恋する動詞

66.絆される(ほだされる)(プロジョル)


「大人ってやる事成す事が汚いです」

ぽつりと呟いた少年が悔しがった。確かにジョルノは比較的大人びている。だがそれはあくまで仕事の上であって仕事抜きの奴は至って普通の15歳である。

「汚い訳じゃあない。子供よりずっと解決方法の選択肢が多いだけだ」

俺がそう答えるとウェイターが「お待たせしました」とやって来る。本日のメインである。ジョルノの前に置かれたその器は某写真アプリの利用者が泣いて喜びそうなほどフォトジェニックであった。
珍しくばったり偶然出会って、立ち話もなんだしこんな暑いのだから、どこか涼みに行かないかと声をかけたのが数十分前、嫌そうにしていたジョルノに話を持ちかけると、少し考えてから小さく頷いた時何となく勝利の気分を覚えた。

「貴方、いつもそうやってナンパしてるんですか?」

と言われてなにも返せなかったがそこはそれ。目の前の氷山にシャクリとスプーンをさして1口食べたジョルノはトロンと美味しそうに頬を弛めた。

「ずるいですよ……抗えるわけないじゃないですか。プリンを冷やして凍らせるってなんですか。しかも削って生クリームを絞るだなんて……そんなの美味しいに決まってます!」

心底悔しそうな声だがとても幸せそうに食べている。美味しそうに食べている年相応の少年に顔が綻ぶ。「削りプリンとかいうメニューがあるんだ」と、持ちかけてまさかそんなあっさり引っかかるとは思わなかった。もう少し危機感を持って生きた方がいいぞと思ったが言わぬが仏だ。
シャクシャクと続け様に氷を食べては花が咲くような幸せそうな雰囲気を醸し出しているのだから、連れてきた甲斐が有るというもの。

「美味いか?」
「美味しいです……」

こちらからしてみれば半分ほどで胸焼けしそうなほどの甘味の量だ。それでも少年はそのままもくもくと食べ続けた。
目の前でエスプレッソを飲みながら少し考える。昔のことは何も知らない。どんな過去があったのかもどんな子だったのかも知らない。でも、知らなくていいと思っているし調べる気もない。
その幸せそうな顔があればそれで充分。
暗殺稼業を生業としている身だとしてもやはり人間らしい。どうやらこいつの毒気に絆されたようだ。
公私は混同しないのが俺のセオリー、その代わりどちらも本気で取り掛かる。ならば今することはただ1つ。目の前の少年をこちらへ引き込むこと。きっとそちらには疎くて憐れなほど純真なそれを俺の側まで引き寄せること。

「美味そうに食うな」
「そんな気はしませんが……あ、食べます?」
「いらない」
「残念、美味しいのに」

氷山を削っては口に運びを繰り返す。まだ青臭い少年がこんな裏仕事に就く理由は知らないがこうしてカフェで美味そうにものを頬張っているとき、普段からは信じられないぐらい幼く見えるのだ。年の離れた弟のような。ああ、守ってやりたいと思う。

「見てるだけで十分」
「そう」

少し残念そうにする所も15歳らしい。美味しいものは共有したいというとても愛らしい魂胆が丸見えである。

「お前は可愛いからな」
「は!?」
「見てるだけで腹が脹れる」
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