ、はい、よろしくお願いします」
推しによろしくとか言われたらもうそりゃ喜んで!

「・・・サボテンも気に入ってるけど、俺お前の事もお気に入りなんだわ」
ニヤっと笑う先生に、私の心臓が激しく太鼓を鳴らして顔が赤くなる0おl¥。
私の心臓、ドンドコうるさい!

「まぁ、俺の事恋愛として好きになるのは無しな?」
「わかってます、私は先生の事推しとして好きなだけで、恋愛には発展しないので!」
意気揚々と拳を作って宣言してみせる。

だがこの言葉がのちにブーメランとなり、2人を苦しめる事になるとはこの時知る由なかった・・・・。
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