第四章 雨降って地固まる
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
6.金楽寺
『金楽寺、ですか?』
私は学園長先生の庵に呼ばれていた。
どうやら私におつかいの用を頼みたいらしく、手紙を私の方へと渡した。
そこには“金楽寺の和尚殿へ”と書かれた文が一通。
私はその文を受け取りながら学園長先生に視線を向けた。
『おつかいに行くのは了承しましたが・・・私、金楽寺がどこにあるか知らないのですが・・・・』
地図を書いて頂いてたどり着けるだろうか?
非常に不安である、と考えていた私の頭を見透かすように学園長先生は口を開く。
「六年生の誰かを連れて行くと良い」
『六年生の誰かを?』
「そうじゃ。今日は日曜日。スカウトマンたちもお休みで忍術学園には来ておらんじゃろう。だから、六年生の誰かを連れて行くと良い」
私はその言葉を受けて学園長先生の庵を辞した。
さて、誰についてきてもらおう。
私は取り敢えず彼らがいつも鍛錬している場所へと向かう。そこに行けば誰か彼かいるだろう。
雑木林を抜けて鍛錬場までやってくると、いたいた。
小平太くんがグングン木を登っているところだった。
・・・・あれ、目の錯覚じゃないよね?
垂直に生えている木を猛スピードで走り登っていく小平太くんを半ば呆然として見ていると、横から声がかかった。
横を向けば長次くんだ。
『おはよう、長次くん』
「ユキがここに来るのは珍しいな・・・」
『実はさ、学園長先生から「ユキーーー!!!」『ぎゃうっ』
私の体は小平太くんの激しすぎる抱擁に吹き飛ばされ、私は尻餅をつく。小平太くんコンニャロウ。
『痛たたたた』
「すまん、すまん。木に登っていたらユキの顔が見えて嬉しくなって超特急で降りてきてしまった!」
太陽のような笑顔で二カッと言う小平太くん。
ずるいよ!そんな顔で言われたら文句の一つも言えないじゃないか。
私が忍たまへの甘さを自覚している横では・・・
「ふは、ふはははは、ユキに怪我をさせるところだったのだぞ小平太・・・ふははは」
長次くんが笑っていた。
私は慌てて立ち上がり、長次くんの目の前で元気をアピールするようにブンブン手を振って『私は大丈夫!』と彼に訴える。
もう、色々と心臓に悪いんだから。
「ところで、ユキはここに何しに来たんだ?」
落ち着いたところで小平太くんが小首を傾げて私に聞いた。
鍛錬場は流れ手裏剣や苦無が飛んでくる危険性があるため私は近づかないようにしていた場所だ。
そんな場所に私がいるのが二人は不思議なのだ。
私は懐から金楽寺の和尚様宛の手紙を取り出して、学園長先生に金楽寺へ手紙を届けに行くように言われたこと、それから誰か六年生についてきてもらうように言われたことを話す。
「それなら私が」
「おーーーい」
小平太くんが自分を指差して何かを言いかけた時だった。
私たちに声がかかる。留三郎だ。
彼の横を見れば六年生の他のメンバーも勢ぞろい。
文ちゃん、仙蔵くん、伊作くんもいる。
私たちは賑やかな彼らにあっという間に取り囲まれる。
そんな彼らに金楽寺へ行くことを話すとーーーーー
「鍛錬代わりに俺がユキを抱きながら金楽寺まで行ってやる」
と文ちゃん。
「そんな事では道を覚えられないぞ。ユキ、私と行くべきだ。道しるべを確かめながら一緒に行ってやる」
と、仙蔵くんが言う。
「実は採取したい薬草が金楽寺への道すがらにあるから、僕がユキちゃんと一緒に行きたいな」
と伊作くんが言い。
「嫌だ!ユキは私と行くことに決まっているんだっ」
と小平太くんが暴君を発揮する。
みんなにこう言ってもらえるのは嬉しい。
構ってもらえるのも嬉しいし、それになんだかちょっとした小旅行にでも行くような気分に私はなっていた。
だから私は声を上げなかった長次くんと留三郎に『良かったらみんなで一緒にいかない?』と聞いてみる。
「し、仕方ねぇな」
「モソ(もちろん)」
頷いてくれる二人。
こうして、私たちはみんなで金楽寺へ行くことに決まったのであった。
『金楽寺って遠いの?』
「結構な距離だぞ。お前の足は悲鳴を上げるかもな」
留三郎が私を脅す。
『大丈夫かな・・・(てか何で私にそんな使いを頼んだんだよ学園長先生!)』
「細かいことは気にするな!もし、ユキが歩けなくなったら私がおぶってやるから」
頼もしく小平太くんが言ってくれる。
「鍛錬代わりにユキを担ぐのは俺だ。小平太はユキを振り回しかねないだろう。自重しろ」
「なに~~~」
『はいはい。ストップ。私のために喧嘩はやめて』
「「・・・・・。」」
『なぜ黙る!?!?』
小平太くんと文ちゃんにくわっと叫ぶ。
そんな感じで、私たちは出入門表に名前を書いて、忍術学園を出発したのであった。
『そういえば、みんな就職活動は順調なの?』
デリケートな問題であるからさらっとした風に聞いてみる。
みんなを見ると、一斉に表情を緩めた。
私はホッとする。どうやらみんなそれぞれ手応えを感じているようだ。
『忍者の就活ってどんな感じ?』
そう問うと、まずは仙蔵くんが口を開く。
「私は城仕え忍者に就職希望だ。今のところ、候補は五城。それらの城からうちの城に来ないかと話をもらっている」
流石は優秀な仙蔵くんだ。就職先を選ぶ立場にある彼に私は尊敬の目を向ける。
『それから、文ちゃんや留三郎は?』
「就職したい城からは好感触を得ているのだが・・・実は俺と文次郎、就職したい城が重なっていてな」
「俺もその就職したい城からは好感触を得ている。だが、この阿呆留三郎と卒業後も一緒かと思うと・・・はあぁ溜息が出るぜ」
「だから言ってんだ。溜息つくくらいだったら就職先変えろ」
「なんで俺が変えなきゃならねぇんだよ。留三郎、お前が変えろ」
『まあまあまあまあ』
今にも喧嘩をし出しそうな二人の間に割って入り、二人を宥める。
それにしても日頃から、喧嘩するほど仲がいい、と私が思っている文ちゃんと留三郎が同じ城に就職しそうだとは・・・ぷふふ。
本当に仲が良いんだね。
くすくすと笑いそうなのを堪えていると小平太くんと視線が合う。
すると小平太くんは「私は二つの城から内定通知をもらった」と言った。
『おぉ!凄いじゃない』
「私だけじゃないぞ。長次も既に内定をもらっている」
「モソ」
コクリと長次くんが頷いた。
これは就職祝いをしなければ!みんなが就職ちゃんと決まったら盛大に祝ってあげよう。私は心の中でそう決める。
『伊作くんはどうなの?使えたい城は決まっているの?』
聞くと伊作くんは首を横に振った。
「僕はみんなみたいに特定の城に仕える気はないんだ。フリーで情報屋のようなものをしようと思っている。薬種問屋のフリをしながらね」
戦には情報が命。
伊作くんはフリーの忍者として身軽に動けるようにして、色々な城から依頼を受けて情報を集めるかたちで忍者を続けていこうと話してくれた。
「情報屋をやりながら、薬学の知識も増やしていくつもりだよ」
「伊作らしいよな」
留三郎がガッと伊作くんの肩を抱きながら言う。
「フリーってのは初めは安定しないし、どうしたらいいか分からないことも多いと思う。だけど、伊作ならやっていける。俺はそう信じているぜ」
留三郎が伊作くんの顔を見てニッと笑った。
他のみんなも頷いたり、笑顔だ。
私も伊作くんならフリーでやっていけると思う。
心優しい伊作くん。きっと戦場で怪我人の治療を無償でしちゃうお人好し度を発揮しながら自分の任務をこなしていくだろう。
私は伊作くんの未来をそう思った。
そうこうしているうちに裏裏裏山を私たちは越した。
そろそろ脚が疲れてきた頃だ。
実は、裏裏裏山を越したところには私が半助さんに飛び蹴りされた場所、利吉さんと初めて会った場所である団子屋がある。
私はみんなに休憩したいと申し出ることに。
「いらっしゃい!七名様ね。座って、座って」
快活な声のおばちゃんに勧められて私たちは外に置いてある長椅子に腰掛けた。
『ふー。疲れた』
団子を頼み、足をマッサージ。
「しかし、ユキも体力ついてきたよな」
足のマッサージを終えて今度は屈伸していると留三郎が言った。
「前は裏山越えるだけで息が上がって大変だっただろ?」
私は留三郎の言葉に胸を張る。実は、私自身も最近体力がついてきたと自覚し始めていたからだ。
『やっとこっち世界の人たちの標準に追いついてきたって感じかな。次は中級生の忍たまくん達くらいの体力をつけられるように精進するよ』
「目標を持つことはいいことだ!」
小平太くんが団子を運んできたおばちゃんから団子を受け取りながら二カッと言った。
「・・・だが、あまり無理しないように。モソ」
『うん。ありがとう、長次くん。私はいつもやり過ぎてしまう癖があるからね。気をつけるよ』
私は長次くんに頷いて笑った。
みんなでみたらし団子を食べ、お茶を啜ったら休憩終了。
私の足の疲労はすっかり消えていた。
『さて、行きますか』
おばちゃんにお金を払って団子屋を後にする。
『金楽寺ってここからまだまだ遠いの?』
こちらの世界に来た日、変態だと思った半助さんから逃れるためきりちゃんの手を握りながら疾走した竹林の中を通りながら問いかけると、伊作くんが眉を下げて「まだ半分くらいだよ」と苦笑した。
「しかも、金楽寺真ん前に来てからが問題なのだ」
小平太くんがその辺にあった草でぴしりと竹を叩きながら言う。
『どういう事?』
「階段だよ」
『階段?』
文ちゃんの言葉に小首を傾げる。すると、文ちゃんは、金楽寺に着くにはなんと一万段の階段を登りきらないと着かないと言った。
『一万段!?』
聞いただけで気が遠くなる。
サーっと青ざめていると隣の小平太くんがニシシと笑う。
「ユキは気にすんな。へたりこんでしまったら、私がおぶって行ってやるから」
そんな頼もしい言葉をくれる。
「いや、しかし・・・」
小平太くんに感謝していると、顎に手を当てて仙蔵くんが私を見ながら口を開く。
「ユキは一万段くらい登ったほうがよかろう。その体、最近しんべヱのようにまあるくなってきているのに気がついているか?」
うん・・・気がついてる・・・・
私はソロリと仙蔵くんから視線を外す。
見ないでくれ。私の体を見ないでくれ!
仙蔵くんの視線を体に感じながら私は思う。
ここ最近、おやつ作りに凝り出して、自分で作ったおやつ、それから学園長先生や事務員のみんなとおやつを食べる機会がやたらと多かった。
目の前に何かがあれば口に入れてしまう私の卑しい口。
少々服がキツくなっているのも自覚済み。
私は緩やかに盛り上がっている自分のお腹に手を当てて、金楽寺一万段の階段を登る決意を固めたのだった。
そんな会話をしながら私たちは街道を真っ直ぐに進んでいく。
そしてあるところで、ふとみんなが足を止めた。
「ココ。この大きな岩がある横に獣道がある」
仙蔵くんが岩の隣にある獣道を指し示す。
「この道を通って金楽寺に向かうんだ」
伊作くんが道を指し示した。
覚えておくように私はしっかり岩を凝視してから頷いた。
私たち一行は獣道へと入っていく。
獣道といっても一応道にはなっている。それに、みんなが前を歩いて邪魔な枝を折り、草を足で踏み潰してくれているから私は歩きやすかった。
一列に並び、私は周りの風景を覚えようとキョロキョロと(と言っても全く周りの景色は同じに見えたが)していた時だった。
急にザッと音が聞こえた。
『え、何?』
「シっ」
仙蔵くんが静かにと私に合図する。
私はいつの間にか六年生全員に輪を描くように取り囲まれていた。
急な彼らの行動に目を白黒させる私。
私はゴクリと唾を飲み込んだ。
この状況、聞かなくても良い状況じゃないことは分かる。
「ユキちゃんを守る人を決めよう。二人でいいね」
伊作くんが言う。
「じゃあ、俺と小平太が」
留三郎が私の手を握りながら言った。
「心配するな。お前のことを誰にも傷つけさせはせん」
仙蔵くんが首だけ振り返り、薄く笑みを浮かべながら言う。
そんな彼の手には宝禄火矢・・・なのか?いつもと色が若干違う。
「煙玉と催涙弾だ」
私の頭の中の疑問に答えるように仙蔵くんが言った。
「僕と長次が右の前後、仙蔵と文次郎が左の前後でいいね」
全員が一斉に頷いた。
「よし、行くぞ」
カチンと火打石が合わさる音がして、続いてシューっと火が縄を燃やしていく音が聞こえてくる。
「ユキ、しっかり掴まってろよ」
私は小平太くんに横抱きにされた。私は彼の首にしっかりと掴まる。
「よ、よろしく。痛゛っ」
「馬鹿。口閉じてろ」
留三郎に怒られ、私が口を閉じるのと同時に二人は一斉に前方の道なき道、草の覆い茂った中へと駆け出した。
後ろではカキン、ガンッと激しい金属がぶつかる音が聞こえてくる。
こんな時、私はいつも何にも出来ない。
そう思い、悔しく思っていると、小平太くんと留三郎が視線を交わした。
「二人か」
「あぁ」
「お前は先に行け、小平太」
ザッと左右の雑木林から風を切る音が鳴った。
立ち止まって武器を構える留三郎の姿を私は小平太くんに横抱きされながら見る。留三郎の姿が遠ざかっていく。
二対一
布で顔を覆った忍者二人と対峙している留三郎。
お願い!負けないで・・・・!
私の体は置いてきたみんなのことを案じ、ガタガタと震えてくる。
みんなに何かあったらどうしよう・・・!
不安の波が私を襲う。
「ユキ」
半泣きになっていた時だった。
優しい声が頭の上から降ってきた。
上を見ればいつものニシシとした太陽のような小平太くんの笑みがある。
『小平太くん・・・?』
「みんなは大丈夫だ!」
小平太くんは言い切った。
本当は、大丈夫だなんて言い切れる状況ではない。でも彼は、私を安心させようと、そんな優しい嘘をついてくれた。
あぁ、私も心を強く持たなくては・・・!
私は思い切り目を瞑り、涙を止める。
『うん!みんなのこと、信じてる』
そう言うと、彼は私に強く瞳を輝かせながら「うん」と頷いた。
ザザザザザ
小平太くんが道なき道を走っていく。
そして、背の高い雑草の覆い茂った場所を抜けた時だった。
目の前が急に開ける。
そこには長い、長い階段と、その上に立つ金楽寺が目の前に現れた。
「ユキ、一旦下ろすぞ。それから、私の背中から絶対に離れるな」
小平太くんが私を地面に下ろし、手を引いて自分の背に私を隠した。
すると数秒後、ザッと音がして、目の前に二人組の忍びが現れた。
私たちの目の前に現れた忍びは二人とも武器を構えていた。
一人は月型の手裏剣を持った男、もう一人の方は複数のロープの先端に鉄の重しがついたものを持った男。
二人はそれぞれ武器を構え、小平太くんに狙いを定める。
「お前たちが狙っているのはユキが持つ密書か・・・」
小平太くんがそう呟くと同時に男ふたりはタンっと地面を蹴って小平太くんに襲いかかった。
『小平太くん!』
「大丈夫だ。しかし、二対一は分が悪そうだ。ユキ、階段を駆け登れ」
『わ、分かった!』
ここにいても私は足でまといになるだけだ。
そう自分に言い聞かせて、でも、小平太くんと一緒に戦えない、足でまといになってしまう自分に悔しい思いを感じながら、後ろ髪引かれる思いで私は階段を駆け登り始める。
後ろからは金属がぶつかる音。それから「どりゃあ!!」と小平太くんが力を入れる声。
二対一なんて卑怯だよ!卑怯だ!卑怯だ!!
こういったことには卑怯だなんだなんて関係ないのは分かっていたが、それでも私は心の中で悪態をつく。
『はあ、はあ、はあ』
長い道のりを歩き、ある程度準備運動らしきものをしていた私の体だったが、いきなりの全力疾走は体に負荷が来た。
荒い息をしながら後ろを振り向く。
まだ小平太くんは二人の男と戦っていた。
しかし、押されているようにも見えない。
しっかりと二人の男からの攻撃をかわし、受け、攻撃を仕掛けているように見えた。
私はその姿に少しの安堵を感じながら前を向く。
金楽寺の和尚。というからには高齢のお坊さんだろうか。
でも、若い修行僧たちがいるかもしれない。
この時代、広い土地が有り、裕福だった寺社の僧侶たちは自衛武装したこともあった。
もしかしたら金楽寺にも僧兵がいるかもしれない。
私はそんな淡い期待を抱きながら階段を駆け上がっていく。
しかしーーーーー
『うわっ』
階段に足を引っ掛けて前につんのめってしまう。
上半身を階段に打ち付けて痛みがくる。手を擦りむいてそこから血が流れるのが見えた。
しかし、そんなことには構っていられない。
私は立ち上がって再び足を踏み出した。
頑張らなきゃ!
私に出来るのはこのくらい。
私だって、みんなの役に立つことがしたい。
そんな思いを抱きながら私は走る。
息が切れて、横っ腹が痛くて、喉が詰まる。
でも、私は走るのをやめなかった。
途中でぐらりぐらりと倒れそうになったが、頭を振って気持ちを切り替え、無理矢理に前へと進む。
そして、あと数段
『つ、着いた・・・!』
私は金楽寺の門の前に立ってた。
思い切り戸を叩き、声にならない声で私は叫ぶ。
『和尚さま!金楽寺の和尚様!はぁっ、にんじゅつ、がく、園の使いの、はあ、ものですっ。門を開けて、くだっさい!』
何度も何度も戸を叩き続けていると、ようやく、キィと音がして潜り戸の扉が開かれた。
「何事じゃ!」
そこから現れたご年配の僧侶に私は駆け寄る。
『お、襲われたんです!ここに来る途中、獣道を通っている時に、忍たまが、みんなが!』
「落ち着きなさい。忍たまがこの下でどこかの忍と戦っておるのじゃな」
私は思い切り首を上下に振った。
「よし、分かった!直ぐに助太刀に行こう。と言ってもこの寺で武術が出来る者は儂だけじゃが・・・しかし、助けにはなろう」
和尚様が滑るように階段を下っていく。
どさり
私はその場に崩れ込むようにして座り込んだ。
『はあ、はあ、はあ・・・』
心臓が破れそうなくらいドクドクと脈打っている。
みんな、無事だよね・・・?
私は祈り、俯いていた顔を上げる。
幸い視力は良い方だ。私はフラフラの足で階段に引っ掛かって階段から転げ落ちそうにならないように気をつけながら数段階段を下りだ。
『はあ、はあ・・・小平太、くん・・・!』
私はふらつき、力の入らない体であったが、思い切り、両拳を握り締めた。ガッツポーズだ。
私の目に見えたのは、小平太くんの前に倒れる男二人の姿だった。
『こ、小平太くん・・・!』
私の声は小さかったが、小平太くんは私の声が聞こえたかのように振り向き、そして両手を大きく上げて振った。
彼の太陽のような笑顔が遠くからでも分かる。
安堵でぎゅっと心臓のあたりの服を掴んでいる時だった。茂みが揺れて覆面の男が数人出てきた。その後ろには仙蔵くんと文ちゃんの
姿がある。
そしてその後からも直ぐに伊作くん、留三郎、長次くんが出てきた。
同じく数人の忍を連れている。
私は首を傾げた。
小平太くんたちは金楽寺の和尚様と何やら会話をしているのだ。
それも、私たちを襲ってきた忍を含めて。
いったい何が起こっているのだろう?と不思議に思っていると小平太くんたちは階段を登り始めてくる。
一段一段と近づいてくる彼ら。
『小平太くん?みんな・・・?』
今、六年生の後ろには私たちを襲った忍たちがいる。
どういう事かと六年生の顔を見渡していると、
「取り敢えず中に入るとよい」
と和尚様が私たちを境内へと促した。
「ねぇ、みんな、どういうこと?」
私は今、不思議な顔と警戒心の入り混じった顔をしているだろう。
そんな私の様子を見る六年生。彼らの顔には何とも言えない不思議な笑み。
「さあ、そろそろ種明かしをしたらどうだ?」
仙蔵くんが忍たちに向かっていう。
すると
シュルル
私たちを襲った忍たちが一斉に覆面を取った。
『えぇっ!?』
私の口から驚き声が漏れる。
『みんな!?どうして!?!?』
私の前に立っていたのは忍術学園の忍たま。
五年生と四年生だった。
彼らを唖然と見つめる私の頭に大きな手のひらが乗る。
「どーやら俺たちは学園長先生に一杯食わされたようだ」
留三郎の言葉に目をパチクリ。
『どういうこと?』
「それは俺から説明するよ」
兵助くんが一歩進み出て話し出す。
忍たま上級生である四年生と五年生。五年生は一年後には六年生と同じように就職活動をすることになる。
四年生も下級生の実力から抜け出して、実践での経験を多く踏んでいく時期に来ていた。
そこで学園長先生は考えたらしい。そう、突然考えたらしい。
そう、突然の思いつきである。
私に金楽寺の和尚様宛の手紙を持たせ、六年生の誰かに道順を教えて貰うように言えば、きっと六年生全員が私についてくるだろう。
そうすれば、六年生対五年生、四年生の実践が出来ると学園長先生は思い立った。
私が金楽寺に着くまでに四年生、五年生が私を捕まえ書状を奪えれば四年生、五年生の勝ち。
私を無事に金楽寺まで送り届けられれば六年生の勝ち。
こういった実践訓練が六年生と私の知らない間に始まっていたのだった。
『もう~~~~~~』
私はその場にしゃがみこむ。
『みんなのこと、本っ気で心配したんだからね!一万段の階段、心臓破けそうになりながら駆け上ったんだからね!!』
「わわわ、ユキ、俺たちを睨むなよ。文句なら学園長先生に」
慌てながらそう言った勘右衛門くんは「お疲れ様」と言いながら私の頭を撫でたのだった。
「さて、皆の衆。ひと仕事終わったことじゃし、お茶でも飲むかの?」
金楽寺の和尚様が言ってくれた。
私たちは全員喉からっから。ありがたいと表情を崩して和尚様の後をついていく。
『あ、和尚様。学園長先生からお預かりしたお手紙お渡ししておきますね』
「おぉ、ありがとの」
『そう言えば、手紙の内容は何だったんです?緊急の用じゃなかったら怒りますよ?』
少しむくれて言う私の前で和尚様は手紙を開く。
“今度の土曜日、忍術学園でシナ先生、竜王丸とお茶会をするから一緒にどうかの?“
そんな誘い文句が書いてあったと私たちに告げる金楽寺の和尚様。
一気に脱力して私はその場に座り込んだ。
「ナハハハハ!細かいことは気にするな!」
「あぁ!良い鍛錬になったしな」
バシバシ私の背中を叩く小平太くんと満足気な顔の文ちゃん。
「先輩たち、さすがでした。もう、歯が立たなくって」
「俺たちも鍛錬すればきっと六年生に追いつけるさ。気を落とすな、滝夜叉丸」
落ち込んじゃっている滝夜叉丸くんを慰める八左ヱ門くん。
疲れたけど、怖かったけど、しんどかったけど、みんなの実習の役に立てて良かったとしよう。私は心の中で学園長先生に罵詈雑言を
吐くのを止めにして、みんなの顔を見渡す。
そして私は未だにしゃがみ続け、バクバク動いている心臓を抑えながらこんな事を思う。
私、忍者している彼らのこと、全然知らないな・・・
みんなが使っていた武器、忍者がその時その時で取るべき動き。
私が忍者について知っていることは少ない。
ゴロロロ
何処からか聞こえる雷鳴
私はその音をを聞きながら、顔を顰めたのだった。