拍手ログ

ジェラート戦争


 夏の真っただ中、同じく高校は夏期講習の真っただ中である。一限目に数学二限目に英語と至って真面目に過ぎていく時間に飽き飽きしてしまう。蒸し暑いような外に比べて程よくクーラーが効いている教室はまさにオアシスであった。
「遊びいこーぜ!」
 講習も終わりさて帰ろうかとジョルノが教材をしまっているとすでに片付けたらしいミスタがカラカラと人の好い笑顔でジョルノに話しかける。こういう人当たりの良いところが彼の長所であり、ジョルノもそんな彼の長所が好きである。
「いいですね……ギアッチョは行きます?」
「あ?」
 ヘッドホンをしつつスマホに目を落としていたギアッチョは、かすかに聞こえたらしいジョルノの声に反応してふと顔を上げた。じっと見てくるジョルノにいたたまれないが一切話を聞いておらず、無言で見ているといジョルノの肩口から覗き込んだミスタが見下ろしてくる。
「折角だからお前も仕方なーく誘ってやろうか。感謝してもいいんだぜ?」
「ぶっ殺すぞ」
 なんでそんなに上から目線なのか。それが気に食わず、暑さに焼かれた神経を逆なでされる。加えて、画面内に浮かぶ「LOSE」の文字にもイラっとしながら一言だけ返した。
「やれるもんならやってみればいいだろ」
「煽らないでください。ギアッチョも一緒に行きませんか?」
「……行く」
 何も入っていない鞄の中にスマホを投げ込んで立ち上がる。ジョルノを真ん中に三人が教室を出ると蒸し返すような熱い風が体いっぱいに当たる。
「「「暑い」」」
 これで外を歩けば尚更汗がじっとりと滲むことだろう。日差しの下に出るのも億劫になってなるべく日影に入るように歩くのだが、それでも暑くあまり会話が進まない。そもそも何をするかもわかっていないため、ジョルノは口を開いた。
「どこに行くんですか?」
「この辺りに新しいジェラート屋が出来たんだよ。ジョルノ知ってるか?」
 何やら新しく出来たらしいジェラート屋があるらしく連れて行ってくれるらしい。こんなに暑い日なのだ、ジェラートが恋しい。その冷たく甘い誘いに、ジョルノはぱあっと表情が明るくなる。そういう所はわかりやすい。
「知りませんね、初耳です」
「だろ?今日出来たばっかりだしな!行きたいだろ?行きたいよな。俺が連れてってやろう」
「ええとても。連れてって下さいミスタ」
 目標ができると自然と浮足立ってしまう。ルンルンと先を歩くジョルノの後ろで満足そうに笑っているミスタに、懐疑的な視線を向ける。
「お前ジョルノのために調べたのか……よくやるわ」
「なんの事かわかんねーなー」
 とぼけたようなミスタが、先に行くジョルノを追いかける。
「けっ……言ってろ」
 絶対、確実にそうだともやもやしながら、ギアッチョは遠くで「何してるんですか」と呼んでいるジョルノの後を追いかけた。

 やけに某SNS映えするであろう店内に男三人で入るのは若干気が引けるものの、楽しそうにしているジョルノに逆らえるわけもなく三人は入店したのである。
「これは中々」
 派手派手しく可愛らしいジェラートの数々に目を輝かせる。楽しそうにしているのは少年のはずだが、やけに空間にマッチしていた。
「財布しまえよ」
「え、いいんですか?」
 これはギアッチョのただの気まぐれだが、彼的に何となくミスタの株だけ上がるのが癪に障る。そんな妬みを知ってか知らずか、ニヤニヤとミスタが見ている。
「ゴチでーす」
「ミスタのは奢らねー」
「はぁぁぁ!?そもそもここにこれたのは俺のおかげなんだが?」
「なんかヤダ」
「なんかヤダ!?」
 新たな火種を投下すると元気な声が聞こえる。それを聞いてか聞かずかはさておき、ジョルノが嬉しそうに
「僕ワッフルコーンのストロベリーとショコラのダブルキングサイズで」
「お前意外と図々しいな」
 遠慮はないらしい。ギアッチョは元より自分の蒔いた種だと腹をくくった。
22/25ページ
スキ