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お隣は変態さん
新年度が始まった。
早速くじ引きで席替えが行われる。
私は所定の位置につき「視力の悪い者は名乗り出て前へー!」と話す担任の先生をぼんやりと見つめていた。
さて、皆さん。ここで問題です。
「自分、足綺麗やな」
と、初対面の人に言われたらどうしますか?
作戦A.無視する
『・・・。』
これが最もお手軽で穏便な方法ですよね。
私は無視をしてホームルームで喋る先生に集中することにした。しかし、
「なあ。聞いとる?自分、めっちゃ足綺麗やなって誉めとるんやけど。名前何て言うん?教えてくれへん?」
前を見続けて彼を視界に入れないようにしているのに、めげずに話しかけてくる変態眼鏡。よし、では次の作戦に移ろう。
作戦B.変態眼鏡から遠ざかる
「えー、では、席順はこれで確定でいいか?」
『ちょっとすみません!』
私はパッと手を挙げて目が悪いから前へ行きたいと宣言。
だが、甘かった。
「雪野、お前両目とも2.0だろー。嘘はいかんぞ嘘はー」
担任が無駄な私の個人情報を覚えていたために作戦が頓挫した。
『チッ』
「自分ガラ悪いで~。折角のべっぴんな足が台無しや、いや、足は表情ないから変わらんか!」
ケタケタと一人漫才をしているお隣さん。
早く終われー。ホームルーム終われー。
念じていると漸くホームルームが終わった。
「なあ、名前聞いていい?俺は忍足・・・『さようならー』逃がさへんで?」
私は「なあ」の「な」が発せられた瞬間に作戦C.逃げる、を実行した。
が、変態に捕まってしまった。
『くうぅ』
無念!
ギギギッと横を向くと眼鏡の無駄にイケメンな人がいた。
しかし、残念なイケメンである。私の心はときめかない。
『何用でしょう?』
「だーかーらー自分、足綺麗やなって」
変態が変態らしからぬ爽やかな笑みで笑った。
「名前は?どうして俺、こんな足綺麗な子見逃しとったんやろう?同学年の足綺麗な子は全員チェックしとったはずなのに」
『ハハハ。私、編入生だからじゃないかな?』
乾いた笑いを立てながら答える。
「編入生か!3年になるこの時期に難儀なことやな」
そうなのだ。私はこの春に氷帝学園中等部に編入してきた。
私が元いた九州の炎帝学園と氷帝学園は姉妹校となっており、親の都合で引っ越してきた私はこの氷帝に割りとあっさり編入することが出来たのだ。
難しい編入試験を受けずにすんなりエスカレーター式のこの学園へ編入出来た事をラッキーだと思っていたのにこの先行き不安な変態との遭遇。
私が自分の未来に不安を感じていると変態が手を差し出してきた。
「俺は忍足侑士や」
『雪野ユキです。よろしく』
こんな面と向かって挨拶をされたら挨拶を返さないと失礼になる。
私は若干ビクつきつつ差し出された彼の手を握る。
「それにしても足綺麗やな~」
『あ、ありがと』
「自分、部活まだ入ってないやろ?男子テニス部のマネージャーやらへん?」
そしたら部活の間も雪野さんの足見放題やしって言う彼は変態ですね。そうですね。
しかも、部活の間"も"って事は普段教室にいる時もって事ですか!?ヒイィ
『わ、私、自己中心的な人間だからマネージャー業は無理かな。せっかく誘ってもらって申し訳ないけど』
「えー。全然そんな風に見えへんけどな」
って言うか、 そろそろ手を離してくれないかな。 後、足を凝視されてるんですけど。
私の顔は足にはついていませんからっ。
「どうしてもあかん?」
『うん。せめて色々な部活見学してからじゃないと』
「そうか・・・」
私はここで漸く忍足くんの手から自分の手を引き抜く事に成功した。
『そういうわけだから。じゃ、またね!』
残念そうな顔をする残念なイケメンな彼を置いて、私は教室から脱出したのだった。
***
『うーん。決められないな~』
私の部活選びは難航していた。
前の学園で入っていたラクロス部は残念ながらなかったのだ。
スポーツ系の部活にすることは決めているんだけどな。
『あれ?ここ何処だっけ』
悩みながら歩いていた私は校舎から随分離れた場所まで来てしまっていた。
私は持っていた学園地図を広げる。
『今はここか。ここから近い部は・・・あ、ここいいかも』
乗馬場と書いてあるのを見つけて私は顔を輝かせる。
迷ったついでに乗馬部を見学しよう。
しかし、
『ん?何だろう?』
乗馬場へと歩き始めた私の耳に聞こえてきた黄色い歓声。
地図を見ればテニスコートが近くにあるのが分かった。
歓声が聞こえてくるのはそこかららしい。
人垣に隠れたテニスコート。
私は野次馬根性でテニスコートへと引き寄せられていく。
スパンッ パーン
小気味良いボールを打つ音が聞こえてくる。
私は人垣の間から漸く顔を出し、みんなが何を見ているか確認することができた。
『忍足くん?』
コート上にいたのは忍足くんだった。
『わあ』
私の口から感嘆の声が漏れる。
忍足くんは走り、そして時として舞うようにボールを打ち返していた。
『凄い・・・!』
「あれ?雪野さん」
名前を呼ばれて横を見るとクラスの友人がいた。
『忍足くん凄いね』
「でしょ!私、忍足くんのファンなんだ。今日はレギュラーを決める大事な試合なんだよ」
『そうなんだ』
友人からコートに視線を戻す。
忍足くん頑張れ!
私は忍足くんへ心の中でエールを送った後、乗馬部へと足を向けたのだった。
***
「雪野さん」
忍足くんをコートで見た次の日の朝、教室で授業前の時間を読書で潰していると朝練終わりであろう忍足くんに声をかけられた。
「 昨日の俺の試合見てくれたんやって?」
『うん。ちょっとだけど、見させてもらったよ』
「どうやった?格好良かったやろ、俺」
『うん。格好良かった。忍足くん強いんだね』
嬉しそうに表情を緩ませる忍足くん。
「どないや?テニス部のマネージャーになる気になってくれた?」
私は忍足くんの質問に首を振る。
『ごめん』
「別の部活に決めてしもたん?」
『うん。乗馬部と迷ったんだけど、女子テニス部に入ろうかと思って』
「そうきたか!」
あちゃーと、忍足くんは自分の額をおさえた。
『 せっかく誘ってくれたのにごめんね』
「いや、ええんや。雪野さんが俺を見てテニスを始めるきっかけにしてくれたんは嬉しいしな。それに・・・」
『それに?』
「スコート姿の雪野さんを見られるんは最高ぐへっ」
私は爽やかな顔でセクハラ発言をする彼に腹パンをお見舞いしてやったのだった。
チャイムが鳴り、放課後がやってきた。
カバンに教科書を詰めていると数人の女子生徒がやって来る。
「ねえ、雪野ユキさんよね?」
『はい?』
「ちょっと来てくれない?」
初めての部活に向かおうとしていたら声をかけられた。
『えっと・・・何方ですか?』
「知る必要なんかないのよ。さっさと来て」
なんかヤバい。ヤバい気がする。
しかし、逃げようにも私はいつの間にか囲まれていた。
突き飛ばして逃げれば良いのだが、それでは後々が怖い。
私は大人しく有り難くない"お呼びだし"について行くことに。
私を囲む彼女たちが足を止めたのは今は使われていないようなドアが壊れた倉庫の前だった。
くるりと私の前を歩いていた女子生徒が振り向き、思いきり私の横っ面を叩く。
「あんた、頭に乗ってるんじゃないわよ!」
私は叩かれた拍子に尻餅をついていた。
突然叩かれた事へのショックで唖然としながら名前も知らない女子生徒を見上げる。
『私、何かした・・・?』
「とぼけるんじゃないわよっ。忍足くんに色目使って」
尻餅をついていた私の体は地面へと倒される。
「勘違いしないでよ。忍足くんがあなたに声をかけたのは編入生で珍しいからよ」
「それを勘違いして自分は特別だって思い込んで!」
「今のレギュラー付マネージャーは足りているのに忍足くんに頼み込んでレギュラー付マネに入れてもらったんでしょ?この卑怯者ッ」
『え、ちょっと待って、ぐっ、くうぅ』
ありえない
私の真後ろにいた女子生徒が私の頭を足で小突いた。
耳元で湿った砂が擦れる音がする。
「こんな普通の顔・・・普通以下の顔で!」
地面に完全に倒れこんだ私の顔をぐりっと誰かが踏んだ。
鼻で笑う音や、ふふっと、意地悪そうに笑う声が聞こえる。
何を勘違いしているんだこいつらは。
理不尽な怒りに燃える私は『止めてよっ!』
と叫んで立ち上がるが多勢に無勢。
思いきり服を掴まれて再び地面に引き倒されてしまう。
強く体を打ち付けて生理的な涙が出る。
こんな奴等に泣き顔を見られるのが悔しい。
屈辱に耐えながら、涙を制服の袖で拭った時だった。
「自分ら何やっとうねん!」
怒鳴り声が辺りに響いた。
振り向けば、忍足くんが血相を変えて此方に駆けてくるところだった。
『忍足くん・・・?』
「これはどういう事や?」
私の隣に膝をついて、私を助け起こしながら忍足くんが問う。
「これは、その・・・」
急に勢いをなくす私を囲んでいた女子生徒達。
忍足くんは彼女らをギロリと睨んでもう一度「どういう事や!説明せいっ」と叫んだ。
「雪野さんがコネでレギュラー付マネージャーになったって聞いたから・・・」
「何の話や!雪野さんは女子テニス部に入部したんや。男子テニス部マネやない」
「え・・・」
「それに、事実そうだとしても、一人の人間を囲んでこないな事して許されるんと思っとるのか!?」
「ひっ。ご、ごめんなさいっ」
忍足くんの覇気に気圧されるようにじりっと後ろに下がりながら私を引き倒した女子生徒が謝った。
「またこんな事をしてみ。自分らただでは済まさへんからな」
私を囲んでいた女子生徒達はバタバタとその場からいなくなる。
私はホッと息を吐いて自分の顔を摩った。
「痛いところは?」
『平気。あー、強いて言うなら残念ながら忍足くんの好きな私の足が泥んこだ』
おどけながら肩を竦める私はハハッと笑っていたのを止めた。
真剣な目で見つめられ、鼓動が跳ねる。
「阿呆」
スッと忍足くんの手が伸びてきて、私の頬を撫でた。
「顔から血が出てしまっとう。べっぴんさんの、女の子の顔やのに・・・」
辛そうに、忍足くんが顔を歪ませる。
私は驚いて目を瞬いた。
「なんやその顔」
『忍足くん、私の足以外にも興味あるんだ』
「あるわ阿呆。というかな、雪野さんが呼び出されたって聞いて、俺走って駆け付けたんやで?」
『私の足を心配してではなく?』
「雪野さんの身を心配してや!」
ガバリと音がして目の前が暗くなった。
「遅くなってもてごめんな」
『ううん。助けに来てくれてありがとう』
忍足くんが私を抱く腕の力がぎゅっと強くなる。
それは、安心出来る心地良さで、私は顔を綻ばせる。
ありがとう、変態さん。
私は心の中でそう呟き、忍足くんを抱き締め返したのだったーーーー