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転がって魔術学園 2章


学校に帰ると単位取得の証明書を書き、斎賀は自室に看病の名目でついてきた華名と部屋にいた。

「明日学校行けるかね、これ」

「もしあれでしたら私は明日一日看護しますよ?」

「いや、いいよ・・・じゃおやすみ」

斎賀は明日に備えて深い眠りについた。



同時刻、ゼファーは一人で読書に耽っていた。

「人間の作る神話は悪魔も楽しめる素晴らしい娯楽だね・・・おや?懐かしいものを見つけたな」

本の間に栞代わりに昔挟んだ写真が一枚挟んでいた。
映っていたのは朗らかに笑う女性と、幼いゼファーと小さな男の子だった。

「セイル、懐かしいものが出てきた・・・始末してくれ」

「・・・」

セイルと呼ばれた男は写真を受け取るとポケットにしまった。

「始末するぐらいなら俺が貰う」

「いいよ、別に・・・それじゃ僕は寝るね、おやすみ」

ゼファーは寝具に着替えると、天井付きのベッドに横になった。

「・・・くたばれ、蛇野郎・・・この写真はぜってえ捨てさせねえ」

ゼファーがなぜ蛇野郎と呼ばれているのか、かなり昔に遡る。



約八年前、ゼファーが3歳、セイルは4歳のころ、
二人はゼファーの母に連れられ地上が見える端っこの丘に来ていた。

「まま!ちょうちょ!」

「・・・・・・」

キャッキャと駆ける純粋な少年はゼファー、
その横で静かに座って膝に止まった蝶をまじまじと眺めているのはセイル。
季節は春、心地よい日光が差し雲もまばらで気温も良しといいピクニック日和である。

「ゼファー!そんなに走ると危ないわよー!
セイル君も静かに座ってないでゼファーと遊んであげて、
あの子すぐにどこかに行っちゃうから」

優しく微笑む女性はゼファーの母親でエリナ・テイザーである。
セイルはエリナに言われた通りゼファーと遊ぼうと走っていく、
しかしこの瞬間蛇のかたちをした悪夢はゼファーに迫っていた。

こっちにかけてくるセイルを見たゼファーはぎょっとした。
後ろから草むらからものすごいスピードで蛇がセイルの首筋めがけて飛びつこうとしていた。

「あぶない!」

ゼファーはセイルの方に走り今にも飛び掛からんとしている蛇の間に入り
手で払おうとした・・・が払いきれずに手の甲に噛みつかれた。

「ゼファー!・・・この!」

エリナが果物を切り分けるのに使った果物ナイフで蛇の首を切り落とした。
すると蛇はすぐに絶命し、その場に落ちた。
ゼファーは左手の甲を噛まれたらしく、右手であふれる血を抑えていた。

「ゼファー、大丈夫?すぐに病院に連れて行くから・・・」

「その必要はない」

「え?」

ゼファーは左手を抑えていた右手を離し、母の首を掴んだ。

「ゼファー、何してるんだ!」

セイルが叫ぶが聞こえてないかのように無視をする。

「何を・・・するの・・・」

エリナが苦しそうな顔でゼファーを見る。
普通三歳児に首を絞められたぐらいなら簡単に外せるが、
この時のゼファーの力はとても三歳児とは思えなかった。

「僕はさっき死んだ蛇だ、そして元は暗い地下に押しやられた悪魔さ」

「う・・・・・そ・・・・・」

エリナはサーっと顔が青ざめて行った。

「本当さ、僕はこのからだを乗っ取った・・・
けどまだまだ不完全、完全になるには・・・人の魂を・・・
このルーンに捧げなきゃいけない、
だから君は・・・僕の養分になってもらう」

そういうと果物ナイフをエリナの額に刺し、そのまま力任せに縦に裂いた。

「あ・・・・・・あ・・・・・・」

セイルはその光景を見て腰が抜けた。
そして逃げ出そうとした・・・が。
頭を掴まれ、強制的にゼファーの方に目線を動かされた。

「君には利用価値がある・・・
僕らを地下に追いやったイフを殺す計画にね・・・
だから僕の・・・思うように動いてもらう」

そういい手をセイルの額に当てようとしたその瞬間。

「だめだ・・・やめろ・・・」

ゼファーが苦しそうに悶えていた。
セイルは今しかないと思い一生懸命走って逃げた。

その後ゼファーは父、メルター・テイザーや村の人々を洗脳し、
セイルを見つけ八年間生活し今に至る。



「だがゼファーの意識は生きている、必ず取り戻してやる・・・」

そう、ゼファーの人格は表立って出てきてはいないが、確かに生きている。
これはセイル本人が確認したことだ。
どうやら蛇ゼファーは寝起きが弱くすぐには起きないらしい、
そのため本物のゼファーの意識が先に起きることが多々ある。
それに気づいたセイルはゼファーと一緒に悪魔祓いに行こうとした。
しかし、体を動かすと蛇の方のゼファーが起きてしまうため、
セイルとは小さな声で会話することしかできない。
ゼファーは普段意識の中で小さい檻の中にいるらしく、
目の前の壁に蛇のゼファーが見ている視点が移りこむらしい。
やがて自分が知らない間に本物のゼファーの意識が出ていることに気付いた蛇ゼファーは目的達成を手伝ったら本人を返すと条件を付け、
セイルに潜入を任せるようになった

「俺にもっと力があれば・・・俺に呪いが掛けられていなければ・・・」

右手の蛇の模様を忌々しく見つめる。
今のセイルの命はゼファーに握られているも同然なのだ。
蛇のルーンが効果を発揮すればセイルは死んでしまう。
なのでセイルはゼファーに逆らう事が出来ず、部下として働かされているのだ。

「・・・今日は疲れた・・・寝るか」

こうして斎賀の知らないところで、真っ暗な物語が進んでいく。
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