joy!

ついにこの季節が来た。冬、学校の体育の授業では誰もが経験し、ばてた人がいるだろう……持久走。ここ、パッショーネ高校でもそれは伝統行事で次の日筋肉痛になるぐらい走らされる。もう走りたくないと思ってもサボると周数が増え、サボる意味が無いぐらい……

「あ、ミスタ今お前サボっただろプラス3周な」
「はぁぁぁ!?無いわ!マジないわ!」

木枯らしが吹く寒いグラウンドでミスタの絶叫が響いた。少し力を抜いて走っていたのがバレたらしい。プラス3周と言われ講義するミスタ。

「無いのはお前のやる気だとっとと走ってこーい。有り余る体力を全部使えー」

先生は心無い声でそう言った。悪魔の所業である。

「無いわ……」

すると、後ろから走ってきたナランチャがミスタを見ながらケラケラと笑っていた。走って体力が少なくなっているのに。例えるならステータス画面が赤い状態。そして、笑っていたナランチャに気づく先生。

「ミスタだっせー!!」
「ナランチャお前もな」
「はぁぁぁ!?」
「笑う体力が残ってんだろ?」

そらいけ!と言って二人の背中を押す。二人は渋々走り出した。
一方真面目なフーゴは走り切り、木の下にいた。そして、走り終わったジョルノを迎える。

「お疲れ様です、ジョルノ」
「……あ、有難う……ございます……」

そう言ったジョルノは膝からガクンと崩れ落ちた。慌ててフーゴが支えたから、倒れはしなかったものの手を離したら今にも倒れそうだ。体力は人並みにあるジョルノだが、華奢な体は耐えられなかったらしい。ちなみにトリッシュは体調が悪いから、と持久走を棄権。仮病である。

「ジョルノ!?大丈夫ですか?」
「……もぅ……だめ、ですぅ……」
「ちょっ!?ジョルノ?」

フーゴは危ういと感じた。ジョルノも危ういが自分も危ういと。何が危ういか、今の状況である。頬を赤らめていて、息を切らしながら舌っ足らずに喋るジョルノ。汗で濡れて髪が顔に少しひっついている。その視線は今、フーゴを捉えているが焦点が合っていないように見えた。その姿が危うかった。華奢な彼女を支えているフーゴは戸惑った。

(エロい……じゃあなくて!!何考えているんだ僕は!)
「とりあえず先生に言った方が……僕言ってきますよ」
「待って……フーゴ、いかないで……下さい」

ハァハァと息を切らしたジョルノはフーゴの裾を引っ張って呼び止めた。ジョルノが見上げるようになっていて、丁度上目遣いになる。フーゴはそれを見て理性が警告音をならす。

「なっ……!?」
「フーゴ、今、あなたが離れたら……倒れちゃいます……だから」
「う、うん……分かりました……」

二人は木の下で待機することに。未だにハァハァと息を切らすジョルノの隣でうるさい心音を必死に抑え、警告音をならす理性で必死に欲望を抑え込むフーゴ。

(落ち着け落ち着け……あれはジョルノは無意識でやっているのだから……他意は無いんだ……落ち着け僕……!)

そう言い聞かせても、先程までの上目遣いを思い出すと心音が急上昇する。
そんなフーゴの葛藤も知らずにジョルノは思わず疲れてフーゴの肩にコツンと頭をのせる。

「……フーゴはスゴイですね、こんなにしても、すずしい顔しちゃって」
「そ、そうですか……?」
「えぇ。フーゴのそういう所、素敵ですよ……」
「……!!」

まだ若干息が上がっているジョルノはフーゴを見て力なく微笑んだ。それを見て、フーゴは警告音をならしていた理性を総動員させても無理かもな、と思ったが、良心があるためまだ若干保っているような保っていないような中途半端な気持ちだった。

「どうか……しました……?」
「ジョルノ、それ以上は、もう」
「?それ以上?」

首をコクンとかしげたジョルノ。フーゴの抑えていた何かが壊れた気がした、と同時に、今だヤっちまえ!と本能が呼び掛ける。

「……フーゴ?」
「ジョルノ、ダメですよ。そういうの、無意識でも危ないですよ……」
「何がですか?」

ぐいっとジョルノを引き寄せるフーゴ。と、同時に勢いでキスをする。息が上がっていたばかりのジョルノはまた急に息苦しくなる。すぐに離れたがジョルノはまた、ハァハァと息を切らす。

「なに、するんですか……っ!」
「ご、ごめん……でもジョルノ、本当に危ないです。いつか本当に襲われちゃいますよ……」

未だに密着している二人はそのまま会話をしている。外は寒いのに二人は顔が赤く、体温と心音が上昇していた。

「……襲われるとか、どうとかじゃあなくて、僕、死ぬかと思ったじゃあないですか……」
「ごめん……」

未だに理性が戻っていないフーゴにはジョルノの一挙一動が妖艶に見え、気を抜くと本当に襲ってしまいそうになる。肩で息する姿、赤らんだ頬、少し潤んだ瞳、汗で引っ付く髪、フーゴに触れる細い指先から、体操服から見える生足……エトセトラ。

「全く……フーゴだから許しますけど……」
「ジョルノ……それが、危ないんですってば……」

もう一度理性が崩壊するのではないかというところでチャイムがなった。ジョルノは帰らねばと立ち上がろうとするが、うまく力が入らない。先に立ったフーゴを上目遣いで見上げる。

「フーゴ、手伝ってください」
「あ、はい」

ジョルノの手を引っ張って立ち上がらせる。フラフラした足取りで二人は校舎へ向かったのだった。
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