第三章番外編
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三年生とお話
とある放課後。
夕食も御風呂の時間も終わった安らぎの時、
雪野ユキが部屋でくつろいでいると
「ただいまー」
少年が一人入ってきた。
彼の名前は三年組、次屋三之助。
無自覚な方向音痴とあだ名される彼はどうやら無自覚に道に迷い、自分の部屋だと思ってユキの部屋へと入ってきてしまったようだった。
一瞬、三之助が部屋に入ってきた時は驚いて叫び声をあげそうになっていたユキだが、彼女も新人とはいえ忍術学園の事務員。意外と肝がすわっているため、直ぐに状況を
察しコロコロと楽しそうに笑い出した。
『もー三之助くんったら』
「す、すみません」
「そんなに頭下げないでいいよ。気にしなさんな」
入っておいでと廊下で立ち尽くす三之助に声をかけるユキ。
『それにちょうど良かった。今から三之助くんたちのお部屋に行くところだったんだ。お布団運ぶの手伝ってくれるかな?三之助くん』
「はい」
ユキから彼女の布団を受け取って持つ三之助。
実は今日はユキによる三年生へのお話会の日だった。
以前、風魔流忍術教室の錫高野与四郎が来た折りに、ユキは武道場に集まった生徒に向けて、ユキの世界から持ってきた忍が活躍する彼女お気に入りの本を読み聞かせたことがあったのだ。
しかし、寝る前の読み聞かせだったため、下級生たちは途中でうとうと。
三年生のみんなも話の途中ですっかり寝入ってしまったのだった。
あの時の続きが聞きたい!と三年生のからのオファーを受けて、今晩ユキは三年生長屋にお邪魔して読み聞かせをすることになっていた。
『お邪魔します』
ユキと三之助が無事に(三之助が途中無自覚に変な方向に行こうとしたので修正しながら)三年生の部屋に入ると、既に布団を敷いてワクワクした顔の三年生の姿があった。
「ユキさんいらっしゃい!あれ?三之助、いないと思ったらユキさんと一緒だったんだ」
「うん。ええと・・・」
富松作兵衛に本当のことをいい淀む三之助にユキの助け船。
『布団を運ぶのを手伝いにきてくれたのよ』
「そうだったんですか。あ!ユキさん。僕、ユキさんの隣に寝たいです」
「僕も」
「あーずるいー。僕も隣がいい」
わーわーと賑やかに寝る場所が決まって、いよいよお話のはじまり、はじまり。
蝋燭の灯りを頼りに、ユキは自分のお気に入りのこの小説をみんなも気に入ってくれますように。と願いを込めながら読み進めていく。
―――風太は耳をそばだてた。風が揺らす木の葉の音の中に足音が聞こえたような気がしたからだ・・・
お話に魅力され、引き込まれて真剣に聞く三年生たち。
しかし、睡魔は彼らのもとへとやって来て、またしても彼らを夢の世界へと誘いはじめてしまった。また一人、また一人と・・・・
ユキはみんなが寝てしまったと思い、ふっと蝋燭を吹き消した。真っ暗になる部屋の中。
静かな寝息が満ちる部屋。しかし実は、その中で起きていた者が一人だけいた。
三之助である。でも彼は、他の者と同じように自分も寝ているというように、布団の中で身じろぎもせずに静かにしていた。
本当はみんなと同じように寝たかった。だがしかし、彼はとても緊張してしまっていた。原因はユキだ。
彼は忍者の卵の忍たまだ。だから、普段の彼なら隣に誰かいようと、外で寝ようとも寝ることが出来ていた。
でも、何故だか今日は違った。
ユキが同じ部屋にいると考えるだけでダメだった。
今も一生懸命眠ろうとしているのだ。
だが、寝よう寝ようと思うほど、彼の目は冴えてきてしまう。
どうしよう・・・
眠れずにじっとしているのはなかなか辛いものである。
早くユキさんが寝てくれますように。そうしたら、夜の散歩にでも行こう。
と、三之助が考えていると、ユキの布団がごそりと動いた。
厠かな?
しかし、違うようだった。月明かりに照らされたユキのシルエットは手に本を持っていた。
厠じゃなさそう。何処にいくのだろう?
三之助は静かに布団から起き出して、寝ている同級生を踏まないように気を付けながら廊下に出てユキの後を追う。
無自覚な方向音痴といえども追跡は可能である。
ユキを尾行する三之助。ついたのは食堂だった。
でも、あれ?
三之助は首を傾げる。
三之助が見たのは、食堂の椅子に腰掛けてひとり本を読むユキの姿だった。
喉が渇いたわけでも、お腹が減ったわけでもなさそうな様子に三之助が首をかしげていると、ふと顔を上げたユキと三之助の視線がぶつかった。
『あれ?三之助くん?』
「ユキさん・・・」
『そんなところにいないで入っておいでよ』
三之助は食堂に入っていってユキの前に座る。どうやらユキは、先ほどの小説の続きを読んでいたようだった。
『お茶でもいる?淹れてこようか?』
「いえ、喉は乾いていないので・・・・」
小首をかしげるユキに、三之助は「実はユキさんをつけてきたんです」と気まずそうに言った。
『あらあら。それじゃあやっぱり眠れなかったんだね。ごめんね』
「え・・・・?」
眉を下げていうユキにびっくりする三之助。
「どうして僕が寝ていないって分かったんですか?」
単純な疑問である。三之助はユキに問うが、ユキの方からは何故だか答えが返ってこなかった。ただ、小さく笑って『やっぱりお茶を淹れてくるよ』と立ち上がった。
「あの、ユキさん・・・・?」
ポカンとしながらユキを見上げる三之助の頭に、ユキの手のひらがポンとのる。
『ふふ、君はみんなより少し大人なんだね』
くしゃくしゃっと三之助の頭を撫でてお茶を淹れに厨房へと歩いていくユキ。
その後ろ姿を見送る三之助の顔は真っ赤に染まっていたのでした。