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一枚も二枚も
風紀委員の委員長を務めている真田は今日、他の委員たちと共に校門前に立っていた。
風紀委員は登校してくる生徒の20人に一人を対象として持ち物検査をしていた。
「赤也」
校門を通る生徒の数を数えて20人目に赤也が当たってしまう。
「やっべー何で俺なんだよ」
「つべこべ言わずさっさとこっちへ来い」
赤也は「ううっ」と小さく呻きながら真田のもとへとやって来る。
「鞄を見せてもらおう」
「うっす・・・」
鞄を開いた瞬間に落ちる真田の雷。
「馬鹿者がッ!漫画、菓子、ゲーム機など学業に必要のないものばかりではないかッ」
「す、すみません~」
「まったくお前ときたらーーーっ!」
「真田副部長?」
赤也を怒っていた真田が突然言葉を切る。
彼の視線の先には一人の少女がいた。
あれ?これはもしかするともしかして!?
赤也は心の中でニンマリと笑む。
「雪野せーんぱいっ」
『えっと・・・君は?』
「ちぇっ。俺の事知りませんか?うーん、俺、けっこう有名人だと思ってたのにな」
『ごめんなさい』
「いえいえ。先輩が謝ることなんてないっス。俺の名前は切原赤也って言います。
実は俺、前々から雪野先輩に憧れていて話したいと思っていて」
『あら、ありがとう』
さらっとお礼を言うユキは可愛い後輩の戯れ言だと思いながら風紀委員の用意していた机に自分の鞄を置く。
ユキも20人の中の一人に当たってしまったからだ。
「雪野先輩の鞄の中、興味あるな~」
「コラ赤也!女子学生の鞄の中は女子の風紀委員が調べることになっている。
そもそも風紀委員でもないお前が首を突っ込むところではない。雪野を困らせるな!」
ぐいっと首根っこを真田に掴まれてユキから離れさせられる赤也は猫のよう。
ユキはクスリと笑ってしまう。
「あー。笑うなんて酷いっス」
『ごめんなさい』
拗ねながら言う赤也はチラと真田の顔を見た。
やっぱりだ!
真田の顔は赤也が予想していた通り赤く染まっていた。
赤也がこれは面白いことを見つけたとニヤニヤしていると、
「あ、雪野さん」
ユキの鞄を調べていた女子風紀委員が困ったようにユキの名前を呼んだ。
「これ・・・」
『見つかっちゃったか』
女子風紀委員の手にはマニュキアが数本。
『今日友達と休み時間に塗って遊ぼうってことになって持ってきてたのよね。あーあ。もしかして没収かな?真田くん』
「あ、あぁ。没収にな、なる」
吃りながら言う真田に赤也はにやっとした笑みを向ける。
「俺に言ったみたいに馬鹿者がッ!て怒鳴らないんですか?不公平だなー」
「お、お前と雪野とでは信密度が違う。
雪野とはその・・・今日が初めて話したわけで・・そんな者に怒鳴る気はない」
しどろもどろに言う真田。
ユキは雷が落ちなかった好運にほっとしながら口を開く。
『没収された物は放課後に取りに行ったらいいんだっけ?』
「そうだ」
『場所は風紀委員のお部屋だよね』
「あぁ。俺が当番だからそこにいる」
『分かったわ。面倒をかけてしまってごめんなさいね。じゃあ放課後に。またね』
パチンと鞄の留め金を閉めて歩き出すユキ。
「真田副部長」
「なんだ?」
「雪野先輩って美人っスよね」
「あぁ、そうだなーーーっ!」
「やっぱり!真田副部長は雪野先輩の事ーーーやべ」
「赤也ーーーー!」
ふざけすぎてしまうのが赤也の悪い癖。
赤也はきっちりと真田に裏拳をもらったのだった。
放課後がやってきた。
真田から没収された品を受け取った赤也はある企みを持って廊下から風紀委員室の出入口を見つめていた。
雪野先輩、早く来ないかなーーーあ、来た!
ユキが風景委員室へとやってくる。
トントンとユキが風紀委員室の扉をノックするとガラガラとスライド式の風紀委員室の扉が開いた。
「や、やあ」
やあ!?
あの副部長が「やあ」なんて言って話しかけるなんて。しかもどもってるし。
赤也は吹き出しそうになるのを必死に押さえた。
『遅くなってごめんね。ホームルームの後、そのまま担任の先生と職員室に行っちゃって』
ユキが申し訳なさそうに眉を下げる。
「いや。いいんだ」
『それで私のマニュキアは・・・』
「中で反省書と受取書を書いてもらうことになっている」
『遅かったから私が最後だったんじゃない?』
「あぁ。他の者には返却し終えた」
『真田くん部活あるのに私の事で待たせちゃってごめんね。学校に余計な物を持ち込んだこと、反省しているわ』
「余計な物の持ち込みは反省してもらわねばならんが、時間の事は気にするな。風紀委員の仕事だからな」
『そう言って貰えると心が楽になるわ』
真田に促されて風紀委員室へと入っていくユキ。
スライド式の扉がギギっと閉まったと同時に動き出す赤也。
「真田副部長、日ごろ可愛がってくれるお礼っス」
ニヤニヤっと笑う赤也の手には鉄の棒。
赤也は扉が開かないように鉄の棒を扉に挟んだ。
「では、頑張って下さい、副部長!健闘を祈ってますっ」
赤也は廊下で一人敬礼をしてから足取り軽くその場を後にしたのだった。
一方の風紀委員室。
真田は好意を抱いているユキと二人きりになり、軽くパニックを起こしていた。
皇帝と称される男もコートから下りればただの中学三年生である。
反省文を書いているユキの前に座っている真田はチラとユキを見ては視線をそらす。
あまり見つめ続けては無礼だろう!
彼女から視線をそらせ!真田弦一郎!
自分を心の中で叱咤するがーーーー
『真田くん、そんなに見られていたら書きにくいな』
「す、すまん!」
苦笑するユキの前で真田はビクリと肩を跳ねさせて謝る。
目の前に座っていてはユキを意識し過ぎて視線を彼女に向けてしまう。
そう思った真田は立ち上がって窓へと向かった。
青い空、気持ちの良さそうな秋の天気。
カリカリカリ
暖かな風紀委員室にユキがものを書く音だけが響く。
外の穏やかな日差しに対して真田の心は乱れに乱れていた。
真田がユキの事を好きになったのは一年生の時だった。
たまたま通りがかった弓道場で姿勢を伸ばし、弓を引いていたユキ。
ピンと張り詰めた緊張。
そして、タンッ
弓が的を得る
ユキの流れるような弓の打ち方、その所作が美しく、真田は一目惚れしたのだ。
それから後は自然とユキを目で追うようになっていた。
だが、一年生の時も二年生の時もそして三年生の今もクラスの離れている二人。
二人に接点はなかったし、真田弦一郎という人物は真面目で硬派な人間だったため、ユキに話しかけに行ける術を持ってはいなかった。
テニス部の面々に女子への話しかけ方を教えてもらえば良いのだがーーー
それは目に見えてからかわれるのが予想されていたので却下とされていた。
『真田くん、書けたよ』
「うむ」
真田は気分を落ち着かせるために窓から見えていた人を数えるのをやめて振り向いた。
振り向いた真田は固まる。
今、自分が背にしている窓から入る光に照らされてユキがキラキラと光って見えたからだ。
カアアァと熱くなっていく真田の頬。
『真田くん?』
「あ、す、すまない。少しぼんやりしてしまっていた。書き終わった反省文と受取書をもらおう」
『はい』
ハラリ
紙がヒラヒラと床に落ちた。
真田が書類をもらう時にユキの手に自分の手が触れたことに驚いて手を引っ込めてしまったからだ。
『?真田くん、なんだか変よ?熱でもあるんじゃない?顔も赤いし』
ユキは心配そうに真田の顔を覗きこんだ。
顔も赤いし、あの堂々としたいつもの彼とは違うわよね・・・
ユキは自分が知っている、テニス部では皇帝とあだ名され、風紀委員として生徒の模範になり、廊下ですれ違う時はいつもシャンと前を向いている彼を思い出していた。
『大丈夫?』
答えのない真田にユキはもう一度問いかける。
「な、なんでもない。大丈夫、だ」
『そう?』
「あ、あぁ。そうだ」
『それなら良いのだけど・・・』
「雪野はこれから部活か?」
『うん。真田くんもだよね。私のせいで遅く行くことになってごめんね』
「いや、先程も言ったが委員の仕事だ。気にするな。
それより・・・い、一緒に下まで行かないか?」
『えぇ』
ふわりと微笑むユキに真田の胸が高鳴る。
二人はゴソゴソと荷物をまとめ、風紀委員室から出ようとするのだがーーー
「む?」
『どうしたの?』
「扉が開かん」
『え!?』
真田が扉を開けようとするとガタンガタンと音がした。
「何かに引っ掛かっているようだ」
『ほんとだわ。隙間から棒が見える』
ユキが扉と扉の間から覗いて言う。
「いったい誰の悪戯だ!」
『どうしよう・・・』
怒る真田と不安げに眉を寄せるユキ。
「そんなに不安そうな顔をするな」
『でも・・・』
ここは3階。窓からは出られない。
加えて開く側の扉の前には鉄製の本棚がどーんと置いてある。
「この扉くらい体当たりすれば倒すことが出来る」
『倒す!?出られるけどガラスが割れちゃうよ』
扉にはめ込まれているガラス部分を指差しながらユキが困った声を出す。
「むむ・・・では、どうすれば・・・」
『こういうのはどう?窓辺に座って通りかかる人に声をかけるの』
確かに安全な方法。
「だが、この時間、部活をする者は既に部活動場所に行っておるし、帰宅部の者はとうに帰っているが・・・」
『でも、待っていたらきっと誰かは通りかかるよ』
「そう、だな・・・」
これでユキともう少しだけ長く一緒にいられそうだ。
真田は嬉しさで頬が緩みそうになるのを引き締めた。
二人は窓辺にパイプ椅子を持っていき、向い合わせで座る。
『こうやってゆっくり真田くんと話すのは初めてだね』
「そうだな」
『今日、私が手荷物検査に引っ掛かるまで私の存在知っていた?』
「当たり前ではないか。お前は弓道部の部長を務めているだろう。部長会議で会っていたから名前も知っていた」
『そっか。そういえばそうね。私たち、部長会議で会っていたわね』
間抜けな質問だったわねと笑ってユキは窓の外を見やる。
開け放たれた窓から風が入り、ユキの髪をサラサラと揺らす。
ユキは窓の外の風景から視線を真田に移した。
『私の事、知ってくれていたってこと、嬉しかったよ』
ふわりとユキが微笑む。
『実は私、ずっと前から真田くんの事気になっていたんだ』
ぽかんと口を開ける真田を見てユキはぷっと吹き出す。
『そんな顔したら立海の皇帝も形無しね』
「っ!?」
クスクス笑いながら真田の頬っぺたを片方だけびよーんと指で引っ張るユキは楽しそうに瞳を煌めかせている。
『さっきは試すような事言ってごめん。実は、真田くんが私を見てくれていたこと気づいてたんだ』
「なっ!?」
『そんなビックリした顔しないでよ。真田くん、いつも私の事目で追ってくれていたじゃない。気づかないとでも思った?』
真田の顔がみるみるうちに赤くなっていく。
『ねえ、真田くん。今日からはお友だちになろう。今日からは、私に話しかけてきてね。
見ているだけじゃなくって。そしたら私、真田くんへの気持ち、固められると思うから』
悪戯な笑みを浮かべるユキの前で真田は驚きと恥ずかしさと嬉しさで頭をはち切れんばかりにしながら、コクリと1つ頷いたのだった。
『ふふ。もう少し一緒にいたいけど、携帯で人を呼ぼうか』
その手があったか!
真田は自分よりも一枚も二枚も上をいくユキに振り回される己の姿が目に浮かんだのだったーーーー