第三章番外編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
用意するもの
・大豆(質の良いもの) ・にがり ・豆腐箱
・こし袋 ・さらし布
さあ、美味しいお豆腐を作りましょう。
月見と豆腐
『兵助くーん、おまたせ!』
久々知兵助が台所で豆腐作りに必要な物を準備していると、仕事を終えたユキが元気な声で食堂の厨房へとやってきた。
彼女の格好は割烹着姿に頭には三角巾。兵助の方も同じ出で立ちをしている。
豆腐大好きなこの二人。
いまから豆腐作りを開始するのだ。とは言ってもユキの方は豆腐作りの初心者。
『よろしくお願いします、兵助先生』
とにこりと笑って頭を下げている。
「こちらこそよろしくな。それじゃあ始めようか」
『うん!』
「まずはじめに、大豆を綺麗に洗うのだ」
メモを取りながら兵助の豆腐作りを手伝うユキ。彼女の頭の中にはある楽しい計画があった。
それは・・・・
『ねえ、兵助くん。このお豆腐、夜に食べない?』
「夜に?」
『お月見だよ、お月見!今日は満月だから』
初めは何を言われているか分からなかった兵助だが、補足するように言うユキに「あぁ」と納得。煮て潰した大豆をこしながら、にこりとユキに微笑みかける。
「是非そうしよう」
『やった!』
各云う訳でお豆腐を食べながらのお月見が決定である。
「それじゃあ飛びっきり美味しい豆腐を作らなきゃな。ユキちゃん、豆腐箱取ってくれる?」
『了解!』
半分固まりかけたどろどろの状態の豆腐を豆腐箱へと移していく兵助。
慣れた手つきで豆腐を作っていく兵助に感心と尊敬の視線を向けるユキ。
二人の豆腐作りは順調に進んでいく。そして――――――
「完成だ!」
『うわー綺麗』
水の中に真っ白なお豆腐がゆっくりと落ちていく。
『美味しそう!』
「夜が楽しみだな」
豆腐作りは成功。月見豆腐している自分たちを想像する二人は顔を見合わせて微笑みあったのだった。
そして、夜。
「ユキちゃん、こっちだよ」
真っ暗な闇の中、ユキが松明の灯りを頼りに運動場を進んでいると、兵助の声が聞こえてきた。
『先に準備してくれていたんだ。ありがとう』
「どういたしまして」
ユキは忍ではない。だから夜に高い場所に登るのは危険と判断して建物の上での月見はやめておこうと事前に話していた。
では、視界を遮るものがない場所はどこだろう?と考えた末に選んだのがこの運動場。
だだっ広い運動場の真ん中にゴザを敷き、ユキと兵助は並んで腰を下ろす。
ふたりの間にあるのは桶に入った昼間に作ったお豆腐だ。
「雲もないし、月見日和だな」
ぐううぅ~~
『わわっ』
「ぷっアハハ」
おなかが鳴ってユキは真っ赤になりながら自分のお腹に手を当てる。
「さっそく食べるとするか」
兵助は自分の声に応えるように鳴った腹の虫にひとしきり笑ってからお豆腐を取り分けるおたまをとりだす。
「まずはこのくらいの量でいいか?」
『うん。ありがとう(は、恥ずかしいッ)』
タイミング良くなった腹の虫にまだクスクス笑いながら兵助が豆腐を取り分けていく。
まずはプレーン。冷奴を何もつけずに食べましょう。
パクっ
『「ん~~美味しい」』
二人は同時に感嘆の声を上げ、幸せそうに頬を緩ませて顔を見合わせ、ふふっと笑い合う。
豆腐も美味しいが、なにより豆腐好き仲間が出来て嬉しい二人である。この感動を共有できる喜びで美味しさも二倍だ。
さて次は、トッピングをして食べましょう。
『味が薄いものから順に食べないとね』
「さすがユキ!分かっているな」
感心したように兵助が言う。
ユキがまずお豆腐にかけたのは塩だ。
『大豆の甘みが塩によって引き立てられて美味しいわ~』
「濃厚な大豆の旨みが口の中に広がっていくのだ」
お互いに感想を言い合う二人についていけるものはこの忍術学園にはいないだろう。
二人はここから豆腐談義を始めてしまう。
パク パク パク
薬味を変えては豆腐を食べて、感想を言い合いあそこの豆腐屋がどうだ、どの地方の大豆がどうだと、一般人には理解できないマニアックな話を展開していく。
『あぁ!もう豆腐が残り少なくなってしまっている』
おかわりを桶からすくいながらユキが悲しそうに叫ぶ横で「あ、そういえば・・・」と兵助。
『どうしたの?』
「俺たちさ・・・」
『うん』
「月見るの忘れてないか?」
『ぶふっ!!アハハハほんとだ。すっかり忘れてた』
吹き出しながらユキ爆笑。
二人共、お月見と称しながら豆腐ばかりに気を取られて夜空を見上げていなかった。
そんな自分たちがおかしくて、二人はケタケタ笑い合う。
「あーおかしい。これじゃあ部屋で食べているのと変わらないな」
『豆腐も食べたしお月様も見てあげることにしよう』
いつの間にか空っぽになっていた桶。
二人はゴザの上を片付けて、ゴロリと寝転ぶことにした。
月の色はなぜ変化するのだろうか?今日の月は綺麗な乳白色。まるでお豆腐のような色。
『おぼろ豆腐』
「あ、俺もそれ考えてた」
ポツリと言うユキにポツリと兵助が言葉を返す。
お豆腐月の周りに光る星々はトッピングの塩だろうか?
なんて事を口には出さなかったが想像している二人。
好きなものを誰かと共有して楽しむ。
一人で楽しむのも良いが、誰かと一緒に楽しむとまた違った楽しさがある。
並んで月を見上げる二人は思う。お豆腐が好きな人と巡り会えて自分は幸運だ、と。
「またしようね、ユキちゃん」
『その約束、カラ約束は嫌だよ。絶対、絶対、しようね』
指切りげんまん
二人は寝転びながらお互いの方に体を向けて小指を絡ませる。
淡い月明かりの中で幸せそうに微笑み合う二人。
満月の夜は、こうしてゆっくりと過ぎていった。