第3章番外編
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心だけでも
キャプテンである6年生のユキはクィディッチ競技場のロッカールームでチームメイトを見渡していた。耳に聞こえてくるのは試合を待ちわびている観客の声。既に各チーム応援歌やウェーブを起こしていて空気は高潮している。
『因縁のグリフィンドール戦がきた』
力強い声がロッカールームに響く。
『手強い敵だがこのメンバーならば勝機は十分にある。日頃の練習の成果を十分に発揮し、力を尽くして欲しい。行くぞ!』
天井に突き上げられる拳。
『スリザリンに勝利を!!』
うおおおお!!と鼓膜に響く大声が各選手から上がり、みんなで拳を突き合わせる。全員と拳を突き合わせたユキは最後だったレギュラスと共にロッカールームを後にする。
『興奮するわ』
「今日も宜しくお願いします」
ユキとレギュラスはレギュラスがシーカーに選ばれた年からペアを組む作戦で試合に臨んできた。レギュラスがスニッチを見つけたらレギュラスを邪魔する全てをユキが排除する。近距離で箒を飛ばすギリギリのプレー。二人の信頼関係のなせる技だ。
廊下を歩いていた二人は競技場へと続く光が見えてきたので箒に乗って地面を蹴った。
選手たちの現れたクィディッチ競技場からドッと歓声が沸く。
緋色のマントと緑色のマントが空にはためく中、ユキは観客に目を凝らしていたが隣の視線に気が付いて前を向いた。
セブは来ていないだろう……はあ、ダメ。頭を切り替えて。試合に集中しなければ……。
ユキはスタジアムを一周回ってピッチへと降り立った。
「両キャプテン握手」
マダム・フーチに言われて進み出たのはユキとジェームズだった。ジェームズは僅かに期待した目を向けていたがそれは無駄なことだった。ユキは視線を落として握手をし、サッとスリザリンチームの元へ戻って行く。
ピー
笛が吹かれて選手が空へと舞い上がる。
競技場に散って行く選手たち。箱が開かれてボールが上昇する。
ピー!!
先ほどよりも強くマダム・フーチが笛を吹いた。
《グリフィンドール対スリザリン戦が始まりました!クィディッチシーズンの幕開けです。今年から両チームのキャプテンが変わりました。ご紹介いたしましょう!グリフィンドール!ジェームズ・ポッター!!》
ドカンとグリフィンドール席から歓声が上がり、スリザリンからはブーイングが起こる。
《歴代最速と言われる飛びっぷりと正確な投球でチームを引っ張っています!
続いてスリザリンチームキャプテンはMs. ユキ・雪野!打撃力の強いブラッジャーは命中率が高く、狙いを外しませんっ。それにしても、あぁ、いつになったら彼女は僕とデートしてくれるんだ?》
実況の嘆きに笑っていた観客はハッとして顔を変える。ジェームズがパスを受けてピッチを横切って行く。
『捨てていい!!ライアン戻れ!フォーメーションを立て直して。多少の失点は構わないから作戦通りに!』
飛び交うブラッジャー、クアッフル。
ナイスプレーに歓声が沸き、危険な反則にブーイング、落下していく選手に悲鳴が上がる。
点数はスリザリンリードだが、スニッチを取れば逆転できる点差。
『パーキン挟みよ!』
スリザリンのチェーサーがグリフィンドールのチェイサー2人に挟まれた。3人目のチェイサーであるジェームズが真下から上昇して体当たり。ユキの忠告も虚しく挟まれていたスリザリンチェイサーは飛んでいく。
ユキが仕返しとばかりに放ったブラッジャーはジェームズの鼻先をすり抜けてグリフィンドールチェーサーに当たり、彼女は吹っ飛んでいった。
激しいプレーに喜ぶ観客たちの興奮はいよいよ高まってきてバラバラな応援歌を歌ったり、叫んで飛び跳ねたり。教師たちも、特に各寮監であるミネルバ・マクゴナガルとスラグホーンは拳を握りしめていた。
《おおおっと。レギュラス・ブラックがスニッチを見つけたようです。グリフィンドールシーカーも飛ばしていく!》
観客の興奮はピーク。
選手たちも目の前の勝利に血を滾らせる。
グリフィンドールのチェイサーたちは反則すれすれの進路妨害を試みようとするが、ユキが放つブラッジャーに狙われる。
『各々作戦通りに!』
高速で動く選手、飛び交うボール。今やブラッジャーは2人のシーカーに集中していた。
《金色のスニッチは急旋回!レギュラス・ブラック選手の手から逃れて、グリフィンドールシーカーの方向へ、だが、あああ!スリザリンの白蛇から強烈な一撃!》
ユキの放ったブラッジャーはグリフィンドールシーカーの頭に直撃して、彼は落下していき地面に叩きつけられた。
「ビーター2人はブラックを!」
ジェームズが叫んだ。
激しくなる攻撃にレギュラスは身を低くしながら飛んでいく。自分にブラッジャーが当たらないと信じている。
斜め後ろからドンと鈍い音が聞こえたがレギュラスは振り返らなかった。
金色のスニッチを視線で捉えたレギュラスは箒のスピードを速め、その手に掴んだ。
「はあっ、はあっ、ユキ先輩」
パッと後ろを振り向いたレギュラスは地面に座り込んでいるものの意識のある様子のユキに安堵の息を吐き出した。ユキの隣にはマダム・フーチがおり、担架を出している。大丈夫だろうか?レギュラスはユキの隣に降り立った。
「地面に落ちましたか?」
『地面近くになってから箒から手が離れたの。衝撃は少なかったわ』
「頭を打ったんですか?」
『守ったわ』
レギュラスは取り敢えずホッとした。
『私の代わりに試合終了の挨拶をお願い』
「分かりました。行儀良く治療を受けて下さいね」
付き添いの生徒と一緒に担架に乗って運ばれていくユキは自寮の勝利を興奮して話しながら運ばれて行っていたのだが、城に入ったところで表情を変えた。セブルスが階段から下りてくる。
少しは心配してくれるのだろうか?そう期待するも擦れ違う時にセブルスは一瞥もこちらを見ようとはしなかった。怪我の痛みよりも心の痛みの方が大きく、ユキはその辛さに目を閉じる。
セブルスは地下へと続く階段を下りる前に足を止めた。親しくして恋心も抱いていたユキに対して無感情でいられるはずはない。確かに、セブルスはユキを見て動揺していた。だが、彼女は親友である自分に嘘をついていたのだ。リーマスには打ち明けていて、自分にはひた隠してきた秘密。
セブルスは微塵もユキの様子を見に行こうとは思わなかった。心の中で冷たくユキを突き放し、暗い地下へと下りていく。
医務室に着いたユキは目を瞬いた。扉を開けた瞬間待ち構えていたクィリナスが寄ってきたからだ。
「付き添いご苦労様です。代わります」
「えっと……?」
ユキの友人が困惑しながらユキを見ると、諦めの表情を浮かべて笑っていた。言っても聞かないだろうしね……。ユキは友人に『ありがとう』を伝えて帰ってもらう。
「Mr.クィレル、ユキが自分で治療しないように見張っていて頂戴ね」
「よく見ておきます」
マダム・ポンフリーもクィリナスがどういう人物か知っていて諦めていた。ユキはニコニコとして自分の横の椅子に座るクィリナスを見上げる。
『私の怪我が嬉しいの?』
「いえ、無抵抗状態のあなたが私の傍にいるのが嬉しいのです」
『はあ?』
ユキは顔を歪めた。
あぁ、ダメ。クィリナスの思考を理解しようって方が無理なのよ。とユキは心の中で溜息をつく。
そうしているうちに漸くユキに墜落させられたグリフィンドールシーカーの治療が終わり、マダム・ポンフリーがやってきた。
「右足の骨折と左腕、肩甲骨にひびですね」
そう言われた途端、ユキは上目遣いでマダム・ポンフリーを見上げた。ユキは癒者を目指していて、マダム・ポンフリーから教えを受けている。
『自分で自分の治療を試してみたいです』
「ダメです」
『私、骨接ぎ呪文は得意です!』
カッとマダム・ポンフリーの目が見開かれた。
「誰に試したのですか!?」
『え、いえ。その……枝を折って治すのを練習して……』
疑わしそうにするマダム・ポンフリーからユキは目を離した。ユキの無茶は昔からだ。
結局、マダム・ポンフリーはユキに右足の骨折治療を許可した。何だかんだで出来の良いこの生徒の腕を信じている。
頭を打ったわけでもないのでユキの治療はあっさりと終わり、寮に帰ってもいいと許可が出た。なにせ寮では勝利のパーティーが行われるのだ。
だが、ユキはもう少しだけ静かにしていたかった。先ほどのセブルスの様子を引きずっていたから。辛い気持ちになりながら医務室を出たユキはクィリナスを散歩に誘う。
冬に近い風は冷えた心を更に冷たくさせた。それでも賑やかなお喋りの中にいるよりは虚しさを感じないだろう。ユキたちは魔法生物飼育学の授業が行われる敷地に移動していった。
『クィリナスは何も聞かないのね』
沈んでいる様子の自分に言葉をかけず、ただ一緒にいてくれるクィリナスの存在がありがたかった。クィリナスは優しく微笑み、ただ隣を歩く。
動物を飼育している囲いまで来たユキとクィリナスは目を輝かせた。そこにいたのは真っ白なユニコーン。美しく、輝いている。
『今までユニコーンを見たことがある?』
「いいえ。とても美しいですね」
ほうっとクィリナスは息を吐き出した。
『授業で使ったのかしら?』
「ユニコーンを捕まえるだなんて凄いですね。よほど懐いたのでしょう」
『あら?先生は男なのに……少女にしか懐かないのでしょう?昔、リーマスがそう言っていた』
「正確には違いますけど」
『そうなの?じゃあ正解は?』
「見て下さい。ここにユニコーンの尾の毛が落ちています」
クィリナスは話題を逸らして足元の白銀の尾の毛を拾った。太陽の光にかざすとキラキラと輝いている。
『わあ』
「珍しいユニコーンの毛を手にするなんてきっといいことが起こる兆しですよ。切って分け合いましょう」
『ううん』
ユキは首を横に振った。
『クィリナスが持っていて。幸運を期待したくない』
寂しげな声と瞳にクィリナスは強く嫉妬した。どうして簡単に愛情を冷めさせる男に執着するのだろう?私なら決してあなたに悲しい思いをさせないのに。
意識をこちらに向けさせたくてクィリナスは口を開く。言う言葉は何でもよかった。
「何か」
クィリナスはにこりと微笑を向けた。
「甘いものを厨房に貰いにいきませんか?お好きでしょう?少し気分が明るくなるかもしれません」
『ホットココアが飲みたいな』
クィリナスに視線を向けていたユニコーンはブルルと鼻を鳴らして歩き去って行く。
弾ける笑顔と声。
ユキは遅すぎる登場で寮へと入って行った。パーティーの中心はクィディッチ選手たちで、寮内は歓喜に満ちていた。寮杯も関わってくるクィディッチ杯に大きな一歩を踏み出した。
ユキも美味しいお菓子を食べ、今日のプレーについてワイワイと喋った。レギュラスと目が合って微笑み合えば、友人たちにからかわれている。
ベッドルームから出てこないセブルスは何をしているのだろう?
私がもっと大怪我をしていればあなたは心配してくれたのだろうか?
でも、そうするわけにはいかない。
やりたいことがある。
あなたを死なせはしないわ。
妲己に見せられた恐ろしい未来は決して許せない。
セブの心が私の傍になくとも
私の心があなたのそばにあればそれでいい