第三章 可愛い子には楽をさせよ
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21.囮捜査 前編
囮捜査の日が(カッコイイな!)やってきた。
拐かし犯が現れるのは夕方からということなので集合はお昼過ぎ。
派手になりすぎないくらいにおめかしして参加をとのことだったので、私は薄く化粧をし、尊奈門くんにもらった珊瑚色の小袖を着て正門へと向かった。
「おほー。ユキ可愛いな」
『えへへ、ありがとう』
「馬子にも衣裳とはこの事だな」
『なぬ!?』
失礼な事を言う奴の方へとブンと体を回した私は固まった。
目の前にいたのは途方もない美人さん。
「ふっ。見惚れているのか?」
『うん。見惚れてる』
「今日は素直だな」
振り向いた先にいたのは仙蔵くんだった。薄い水色の小袖を着て微笑む姿はどこか儚い印象を受ける。
「ユキのアドバイス通りに目を垂れ目にしてみた。どうだ?」
『凄くいいよ。思わず守ってあげたくなる感じ』
「そうか」
仙蔵くんが満足そうに微笑んだ。
「仙蔵だって知らなかったらうっかり惚れるところだ」
「気色悪いことを言うな、留三郎」
『そんなに顔を歪めたら美人が台無しだよ、仙蔵くん』
「「((女を口説く男みたいなセリフだ・・・))」」
『二人ともどうかした?』
「「いや、何でもない」」
何故かやや呆れた顔でこちらを見ている二人から視線を外して周りを見る。
既に囮役と護衛役の割り振りは出来ているらしく、仙蔵くんのように小袖を着ている忍たまと留三郎のように町人の服装をしている者に分かれている。
「ユキ」
『なあに?ってうわあっ!』
声をかけられて振り向いた私は驚いた。
こんなところに鏡!?じゃない!
目の前にいたのは私の顔をした三郎くんだ。
『相変わらずそっくり。凄い!』
「いや、実は完璧じゃないんだ」
『そうなの?完璧なように見えるけど・・』
「ユキの胸の大きさが分からないから触らせ『黙るがいいセクハラ男めッ』
三郎くんの手をペチリと叩いて拒否。
最近これパターン化してきているよな~~。楽しいから、いいけど。
三郎くんの他に女装をしているのは、
『兵助くん可愛いっ』
「うわっ。み、見つかった」
私に声をかけられた兵助くんが居心地悪そうに身を小さくした。
『凄く可愛いよ。もっと堂々としなよ』
「男が可愛いと言われても嬉しくないよ」
さらにむくれちゃうから言わないけど、不服そうに頬を膨らませる兵助くんが可愛すぎます。
兵助くんの服装はピンク色の小袖に小さな桜が全体に散りばめられている小袖。私、仙蔵くん、三郎くんの中で一番幼い印象を受ける。
て言うかさ・・・
私は周りを見ながら焦りを募らせていた。
ここにいる中で、私が一番魅力で劣るのでは?
幼な可愛い兵助くん。憂いある美人の仙蔵くん、私の顔は置いておいて、ボンキュッボンな三郎くん。
『私も乳に詰め物しようかな』
呟いたら隣にいた雷蔵くんに「良かったら布持ってくるよ」と笑顔で言われてしまった。おおおいいっそこは「必要ないよ」だろうっ!
「みんないるぅ?」
女としての自信を失いかけているところで山田伝子さん登場。
伝子さんって見れば見るほどハマってしまうような不思議な魅力があるよね。
ギョッとするような姿をしているのに(失礼)どうしてこんなにも魅力に溢れているのだろうか?と考えていると
「これからクジを引いてもらう。囮役の者は山田先生の「伝子さんよっ」す、すみません。伝子さんのところへ。護衛役は私のところに来てクジを引いてくれ」
と半助さんが言った。
「はい、どうぞ、ユキちゃん」
『何が出るかな~何が出るかな~』
私が引いたのは“緑”と書かれた紙。
「おーい。緑の奴いるかー??」
緑の紙を頭の上で振りながら呼びかけているのは留三郎。
私は留三郎と同じ組みだ。
『留三郎!私、緑』
「なんだ。ユキと一緒か。こりゃー拐かし犯は引っかからねぇな」
『なんだとゴラァ』
思わずがに股になって拳を振り回すポーズを取ってしまう私に呆れ顔の留三郎。
そうでした。このポーズは女子だったら笑うけど、男子にはドン引きされる部類だったね。反省します。
どうしてこうウケを狙いに行くことばかりしてしまうのだろうと自分に呆れていると、私たちの組のもう一人がやってきた。
『長次くん!』
「モソ」
『よろしくね』
長次くんとぎゅっと握手をする。
留三郎と長次くんに守ってもらえるなら何も心配することはない。
朝から緊張気味だった心が少し楽になる。
「それでは、ここから時間を置いてそれぞれの組ごとに出発してもらう。私たち教師は事前に指定しておいた場所にいるから何かあったら直ぐに来るように」
半助さんが出発の号令をかける。
「俺たちも行くか」
『うん』
「モソ」
町までは三人一緒に行き、少し三人で日が暮れてくるまで時間を潰す。
そして日が暮れてきたら囮役は一人になって町やその周辺をブラブラとぶらつくことになっている。
「町に着いたら何かしたいことあるか?」
『白虎町の美味しい甘味処をしんべヱくんに教えてもらってきたんだ。そこに行かない?』
「餡蜜が食べたい・・・」
『私はところ天がいいな~』
三人で雑談するのは楽しかった。気が付けばあっという間に白虎町に到着。
『留三郎、地図見てくれる?』
「おう。ええと・・こっちだな」
しんべヱくんオススメの甘味処は直ぐに見つかった。
それほど混んでなかったので私たちは直ぐ席に着くことが出来た。
長次くんは餡蜜、留三郎はお汁粉、私はところ天の黒蜜がけを頼む。
「うまー」
『美味ふぃいっ』
「旨い・・・」
三人で美味しい甘味に舌鼓。
『二人ともせっかく女装の腕を磨いたのに披露できなくて残念だったね』
甘味を食べ終わり、雑談をする。
「私は時々きり丸のアルバイトを手伝って女装する時がある・・・」
長次くんが言った。
『女装するアルバイトってどんなの!?』
想像できなくて目を丸くしながら聞く私に長次くんが話してくれる。
長次くんは文ちゃん、小平太くんと共によくきりちゃんのアルバイトを手伝っているらしい。
今までにやったアルバイトは栗拾い、山菜採り、タケノコ採り、百合摘みなどなど。女装はこれらを町で売る時にするそうだ。
女装していた方がよく売れるんだって。
「きり丸と言えばユキの養子になったんだろ?」
留三郎がずずっとお茶をすすってから言った。
『うん。実はね、この前住む家も決めてきたんだ』
「何処にあるんだ?」
『土井先生と同じ町って言ったら分かるかな?』
二人とも「あぁ」と頷いた。
『良かったら今度遊びに来てよ』
「いいのか?」
『うん!』
「私も行っていいか・・・?」
『もちろんだよ。二人とも是非遊びに来てね』
ふと周りを見渡すと席が満杯になりつつあった。
『そろそろ出ようか』
「そうだな」
「町でもぶらつこう・・・」
私たちはそれぞれお会計を終え、町へと繰り出した。
『この町って大きいよね』
忍術学園から離れたところにあるこの町は城の城下町で規模も大きく人も多い。
そして今回の拐かし犯捕縛の依頼は、この町を治めているクロカワというお城のお殿様から依頼されたものだった。
『クロクワ城は忍術学園の友好城なんだよね?』
「そうだ。時々こうやって任務を忍術学園に依頼してくる時がある」
『二人はこういう友好城から請け負った任務を実習でこなしているんだね』
「あぁ」
「モソ」
既に実習で任務をこなしている二人は半分プロ忍に足を突っ込んでいるようなものだ。
私は隣を歩く二人が逞しく、輝いているように見えて目を細める。
『あれ?なんかいい匂いしない?』
「あ?」
二人を惚れ惚れと見ていた私だったが、どこからか漂う香ばしい香りに心が奪われる。
「えーと、どこから香ってくるんだろう?
あっ、あそこからだ!』
クンクンと良い香りがする方に顔を向けるとお団子を焼いているお店が見えた。
「まだ食うきかよ」
『甘いものは別腹って言うじゃない』
「さっき食ったのも甘かったけどな!」
おいおい、と言った顔の留三郎の視線を無視して露店のお団子屋さんへと寄っていく。
「お嬢ちゃんいらっしゃい!」
威勢の良い店主の男性に微笑みを返しつつ露店の台を見ると、壺の中にみたらしのタレとその横には醤油壺が置いてあった。
『みたらし団子と磯辺焼きか~』
さっきの甘味屋でみたらし団子にするか迷ったんだよね~。
『どっちにしよう』
「マジで食べるつもりかよ・・」
胸のあたりを抑えてうぷっとなりながら留三郎が言う。
どうやら甘さが胸にこみ上げてきたらしい。まだまだだな、留三郎よ!
そんなんでは甘味ハンターにはなれないぞ。
フフンと鼻を鳴らしながら団子へと視線を戻す。
みたらし団子にすべきか、磯辺焼きにすべきか。それが問題である。
否、問題の解決方法が見つかった。
『みたらしと磯辺焼き、一本ずつ下さい』
後ろから息を呑む声が聞こえたが気にしない。
私は店主にお金を払って両手にお団子を持つ。
「・・苦しくなったら手伝うから言ってくれ」
『アハハ。ありがとう、長次くん。でも、ぺろっと食べられそうな気がするから大丈夫』
「ユキの胃袋はしんべヱ並だな」
『それ、良く言われるよ』
留三郎にそう返して通りへと一歩踏み出した時だった。
視線の奥のほうから怒声が聞こえてくる。
『どうしたんだろう?』
そう二人に話しかけた時だった。目の前の人垣がパッと割れた。
見えたのはこちらへと走ってくる男たち。
「逃げんじゃねえっ」
「逃げるわきゃねぇだろが!いてこましたるわッ」
喧嘩だ!
どうやら二つのグループによる喧嘩らしい。ガタイの良い男たちが殴られ、蹴られ、飛ばされ、怒声を発しながら私たちの目の前まで
やってくる。
火事と喧嘩は江戸の花、とでも言うだろうか。町の人たちは遠巻きながらも囃し声を喧嘩している若者たちにかけている。
ドスッ
バンッ!
「ユキ!端に避けてろッ」
気づけば人が密集してきていて私と留三郎、長次くんとの間に人が入り込み、少し距離が出来てしまっていた。
『分かったー!端に寄ってる』
周りの声に負けないように大きな声で答えてから私は道の端へと移動した。
この時代は警察的なものはいないのだろうか?喧嘩は増々激しくなるばかりだ。
『おっとっと。うえーー』
背中に人がぶつかり、みたらし団子のタレが小袖にべちゃりとついてしまった。
『尊奈門くんにもらった小袖が~』
ここにいてはまたぶつかられる可能性が高い。
私は近くの路地へとひょいと入った。
どこかに井戸ないかな?
お団子を食べたら小袖をつまみ洗いしたいと考えている時だった。
「嬢ちゃん。その団子旨そうだな」
『へ?』
声がして振り向くと、いつの間にか男ふたりが目の前に立っていた。
ゾクリ、と背中が寒くなる。
なんだろうこの感じ。嫌な予感がする。
私は無意識のうちに一歩後ろへと下がる。
『だ、団子ならすぐそこの店で買えますよ?』
「あーそりゃあご親切におしえてくれてどうも。だけど・・・」
「団子より、姉ちゃんの方が旨そうだ」
食べ物を粗末にしてごめんなさい。
心で謝りながら私は男ふたりに持っていた団子を投げつけ、クルリと反転して路地から出るために足を出す。
『た、助けて留三郎!長次くんっ・・・・がっ・・あ、あ・・』
後ろから引っ張られた腕。私の体は男の力で振り回されて、体は背中から壁に激突した。
「連れが近くにいるらしい。口を縛れ」
「おい、お前。騒いだら喉を掻っ切るからな」
その脅しは私には必要なかった。
後頭部を打ち付けた私は脳震盪を起こしたらしく、視界は徐々に薄れ、私の意識は闇へと落ちていった。
***
団子。
みたらし団子にすべきか、磯辺焼きにすべきか
それとも泥団子に・・・・
『泥団子なんぞ食えるかッ』
「きゃあっ」
ガバッと起き上がった私の目に若いお嬢さんの驚いた顔が映る。
『え?・・・あ、すみません。驚かせちゃったみたいで』
「い、いえ・・・あなた、大丈夫ですか?」
大丈夫と言いかけた私だが目眩を感じて口を閉じ、手を額にやる。
そんな私の体を支えてくれるお嬢さん。
「壁に寄りかかるといいわ」
反対側から声が聞こえてそちらを見ると、そこにも若いお嬢さんがいて、私の背中を壁へと誘導してくれる。
『ええと・・・ここは?』
目眩が収まった私はまわりをグルリと見渡した。
ここはどこかの土倉らしい。私が寝ていた地面は土。周囲には放置されて久しい朽ちた木箱や壊れた棚が見える。
そして、固く閉ざされた鉄の扉も・・・
『なんか嫌な予感。もしかしてもしかすると、私たちは拐かしにあってしまったのですかね?』
誰も「うん」とは言わなかったが周りにいた娘さんたちは一様に泣きそうな顔で項垂れた。
あちゃービンゴだ。
私は頭を抱えた。
長次くんと留三郎、私が拐かされたところ見ていないよね。困ったな。
『よっこらせっと』
・・・兎に角、今の状況を確かめよう。
私は怪我をしていないか確かめるように屈伸をしたりストレッチしてから改めて周りを見渡した。
まずは扉に近づいてガチャガチャと引っ張ってみる。
当然施錠されていた。
続いて上を見る。窓は一箇所。しかも、頭から数メートル上に開いているので覗くことなど到底無理だ。
ワシワシと頭を掻いてから後ろを振り返る。
土倉の中には私を含めて十五人の女の子達がいた。
年齢は十五から二十歳前後といったところだろうか。
どうしたらいいんだろう・・・?
私はまず頭の中で持ち物を確認した。
私が持っているものは半助さんが以前贈ってくれた護身用の刀と目印にするための五色米だ。
私は護身用の刀を服の上から叩いて使う必要がありませんようにと願いを込めたあと、鉄の扉に耳を押し付けた。何やら男たちが話している・・・っていうか近づいてくる!!
私はぴゅーっと元の位置まで戻って座った。
直ぐに開いた扉。
生ぬるい風が土倉の中に入ってくる。
「へ~今回は上玉が揃ったじゃねぇか」
「高く売れそうですね、兄貴!」
「あぁ。だが売る前にちょいと味見だ」
ゲヘヘといやらしい笑い声を上げて、男がこちらへとザッザッと歩いてくる。手を掴まれたのは右隣の子。右隣の子から悲鳴を上がる。
「俺はこいつにする。お前も好きなの選んでいいぞ」
「うへへ。ありがとうございやす」
今度は奥の方で悲鳴が上がる。
どうしよう。
どうしよう!
どうしよう!!
どんなことをされるか予想がつかない程幼くない。
私の瞳に映るのは少女たちの怯えた顔が映る。
悲鳴を上げながら引きずられていく少女たちの足の音。
私は、カッと目を開けて立ち上がって、年かさの男へと飛びついた。
「あ゛?なん『私にしなさいよっ!!!』
興奮気味に叫んだせいで兄貴と呼ばれる男はぎょっとした顔で私を見た。
「な、なんだよ、お前・・」
『だ、だから!そんなペロペロまな板みたいな子じゃなくて、私にしたらどうかっていったのよ。私を選ばないなんてどんな審美眼しちゃってるわけ!?ボインでプリンな私にしなさい!!』
自分でも何を言っているか分からなかったがとにかく捲し立てる。
そして私は娘を掴んでいる“兄貴”の手をぐいっと掴んで自分の胸へと押し当てた。
『どうよ!!』
「お、おう・・・」
『よっし。決まりじゃ!』
私はポカンとしている娘さんをポンポンと手のひらで押して元の場所に戻るように促す。
次に見るのは弟分のほうだ。
親指を突き出し、自分をぐいっと指しながら私は弟分に向き直る。
『あんたの相手も同時にしてやるからその嬢ちゃん離しな!』
「え、いや、でも・・・・」
すんごく戸惑っている弟分の腕から娘を離させ、私は弟分と腕を組んだ。反対側の腕では兄貴の方と腕を組む。
『さあ、楽しみましょうやお二方』
私たちは土倉を出た。
弟分が土倉の鍵をカチャリと閉める。
『・・・・。』
な、なにやってんだ私って奴は・・・・!
私は奥歯を食いしばって泣きそうになるのをぐっと堪えていた。
だって、仕方なかったんだ。目の前で震えている女の子を、犯されに行きそうになる女の子たちを放っておく事が出来なかった。
これが私だ。性格なんだ。仕方ないじゃないか。
これからのことを思うと凄く怖いし、後悔もしているけれど、でもやっぱり同じことが再び起こったら私は今と同じように行動するだろう。
ガクガク震える足で私は歩いていく。
「あそこでヤるぞ。楽しませてくれよ、姉ちゃん」
舌なめずりをしながら“兄貴”が顎で指し示すのは小さな掘っ建て小屋だった。
奇跡など起こるはずもなく、私は掘っ建て小屋の中へと入ってしまう。
「そこに立て」
どかりと囲炉裏の前へと座った“兄貴”が顎で部屋の奥を指し示す。
「脱げ」
「うひゃひゃ。いいですね~兄貴!」
兄貴と弟分は皿に酒を注ぎ、酒盛りを始めた。
どうやら私にストリップショーをさせるつもりらしい。
かくなる上は時間をかけて脱いでやる。
「早くしやがれ!」
ピシャッ
そうはいかないみたいだ。
顔に向かって思い切り酒をかけられた。
「脱がねぇんならやってやるぜ?」
『じ、自分で』
出した声は震えてか細かった。
小袖をくくる紐に手をかけると、立ち上がっていた“兄貴”はニヤニヤ笑いながらどかりと腰を下ろした。
ひゅるりと紐を解き、床に落とす。
小袖に手をかけてゆっくりと肩からずらしていく。
「へへ、いいぞ」
「いい眺めっすね」
着物と違って小袖を紐で結んでいるだけのこの世界の服装は脱ぐものが少ない。
私はあっという間に長襦袢姿になってしまった。
長襦袢を結んでいる紐を解いて、落とす。
長襦袢をゆっくり時間をかけて、落とす。
「あ?変わったもん着てんな」
兄貴の方が立ち上がって私の前へとやってきた。
私が着ているのはお手製のブラジャーと紐ショーツだ。
男の酒臭い息が、顔にかかり、私は思わず首を捻って顔を背ける。
『ひっ。いやあっ』
「げはははは。良い声で鳴くじゃねぇか」
男に首筋を舐められた私は悲鳴をあげてその場に座り込んだ。
震えながら自分の体を自分で抱きしめていると、どんと肩を押される。覆いかぶさってきた男。
「へぇ自分で言うだけあるな。デカイ胸だ」
兄貴の方は私の胸をブラの上から揉みながら弟分の方を振り返って下品に笑う。
頭の中が、凄く熱い。
頭が真っ白で、私は呼吸するのがやっとの状態になっていた。
男の唇が、私の唇を塞ぐ。
抵抗したかったが、土倉の中に残されている女の子たちの事を思うとそれも出来ない。
だけど、だけど・・・
私はこのままこの男達に弄ばれるしかないのか・・・!
絶望的な気持ちが胸を覆い、私はせめて犯している男の顔を見ないようにと瞳を閉じる。
「接吻で感じてんのかぁ?」
「兄貴~早く脱がしてくだせぇよ」
「わーったよ。おい、女。怪我したくなかったら動くなよ」
ビリビリビリ
私が生地屋のおばちゃんと協力して作ったブラジャー第一号は無残に引き裂かれた。
胸が空気にさらされて寒い。
「こいつぁいい!」
『痛っ!』
「ひゃひゃひゃ悪ぃ悪ぃ」
ぐいと握りつぶすように胸を触られた私の目から涙が零れる。
弟分が兄貴に指示されて私の頭側に回り、私の上体を起こさせ、兄貴の方は私のショーツに手をかける。
絶望が押し寄せてくる胸。
震えながら足をばたつかせる私。
私のショーツがずり下ろされそうになった時だった―――――
「兄貴いやすか?」
なんとも間の抜けた声が小屋の中に響いた。
***
「そろそろ日が暮れてくるな」
潮江先輩が傾きかけの太陽に手をかざしながら言った。
拐かし犯が出没する時間帯まで俺のオススメの豆腐屋で時間つぶしをしていた俺の組み。
「やっぱり兵助のオススメは旨いなぁ」
「あはは。そういってくれると嬉しい。勘右衛門も豆腐同盟に入らないか?」
「入らない」
「即答とは酷いぞ!」
「ほら、お前たち。そろそろ行動するぞ」
潮江先輩が呆れた声で言った。
「「はーい」」
拐かし犯捕縛のための囮捜査で俺は潮江文次郎先輩と勘右衛門と同じ組みになった。
豆腐屋で事前に決めていた行き先は、この町の近くに有る神社の参道。
「兵助。お前の腕は信用しているが十分気をつけるように」
「はい、潮江先輩」
「上手く拐かされろよ、兵助」
「ハハ、頑張るよ」
勘右衛門の言葉に笑い、「では、行くか」と潮江先輩が声をかけた時だった。
「あれ?なんか聞こえない?」
勘右衛門が俺にストップをかけて耳に手をやった。
俺と潮江先輩も勘右衛門に習い耳に手を当てると、聞こえてきたのは食満先輩と・・・・誰の声だ!?
「「「ええええっ中在家先輩!?(長次・中在家先輩?!)」」」
俺たちは一斉に叫んでいた。
野太い声で「ユキ!ユキ!!」と叫んでいるのは中在家先輩の声だったからだ。
ん・・・?というか、何故先輩方はユキの名前を連呼しているんだ?
俺たちは顔を見合わせて食満先輩と中在家先輩の元へと走っていく。
「留三郎!長次!」
「文次郎か!」
「いったいどうしたんだ」
俺たち三人は食満先輩と中在家先輩の話を聞いて顔を青くさせた。
「くっ・・・俺たちがついていながら不甲斐ない」
食満先輩が悔しそうに唇を噛む。
「落ち着きましょう、食満先輩。ユキが拐かされたって決まったわけじゃあないでしょう?ただの迷子かもしれませんし」
期待を込めて言うが、中在家先輩が首を振る。
「路地裏にユキが買った団子が二本落ちていたんだ・・・」
もう迷子かもとは言えなかった。ユキは食べ物を大事にする。
放り投げたりなんかしない。何かあったんだ。
「先生方には知らせたのか?」
「連れ去られたのはたった今でな。まだ行けていない」
潮江先輩の言葉に中在家先輩が答える。
「では、先生方への連絡と・・それから別れて捜索を・・」
「ちょっと待ってください」
僕はバラバラになる前にと思い、みんなに声をかける。
「先輩方、僕は予定通り神社の参道へと行ってみたいと思います」
拐かし犯に捕まるのが一番ユキを見つけるのに手っ取り早い方法だ。
「そうだな。がむしゃらに探すよりもその方がいいかもしれん。頼めるか、兵助」
「はい」
食満先輩の言葉に頷く。
「俺は兵助の後をつけよう。留三郎、長次、勘右衛門は先生方のところへ向かって指示を仰いでくれ」
やることは決まった。
俺と潮江先輩は食満先輩、中在家先輩、勘右衛門と別れて神社の参道へと走っていく。
山道に着く頃には日が傾き、あたりは薄暗くなっていた。
「じゃあ頼むぞ」
「はい」
俺は一人薄暗い神社の参道を歩いていく。
山の上に建つ神社に着いたら階段を下って山の入口にある鳥居まで戻る。これを何度も繰り返す。
「はあっ。少し疲れてきたな」
もう何度目か分からない神社へ向かう参道を登っていた時だった。
左側の竹やぶからゆらりと人が参道へと出てきた。
下卑た笑いを浮かべた二人組。
俺は内心で喜びながら男たちに怯えたような顔を作ってみせる。
「そ、そこをどいて下さい。お百度参りの途中なんです」
「悪ぃがどくわけにはいかねぇんだよ、嬢ちゃん。お前には一緒に来てもらう」
「きゃあっ」
女性らしく抵抗するのは難しい。
男たちを殴らないように腕の力を加減しながらジタバタもがく。
そんな俺を後ろ手に縛る拐かし犯。
「動くな!抵抗すれば可愛い顔に傷がついちまうぜ?」
片方の男が刃物を俺の前でちらつかせる。
俺はハッと息を呑む演技をし、涙を浮かべながら俯いた。
「へへ、良い子だ。大人しくついてきな」
男に連れられて竹林の中に入るときにチラと潮江先輩の姿が見え、良くやったというように頷いてくれた。
「今日はもう収穫はねぇと思っていたが、一人捉えられて良かったな。なかなかのべっぴんだし」
「あぁ。だがよ、町で聞いた噂、早く兄貴に伝えねぇと」
町で聞いた噂とはなんだろう?なんとなく、忍術学園が撒いた噂なような気がすると思いつつ、俺は拐かし犯について竹林を歩いていく。
俺を捉えた拐かし犯たちは急いでいるらしく歩みが早い。
よほど町で聞いたことが気にかかっているのだろう。
「兄貴たち、戻ってるかな」
藍色に染まる空。薄暗い景色の中に、朽ちた邸宅が見えてきた。
木が腐って斜めになっている門をくぐると、左側に土倉、右側に掘っ立て小屋らしきものが見える。
俺は掘っ立て小屋の方に引っ張られていった。
「兄貴いやすか?」
掘っ立て小屋の入口まで連れて行かれた俺の息が止まる。
ユキちゃん!!!
俺は表情に出そうな怒りを必死に押しとどめた。
小屋の中にはあられもない姿にされたユキちゃんがいたのだ。
上半身は裸体にされ、今にも腰布を剥ぎ取られようとされている姿にカッと頭が熱くなる。
こいつら全員殺してやりたい・・・!
今すぐこいつら全員殴ってやりたい!
汚い手でユキちゃんに触れるな!
頭の中で叫ぶ。
しかし、もう一つの冷静な頭の中の自分が待ったをかけた。
ユキさちゃんの足元に刀が落ちている。ユキちゃんを人質に取られてはまずい。
俺は唇を引き結び、怒りをぐっと耐える。
「今お楽しみ中だ。用がないならあっちいってろ」
「いや、それが・・・」
「あ?」
「実は町の馴染みに聞いたんすよ。俺たちが拐かした娘の中にどうやら豪商の娘がいたようで、侍やら何やらをやとって大規模に捜索させるって」
「そりゃまずいな」
兄貴と呼ばれた男は顔を顰めた。
「国境を越える川を渡る橋はこの近くには一本しかねぇ。そこに見張りが来たら面倒だ。仕方ねぇ、明日の晩の出発を今日に延期するぞ。おめぇら、直ぐに準備しろ」
「え~~~兄貴、この女は?」
「遊んでいる時間はねぇ。出発まで土倉の中に入れておけ」
「そんな~~」
兄貴と呼ばれる男はユキちゃんの衣服をユキちゃんへと投げつけた。
ガタガタと震えながらユキちゃんはこちらへとやってくる。
ふと、ユキちゃんと目があった。
ニコリ
目元を下げ、口元には笑み。
大丈夫ではないはずなのに、彼女の気丈な振る舞いに胸が熱くなる。
「出発まで大人しくしてろよ」
ガシャンと背面で閉められた鉄の扉。
俺は扉が閉まったと同時にユキちゃんを自分の方へと抱き寄せた。
「ユキちゃん・・・!」
『兵助くん・・・だよね?』
「うん。兵助だ」
『ご、ごめん。兵助くん・・座っていい?』
ガタガタと震えるユキちゃんは崩れ落ちるように地面に膝をついた。
俺は彼女から小袖を受け取り、ユキちゃんの背中にかけてやる。
『来てくれてよかった。危なかったの・・・』
「うん。遅くなって、ごめん」
『兵助くん・・兵助くんっ!』
うっ、うっ、と喉をつまらせながら泣くユキちゃんを俺は抱きしめ、もう大丈夫だと声をかけながら背中をさする。
『あいつら、あいつら・・私に服脱げって言って・・』
「うん」
『あいつら・・それから、わ、私の首筋、な、舐めて!胸触られて!うっ・・ひっく・・接吻、さ、されて・・・!やだ、気持ち悪い。気持ち悪い!気持ち悪い!!!』
両手を頭にやり、嫌だったことを振り払うように頭を振るユキちゃんの呼吸は段々と早くなっていく。
『はあっはあっはっ・・く、苦し・・はあっ』
「落ち着いて。過呼吸になりかけているんだ。息を吐く方に意識を持っていくんだ。ゆっくりした呼吸を心がけて」
『無理!出来ないッ。あぁ・・気持ち悪い。ヤダ、怖いよぉ・・』
「ユキちゃん・・!」
『いや、いや、いや!!!』
「落ち着いて!」
『無理ッ。気持ち悪い。口が、やだっ!ヤダヤダヤダヤダ!・・・・・・!?』
ユキちゃんが大きく目を見開く。
大きな目から涙がゆっくりと溢れて頬を伝っていく。
あんな男のことなど忘れてしまえ。
俺はユキちゃんに深い接吻をしながら、後頭部に手を回して優しく髪の毛を梳く。
『兵・・助くん・・・』
「ごめん。突然強引な事して」
『ううん。ありがとう・・・落ち着いたよ』
涙をはらはらと零しながら、ユキちゃんが俺の胸に身を寄せてきた。
まだしゃくり上げてはいるが、先ほどのように過呼吸にはなっていない。
『ありがとう、兵ちゃん』
「うん」
俺の首に腕を回してぎゅっと抱きつくユキちゃん。
俺も彼女の背に回している手の力を少しだけ強めて抱き返したのだった。