聖闘士星矢


夢をみる。
何度も、繰り返し見ている夢を。
そして、いつも終わりがないままに朝が来てしまうのだ。


「おはよう、紫龍」
「おはよう、春麗」

朝起きてすぐに、大好きな人と顔を合わせる。
ありふれた挨拶を交わして、同じ食卓で食事をし、一日の始まりを迎える。
その日々を重ねることが、何よりも幸せだった。
親の温もりを知らぬ子ども同士、優しい老師に拾われ、共に育てられてきたことが、すべての幸福の始まりであったのだ。

今は亡き老師に祈りを捧げ、畑に向かう紫龍を見送る。
食器を片し、五老峰の清流で洗濯物を洗う。
それが終われば、昼食の準備をして紫龍のいる畑に急ぐ。
二人で並んで五老峰の景色を眺めながら、静かに言葉を交わす時間が好きだ。
二人で育てた野菜を食べ、この先も細々と生き永らえていくのだろう。
それはなんて幸せなのだろうか。
老師の願いも、自身の願いも叶うのだから。

「紫龍、眼は良くなってきた?」
「あぁ、少しずつ感覚は戻ってきているよ」
「良かった。また紫龍の優しい瞳が見れるのを楽しみに待ってるの」
「そ、そうか…」

照れているらしい紫龍が、鼻先を掻いて口ごもった。
そうした照れ方は、初めて会った頃から変わらない。

老師の死の報せとともに五老峰に帰ってきた紫龍は、達成感を持ちながらも、酷く憔悴していた。
敬愛していた老師の死は、それだけ重く辛いものであった。
暗かった空が明るくなっても、紫龍は打ち沈んでいた。
どんな声をかければいいかも分からなかった。
だから、何も言わずに一緒にいることを選んだ。
時々、淋しいね、と。
二人で静かに大滝を眺めて泣いている。
そんな日々を重ねているうちに、少しずつ紫龍の暗さも薄れていった。

このまま穏やかな日々が続く。
このまま一緒に暮らせる。
このまま静かに朽ち果てる。
幼子を見つけたことも、きっと運命なのだと思った。
今度は、自分たちが優しかった老師の立場になるのだと。

彼と、ずっと一緒にいられる、と。
無条件に思っていた。

繰り返し見ていた夢をみることも減った。
夢を見て苦しいと思わなくなった。

けれど。
けれど。

聖衣を背負って五老峰を去っていく紫龍の背中を見ている。
これが夢なのか現実なのか判断したくなかった。
夢でも、現実でも。
私は、いつも彼の背中を見送っているのだ。

笑顔で送り出せたはずだ。
幼子のことは、彼が戻るまで立派に育てていこう。

もう、行かないで、と。
泣いて縋ってしまえるほど子どもではなくなってしまったのに。

「……行かないで、紫龍」

穏やかに、健やかに。
ただただ一緒に生きていたいだけなのに。

そして。
いつも、私は待ち続けるのだ。
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