第三章番外編
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僕と事務員さんと、先生と
「ユキさ~~~~~んっ」
『うわっ!?ビックリした』
ピンチ過ぎて大慌てだった僕に突然部屋の戸を開けられてビックリするユキさん。
驚かせてごめんね。でも、大ピンチなんだ!
「ユキさん助けて!」
『きりちゃん!?』
急に泣きつかれて目を白黒させているユキさんに話すのは僕がもらってきたアルバイトのこと。
洗濯代行に赤ちゃんのお守り、それから造花の菖蒲作り!
『うわーいっぱいあるね』
「今日は乱太郎としんべヱは実家。他のは組もそれぞれ用事があって手伝ってくれる人がいないんだ」
ユキさんしか頼れる人がいない!
僕は両手を胸の前で組んでお願いしながらユキさんに今日中にするアルバイトが多くなってしまった訳を説明する。
「造花作りは来週までに雇い主さんに渡せばいい予定だったんだけど、さっき手紙が届いて、大きな宴会場が空いたとかで催す宴の開催日時を早めることにしたんだって書いてあって・・・」
急な変更。
だから雇い主さんにはもし出来ないようなら今回の話はなかったことに、と言われてしまったのだ。だが・・・
「でもね!!」
自分の目がキランと小判型になるのが分かる。
「雇い主さんは間に合わせてくれたら給金は二倍だと言ってくれたんだ!」
そう言うと、ユキさんは苦笑い。
『きりちゃんったら・・・』
「だめ?」
『うーん』
困ったような顔をして何かを考えているユキさん。
うぅっ断られちゃうかな・・?
僕がドキドキしながら返事を待っていると・・・
『よし。分かった』
「わわっ」
僕の頭がくしゃくしゃっと撫でられる。
顔を上げれば、ニッコリと笑うユキさんの顔。
『今回は特別、手伝ってあげるよ!』
「やったー!!」
思わず万歳!
僕の頭をくしゃくしゃっと撫でるユキさんからは『計画性を持ってバイトを受けるように!』と注意を受けたがユキさんは僕のアルバイトを手伝ってくれると言ってくれた。
「えへへ。ありがと!」
嬉しくって笑いかけるとユキさんも優しい笑みを返してくれる。
僕は、ユキさんの笑顔が大好きだ。
『さて、じゃあ何からしようか』
ユキさんが袖を括りながら言った。
「僕はまず、子守をする赤ちゃんをお迎えに
行かなきゃいけないんだ」
『それじゃあ私はきりちゃんがお迎えに行っている間にお洗濯を始めているよ』
「いいの?助かる!」
頑張ろうね!と言うようにニッと笑って拳をぐっと僕の方に突き出すユキさんの手に僕は自分の拳をコツンとぶつける。
ユキさんったら男らし過ぎ!
ぷっと笑いそうになるのを堪えて(笑って手伝ってもらえなくなったら大変だからね!)僕はユキさんに洗濯物を渡し、赤ちゃんを迎えに忍術学園を出発する。
『気をつけて行ってきてね。危ないから帰りは走っちゃダメだよ』
「は~~い」
さっきまではピンチでどうしようって気持ちしかなかったのに今は心が弾んでいる。
今日はユキさんを独占できる。
アルバイトを手伝ってもらえる事も嬉しいけれど、それよりも僕は一日中ユキさんといられることに嬉しさを感じていた。
***
子守をする赤ちゃんを迎えに行くきりちゃんを見送って洗濯物の入った風呂敷を両手に二つ持ち、洗い場へと移動する。
洗濯物は今手に持っているもの以外にも風呂敷三つ分別にある。
ちゃっちゃとやらないと乾かなくなっちゃうね。
早く洗えば洗うだけ乾かせる時間が増える。
気合を入れていきましょう。
両腕をぐるぐる回して準備体操完了。さあ、やるぞっ!
私がお稲荷さまの力によってこの世界に飛ばされてきて気がついた不思議その壱。
この世界には、この時代に似つかわしくないものが実はたくさんあること。
今使っている洗濯石鹸もその一つ。
『ふーーっ。わっ綺麗』
洗濯だらいから空中に飛び出したシャボン玉に息を吹く。
この世界って本当に不思議だよなぁ。
ゴシゴシゴシ
太陽の光を反射させて輝くシャボン玉
一枚ずつ綺麗になっていく洗濯物
「ユキ?」
「ふわ?」
急に呼ばれて私の口から変な声が漏れる。
振り向くと、廊下に半助さんの姿が見えた。
「すごい量の洗濯物だね。これ、どうしたんだい?」
さて、どうしましょう。
正直に答えたらきりちゃんが叱られちゃう可能性大だ。ならば・・・
『これらは山で拾いました。全部洗って私のものにするつもりです』
胸を張って嘘を言ってみた。
素晴らしい作り話が一瞬にして思い浮かんだ私は天才か?天才なのか!?って・・・
「ユキ・・・」
『・・・。』
浮かれていた私は気が付くと半助さんに呆れられた目で見られていました。
半助さんの長―い、長―いため息。
「ユキっ」
『ひゃいっ』
忍者に嘘をついても直ぐに見破られるのがオチ。
半助さんにあっさりときりちゃんのアルバイトを手伝っているのだろうと言い当てられてしまう。
「きり丸はまーた一人でやりきれない程のアルバイトをもらってきたんだな」
『いえいえ!今回は事情があったから。そ、そんなにプンプンしないで下さいよぉ』
プカスカ頭から煙を出す半助さんをまあまあ、と宥めていると、
「たっだいまー」
と、きりちゃん登場。
あらら。これは怒られるなと思っていると案の定。
「こら、きり丸。ユキから聞いたぞ!また一人でやりきれない程のアルバイトをもらってきたのか?」
と怒られてしまう。
「うわーん。だってーー」
「だってじゃないっ」
『まあまあ半助さん。今回はきりちゃんにも特別な理由があったんですから』
さっと私が割って入った後、きりちゃんが理由を説明。
こんな理由なら仕方ないのです。
『だから、ね?これなら仕方ないですよね』
にこっと笑うが甘かった。半助さんは雰囲気に流されて納得してはくれなかったようだ。
「ね?じゃないっ。ユキ!きり丸を甘やかせ過ぎだっ」
と腰に手を当てた半助さんに怒られてしまう。
『うーん。甘やかすまでいっていないと思うけど・・』
「甘、やか、して、いる!ユキがそうやって甘やかすから・・・」
半助さんの声がピタリと止まった。
きりちゃんの腕に抱かれた赤ちゃんが泣き出してしまったからだ。
『あーあ。半助さんのせいだ~』
「うっ。私のせい?」
今だ!とばかりに私の反撃。
同時に頭をコクコクと上下に振る私ときりちゃんを見てぐっと喉を詰まらせる半助さん。
『これはあれだね、きりちゃん。責任を取ってもらうしかないね』
「そうそう。責任もって、土井先生にも手伝ってもらわないと!」
にやーっと笑う私たちの前で暫く絶句していた半助さんは、長いため息を吐いてから、きりちゃんの手から赤ちゃんを受け取ったのだった。
温かな日差しの下にじゃぶじゃぶと涼しげな音
赤ちゃんは半助さんにあやしてもらって今はご機嫌な顔で
笑っている。
『ふふ、可愛いですね』
暫し縁側に座って小休憩。
心地よい風が吹いてきて洗濯物をパタパタと
はためかせている。
穏やかな時間に心が落ち着く。
『そういえば』
「ん?」
『半助さんって赤ちゃんの扱いやあやし方に
慣れているようですけど・・・』
「あぁ。それはいつもきり丸のアルバイトを手伝わされているから」
困ったような顔でハハッと笑う半助さん。
なーんだ。半助さんもきりちゃんに甘甘だったんですね。
私はクスッと笑ってしまう。
「土井先生はね、子守のプロみたいに赤ちゃんの面倒を見ることができるんすよ」
「きり丸、なーんでお前が自慢げなんだ?」
「えへへ」
じとーっと半助さんに視線を向けられて、誤魔化し笑いをするきりちゃん。
半助さんときりちゃんって何だか親子みたい。
二人の会話の中に信頼関係が見て取れて、私の表情は自然と緩む。
暫く私が会話する二人を眺めていると―――――――――
「そういえばと言えばさ!」
突然弾んだ声を出したきりちゃんは頭の後ろで手を組んで、何故かニシシと笑いながら私と半助さんを見つめる。
ん?何かしら??
きりちゃんの言葉を待っていると・・・
「さっき軽く言い合っていた土井先生とユキさん、なんか夫婦喧嘩っぽっかったなーって思ったんだよね!」
と爆弾発言。
思わぬことを言われて驚く私たちに悪戯っぽく笑うきりちゃん。
そんな彼から視線を横にずらすと、半助さんと目が合ってしまった。
お互いの顔が一瞬でボンッと赤く染まる。
「アハハ、照れてる~」
『きりちゃん!』
「きり丸!」
「うんぎゃ~~~」
『「「あっ」」』
私と半助さんの声にびっくりして赤ちゃんが起きてしまった。
『ビックリさせてごめんね~』
「ごめんね。よし、よし。いい子っ、いい子っ」
「いない、いない、ばーー」
『ぶふっ。きりちゃん、その顔!』
「ぷははっきり丸っすごい顔だ」
赤ちゃんを笑わせようとしたきりちゃんの変顔で思わず吹き出してしまう私と半助さん。
二人で笑いが止まらずケラケラと笑い続けてしまう。
すると・・・
「きゃはははは!」
赤ちゃんの明るい声が辺りに響いた。
『良かった!笑った!』
顔を見合わせる私たちも笑顔だ。
「さあ、そろそろ造花作りしないと」
にこにこご機嫌な赤ちゃんに癒されているときりちゃんが言った。休憩は終了だ。
私たちはきりちゃんの部屋へと移動する。
「坊やはお昼寝しようね」
見ると赤ちゃんは少しお寝むのようで目がトロン。
半助さんが布団に横たえるやいなやスースーと寝息を立てて眠ってしまった。
『静かに造花作りを始めましょうか』
私たちは顔を見合わせて頷き合い、造花作りを開始した。
***
自分ひとりでやりきれない程のアルバイトを引き受けるのがきり丸の悪い癖。でも、今日はそんな彼の悪い癖に感謝している。
と、思ってしまう自分は教師失格だな。
「ユキさん、紫色の紙取ってー」
『はーい』
「ありがとっ」
私は短いやりとりをする二人の方にそっと視線を向けた。
私の隣で作業を分担させながら菖蒲を作っていくユキときり丸。
二人が醸し出す何とも言えない温かい雰囲気に私の口角は上がる。
きり丸、楽しそうだな・・・
ユキと一緒にいる時のきり丸は、いつものきり丸と少し違う。
普段よりも、少し子供に戻るのだ。
遠慮なく物が言えて、遠慮なく甘えられる存在。
私は普段同級生よりも大人びて見える彼が、ユキの前では子供に戻る姿を見られるのが嬉しい。
私は幼い頃に両親を亡くし、誰かに甘えられた経験が少ししかない。
だからこそ、子供時代に子供でいることはとても大切なことだと思う。
もし自分に子供が出来た時には、思い切り甘えさせてやりたい。
・・・と、こんな事、まだ恋人が出来る気配もない自分が考えても仕方ないな。
恋人にしたい人は、隣にいるのだけれど・・・・
『半助さん?』
「えっ?あっ、す、すまん」
無意識のうちにじっとユキを見つめていたらしい。
不思議そうな顔で首を傾げられて慌てる。
『疲れちゃいました?お茶でも淹れてきましょうか?』
気遣わしげに私を見上げるユキ。可愛い・・・じゃなくて!
「大丈夫。ちょっと考え事してぼーっとしてただけだから」
『私の顔見ながら?』
「うっ・・・」
『ぷっ。変な半助さん』
「変な土井せんせー」
ぷっと吹き出すユキの後ろからニシシと楽しそうに笑って顔を出すきり丸。うううぅぅ恥ずかしい!
彼らに背を向けるようにして菖蒲作りを再開する私はふと気づく。
今いる私も、普段の自分とは違う自分だ・・・
彼らの前では、いつも心を曝け出さされる。
ユキときり丸の前では教師でも忍でもなくなり、ただの土井半助になってしまう。
それに気づいた瞬間、私の胸がじわりと温かくなった。
あぁ、久しぶりだな、この感覚。
遠き日の懐かしい感情、温かく優しい空気を思い出す。
柔らかな風が、私の心を吹き抜けていく。
「ふんぎゃああっ。うわああんっ」
『あら?どうしたのかな?』
「お腹が減ったのかな?」
「いや、この感じはおしめかも。ほら、あたりだ」
『「(プロだ・・・)」』
温かい笑いと
優しいふれあい
いつまでもこの時間が続いて欲しい。
同じように二人も思っていてくれていれば・・・と、私は柔らかな表情を浮かべる二人の隣でそう思った――――――
┈┈┈┈┈後書き┈┈┈┈┈┈┈
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