忍たま
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『本命は誰?』
くの一教室の子たちにせがまれ,調理実習だと称した”お菓子作り教室”は無事終了し,作ったお菓子たちは,なんだかんだとありながらも,生徒や学園関係者たちの口に入り,それなりに好評を得ていたようだった。
そんな中,不意に掛けられた言葉が思わぬ事態を引き起こした。
「ユキさん!ユキさんの本命って清八さんなんですか?!」
「はい?」
問いかけてきたのは,一緒にお菓子を作ったくの一教室の女の子達。
興味津々な視線がなんだかとても痛いのですが・・・
「な、なんでそうなるのかな?」
彼女たちの質問の意図が分からず問い返せば,正門の所で清八に綺麗に包装された包みを渡しているのを見かけたからだと言う。
「ああ,あれはね,馬借便でいつもお世話になっているから、そのお礼に渡しただけなんだけど。」
真顔でそう答えれば,「本当ですか?」と言わんばかりに詰め寄ってこられ,どう説明すれば信じてもらえるのだろうと天を仰ぐ。
その時,ふと,他の視線も感じ,辺りを見回した。
見れば,一年は組の生徒達を始め,幾人もの忍たま達もこちらを見ているではないか。
その瞳からは,先ほどの質問に対する答えを待っている感がひしひしと感じられる。
(流石に,これはヤバいでしょう・・・・・・)
ある意味,身の危険を感じたユキは,適当にお茶を濁して,その場を離れようとしたが,それを容易くさせてくれる輩たちではない。
「ね,ね,ユキさん!清八のこと,本気で気になっているのですか?!」
真っ先に尋ねてきたのは,一年は組の加藤団蔵で。
それもそのはず、清八は団蔵の実家に勤める馬借の一人なのだ。
団蔵にしてみれば,何処の馬の骨かもわからないような輩に,大事な清八を渡すわけにはいかないと思っているのだろう。
「や,やだなぁ,団蔵君。それは,清八さんに対して,あまりにも失礼でしょう。」
「え?!何で!?」
「いや,だって・・・・・・何処の馬の骨かもわからない得体の知れない人物に,好意を持たれても困るだけでしょうに。」
あははと軽く笑いながら告げるユキに団蔵はがっくりと肩を落とす。
(ちぇ・・・なんだよ。清八と良い雰囲気なら、ユキさんが加藤村に来てくれる可能性だってあったのに・・・・・・)
そんな団蔵の思惑など知らないユキは、落ち込んだ団蔵の姿に頻りに首をひねるのだった。
「あ,じゃぁ,ユキさん。先日のお菓子.他には誰に渡したんですか?」
女の子たちの新たな質問に,まだ続くのか・・・と言わんばかりに苦笑いを零す。
適当に誤魔化したところで,結局は問い詰められるに違いないと悟り,渡した相手全員の名を挙げる。
「えっとね,学園長先生でしょ,それにヘムヘム。吉野先生に小松田君に山田先生,利吉さん,だね。」
利吉の名前に,女の子たちが色めき立つ。
きゃぁきゃぁと頬を染めながら「やっぱりね~」なんて言っている子もいるくらいだ。
年頃の女の子たちにとっても,利吉は憧れの的であるみたいだった。
そんな中,半助の名が無かったことに気が付いた生徒が口を開いた。
「あれ?土井先生の名前がなかったような気がしましたが・・・」
その言葉に,一年は組の生徒達も食いつかんばかりの勢いで迫ってきた。
「え?ユキさん.土井先生にあげていないの?!」
「何で?どうして??」
何故か皆,目に涙を浮かべ,今にも泣きださんばかりの表情だ。
(あら~・・・皆,お父さん思いの良い子たちだねぇ。)
さて、どう言うべきかと,困ったような笑みを浮かべながら生徒たちの頭を撫でてやっていれば、渦中の半助が姿を現した。
「あれ?お前たち。そんなところに集まって何をしているんだ?」
半助の方から近寄ってきたのをいいことに、くの一教室の子たちが顔を見合わせてにんまりと笑いあう。
(あ,ちょっと嫌な予感・・・・・・)
こういう勘は当たるもので,これ幸いとばかりに,彼女達が半助の腕を捉えるのを見ていた。
半助が「へ?」と思う間もなく,渦中へと引きずり込まれる。
「「「「「「土井先生!◎▲◇&$×@▽○!!」」」」」」
思った通り、一斉に質問攻めが始まっていた。
「だーっ!!もう!五月蠅い!!お前たち,いい加減にしろ!!」
真っ赤になった半助が,拳を振り上げているのが見えた。
「あー,土井先生ってばヤキモチやいてる~~。」
「あはは、純情~。そんなんじゃ、いつか取られちゃいますよ。」
「利吉さんの方が,一枚も二枚も上手だったりして。」
女の子たちの容赦ない言葉に,流石の半助もぐうの音も出ないようだった。
やいのやいのと言いたいことだけを言うと,女の子たちは其の場を後にし始める。
「「「「「「土井先生,しっかりね♪」」」」」」
「余計なお世話だ!!」
最後の最後まで半助をからかい通すと,きゃいきゃいと盛り上がりながら出て行ってしまった。
いつの間にか他の生徒達も退散していたようで,後に残されたのは、ユキと半助と一年は組の生徒達だけだった。
「あ,あ~・・・じゃぁ,僕たちも長屋に帰ろうか。」
「そ,そだねっ!」
「土井先生,ユキさん,お疲れさまでした~~っ!!」
庄左エ門の一言に従うかのように,は組の生徒達も足早に出て行ってしまう。
気まずい雰囲気の中,困ったように半助の表情を窺えば,向こうも同じように苦笑いを返してくる。
「あ,あはは。嵐が去ったみたいに静かになりましたね。」
「そ,そうですねっ!」
「あの」
「は,はい!」
「あの・・・熱いお茶でもお入れしましょうか?」
「あ,あああ・・・はい。お願いいたします。」
ぎこちない雰囲気の中,交わす会話も事務的なものでしかない。
居心地の悪さに,困ったなぁと溜息を零せば,ふと半助と目が合った。
「「あ,あのっ!」」
二人同時に出た言葉は見事に被ってしまったようで、またお互いに苦笑いを浮かべながら譲り合う。
「土井先生からどうぞ・・・」
「いやいや,ユキさんから・・・・・・」
傍から見ていれば,二人して何をやっているのだか・・・と言わんばかりのバカップルぶりである。
沈黙がいい加減苦痛に感じだした頃,ようやく半助が口を開いた。
「先日頂いた”がとーしょこら”・・・でしたっけ?美味しかったですよ。」
「ありがとうございます。お口に合いましたか?」
「ええ。和菓子とはまた違った不思議な風味と食感の菓子でしたが。」
ぎこちない会話の中に,時折,笑い声が含まれていく。
すっかりいつもの雰囲気で話せるようになった頃,半助が爆弾を落とした。
「あの,さっき,くの一教室の子たちから言われたのですが”ばれんたいんの本命”って
何のことですか?」
思いがけない質問に,思わず熱いお茶をごくりと飲み込んでしまう。
「あっつーーーっ!!」
「何やっているんです!?大丈夫ですか!?」
涙目になったユキの背中を,半助が優しくさすっていく。
「・・・すみません。ちょっと驚いたもので・・・」
たははと頭に手をやりながら誤魔化そうとしたが,半助の真剣な眼差しに言葉に詰まる。
「あ~・・・女の子の中では、一口に”バレンタインのチョコ”といっても色々とランクがあるようで。
それこそ友達同士で交換し合うような”友チョコ”というのもあれば,日頃からお世話になっている人に渡す
”義理チョコ”もありますし。”本命”というのは・・・まぁ・・・・・・自分にとって一番大切な人といいますか,その・・・想いを伝えたい人,ですかね。」
「あ,ああ,そういう相手,ですか・・・」
真っ赤になりながら,しどろもどろと話すユキの姿に,半助の胸がチクリと痛む。
「で,私は候補外だったわけですね。」
半助が小さく呟いた言葉に,ユキが驚いたように顔を上げる。
「え?何で・・・」
「だって・・・その・・・・・・実習で作ったお菓子,頂けなかったわけですし・・・・・・」
今度は半助の方が,しどろもどろに言葉を紡ぎだす。
「わ,渡したじゃないですか!しかも,いの一番に!!」
「へ?貰ってな「あのガトー・ショコラがそうだったんです!土井先生の莫迦!鈍感!!・・・大っ嫌いっ!!」
勢いに任せて,そう言い切った後,ユキの顔にしまったという表情が浮かぶ。
慌てて口元を抑えるも後の祭りのようで・・・・・・
それを聞いた半助の顔も,同じように真っ赤に染まっていたのだった。
「あの,ユキさん,その・・・・・・」
「・・・・・・ガトー・ショコラって、ね」
「はい?」
「ガトー・ショコラって作るの結構面倒くさいんです。メレンゲ泡立てるのも力仕事ですし・・・
美味しいけれど、他のお菓子に比べて,ひと手間もふた手間もかかっちゃうんです。
だから・・・得意技だけど,滅多なことでは作らなくて,ですね。」
淡々と話されるユキの話を聞きながら,半助は自分の頬が緩んでいくのを止められない。
そっとユキの頬を包みこむように手を添えると,その唇に口付けを落とした。
「!?」
「ありがとう。私も,貴女をお慕いしています,ユキさん。」
半助の言葉に,ユキは頬を染めながらも,最高の笑顔を浮かべるのだった。
終
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