恋する動詞

2追いかける(花承)

「ねぇねぇ承太郎?君は今、楽しい?」
「いきなりなんだ」

ある昼下がりに花京院は唐突に承太郎に聞いた。何の前触れもない。ただボーッと空を見上げていただけだから楽しくはないし、逆につまらないか?と言われても違うと答える。それは花京院といるからだと言ってしまえばそれでおしまいだが。実際なんで一緒にいると楽しいのかは本人たちには分からない。

「別に……」
「つまんない?」
「いや。つまらなくはないな」
「そっか」

会話はそこで一旦途切れる。雲はゆったりと流れ、空はどこまでも続く。二人は河原でぼんやりと眺める。途中でがたんごとんと電車が走っていく。それさえも風景の一部になり、絵となる。
少し経つと花京院は口を開く。

「僕は楽しいな」
「そうか?」
「うん。こうやって授業サボったりしなかったし。そもそも友達いなかったし」
「花京院……」

その話をしているとき、花京院は今にも壊れてしまうのではないかという儚げな笑顔を見せる。あぁ、花京院はこんな顔をするのか……。そんなことを思いながら承太郎はタバコに火をつけた。煙がフワフワと空へ昇っていって消える。
そして花京院は続けた。

「それに、その友達が承太郎だからかな、楽しい。なんだか承太郎は友達を超えたみたいな存在なんだ……おかしいね。どうもこの気持ちは友達という言葉で片付けられない」
「……?言ってる意味が分かんねぇ」
「……好きなんだよ。友達じゃあなくてさ、その、恋というかさ、承太郎が。好きなんだ」

その言葉を聞いて承太郎は何を思ったか、気持ち悪いと思ったか、怒ったりしたか。その逆である。何かすとんと腑に落ちたような気持ちだったあぁ、なるほど。という。満ち足りたような……そんな気持ち。それと同時に意識する。今までのこと、今のこと、それから花京院の突然の告白。
気が付いた承太郎は勢いをつけて、立ち上がる。

「承太郎?」
「俺だってお前といるの、楽しいからな。お前と同じ意味で」
「承太郎……!」

そしてスタスタと歩いていく。どこに行くかは決まっていない。なぜ歩いているのかも分からない。ただ、それでいいと承太郎はどこか確信していた。花京院はいきなり歩き出した承太郎を慌てて追いかける。

「まって!承太郎」

承太郎は深く帽子を被り直す。自分の染まった頬を隠すように。花京院は追いかける。これからもずっと一緒にいる彼の大きな背中に飛びつこうか、と考えながら。

追いかけて見つけた本当の事
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