恋する動詞

「じょじょじょじょう、承太郎」
「……なんだ。どうかしたのか」

どこか動揺している花京院はしどろもどろに承太郎に話しかける。

「本当にどうかしてるのか」
「どうもしてない!いや、どうかしてるのか……?ああいやそんなことは関係ないんだ。承太郎に渡すものがあって」

花京院は学ランのポケットから小さな箱を取り出した紺色で片手に収まるほどの小さな箱である。

「何を」
「指輪」
「指輪」

箱を開くとなるほど確かに指輪である。細身で小さな石のはめ込んであるそれはどこからどう見ても……

「結婚しようと思って」
「誰と」
「承太郎と」
「……頭打ったのか」
「そんな可哀相なものを見る目で見ないでくれるかい!僕本気だよ!」
「病院探した方がいいか……」
「承太郎!?」

話が読めないどころかどこか打ちどころが悪いとかスタンドの攻撃を受けているとかそちらを疑ってしまうほど承太郎は今の状況についていけていない。

「なってねぇなぁ!花京院!なってねぇ!」
「ポルナレフ」

どこから現れたのかは知らないがポルナレフが花京院の肩を叩き語り出す。

「物事には順序ってもんがあんだろ!童貞か。いいか、恋愛っつーのにはなぁちゃんと順序っつーもんがあんだよ!まず知り合う!次に互いの仲を深める!恋人すっ飛ばして婚約しようとするやつがどこにいんだよ!」
「なるほど確かに」

ふむ、と顎に手を置き花京院は考え込む。ポルナレフの話を真剣に聞いているが置いてけぼりになっている承太郎は手渡された指輪をどうしていいか分からずキョトンとしている。返した方がいいのか貰った方がいいのか捨てた方がいいのか……捨てるのはさすがに悪い気がするし良くない気がするが……それにしてもこの指輪妙に高そうである。

「いつもの冷静さはどうした!」
「いや、今も全然冷静じゃねーぞ」

承太郎のツッコミ虚しく白熱したポルナレフと花京院はやる気満々で、ポルナレフが花京院の背中をバシンと叩いて喝を入れた。

「分かった。もう一度やらせてくれ承太郎」
「いやそれより病院探した方が」

花京院が1つ呼吸を整える。深呼吸をしてから承太郎に向き合う。その後ろで何やら楽しいおもちゃを見つけたかのようなポルナレフがケタケタと笑っている。あとで1発ぶん殴ってやろうと承太郎が算段していると花京院が口を開いた。

「ぼ、ぼぼぼ僕と僕とつつつつ……つ」

そこまで言ってプツンと事切れたかのように倒れた花京院。バタンとコメディ映画のような音とともに床に崩れて目を回していた。緊張して、目を回すほど心拍数が上がってしまったらしい。

「花京院!おい!?」
「なんで指輪は渡せるのに告白できねぇんだこいつ」

倒れた花京院をのぞき込んでため息をついたポルナレフを1回どついてから承太郎は花京院の肩を担いだ。

「それより運ぶの手伝えポルナレフ」
「へいへい全く……」
「ったく……」

気絶するほど緊張していたのに伝えようとしていたのだからその意思には敬意を表するかな、と承太郎は柔らかな溜息をつきながらそっと花京院のポケットに指輪を返した。

(全く……まともに言えるようになってから渡しにこいよ……)
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