第三章 可愛い子には楽をさせよ
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16.春誕生日会
私は今朝目を開けた時から、否、昨日寝る前から興奮していた。なぜなら、今日は待ちに待った春誕生日会の当日だからだ。
お昼ご飯を食べて忍術学園を出発した私たちは今、各委員会に別れて夕方から開催される春誕生日会の準備に追われている。
「生物委員会はこっちに集まってくれ」
「「「「はーーーい」」」」
「あっジュンコ!?!?」
「ひいぃ集まるのなしっ!みんな、ジュンコを追うぞッ」
「「「「「オーーー!」」」」」
「うわーーーんっ。な、七松先輩っ、用意していた袋をひと袋学園に忘れてきてしまいました」
「それなら私が取ってこよう!滝夜叉丸っ、私がいない間頼むぞ。お前が中心になって準備を進めておいてくれ」
「分かりました!この平滝夜叉丸にお任せ下さいっ」
「戻るぞどんどーーん!」
料理を作ってくれている図書委員さん、火薬委員さん、それにおばちゃん。
事前に係の仕事を済ませていた会場設置の用具委員さんと飾り付け係の作法委員さんはお皿を並べたり、料理のお手伝いをしたりしている。
私や学級委員長委員会はそれぞれ散らばって手の足りない委員会のお手伝いをしていた。
『そろそろ日が影ってくるね。松明の準備はもう済んでいるかな』
「大丈夫だ。それぞれの場所に配置してあるからあとは火を入れるだけにしてある」
『ありがとう、勘右衛門くん』
「ユキ、誕生日会開始の予定時刻まで一刻を切ったから仕事のない生徒たちは会場に入れていいか?」
『そうだね、三郎くん。留三郎からいつでも生徒を入れて大丈夫な状態だって連絡もらっているから、もう入ってもらおう」
「わかった。伝えてくる」
三郎くんに呼びかけられて会場となる本堂に生徒たち、それに先生方が入っていく。
ゾロゾロゾロ
うわーなんだか、緊張してきたかも。
春誕生日会うまくいくよね?よね!?
今更ながら会場へと入っていく生徒たちを見ながらドキドキと胸を鳴らしてると「あ、そういえば」と隣にいる勘右衛門くんが呟いた。
「司会とかって決めてたっけ?」
『・・・・・・え?』
フリーズ
うひょおおおおおおおおぉぉお!!!
きききき決めてなかったあああああああぁぁぁ!!!
『あわわわわわわわわわ』
「お、落ち着けってば、ユキ!」
口に手をやって顔面蒼白になりあわあわなっている私の肩に勘右衛門くんが手を置いて「深呼吸、深呼吸」と言ってくれる。
「落ち着け」
『おおおお、落ち着けないよっ』
一瞬、白目をむいて気絶しかけたが足を踏ん張って耐える。
考えろ、考えるんだ。逃げちゃダメだ。まだ時間はあるっ。
しかし、頭が真っ白で回転してくれない。
半泣きになる私。
どうしよう、どうしよう、という思いで頭の中がいっぱいになってしまっていると・・・・パチン!私の両頬が勘右衛門くんの両手で包まれた。
ハッとした私の視界に映ったのは私を安心させるような優しい笑み。
「落ち着けって。俺たちがいるんだからさ」
そう言って勘右衛門くんは私の頬をびよーんと横に引っ張ってパチンと離した。
「司会は俺たち学級委員長委員会が引き受ける。だからそう不安そうな顔をするな」
『勘右衛門くん・・・』
任せろと自分の胸を叩く勘右衛門くんの顔は自信に満ち溢れていた。
その顔を見て、私の頭は徐々に冷静さを取り戻していく。
「俺が出し物の確認をしている間にユキは学級委員長委員会の面々を集めてきてくれ」
『わかった』
私と勘右衛門くんは僧侶たちの住居だった東坊で待ち合わせることにして、私は学級委員長委員会の面々を探しにいく。
みんな寺の敷地内にいたので直ぐに全員を見つけることが出来た。
「司会は前半と後半で分けよう」
東坊に全員が集まって、勘右衛門がみんなに言った。
平謝りな私を慰めてくれるみんな。優しい・・・
「ユキさん心配しなくても大丈夫ですよ。僕たち学級委員長委員会は組での話し合いがあると司会を任されるんです。司会進行は慣れていますから安心してください」
『庄ちゃん・・・』
なんて良い子。
そして頼りになる。
「えーっと。前半は生物委員会の余興をして・・・」
「後半の体育委員会のゲームは一番初めに持ってこよう。それから――――――
半刻ほど後、私は鐘楼に立っていた。
春誕生日会の開始を告げるためである。
ゴーーーン
茜色の空に響く鐘の音。
学級委員長委員会さんはこの時間までにうまく司会進行表をまとめて準備を完了させてくれていた。
そして勘右衛門くん、庄ちゃんが今、用具委員さんが作った簡易ステージの上に立っている。
勘右衛門くんがスーっと息を吸い、
「さてみなさん、これから春誕生日会を始めたいと思います」
と開会を宣言した。
わああっと上がる歓声と拍手。
よろしくお願いします、勘右衛門くん、庄ちゃん!
私は前半の司会進行を引き受けてくれた二人に気持ちを込めながら拍手を送る。
「まず初めに、春誕生日会の主役たちをご紹介致しますっ。名前を呼ばれた人は立ち上がってくださいね」
元気な声の庄ちゃんが、春誕生日会の主役たちの名前を告げる。
「まずは一年生から、一年い組、黒門伝七くんっ」
「「「「「伝七おめでとーーーーー!!」」」」」
歓声に包まれながら立ち上がった伝七くんに作法委員会の面々から声がかけられる。伝七くんはびっくりした顔をした後に嬉しそうに顔を綻ばせ、頭の後ろに手をやった。
「続いて一年は組から三人!きり丸、しんべヱ、金吾」
「「「「「「「「おめでとーーーーー」」」」」」」」
勘右衛門くんに呼ばれて立ち上がったきりちゃん、しんべヱくん、金吾くんに息のあった一年は組からおめでとうの言葉が送られる。
三人共嬉しそうだ。
「二年生からは時友四郎兵衛先輩!」
「四郎兵衛おめでとうっ」
大きな小平太くんの声が歓声の中を突き抜けた。
にぱっと表情を崩す四郎兵衛くん。かわゆいっ。
「四年生は田村三木ヱ門と綾部喜八郎っ」
「今日だけは学園のスパースターの座を譲ってあげよう三木ヱ門、喜八郎っ」
「二人共おめでと~」
さらっと髪を撫でながら言う滝夜叉丸くんとほんわか笑顔のタカ丸くんからお祝いの言葉が飛ぶ。
「五年生は鉢屋三郎先輩がお誕生日です!」
雷蔵くんの隣で会を楽しんでいた三郎くんが立ち上がって拍手を受ける。
珍しい三郎くんの照れ笑顔。五年生から一際大きな声でおめでとう!とお祝いされている。
「次は六年生。善法寺伊作先輩と食満留三郎先輩ですっ」
「みんな、ありがうわあっ」
「ぎゃあっ伊作?!どわあっ」
立ち上がった伊作くんは立ち上がる前だった留三郎の手を踏んづけて留三郎の上に覆いかぶさるように転んだ。
伊作くんの不運。今日も正常運転である。
「そして先生方もご紹介しましょう。木下先生、日向先生、大木雅之助先生です」
みんなからの拍手を受けながら「ありがとう」と答える先生たちの紹介を終えて、春誕生日会で祝われる人たちの紹介が終わった。
場が一旦落ち着いてから、庄ちゃんが声を張り上げる。
さっそく誕生日会の出し物の始まりだ。
「みなさんご注目ください。生物委員会さんによる余興の始まりです」
わあっと再び歓声と拍手。
生物委員さんたちが動物たちを連れて舞台へと登ってくる。
一列に並び、八左ヱ門くんがスーっと息を吸い込む。
「お誕生日のみなさん!せーの」
「「「「おめでとうございますっ」」」」
「僕たち生物委員は動物たちと協力して余興を用意しました。最後まで楽しんでいただけたら嬉しいです」
一斉に頭を下げる生物委員さんと一緒に頭を下げるジュンコちゃんにモン。
生物委員さんの余興が始まった。
「まず初めは僕とジュンコによる笛踊りです。準備はいい?ジュンコ」
<シャー(もちろんっ)>
壺の中に入るジュンコちゃんとその横に横笛を構えて立つ孫兵くんがトップバッターだ。
気持ちを落ち着けるように息を吐いてから横笛に息を吹き込む孫兵くん。
ピロロロロ~~♪
すごい!
孫兵くんの横笛に合わせてゆっくりと壺の中から顔を出したジュンコちゃんは笛の音色に合わせてくねくねと踊りだす。
みんな賢いジュンコちゃんと孫兵くんの笛の音に見入っていた。
「すごいね!」
「上手、上手!」
「可愛いでしゅ」
ユキちゃん、トモミちゃん、おしげちゃんから声が上がる。
ジュンコちゃんの踊りはくノ一教室にも大好評のようだ。
くねくねくね
時々笛の音と一緒に歌うようにシャーっと声をあげるジュンコちゃん。
素敵な笛の音の終わりと共にジュンコちゃんの踊りも終わる。
パチパチパチ
踊りが終わり、みんな一斉に拍手した。
孫兵くんと息がぴったりでさすがという感じだったね。
「すごいね、ユキさん」
『ほんとだね、しんべヱくん』
キラキラしているみんなの笑顔を見ていると、八左ヱ門くんが次の演目を告げる。
「次は狼のモンによる輪くぐりです」
「頑張れ文次郎ーーー!」
八左ヱ門くんが演目を告げ、留三郎が叫んだ。
どっと沸く室内。
「うおおおいっユキ!あいつをどうにかしろっ」
『えぇっ私!?!?』
「あったりまえだ!」
文ちゃんと私のやりとりに再びどっとその場が沸いた。
私がまあまあと文ちゃんを宥めている間に舞台には色々な道具が準備されていた。
大きなボールが二つ、それから一平くんと孫次郎くんが二人で持っている大きな輪っかだ。
大きなボールの前に、八左ヱ門くんとモンちゃんがそれぞれ立つ。
「「「「「「せーのっ」」」」」」
「えいっ」
<ウォン>
「「「「「「「「「おぉっ!」」」」」」」」」」
生物委員一年生の掛け声で八左ヱ門くんとモンちゃんがそれぞれぴょんとボールに飛び乗った。
大きなボールに飛び乗った二人を見た私たちからは歓声があがる。
『モンちゃん頑張れっ』
グラグラ揺れるボールの上で必死にバランスを取るモンちゃんが健気で可愛すぎる。鼻血ブーだ。
モンちゃんが落ちないかどうかボールの両端で見守っていた三治郎くんと虎若くんがゆっくりと離れていく。
どうやらボールの上で安定してくれたようだ。そのまま頑張れ、モン!
「みなさん、こちらにご注目ください」
モンから視線を外し後ろから声がかかって振り向くと、孫兵くんがお手玉をポンポンと回していた。そしてーーーーー
ひゅんっ ぽんっ ぽんっ
ひゅんっ ぽんっ ぽんっ
これは凄い!孫兵くんが投げたお手玉をモンちゃんが鼻先で弾いて八左ヱ門くんへと飛ばす。それを八左ヱ門くんがキャッチする。
しかも一人と一匹はボールの上に乗っているままこれをこなしているのだ。
みんなが惜しみない拍手を送る中、八左ヱ門くんはぴょんとボールから下り、モンの方へ手を伸ばす。
「みなさん、ご注目」
「「頑張れ、モンっ!!」」
「ワオンッ(よっしゃ)」
ボールに乗っていたモンに一平くんと孫次郎くんが声をかけ、それに答えるようにモンがひと鳴きしてボールの上から飛んだ。
ヒラリと飛んだモンの体は一平くんと孫次郎くんが持っていた輪っかの中を軽やかにくぐり抜ける。
「すごいっ」
「カッコイイっ」
『うん!凄いね!!』
一年は組の中に混ぜてもらっていた私はそう答えながらめいいっぱいの拍手を生物委員さんに送る。
「続いては猛禽類ショーです」
拍手をしていた私たちに声がかかる。
振り返ると舞台と反対側の本堂の入り口付近に孫兵くんが立っていた。その手にはタカの姿がる。
「目が怖い」
「僕ちびっちゃいそう」
ろ組の平太くんと孫次郎くんが私の背後にタタッと回った。
『二人共大丈夫だよ。私のお膝の上においで』
二人をお膝の上に乗せてよしよし頭を撫でている間に準備が出来たようだ。
本堂の入口には孫兵くん、舞台の上には八左ヱ門くんが立っている。
鋭い爪とくちばしを持つタカにピリリと緊張する会場の空気。
私もゴクリと唾を飲み込む。
気持ちを落ち着けるようにふっと息を吐いた孫兵くんが口を開く。
「竹谷先輩、いきますっ」
「よし、こい!」
ヒュンッ
私たちの頭上すれすれを飛ぶタカにわーーーーっとみんなから声が上がった。
後ろから前へと視線を動かすみんなの顔が破顔する。
大きな翼を広げて飛んでいったタカは、孫兵くんの指示通り、八左ヱ門くんの手の上に着地!
「すごいスリル~」
「僕の頭上のぎりぎりを飛んでいったよ」
「ちびっちゃうかと思ったけど、凄くカッコよかった!」
「怖かったけど、でも、もう一回みたいな」
拍手しながら口々にもう一度見たいとキラキラした視線を向けるみんなに頷き、八左ヱ門くんが鷹を飛ばす。
再び低空飛行で飛んでいったタカは孫兵くんの手の上へと着地した。
「これで僕たちの出し物は終わりです。みなさん、ありがとうございました」
「「「「「ありがとうございました」」」」」
ぺこりと頭を下げる生物委員さんたちに送られる惜しみない拍手。
私もみんなも生物委員さんの余興をめいいっぱい楽しませてもらった。
生物委員さん、ありがとう!
「さて、次は図書委員さんと火薬委員さん、そして食堂のおばちゃんが中心になって作ってくれたスペシャルなお料理を運ばせて頂きます」
勘右衛門くんの声を合図に図書委員さんと火薬委員さんが料理を持ってテーブルに運んできてくれる。
本堂に運び込まれている机は教室にあるのと同じローテーブル。
テーブルは正面に対して縦にして並べられており、その周りを生徒たちが囲んでいる。
私や学級委員長委員会で手の空いている三郎くんと彦四郎くんも料理を運ぶのをお手伝い。
料理はデザートまで一気に運ばれた。
『勘右衛門くん、庄ちゃん、お疲れ様。司会良かったよ!ありがとう』
前半の司会のお仕事はここで終了。勘右衛門くん、庄ちゃんもみんなと一緒に席に着く。
「お残しは許しまへんで~」
「「「「「「「「「いただきますっ」」」」」」」」」」
食堂のおばちゃんの掛け声に合わせて手を合わせて頂きますをした私たちの目は美味しそうな料理を前にして輝いている。
『きりちゃん、伊助くん、こんなに作るの大変だったでしょう?』
「大変だったけど」
「でも、楽しかったよ」
きりちゃんの言葉を伊助くんが繋げてふたりはニコリと笑う。
私たちの前に並んでいるメイン料理はまだグツグツ煮えている土鍋に入ったしし鍋、お魚のフライ、お野菜の天ぷらなどなど。
おにぎりも沢山握ってくれている。
「ん~~~これ美味しいっ」
「あはは。しんべヱ、ご飯粒が口の横についてるぞ」
「どこどこ??」
『ここだよ。はい、取れた』
みんなで囲む料理は美味しい。
楽しく話しながら私たちはメイン料理を完食する。
続いてはデザートだ。
私のリクエストの杏仁豆腐、それから蒸し饅頭に長次くん特製のボーロ。
『ん~~美味しい』
「ユキさんの顔緩みきってる」
『だって美味しいんだもの』
きりちゃんに緩んだ顔を指摘されるが緩んだ顔をもとに戻せない。
そのくらいどのデザートも甘くて美味しかった。
二刻(一時間)ほどの時間の間、私たちは美味しい料理を楽しんで全て完食した。
頃合を見計らって、後半司会者の三郎くんと彦四郎くんが席を立ち、舞台へと上がる。
「みなさん、おいしい料理に大満足だったようですね!さて、続いては体育委員会さんが企画したゲームの時間です。体育委員会さん、お願いします」
三郎くんに呼ばれて体育委員会さんの五人が舞台へと上がる。
「今からやるのは五秒お絵描き伝言ゲームだ!名前を呼ぶから一列に並んでくれ。まず“い組”のメンバーは・・・・・
上級生下級生、先生方も含めてごちゃまぜで名前を呼ばれて一列に並ぶ。
私もゲームに参加させてもらえるようだ。名前を呼ばれて“に組”のメンバーのところに行く。
『よろしくお願いします、半助さん』
「よろしくな、ユキ」
半助さんと話していると小平太くんに名前を呼ばれて伊作くんがやってくる。
「お絵描き伝言ゲームってなんだろう?」
『なんだろうね。分からないけど、でも、楽しみ!』
「うん!」
”に組”の他のメンバーは二年生の池田三郎次くんと三年生の神崎左門くん・・・はどこ!?
「こっちだーー!」
「わわっ左門!どこに行くんだい!?」
『左門くん後ろを向いてっ。こっちにおいで』
危うく左門くんが本堂から出ていきそうになるところを伊作くんと一緒に捕まえる。
ふーっ迷子になる前で良かった。
「それではゲームの説明をします」
私たちはチームごとに縦一列に並びながら体育委員さんの金吾くんの説明を聞く。
お絵描き伝言ゲームは普通の伝言ゲームのように前の人から伝言される内容を受け取り、後ろの人に伝える。ただし、伝言の方法は絵を描いて伝えるようだ。
「一番前の人だけに伝言内容を文字で教えます。一番前に座っている人は私のところに来てください」
一番前にいる三郎次くんが滝夜叉丸くんに文字の書かれている札を見せてもらって自分の席へと戻った。
私たちも筆に墨をつけて準備万端。
ドキドキワクワク。緊張するな~~。
「それでは、よーい」
「「「「はじめ」」」」
体育委員さんの合図でゲームがスタートした。
私は真ん中の三番目。
伊作くんと半助さんの間に座っている。
ピッと短い笛が吹かれて、前に座っている伊作くんが私の方を向いた。
サラサラと紙に筆を走らせる伊作くん。
これは、ええと・・・・学園長先生だっ。
ピッ
短い笛が鳴った。
よっしゃ頑張るぞ。
ばっと後ろを振り向いて紙に筆を走らせる私。
分かったというように頷く半助さん。
短い笛が鳴り、私はほっと息を吐き出した。
「それでは答え合わせをしよう」
一番後ろに座っている左門くんは紙に答えを書いてみんなに隠すように持っている。
ドキドキドキ
いよいよ答え合わせだ。
小平太くんの合図でせーので裏に返された紙に書いてあったのは・・・
「みんなバラバラだね」
『そ、そうですね』
半助さんに相槌をしながら私は前から「ユキちゃん」と低―い声で私の名前を呼んでくる伊作くんの視線から逃れるようにそっぽを向いた。
私が伊作くんから伝えられた答えは“学園長先生”。
半助さんが左門くんに伝えた答えはというと・・・河童、だった・・・
「ぶふっううっ。ユキの絵ひでぇな」
『うっ煩い留三郎!』
隣に座っている“ほ組”の留三郎をべしりと叩きながら言う。
ほ組の答えだって座敷わらしのくせにっ。
「おぬしたちっ儂は妖怪ではないぞ~~~~っ」
河童、座敷わらし、呪いのこけし人形と答えの書かれた紙を見てプンプンする学園長に私たちはどっと笑い声を上げた。
並び順を入れ替えながらこのゲームで遊んだ私たち。
「これでゲームを終了にします。みんな、楽しんでくれたか?」
「「「「「「「楽しみましたーーーー」」」」」」
わーっとみんなで拍手をしながら面白いゲームを考えてくれた体育委員さんにねぎらいの言葉をかける。
「さて、続いては誕生日の贈り物の贈呈です」
彦四郎くんに呼ばれてプレゼント係の保健委員さん(不運で転んだりつまずいたりしながら)と色紙係の会計委員さんが舞台へと上がった。
「まずは先生方にお渡ししますね。木下先生、日向先生、大木先生、前へどうぞ!」
伊作くんに呼ばれて前に出てきた先生たち。
何を贈るのかな?
「おっ湯呑だ」
「これはいい!」
「大切に使わせてもらうな!」
プレゼントを開けて表情を崩す先生たち。
木下先生は名前入りの湯呑。よく日向ぼっこする日向先生には太陽の絵柄の入った敷物。ひげそりの時に顔を傷だらけにしてしまう雅之助さんには大きめの鏡が贈られた。
「次は会計委員からの色紙の贈呈です」
そう文ちゃんが言い、左門くん、佐吉くん、団蔵くんが先生方に色紙を渡す。
「みんなからのメッセージか・・・(ジーン)」
「ありがとな。大事にする」
「部屋に飾っておかないとな」
先生たちは色紙をとても喜んでくれた。会計委員さんたちは頑張ってくれたようで先生方の昔の友人にもメッセージをもらってきてくれたようだった。
拍手を受けながら先生方が舞台から降り、次は生徒たちの番。
「次は一、二年生の誕生日の方、前に出てきてください」
乱太郎くんに呼びかけられてきりちゃん、しんべヱくん、金吾くん、伝七くん、四郎兵衛くんにプレゼントと色紙が渡される。
「わあっ新しいお財布だっ」
「美味しそうなケーキだ~っ」
「僕には目釘抜!」
「新しい筆だっ」
「メッセージの中に父ちゃんと母ちゃんのメッセージもある!」
嬉しそうに表情を綻ばせる舞台上の四人。
入れ替わって次は上級生たちの番。
ドキドキするな・・・。
私は自分が刺繍した手袋と足袋を喜八郎くんと留三郎が気に入ってくれるかドキドキしていた。
うまく刺繍できたと思うんだけど・・・
「僕の似顔絵が刺繍してある~」
「お!俺もだ。ハハッ可愛いな」
「それはユキちゃんが刺繍してくれたんだよ」
「えっ!?ユキさんが??」
「なぬっ!?ユキがやってくれたのか!?」
よ、良かった~~~
二人共喜んでくれている様子で表情を崩してくれていた。
ビックリして私を見ている二人にヒラヒラと手を振る。
「わあっ凄いっ。僕の似顔絵が彫ってある火打石だ!」
「私の扇子には名前を入れてくれている」
三木ヱ門くんと三郎くんもそれぞれプレゼントを気に入ってくれたみたいだ。
ホッとした様子で顔を見合わせ合う保健委員さん。
「僕たちの家族にまでメッセージをもらいに行ってくれたんだね!家は遠いのに・・・ありがとう!」
続いて色紙も渡されて、伊作くんたちの顔はさらに嬉しそうに緩んでいく。
三木ヱ門くんには照星さんと虎若くんのお父様、昌義さんのボイスメッセージが流されて、三木ヱ門くんは狂喜乱舞していた。
やったな!というようにぐっと親指を立てて私を見た文ちゃんに私もぐっと親指を立ててニコッと笑う。佐武村まで行った甲斐があったね!
お誕生日会は自然とお開きになっていた。
祝われた忍たまたちは舞台から降りてみんなの輪の中に戻っていき、お礼を言ったり、「プレゼントよくみせて!」とねだられて自分がもらったプレゼントを友だちに見せたりしている。
図書委員さんと火薬委員さんがなんとなんとおつまみを作ってくれていて、それを食べながら私たちは談笑する。
楽しい誕生日会になって良かった。
成功したのはみんなのおかげだね。ありがとう、みんな。
一年生の輪の中で談笑していた私はふと顔を上げて周りを見渡し、みんなの頑張りを心の中で感謝したのだった――――――――
ホウ ホウ
どこかでフクロウが鳴いている。
『みんなそろそろ寝ようか』
「え~もうちょっとここにいたい~~」
『そんなこと言っても目がトロンとしちゃっているよ。ほら、おいで。一緒にお部屋に行こう』
ダダをこねるが眠そうな下級生たちを促して私たちは東坊に歩いていく。
今日はみんなこの古寺に泊まるのだ。僧侶たちの寝る場所であった東坊と西坊は広く、十分に忍術学園のみんなを収容することが出来る。
「ユキさん、ユキさん、寝る前にお話して」
『いいわよ。じゃあ、魔法のランプの話をしようか』
喜三太くんにねだられて、私は下級生たちに向けて話し出す。
昔々、シナの若者アラジンは――――――
スースーと規則正しい寝息が聞こえる東坊。
私はみんなの眠りを妨げぬようそっと立ち上がり、坊から出て行った。