恋する動詞

あれから、花京院は毎日病院に通った。それでも承太郎が思い出す様子はなかった。花京院もそろそろ限界だった。もうダメかな……と思っていた。真っ白なベッドで眠っている承太郎の手をそっと握る。病室にはただ心拍計の音だけが響いていた。

「承太郎」

少し寂しそうに承太郎に話しかける。やはり返事はない。

「最近、学校にはちゃんと行ってる。けどつまらないんだ」

まだ承太郎が記憶があった時を思い出す。たしか、承太郎に「引きこもってないで学校行け」と小言を言われたのだ。

「やっぱりね、承太郎がいないとつまらないよ。授業も放課後も」

花京院が握る力を少し強くする。

「……承太郎、好きだよ。一緒に帰ろう?」

涙ながらにそう伝えても、病室はしんと静まり返って心拍計の音が無機質に響く。その時だ。ギュッと花京院の手を握り返す感触があった。

「!」

一方的に握っていたはずの手を承太郎が握り返してくれたのだった。何も言わず。

「承太郎!」
「……ったくやかましいやつだ。病院で騒いでんじゃねぇよ」
「あ、ごめん……でも良かった!承太郎、記憶が戻ったんだね」
「まぁな。迷惑かけて悪かった」

未だに痛々しい包帯だらけの承太郎は寝たまま花京院に話かけた。

「……お帰り」
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