第四章 雨降って地固まる
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2.ピンチ&ピンチ!
『ふわあ。良い天気だなぁ』
私は歩きながら思い切り伸びをする。
今日は梅雨の晴れ間。久しぶりに朝から晴天の日。
私は今、足りなくなった事務用品、おばちゃんから頼まれたもの、学園長先生のおやつを買いに近くの町に向かっていた。
大地を踏みしめて歩く私は自分自身の変化にふと気が付く。
私、前より足腰強くなったかも。
こちらの世界に来たばかりの頃は、正直生活するだけで一杯一杯だった。
町まで行った日には次の日まで足がくたびれてしまっていた。
だが、最近の私は違う。体力が以前よりついたように思われる。
成長を感じられるって嬉しいよね。
一人にまにま笑っていた私は気がつかなかった。
後ろに忍び寄る影。
怪しい男の手が、私の肩をぐいっと掴む。
『っ!?』
私は突然のことに声にならない悲鳴を上げながら振り返った。
「へへへ。姉ちゃん可愛いな」
私の肩をつかんだのは体格のいい山賊風の男だった。
ニヤニヤと下卑た笑いを浮かべている。
危険!危険!
頭の中で警報が鳴ったと同時に私の体は動いていた。
雅之助さんにならっている護身術。私の体は自然と山賊から逃れるように動く。
「くそっ」
「おい、待ちやがれ!」
待てと言われて素直に待つ馬鹿がどこにいる?
私は一目散に山賊二人の前から逃げ出す。
さっき褒めたばかりなんだ。頑張れよ、私の足!
私は自分の足を激励しつつ爆走する。
『はあっ、はあっ』
私は山道の街道を全力疾走。
街道を外れるよりもこのまま走っていたほうがいいよね。
街道なら誰かに会うことができるかもしれない。そう考えていた時だった。
『あ!』
足に痛みがきた。
私の体は宙を飛ぶ。
何かに足を引っ掛けたのだ。
ズザザ
坂の斜面を私の体が転がっていく。
『痛たた』
しかし、痛がっているバヤイではない。無理矢理体を起こそうとした私。の目に飛び込んできたもの。
『・・・・。』
うっわ。変な子がいる。
私はピンチを忘れて目の前の人を凝視する。
私は今、知らない人物A君と目があっていた。
地面に寝転んでいる私と何故Aくんの視線が
合っているのか。
それは、A君が逆立ちをしているからであった。
私は追いかけられているのも忘れてA君をまじまじと見た。
この子ったら何をしているのかしら?
A君は岩に背を預けて何か考え事をしているように腕をくんでいる。
何故ここで?こんな山奥で何をしているの、この子は。
とか悠長に言っているバヤイではないな。山賊たちが来る前に逃げなくちゃ。
『ねえ君「なんて美しい人なんだ!」ひいっ』
私の口から悲鳴が漏れる。
それはそうだろう。逆立ちしているAくんにいきなりバッと手を掴まれたのだ。
突然のことに目を瞬く私に二カッとした笑みを向けるA君。
『え、えっと、ちょっと君・・・?』
戸惑っているとA君は側転するように足を振り、立った。
そんな彼を見つめていると、
「さあ、手を!」
明るい声で手が差し出された。
戸惑いながらも彼の手を取る私。
手を彼の手のひらに乗せると、私の手は強い力でぐいっと引っ張られた。
その勢いで立ち上がった私はA君の胸の中へ飛び込むような形になる。
どきっ
心臓が跳ねる。
吸い込まれそうな純真な瞳。愛嬌のある目元。上がった口角。
そしてお日様の香り。
私は一瞬にして彼に好感を持った。
良い子なんだろうな。そう感じさせるような彼だったので、こうして抱き締められるような形になっているのも嫌じゃなかった。
「お姉さん名前は?」
『私は――――』
「おいこら!追いついたぞ」
私とA君は同時に視線を声のした方に向ける。
しまった!追いかけられているの忘れていたよ!
私はさっと顔を青ざめさせながらA君の方を向く。
『君、危ないから急いでこの場から逃げなさい』
「お姉さんは?」
『私はこいつらの足止めを・・』
「あなたを置いて逃げられるわけないですよ!」
A君が怒ったように目を釣り上げて言った。優しい子なんだね。
だけど、困ったな・・・
なんて言ったら逃げてくれるだろう。彼を巻き込みたくない。
見るからに好青年そうなA君。私のために山賊と戦ってくれそうな雰囲気があった。
でも、それはダメ。忍者でも何でもない彼が山賊と戦ったら負けてしまうに決まっている。命までとられかねない。
私の方は・・・命までは取られないだろう。
犠牲になるのは一人でいい。
私は意思を強く固めながらAくんに顔を向ける。
『私なら大丈夫。私こう見えて、とっても強いんだ』
にっと彼に笑いかけてから彼の前に立とうとした時だった。私の腕が強く引っ張られた。
振り向けば真剣な顔。
「こんなに震えているのにですか?」
『君・・・』
「あなたこそ下がっていてください」
有無を言わせぬ物言いと落ち着いた色で光る瞳の色。
私は彼に従うしかなかった。
彼の背中を見つめる私。不思議と心配な気持ちは起きてこない。
この子、きっと強い。そう私が思っていた時だった。
「かっこつけてんじゃねぇぞ餓鬼!」
山賊の男二人が刀を抜いて彼に飛びかかってきた。
しかし、勝負は一瞬でつく。
「うわあっ」
「ぐはっ」
はじめに斬りかかってきた男の攻撃をかわし、さっと男の背後に回り込んで後頭部に一撃をお見舞いする。
続いて二人目は、一人目から奪った刀で応戦。
カキンと刃を弾き返し、目にも止まらぬ速さで男の懐に入り込み、ぐっと拳を男のみぞおちに入れた。
あっという間に男ふたりは伸されてしまったのであった。
「まあこんなもんかな」
『す、凄い・・・』
呟いていると彼と目が会った。
照れくさそうに笑う彼に、私は頭を下げる。
『危ないところを助けていただきありがとうございました』
「このくらい大したことないさ」
二カッと笑う姿はあどけない。いくつくらいの子なんだろう?
こうして笑っている姿は少年っぽいが、戦っていた姿は大人びて見えた。
私は年齢不詳な彼に自己紹介するために手を差し出す。
『私は雪野ユキと申します。お名前をお聞きしても?』
「もちろん!俺は浜守一郎という」
私たちはぎゅっと握手を交わした。
「俺たち、歳は同じくらいかな?」
『そうだね。私は十五歳だよ。浜くんは?』
「俺のほうが二歳年下だ」
『それじゃあ十三歳なんだね。それにしては大人びてみえるね、浜くん』
「そうかな?」
『うん。そうだよ。山賊二人相手に堂々とした戦いっぷりだった。なんだかまるで・・・・忍者みたい!』
「本当にそう思った!?!?」
『え!?』
浜くんが急にずいっと私に近づいたので口から変な声が漏れる。
ど、どうしたの急に!すっごく目がキラキラしているけど・・・
『は、浜くん・・・?』
「はっ!い、いや、何でもない。ところで、ユキさんはどちらへ行くところだったのですか?」
急に話題を変えられて目を瞬く私。
もしかしたら浜くんは本当に忍者なのかも。それで私に指摘されて慌てて話題を変えたのかも。と予想した私は変えられた話題に乗っかることにした。
『今から町へ行くところなんだ』
「そうでしたか。・・・・あの」
『なあに?』
「良かったら町までお送りします」
浜くんが何故か頬を朱色に染めて言った。
『ううん。そう言ってくれるのは嬉しいけど、浜くんも忙しいでしょ?』
そう言うと、浜くんはブンブンと顔を横に振った。
「いえ。忙しくなんかありません。それに、俺、ユキさんともう少し一緒にいたいし」
そう言った浜くんは頭の後ろに手をやって、
「実は、ユキさんのこと凄くタイプなんです」
と何とも嬉しいことを言ってくれた。
え?なにこれ。
これって誰かに嵌められているんじゃないよね。
「ユキさん?」
『ううん!何でもないよ!』
仕掛け人がいないかと周りを見渡していた私の方を見て浜くんが首をかしげる。
私は浜くんに誤魔化し笑いだ。
それにしても、私の顔がタイプだなんて言ってくれる子がこの世の中にいるなんて!なんて良い子なんでしょう!!
慣れなくってどう振舞ったらいいか分からないな。
だけど、そうだな・・せっかく町までついて来てくれるって言ってくれているから一緒に来てもらおうかな。町で浜くんに何かお礼もしたいし。
私は浜くんに町まで付いてきてほしいと私の方から改めてお願いする。
『それじゃあ行こうか、浜くん』
「はい!」
それにしても、浜くんって何者だろう・・・?
この歳だけどプロの忍者さんをしているのかな?それとも別のどこかの学校の忍たまとか?あとは、ただ単に忍者に憧れている少年とか・・・
チラと隣を歩く浜くんを見ながらそんな事を考えていると、
ガサガサ
前方右側の茂みが揺れた。
思わずビクッとなって浜くんに飛びついてしまう私。
『浜くん・・・』
「俺から離れないで」
無言でコクリと頷いて前方の茂みを凝視していると、茂みからふらりと男性が出てきた。
私と浜くんは出てきた人物に驚いた。
出てきたのは灰色の忍装束を着た忍者だったからだ。
しかし、その忍者さんは様子がおかしかった。
私たちにも気づかない様子で街道を横切ろうとしている忍者さんはゆらゆらと足取りが覚束無い。
そして、バタン!
街道を横切る途中で忍者さんは倒れてしまった。
私と浜くんは同時に忍者さんのもとへと走り出す。
『しっかり!』
「大丈夫ですか!?」
前のめりに倒れた忍者さんの体を起こした私たちは同時に顔をうっと顰める。ひどい傷だ。
肩に苦無か何かが刺さっていたのだろう傷と、脇腹に切り傷があった。
「ここは目立ちすぎる。茂みに入ろう」
『そうだね』
私と浜くんは傷だらけの忍者さんに肩を貸して、街道脇の茂みの中に入った。
「はあっ、はあっ・・ここは・・・?」
ぼんやりとした視線を動かして私たちを交互に見る傷だらけの忍者さん。
『街道を脇に逸れた場所です。治療しますね』
「かたじけない・・・うぅ・・・」
忍者さんはそう言って気を失ってしまった。
「出血が多い。早く止血しないと」
『そうだね。服を脱がせよう』
私と浜くんは協力して忍者さんの服を脱がせていく。
まずは止血だ。私は偶然に町の生地屋のおばちゃんと下着作りの話をしようと思っていたので布を幾らか持ってきていた。
私たちはそれを割いて当て布をし、ぎゅっと傷口を縛った。
「ここを持っていて」
『うん』
浜くんに指示されて傷口を抑える。
浜くん手際いいな・・・
私は浜くんの動きに感心していた。
シュッシュと包帯を巻く浜くんの手は迷いがない。
慣れているのかな?
そうこうしているうちに、応急処置は終わる。
「応急処置はこれでいい。早く町へ運ぼう」
私は浜くんが忍者さんをおんぶするのを手伝う。
忍者さんの服は身分がバレないように褌一丁まで脱がしてしまった。
寒いと悪いので浜くんが着ていた着物を上からかけるのを忘れずに。
って言うか、浜くん凄い筋肉だな・・・
『・・・。』
こんな事態で筋肉に見惚れる私は不謹慎かもしれないが、浜くんは鍛え上げられた肉体をしていた。
やっぱり浜くんは忍者さんなのかもね。
私はそう思いながら後ろから忍者さんを支え、町へと下りていく。
「おやおやユキちゃんどうしたんだい!?」
『山で怪我人を見つけて』
「そりゃあてぇへんだ。早く医者さまのところへ連れてってやんな」
町に着いたとたん顔なじみに声をかけられる私。
忍者さんの服を脱がしておいてよかったと内心ほっとする。
『すみません!お医者様、けが人です!』
「おぉ!これは酷い怪我ですね」
『山賊にやられたらしいのです』
私と浜くんはお医者様の助手になって怪我の治療の手助けをした。
「そこから二番目の棚にある薬を持ってきて下さい」
『はい』
「君はこの傷口を圧迫しておいて」
「分かりました」
私たちは懸命にお医者さんの手伝いをした。
そして、ようやく治療は終わる。
私は額に浮いた汗をぬぐいながらおずおずと口を開く。
『この人大丈夫そうですか・・・?』
尋ねると、お医者さんはホッとしたように息を吐いてから表情を崩した。
「何とか大丈夫そうですよ」
『良かった!』
「ほっ。心配した」
私と浜くんは先生の言葉に同時に安堵の息を吐き出し、顔を見合わせてニコリと微笑み合う。
「私は包帯に使う布を買ってきます。私が戻ってくるまでここにいていただけますか?」
『「はい」』
お医者さんを見送って、私と浜くんは忍者さんが寝かされている布団の横に腰を下ろした。
しかし、どうしたものか・・・
この忍者さんはどこの忍者さんなんだろう?仲間の人にこの忍者さんのことを知らせてあげたいんだけど・・・
忍術学園の先生に相談してみたらいいかな?
そう考えていた時だった。トントンと木戸が叩かれた。
『私が出るよ』
タタっと土間に下りて木戸を開ける。木戸前にいたのは体格の良い男性ふたりだった。
あれ・・・・なんか、怖い。
私は知らぬうちにジリッと足を後ろに後退させていた。
この二人から出てくる剣呑の雰囲気。
この人たち、普通の人じゃなさそう。
私の勘がそう言っている。
『も、申し訳ありませんが先生は今不在でして・・ご要件は?』
「あっしたちはここの奥に寝かされている者の仲間なのです」
『・・・よくここにあなた方の仲間が運ばれたと分かりましたね』
「それは分かりますとも、我々はプロですから」
「それでは」と中に入ろうとする男たちを、私は無意識のうちに手で通せんぼしていた。
だって、絶対絶対雰囲気が怪しいもの!
この人たちは仲間ではなく、怪我した忍者さんを殺そうとした者の方なのでは!?
キッと強い目ヂカラで木戸前に立つ彼らを見ていると、
「姉ちゃん、どきな。一般の方に手は出したくないのでね」
全身が凍るような声に私は震える。
サーっと引いていく血。
気が付けば私は男に突き飛ばされていた。
「ユキさん!」
突き飛ばされてどしんと尻餅をついた私のところへ浜くんが来てくれる。
「ユキさん、あいつらは・・・」
『たぶんあの忍者さんを殺そうとしている人なの』
「っ!」
私は素早く立ち上がり、浜くんの横をすり抜けて傷だらけの忍者さんのもとへと無意識に走り出していた。
どういう事情があるのか分からない。
だけど私は、寝たまま抵抗できないこの忍者さんが黙って殺されるのを見ていることが出来なかった。
『やめて下さい!』
私は忍者さんの上に覆いかぶさるようにして叫ぶ。
自分でも愚かなことをしているとは分かっている。
だが、こうせずにはいられなかった。
『お願いします。もう勝負はついているはず。見逃してあげることは出来ないんですか?』
「出来るわけないだろう。そこをどけ!」
冷たい瞳が私を見下ろす。
どうすれば・・どうすれば・・・どうすれば!!!
必死に頭の中で考えを巡らせていた時だった。
カキンッ カンッ
突如聞こえた金属音。
『きゃあっ』
私は激しい金属の衝突音に頭を低くした。
「ユキさん!」
浜くんがこちらに走ってきてくれ、傷だらけの忍者さんの上に伏している私の上に覆いかぶさってくれる。
視線だけ忍者さんを殺そうとした男たちの方に向けた私の目に飛び込んでくる戦闘。
男二人に平服を着た男性が斬りかかっている姿だった。
シュンッ シュンッ
「こいつは暗器も使うぞ!気をつけろっ」
「腕が立つ男だ。このままではこちらがやられてしまう!」
ガチンッ、カンッと暫く金属音が響いていた室内だが、終わりが見えてきた。
二対一なのに確実に押されている男二人組。
ついに「引け!」という言葉が男ふたりから漏れた。
急に静けさを取り戻した室内。
ゆっくりと、先程まで傷だらけの忍者さんを殺そうとしていた男たちと戦っていた男性がこちらを振り向く。
「怪我は?」
『ありません・・・』
男性は三十前後で端正な顔をしていた。
私と浜くんの顔を見てからハアァとため息を吐き出す。
「まったく・・・無茶をする」
『んん』
「しかし、感謝せねばな」
私のもとへ来た男性は私の頭をグリグリっと撫でてふっと笑った。
「あなたの無茶で私の部下の命は救われた」
ポンポンと私を撫で終えてから男性は安堵の色をした瞳で傷だらけの忍者さんを見る。
どうやらこの人は正真正銘の仲間の忍者さんのようだ。
よかったね。傷だらけの忍者さん。
そう私が感動していると―――――
「うぅ・・ん・・・」
傷だらけの忍者さんがうめき声を上げた。どうやら意識が戻ったようだ。
「おい、白目。大丈夫か?」
『白目!?』
「こいつのあだ名だ」
口の端を上げる男性は私に白目さんを見るようにと顎で指し示した。
徐々に開いた白目さんの目(ややこしい)を見た私は納得。
白目さんの目は極端に白目が多かった。てか黒目が見えない。
ちゃんと見えているのか謎である。
そう思っていると、
「凄腕さん・・・」
と白目さんがか細い声で言った。
『凄腕さんっていうのは・・・』
「恥ずかしながら私のことだ」
自分のあだ名に羞恥して頬を染める凄腕さん。あ、ちょっと今親近感湧いてきたかも。
私は男たちと戦った忍者している彼ではなく、素の彼の表情を垣間見れてホッとなり息を吐いた。
「白目、この方々がお前を助けてくれたんだ。礼を言え」
お礼を言ってくれる白目さん。
私と浜くんは顔を見合わせて、良かったねと微笑んだ。
「さて、君たち。ここにいると危ない。相手もプロだから君たちのことを逆恨みして襲って来ることはないと思うが、再び態勢を立て直して白目を襲いに来る可能性はある。君たちはここを出たほうがいい」
これ以上ここにいても私たちが出来ることはない。
私たちは凄腕さんの言う通りにお医者様の家を出て行く事にした。
「白目さん、お大事にして下さい」
『凄腕さんも助けて下さりありがとうございました』
町に出て暫く無言で歩いた私と浜くんは、お互い自然と立ち止まり、顔を見合わせた。
そして周りに誰もいないことを確かめてから、
『もーもーもー凄く怖かったよ~~~~~』
「戦闘を生で見たのは初めてだ!まだ胸がドキドキしているよ!」
お互いの手を取りながらわーわーと喋りまくる。
お互い緊張の糸がプツンと切れたのだ。
「あの凄腕って人、名前だけあるよ」
『そうなの?』
「あぁ!素晴らしい暗器の使い手だ。だから襲ってきた男ふたりは退却せざるをえなかったんだ!」
『浜くんて詳しいね』
「そりゃあ俺は先祖代々忍者の・・・・・・あ」
言っちゃったーーーーー!っと愕然とした顔をする浜くん。
顎が取れそうなほど口を開いている姿に私はぶふっと吹き出してしまう。
『ふふっ浜くんったら変顔やめてよー』
「あの、その、ええと」
パニックを起こしかけている浜くんに私は微笑みかける。
『ねえ。ちょっと河川敷の方を歩かない?』
「え・・・・?う、うん」
疑問符を頭に浮かべた浜くんの手を取って私は河川敷へと歩いていく。
『この辺でいいかな。よいしょっと』
私は川べりの土手に腰をかけた。
私の隣に浜くんが座る。
昨日の雨で若干水量の増している川を見ながら私は口を開く。
『私、実はね、忍術学園という学校で事務をしているんだ』
「えぇっ!?」
基本的に忍術学園のことは一般の人に言ってはいけないことになっているが、同業者なら可なのだ。
私が浜くんの様子を窺っていると、
「忍術学園か・・・」
呟く浜くんは何かを考えている様子。
顎に手を当てて、何やらぶつぶつ一人で何かを言っている。
何を考えているのかな?と思っていると、考え事が終わったらしい浜くんと目があった。
姿勢を正した浜くんが口を開く。
「あのさ、ユキさん。俺の話を聞いていただけますか・・・?」
『もちろん』
浜くんが話し出す。
浜くんが話してくれたのは自身のことだった。
浜くんは七十年前に落城したマツホド城の忍者の末裔だった。
マツホド城は浜くんの曾祖父の頃に落城して、それ以降浜くんの家の人は忍者として不遇の時代を過ごしてきたそうだ。
「いつか先祖の汚名をそそぎたい。そう思うのだけど・・・」
最近彼は悩みを持っていた。それは、浜くんはおじい様に忍術を教えてもらっているのだが、その内容がどうも古臭いということだった。
「七十年前は火薬もなかったしね」
そう言って浜くんは眉を下げる。
「出来ればどこか忍術を学べる場所はないかと考えていたらユキさんと会ったんだ」
岩を背に逆立ちしていたのはそのことを考えていたらしい。
変わった考え方をするもんだ。じゃなくて――――――
『忍術学園に体験入学してみたらどうかな?』
浜くんの顔が輝く。
「いいんですか!?」
『もちろん』
嬉しそうに表情を崩す浜くん。
忍術学園がまた一段と賑やかになりそうな予感。
私はこれからのことを思い、浜くんと同じように表情を崩しながら流れる川を見やったのであった。