第四章 雨降って地固まる
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3.南蛮衣装披露会
『あうー』
「ユキちゃんどうしたの?」
『髪の毛が伸びてきちゃって』
私は首をかしげる小松田さんに自分の前髪をつまんでみせた。
この世界にやってきて三ヶ月。そろそろ髪を切らないと鬱陶しい程になってきていた。
「タカ丸くんに頼んだら?」
『そうですね。後ろの髪はやってもらおうかな』
「前髪は?」
『手を煩わせたくないし、自分で切れると思います』
そんな話をしていたらヘムヘムがカーンと鐘を鳴らしてお昼休みになった。
善は急げ。やろうと決めたら直ぐにやりたい質の私はお昼を食べる前に部屋に戻って髪を切ることに決めた。
残念ながらハサミは向こうの世界から持ってきていなかったので、こちらの世界仕様の糸切バサミのような形状のハサミを普段は使っている。
私はこれをつかって髪を切ることに。
縁側に鏡を持って行って置き、私は地面へと下りてしゃがんで鏡の位置に顔を合わせる。
櫛で前髪を梳けば、目を隠すほどに伸びてしまっていた。普段横に流していたからこんなに伸びたの気がつかなかったな。
そう思いながらハサミを入れていく。
ジョキジョキジョキ
ええと・・・右が短いな。左を合わせて・・・今度は左が短いな。ちょっと切って・・・中央の髪が多いから・・・・
『よし、出来た!』
私は満足げに頷いてハサミを置いた。
見た感じでは上手に切れた気がする。
ルンルン気分な私はここで気がついた。後ろの髪も切る方法があるじゃない!
髪が肩より長い私が考え出した自分で自分の髪の毛を切る方法。
それは、頭を下げて、ばさっと髪を前にもってきて切る方法だった。
私はさっそく髪を括っていた組紐を解いて頭を下げ、髪を前にもっていく。
『へっへっー私って天才』
自画自賛しながら髪の毛を切ろうとした時だった。
ドドドドド
どこからか地響きのような音が聞こえてきた。
顔を右に向ければ――――――
「ユキちゃんーーーーーー!」
『タカ丸くん?』
目を丸くしていると、走ってきたタカ丸くんが私の前でキキキとブレーキをかけて止まった。
そんなに慌ててどうしたのだろうか?と見ていると、ガッと肩を掴まれる。
「なんてことしているの!」
『え?』
何やら怒られている。しかし、特にこれといって悪いことはしていないなと考えていると、私の心を読み取ったタカ丸くんに「髪だよ、髪!」と言われた。
「今なにしていたの!?」
『後ろの髪を切ろうと・・・』
「馬鹿なの!?」
酷ぇ
口を尖らせる私にタカ丸くんは、前に髪をもっていって切ったら後ろに戻した時におかしくなるでしょ!とプンスカ怒りながら言った。
た、確かに・・・
「髪の毛を大事にしなきゃダメだよ」
『すみません』
「それに、散髪なら僕がやってあげるから言いに来てくれたら良かったのに!」
「僕に切られるのが嫌だったの?」と頬を膨らませてむぅと膨れるタカ丸くん。
『まさか!そんなわけないよ。ただ、手を煩わせたら申し訳ないなって思っただけで』
「全然迷惑なんかじゃないよ!むしろ僕は綺麗なユキちゃんの髪、切りたいなって思っているくらいなんだよ」
『タカ丸くん、優しいね』
「ええっ!?そ、そんなことないけどさ」
照れたタカ丸さん可愛い。
ポリポリと頬を掻くタカ丸さんが可愛くて暫し鑑賞する私なのだった。
『ところで、どうしてタカ丸くんはここに?』
「食堂に来た小松田さんがユキちゃんが髪を切りたいって言ってたって教えてくれたんだ。それで来てみたら・・・」
後ろの髪を前に下ろして貞子の真似・・ゴホンッ。髪を切ろうとしていた私がいたというわけだ。
「さあ、座ってさっそく切ってあげるよ」
どこから出したのか、タカ丸さんが美容室で使うような体を覆うポンチョのようなものを出して私の体を包んだ。
洗濯物を干す時に使う木の踏み台に座る。
『よろしくおねがいします』
「うん。よろしくね。あ、ユキちゃん。自分で前髪切っちゃったんだね」
『げっ。上手くやったつもりだったけど変?』
「頑張ったようだけど、ちょっとバラバラかな」
『直るかな?』
「大丈夫だよ。整えるね」
タカ丸くんはそう言って私の前髪をすうっと梳いた。
そしてチョキチョキチョキと切っていく。
「大人っぽい前髪がいい?それとも若く見えるのがいい?」
『老け顔だから若く見えるほうがいいなぁ』
「老け顔?そんなことないよ。だけど、分かった。若く見えるようにするね」
『どうゆう風にするの?』
「ぱっつん気味にすると、子供っぽくなるから若く見えるんだ」
なるほど。と思いながらタカ丸くんに髪を切ってもらう私。
手際の良いタカ丸くんは直ぐに前髪の散髪を終えた。
「次は後ろの髪ね」
『お願いします』
「チョキチョキチョキ~」
可愛い効果音をつけながらタカ丸くんが髪を切っていく。
「あまり長さは変えないでおくね」
『うん。この世界の女の子たちは髪の毛が長いのが一般的だものね』
「ユキさんの世界では短い髪の女の人がたくさんいたの?」
『沢山いたよ。短い髪の人も、肩くらいの髪の人も。髪を染めている人もクルクル巻いている人もいた』
「わあ。いいなー。見てみたいなぁ」
『やっぱりタカ丸くんは髪結いをやっていたから興味あるんだね』
「そうだね。髪結いは僕の特技だし、髪結いするのも好き。だから将来は髪結い屋を営みながら忍者の仕事を出来たらと思っているよ」
『ちゃんと将来のこと考えているんだね』
チョキチョキ
耳元でハサミの音が響く。
「ユキちゃんの髪って綺麗だよね」
『そうかな?そう言ってもらえたら嬉しいけど・・』
「パサパサギシギシしていない痛みのない髪だよ。シャンプーは何を使っているの?」
『式部髪屋さんの椿シャンプーとトリートメントだよ』
「知ってる!あそこのシャンプーいいんだ!今度僕も使ってみよう」
『良かったら今日貸すよ。それで自分に合ったら買ったらどうかな?』
「嬉しい。ありがとう!」
久しぶりに女子トークみたいな会話出来て嬉しいな。タカ丸くんはほんわかしていて話しやすい雰囲気だから一緒にいてリラックスできる。
・・・にしても、“シャンプー”って言葉があるのって不思議だよね。
時々この世界に来てから見聞きする横文字に首をかしげる私。
「どうしたの?ユキちゃん」
『え、あ、うん。ええとね・・・』
私はこの疑問をタカ丸くんに話してみることにした。
私の話を聞き終わって、タカ丸くんは口を開く。
「不思議だね。それじゃあ、ユキちゃんは単に時間を遡って僕たちが生きるこの世界にきたわけじゃないんだね」
『そうだね。似ているけど非なるもの。別の時間軸のパラレルワールドに来たと言ったほうがしっくりくるかも』
横文字が時として横行しているこの世界だが、だからといって、それがそのまま私が元いた世界の物と同じというわけではない。
シャンプーだって化学成分が使われているわけでなく、小麦粉や灰、油などこの世界の時代に合っているものが成分として使われている。
「はい、出来た」
『ありがとう!』
この世界の不思議に思いを馳せていると声がかかった。
私は部屋には入って手鏡を手に持ち、化粧台の鏡と鏡合わせをして後ろの髪を見る。
『綺麗に切りそろえてある!さすがはプロの技だね。ありがとう、タカ丸くん』
「どういたしまして、ユキちゃん」
『タカ丸くん、お昼食べた?』
「まだだよ」
『それじゃあ一緒に食べよう』
私はタカ丸くんと連れ立って、食堂に向かうことに。
食堂の前まできた私たちは、食堂前に張り出されているメニューを読む。
そこにはA.餃子定食、B.シュウマイ定食と書かれていた。
『どっちにするか決めた?』
「う~ん。どっちにするか迷うな」
『迷っているなら私と半分半分にしない?』
この提案はすぐに受け入れられた。私たちは食堂に入ってそれぞれ注文をする。
『「いただきます」』
餃子とシュウマイを2個ずつ相手側に渡し、お手を合わせていただきます。
トレーの上には餃子、シュウマイ、チャーハンに中華スープが乗っている。
『美味しいね』
「うん。おばちゃんが作る中華好きなんだ~」
そんな会話をしていると、どんより。暗い影を背負う人物が食堂へと入ってきた。
どんより。と言えば斜堂先生なのだが今回は違う。
どんより影を背負ってやってきたのは滝夜叉丸くんだった。
『どうしたの、滝夜叉丸くん!?』
驚いて目を丸くしながら言えば、
「あぁ、ユキさん」
と生気のない声で声が返ってきた。
『とりあえずここ座りなよ。お昼ご飯は食べた?』
「まだです・・・」
『持ってきてあげる。どっちがいい?』
「どちらでもいいです。そもそも食べられるかどうか分からないです・・」
『病気じゃないんならご飯はしっかり食べなきゃダメだよ。持ってくるね』
何があったのだろう。あんなにいつも自信満々でキラキラしている滝夜叉丸くんがどよ~んと暗い空気を纏うなんて。
私はスタミナがつきそうな餃子定食を選んで、滝夜叉丸くんの前に持っていく。
「ありがとうございます・・」
『それで、どうしたの?』
「滝夜叉丸らしくないよ。いつもの自信満々の君はどこへいってしまったのさ」
そう聞くと、実は・・と滝夜叉丸くんは話し出してくれる。
何でも彼は今、自分に対して自信が持てなくなってしまっているらしい。
「くノ一たちは私に見向きもしません。追いかけるのはタカ丸さんばっかり」
「それは僕が髪結いだからだよ~」
「後輩たちにいたってはメンドくさい先輩だと思われていて。ぐすん」
『そんなことないと思うけどなぁ』
私とタカ丸くんが慰めるが、滝夜叉丸くんはズーンと落ち込んだままいつもの彼に戻らない。
どうしたらいつもの彼に戻ってくれるのかな・・・?
そう考えていた私の頭にピコンとある一枚のチラシが浮かんだ。
それは先日町に行った時にもらったチラシだった。
『二人ともちょっと待っていてくれる?』
私はふたりにそう言ってダッシュで自分の部屋へと戻った。
そしてチラシを持って、食堂へと戻ってくる。
『滝夜叉丸くん!これに出てみない?』
私がドンと置いたチラシを滝夜叉丸くん、タカ丸くんが覗き込む。
”南蛮衣装ファッションショー”
そのチラシにはこう書かれていた。
『南蛮の貿易商人たちが自分たちに親しみを持ってもらおうと市民参加型でファッションショーを行うことになったの。滝夜叉丸くん、これに応募してみようよ』
「そう言ってくれるのは嬉しいのですが、私なんか・・・」
「もー!そんなこと言っちゃダメだよ。滝夜叉丸にピッタリのイベントじゃないか。出なよ!」
「しかし・・・」
私とタカ丸くんで一生懸命に勧めるが、自信をなくしている滝夜叉丸くんはなかなか首を縦には振ってくれない。
どうしたら「出る」って言ってくれるかな、と考えていた時だった。
私とタカ丸くんに説得の言葉をかけられている滝夜叉丸くんが口を開く。
「じゃ、じゃあ、ユキさんが一緒に出てくれるなら出ます」
・・・・・・は?
えっと、えっと、今何て?
『む、無理無理無理無理!それこそ無理だから』
私なんかがランウェイ歩いたら石が飛んでくるから!
そう叫ぶが、
「よかったー。これで決まりだね」
と喜んじゃうタカ丸くんに、
「ユキさん、ありがとうございます。私を元気づけるために!」
と感謝の言葉を述べてくる滝夜叉丸くん。
私は断れないような状況に追い込まれてしまう。
『えぇ~~~まじで・・・』
椅子に力なく腰掛け額に手を持っていく私は、南蛮衣装のファッションショーに出演することに決まってしまったのだった。
****
ファッションショー当日がやってきた。
私たちは受付を済ませて天幕の中で係の人から声をかけられるのを待っている状態。
滝夜叉丸くんの自信はまだ回復していないらしく、ファッションショーに出るのが不安でいっぱいみたい。
私とタカ丸くんはそんならしくない滝夜叉丸くんが「帰る!」と言って帰ろうとするのを必死に引き止めている。
「私なんかがこんな大きなファッションショーに出る資格なんかありませんっ!」
『そんなことないよ。むしろ滝夜叉丸くんのためにあるようなものだって』
「そうだよ~。滝夜叉丸なら南蛮衣装もよく似合うと思うよ」
そんな会話をしていると、係の人に名前が呼ばれた。
「平滝夜叉丸さん、雪野ユキさん、こちらへどうぞ」
私たちはペアで応募していたのでペアとなる服を着ることになっている。
どんな服だろう。わくわくしながら係の人の後についていく。
係の人について別の天幕の中に入っていくと、そこには箱の中にたくさんの南蛮衣装が入れられていた。
「平さんと雪野さんにはこの衣装を着て頂きます」
『わあ!素敵!』
私は手を打って歓声を上げた。
私が手渡された服は、上が白のロンググラウス、その上に緑色のビスチェ、下は深緑色のロングスカート。
『さっそく着てみよう』
南蛮衣装を着られる機会なんて滅多にないよね。私は嬉しくて顔を綻ばせながら女子更衣室となっている天幕の中で着替えた。
出て行くと、滝夜叉丸くんは既に着替え終わっていた。
『すごい!良く似合っているよ』
「ほんとうですか?」
『うん。ホントだよ』
お世辞ではなく、滝夜叉丸くんは衣装を良く着こなせていた。
カボチャパンツにタイツは似合う人が少ないと思ったが、滝夜叉丸くんが着ると格好良く決まっていた。
博物館に展示されていそうな衣装に私はついつい魅入ってしまう。
「ユキさん、そんなに見つめられたら恥ずかしいのですが・・・」
『あ、ごめん。凄く良く似合っているものだからつい、ね』
そう言うと、滝夜叉丸くんは恥ずかしそうに頬を染めた。
可愛いんだから、もう!
「二人とも髪を結ってあげるね」
『ありがとう、タカ丸くん』
「よろしくお願いします」
私たちの髪に櫛を通して結ってくれるタカ丸くん。
衣装も髪も整って、準備完了だ。
出番を待つ私たち。私は、どのくらいお客さんが来ているのか気になってこっそり天幕から外を覗く。
青くなっていく私の顔。
何故かって?そこにいたのは顔見知り。忍術学園五年生の姿があった。
これは後で絶対からかわれるな(三郎くんとか勘ちゃんとかに)。と思う私はガタガタと自分の体が震え始めるのを感じていた。
大勢の人を見て緊張し出してしまったのだ。
ランウェイを歩いている時に長いスカートに足を引っ掛けて転んでしまったらどうしよう。私ならやりそうな気がする!
頭の中は不安な気持ちでいっぱいになる。
嫌な想像が次から次へと頭の中へと出てきて、震えを大きくしていると・・・
「ユキさん?」
視界の中に首を傾げた滝夜叉丸くんの顔が入ってきた。
「顔色が悪いですがご気分がお悪いのでは?」
優しい滝夜叉丸くんが聞いてくれる。
本当は私が彼を気遣う立場なのに情けないと思いながらも、私は正直に『緊張してしまって』と答える。
すると、滝夜叉丸くんは優しく私に微笑んでくれた。
「大丈夫ですよ。ユキさんがなにか失敗してしまっても、この平滝夜叉丸がしっかりフォロー致します」
トンと自分の胸を叩く滝夜叉丸くんから頼もしい言葉をもらって私は少しだけ緊張が取れた。
そして、いよいよ本番が始まる―――――
<さあ始まりました南蛮衣装のファッションショー!次に出てくるのは南蛮の中流階級の服装です>
私と滝夜叉丸くんの出番がやってきた。
「行きましょう、ユキさんっ」
『は、はい!っとわっと!?』
出だしからしくじり。私は自分のスカートを踏んで、前のめりに倒れていく。まだ天幕から出る前というのがせめてもの救いだわ。と
倒れながら考えていた私だが、
『―――っ!』
床に顔をぶつける衝撃はこなかった。
代わりに私が感じたのは浮遊感。
ふわり。私の体は宙に浮く。
滝夜叉丸くんに横抱きされたのだ。
そしてそのまま滝夜叉丸くんは天幕からランウェイに出て行った。
「まあ素敵!」
「南蛮の姫と殿みたいね」
そんな声が周りから聞こえてくる。
『滝夜叉丸くん・・・』
「楽しみましょう、ユキさん」
そう言って滝夜叉丸くんは私をランウェイの上に下ろし、流れるような動作で私の手を取った。
彼のエスコートを受けながら私はランウェイの上を歩いていく。
「あの殿方素敵ね」
「本当に!なんてカッコいいのかしら」
女性たちの黄色い声が私の耳に入ってくる。
そっと、滝夜叉丸くんの顔を見ると――――
キラキラキラ
いつもの自信に満ち溢れ、輝いている滝夜叉丸くんの顔に戻っていた。
良かった。
私は嬉しくなりながら滝夜叉丸くんの横を歩く。
そしてランウェイの一番端までやってきた。ここでポージングだ。
「ユキー滝夜叉丸ー!」
ランウェイの直ぐ下にいた勘ちゃんが私たちの名前を叫ぶ。
あぁ、嬉しいけど恥ずかしい。恥ずかしくて、紛らわすためにおどけてしまいそうだ。
しかし、そんなことをやってはファッションショーがぶち壊し。
私は恥ずかしさを抑えて滝夜叉丸くんと共にポーズを取る。
「「「「「(((((ユキ(ちゃん、さん)可愛いなっ!!)))))」」」」」
五年生のみんなは何を思っているのだろう?
私、どこもおかしくなかったよね。
私は最後まで胸をドキドキさせながら、ランウェイを下がったのだった。
「今日は本当にありがとうございました」
ファッションショーが終わり、私服に着替え、忍術学園の帰路につく私たち。
滝夜叉丸くんが私とタカ丸くんにペコリと頭を下げた。
「ようやく本来の自分に戻ることが出来ました。お二人には感謝してもしきれません!」
『ふふ、どういたしまして。私も滝夜叉丸くんがいつもの滝夜叉丸くんに戻ってくれて嬉しく思っているよ』
「そうだよね。滝夜叉丸はやっぱりこうでなくっちゃ」
私たちが顔を見合わせて微笑み合っていると、
「おーーーい」
遠くから声が聞こえてきた。
視線をそちらに向ければ五年生だ。
「二人とも良かったぞ」
八左ヱ門くんが私たちの背中をパシンッと叩きながら二カッと笑う。
「あの服持って帰れなかったのか?」
『それは無理だよ、勘ちゃん「ちぇー」でも、参加記念品としてハーブの苗をもらったんだ。生物委員のお庭に植えてもいい?』
「もちろんだ」
私はスペアミント、滝夜叉丸くんはローズマリーの苗をもらっていた。
きっとこれは色々と役に立つだろう。
「なあなあ、帰りにうどん食べていかないか?」
三郎くんが指さす先にはうどんの旗がはためいていた。
「うどんよりお豆腐屋に行こうよ!」
「うどんにすべきか、お豆腐にすべきか・・・」
ふふ、平和だな。
薄い雲から指す日差し。
その神々しさに見蕩れ足を止める。
「ユキー早く来ーーーい」
『はーーい』
私はこの平和な時間を楽しもうと、大きく大きく息を吸ってからみんなの後を追いかけたのだった。