第三章 可愛い子には楽をさせよ
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13.悩める心
「ユキちゃん」
「ユキさーーん」
『伊作くん、乱太郎くん』
放課後の廊下を歩いていたら伊作くんが中庭から声をかけてくれた。と思ったら消えた。穴に落ちたのだ。
『うわ~~大丈夫?』
「ハハ、いつものことだから」
「伊作先輩、手貸します」
『私の手も掴んで。引っ張り上げるよ。せーのっ』
「「えいっ」」
無事に穴から出てきた伊作くん。
『もしかして、春誕生日会についての話かな?』
穴から出てパタパタと自分の体を叩いて土を払う伊作くんに聞くと、乱太郎くんと揃って首を縦に振った。
「今から上級生分のプレゼントの買い出しに行くんだけど、ユキちゃんも一緒にいかない?」
と誘ってくれる伊作くんに即オーケー。
今日の放課後は何もない。他の委員会も順調に準備を進めているし、今日まで忙しく私の手伝いをしてくれていた学級委員長委員会には今日は休むように言ってあるのだ。
「よし、行こう!」
『「おーー!」』
私たちは小松田さんに外出届けを出していざ町へ。
下級生と先生方の誕生日プレゼントは既に購入してあるらしい。
そういうわけで、今日買うのは上級生で春誕生日会で祝われるメンバー、三木ヱ門くん、喜八郎くん、三郎くん、留三郎(伊作くんも祝われる側だが、乱太郎くん曰く既に用意してあるそう)の四人の分だ。
「みんなの誕生日プレゼント、何がいいかな?」
『参考に先生たちや下級生に何を買ったか教えてくれる?』
う~んと腕を組んで悩む伊作くんに聞いてみる。
「一年い組はお勉強が好きだから、黒門伝七には新しい筆を買いました」
と乱太郎くん。
「乱太郎と同じクラスの皆本金吾は刀の手入れに使える目釘抜を贈ることにしたよ」
『そうだね。買うならそれぞれが好きなもの、役に立つものを贈りたいよね』
「日常的に使えるものがいいよねって保健委員のみんなで話していたんです」
誕生日会が終わってからも、プレゼントを見て春誕生日会のことを思い出して楽しい気分になって欲しいという願いが込められているらしい。
「まずは四年生の分、三木ヱ門と喜八郎のプレゼントから決めようか」
うーん。と頭をひねる私たち。
パッと思いつくのはみんな同じ。三木ヱ門くんは大砲、喜八郎くんは穴掘り。
『それに関連する物を贈ろうか』
「そうだね。それがいい。もし、もう持っていても、普段から使うものなら換えがあってもいいと思うし」
「それなら綾部喜八郎先輩には手袋はどうでしょうか?」
「いいね、乱太郎」
『そうしよう!』
乱太郎くんの意見に私と伊作くんは笑顔で頷く。
穴掘りするときには手が痛くならないように喜八郎くんはいつも手袋をしている。
もし既に持っていたとしても、手袋なんて直ぐに古くなって破けてしまうから換えがあったほうがいい。
「それから田村三木ヱ門先輩には・・・・」
「火打石なんてどうだろう?」
乱太郎くんの言葉を引き継ぐように言う伊作くん。
火打石は大砲に着火するときに必ず必要なもの。これも凄くいいアイデアだと思う。
『後は三郎くんと留三郎だね。三郎くんは取り敢えず置いておいて、伊作くん、同室だし、留三郎の欲しそうなもの思いつく?』
「あっそういえば、足袋をもうすぐ買い換えなきゃって言ってたな」
「それでは食満先輩は足袋で決定ですね!」
『三郎くんは夏に向けて扇子はどうだろう?彼、暑がりだから重宝すると思うんだけど』
「いいと思います」
「うん!そうしよう」
買うものも決まったのでいざお買い物へと出発。
乱太郎くんを真ん中に挟んで私たちは町を歩き出す。
まず入ったのは小間物屋さんだ。
「足袋と扇子、手袋はここで買えそうだね」
ずらっと並んでいる品を見て伊作くんが言った。
『どれがいいかな~』
「扇子はこれなんかどうですか?」
乱太郎くんが手に取って広げているのは群青色の朝顔が描かれている扇子。
『うん。制服の色と同じだし、いい感じ』
「それに雰囲気も三郎っぽいね。扇子はこれにしよう。
それから足袋は・・・どれ買っても同じか」
あははと後ろに手をやって笑う伊作くんの横で考える。何か出来ることないかな―――――――あ!
『じゃあさ、私が足袋に刺繍するってのはどうかな?』
そうすればオリジナリティがでる。
「そうしてくれたら嬉しいけど・・・いいのかい?ユキちゃん、春誕生日会の準備忙しいでしょ?」
『まだ少し日はあるから、部分的な刺繍だったらする時間あるよ』
「食満先輩、喜んでくださると思います!」
『手袋にも刺繍するよ。手袋も、洒落たものは値段がはるから予算超えちゃうし』
おしゃれだな~と思うものはいつの時代場所でも吃驚するくらい高い。
私たちは黒くてシンプルな手袋を選んで他の品と一緒に購入をした。
刺繍は二人の顔と名前をポイント刺繍しよう。と頭の中で決めながら伊作くんがお会計を終えるのを待つ。
「お待たせ。次は火打石を買いに行こうか」
私たちは小間物屋を離れて火打石を売っている店を探すことにした。
『火打石ってどこで買うんだろう?』
「炊事場の用品を扱っているお店で見つかると思うよ」
伊作くんの言う通り、薪や調理器具と並んで火打石は売られていた。
とは言っても日常的に使うものだからこちらも足袋や手袋と同じく洒落た物などなく地味なものばかり。
『うーん。プレゼントにはちょっと地味、かな?』
「そうだね・・・・」
お店の前で私と伊作くんはううん。と唸りながら固まってしまう。
別のものにしたらいいだろうか?と考えていると、
「似顔絵を掘るのはどうでしょうか?」
と乱太郎くんが言った。
『似顔絵?』
「乱太郎は絵が得意なんだ。乱太郎に石に絵を書いてもらってミノで削れば良い贈り物になるよ!」
凄く良いアイデア。私たちはニコニコ嬉しくなりながら火打石のセットを購入した。
「なんだかあっという間だったね。もう少し時間がかかるかと思っていたけど」
三人揃えば文殊の知恵。とでも言うのだろうか。私たちが町に来てから小一時間も経たないうちに用事は住んでしまった。
「せっかくだから、どこかでお茶をしてから帰ろう」
「賛成でーすっ!あっ!しんべヱが前に教えてくれた美味しいお団子屋さんがあるんです。そこに行きませんか?」
『美味しいお団子屋さん行きたーーいっ』
私たちはお店屋さんを離れてお団子屋さんへと移動する。その道すがら・・・・
「あっ」
と乱太郎くんが叫んだ。
『どうしたの?』
「小間物屋さんで買った商品、さっきのお店に置いてきちゃいました」
と泣きそうになって乱太郎くん。
「直ぐに取りに行ってきます」
乱太郎くんはあっという間にかけて消えてしまった。
「あぁっ乱太郎、走ると危ないよって、もう見えなくなっちゃったや」
『どうしよっか。お店の場所は乱太郎くんしか知らないし・・・』
今私たちのいる場所はお店が密集している人通りの多い場所。ずっとここに立っているのも邪魔になってしまう。
「取り敢えず、この筋を外れようか」
『そうだね』
私たちはお店とお店の間の小道を通って、さっきいた通りと並行に通っている道にでた。
こちらの通りは、言い方は悪いがさっきの道よりも寂れた通り。
ここの通りでならぼんやり立っていても邪魔にならなさそう。
「ユキちゃんはこのあたりのお店を覗いていて。僕は乱太郎を探してここに連れてくるから」
『うん』
伊作くんにヒラヒラと手を振ってウィンドウショッピングを開始。
本通りから逸れた道はあまり入ったことがないから面白い。
私は熱心にお店の商品を見て回る。
『あそこに組紐屋さんがある』
老舗っぽい雰囲気のお店を見つけて通りを横断しようしていた私は
『っ!ごめんなさい・・・・っ!?』
通りを横切る時に男の人とぶつかってしまった。
瞬間、私はハッと胸元に手をやる。
スられた!!
『ま、待ちなさいっ!』
「やべっ気づかれたか!」
スられたのは自分の財布だった。私の顔色は今、真っ青だろう。
あのお財布の中には大事なものが入っていたのだ。
男の足は速い。だが、私だって負けてはいない。
忍術学園の下級生たちと遊びまわっている私の脚力はなかなかのものだ。
だが、もう少しで追いつける。と思った時だった。
ズザザザザ
『うっ』
私は足をひねらせて思い切り地面に転んでしまった。
『だ、ダメっ!待って!!』
あの中には家族との大事な・・・・
「コラッお前!盗んだものを返せっ」
『ふえ?』
大事なものを盗まれた痛さと地面に転んだ痛さで半泣きになっていた私の涙で歪んだ視界に、青年の姿がぼんやりと映る。
「ユキ、大丈夫か?」
『あれ?小平太くん?何故ここに??』
私の目の前に現れたのは小平太くん率いる体育委員会の姿だった。
「ユキさん大丈夫ですか!?」
「痛そうっ直ぐに手当しないと!」
私の足元を見て自分のことのように痛そうに顔を歪ませる金吾くんと四郎兵衞くん。
「はいっ。草履拾ってきました。履いてください」
「ありがとう。三之助くん」
倒れた拍子に脱げてしまった草履を拾ってきて私の足元に置いてくれる三之助くん。
「顔も少し擦り剥けてしまっています!ユキさんの美しい顔に許せませんね!!」
さっと手ぬぐいを私に差し出してくれる滝夜叉丸くん。
「ユキ、取り敢えずどこかに座って『私のお財布は!?』
興奮してしまっていた私は小平太くんの声に被せて叫んでしまった。
小平太くんはそんな私にやや驚きつつ「これだ」と私に差し出してくれる。
『よ、良かった~~~』
「わわっユキさんっ!」
ふにゃりと力が抜けた体を滝夜叉丸くんが支えてくれる。
良かったよぉ。うわ~~~~~ん!!
「すまん。スった男は咄嗟のことで捕まえられなくて」
『そんなのいいの。このお財布さえ戻ってきてくれたら。ありがとう、小平太くん』
「おおっ!?」
すまなそうに頭を掻いていた小平太くんの首に腕を回してぴょんと抱きつく。
本当に、これが戻ってきて良かった――――――
「ユキちゃん!」
「ユキさーーーーーん」
小平太くんの肩に顔をうずめながら、安心感から出てきそうになる涙を堪えていると、伊作くんと乱太郎くんが私の名を呼ぶ声が聞こえてきた。
私のところまで走ってきたふたりは、私の姿を見て大きく目を見開く。
「何があったんだい!?」
『スリにあっで。それで、追いかけてたら転んで、でも、ヒック小平太ぐんが、ひっく、捕まえてぐれて』
「よしよし。痛かったね」
『~~~~~っ』
私の頭をポンポンと2、3度撫でてから伊作くんは私のことをぎゅっと抱きしめてくれる。
痛かった。
無くさないように肌身離さずと思ってお財布に入れていたけど、今度からはもっと肌にくっつけておくようにしよう。
それにしても、私が泣いているのは安堵からなのか怪我の痛みなのからか・・・・
人って奴は一度泣き出してしまうと涙を抑えるのが難しいらしい。
止めようと思っているのに忍たま達の前で私はボロボロと涙をこぼしてしまう。
「どこか休めるところに移動しようか」
ようやく涙が落ち着いて顔を上げると、私の頬に伝う涙を指で拭いながら伊作くんが私に微笑んだ。
「さっき言っていたしんべヱおすすめのお団子屋がすぐ近くなんです。そこで水をもらってユキさんの怪我の治療もしましょう」
乱太郎くんが指差す方向にお団子の旗が揺れているのが見える。
「よし、ユキ!抱き上げるから私の首に掴まれ」
『えっいいよ、小平太くん。そこまでだし歩けるよ』
泣き顔まで見られているのに恥ずかしいもん!
そういうが、私の足はひゅうっと宙に浮く。
「私がユキを抱っこしたいのだ!」
パッと私を横抱きする小平太くん。
彼は私を見てニコッといつもの太陽のような笑みを私に向けてくれた。
『~~っ!・・・ありがとう』
この笑顔に、どうも私は弱いんだよね。
私は顔が赤くなったのがバレないように俯いて、小平太くんによってしんべヱくんおすすめのお団子屋さんまで運んでもらう。
「おばちゃーーん。お団子八人分!!」
「あいよー。あらあら!この子は怪我しているじゃないか。今水持ってきたげるからね」
『ありがとうございます』
私の怪我を見ておばちゃんが桶に水を持ってきてくれた。
「ユキちゃん、ちょっと滲みるけど我慢してね」
『うん―――っ痛』
私は膝、腕、顔と擦りむいていた。保健委員の伊作くんと乱太郎くんが私の傷口を洗い、傷薬を塗って包帯を巻いてくれる。
「これでよし、かな」
『ありがとう、伊作くん、乱太郎くん』
「顔の傷は浅いから放っておいても大丈夫だけど、足と腕は薬を塗り直したほうがいいから明日保険室に行って新野先生に見てもらってね」
『了解です』
ケガの治療が終わったちょうどくらいにおばちゃんがお団子を運んできてくれた。
みんなで頂きますをしてお団子をパクリと口の中へ運ぶ。
おいふぃーーーーーいっ!!
甘いものが疲れを取ってくれるというのは本当だ。
疲れがじんわり取れていく。
『そういえば、どうして体育委員さんたちは町へ?』
「私たちは春誕生日会でするゲームの材料を買いにきたのだ」
小平太くんの視線の先を追うと、滝夜叉丸くん、三之助くんの横に大きな模造紙や風呂敷で包まれた荷物があった。
「偶然だね。僕たちも春誕生日会のプレゼントを買いに町に来ていたんだ」
『素敵なプレゼントが買えたよ』
「それはよかったな!私たちも良い買い物が出来た。春誕生日会のゲーム、楽しみにしていてくれ」
微笑み合い、春誕生日会に思いを馳せる私たちは、お団子を美味しく食べて仲良く帰路についたのだった。
***
痛たた。やっぱりお風呂は滲みたな~。
一年は組のみんなとお風呂に入り、私はみんなと一緒に長屋へと向かっていた。もう寝る時間だ。
「ユキさんっユキさんっ!」
「今日は僕たちと一緒だよね!覚えてる?」
『もちろん覚えているよ、団蔵くん、虎若くん』
ふたりの頭を撫でながらそう言うと、ふたりは嬉しそうに笑って、「布団とってくるー」と廊下を走っていった。
周りのみんなも釣られてか、わーっと一斉に駆け出していく。
「こらこら廊下を走るんじゃない!あぶないぞっ」
夜だから足元に気をつけて!と私が言う前に後ろから声が飛んできた。半助さんだ。
「は組と一緒にお風呂だったのかい?」
『はい。後は寝るだけです』
なんだか、半助さんとこうやって話すのは久しぶりな気がする。
もちろん毎日顔を合わせているし、顔が合えば挨拶もする。
でも、こうやって立ち止まって、お互い顔を合わせて話すのは久しぶりな気がしたのだ。
「どうしたんだい?私の顔に何かついてる?」
『いえいえ。こうやってゆっくり話すの久しぶりな気がして』
「あぁ、そう言えばそうだね」
なんだろう、この閉塞感は
なんだろう、この胸のくるしさは
――――気になるなら言っちゃえば?「私のことはもうどーでもいいんですか」って。もしくは、グーで殴ってやれっアハハハハハハ
急にお酒を飲みながら照ちゃんに相談した時に彼女から土井先生についてこうアドバイスされたことを思い出して吹き出してしまう。
「ユキ?」
『すみません。思い出し笑いを』
「私に関すること?」
『察しがいいですね。さすが忍者です』
「気になるな。何を思って笑ったんだい?」
『半助さんは私のどこが好きだったんですか?』
口からポロリと出た言葉。
しかし、ポロリと出たのは言葉だけではなかった。
「え・・・・え、えぇっ!?ユキ!?!?」
ポロリと一粒零れおちてしまった涙を拭って半助さんから顔を背ける。
ずっと気になっていたのだ。半助さんが告白してくれた日から私たちの間には微妙な距離が出来てしまっていることを。
彼が私をどう扱っていいのか決めかねている態度にも悲しさを募らせてきた。
彼の気持ちを知らない時のように私も振る舞えていない。
私にも距離を作っている原因がある。
でも、どうしたらいいの?
どうやったら前のように接することができるのだろう?
お互いに気を遣い合うこの関係が嫌だ。もっと素直に、半助さんとの会話を楽しみたい。
でも、どうしたら??
『急にごめんなさい。泣いたり笑ったり、変な奴ですね、私。さっきのは忘れてください。失礼します』
私は何と言ったらいいのか分からず、逃げるようにその場から走って逃げてしまった。
こんなの卑怯だ。半助さんを困らせるだけ困らせて私ってやつは酷い奴だ。
それでも、あれ以上あの場に留まるのは気持ち的に出来なかった。
半助さんが追いかけてくる気配はない。きっと呆然としてあそこにいるのだろう。申し訳ない・・・・
「うわっユキさん!?」
『あっごめん』
走って廊下を進んでいたら部屋から出てきたきりちゃんとぶつかりそうになってしまった。
「そんなに慌ててどうしたの?というか遅かったね」
『途中で半助さんに会ってね。ちょっと世間話を・・』
「ずいぶん深刻そうな世間話をしたんだね」
自分の眉間を指差すきりちゃんを見て自分の顔が強ばっていたことに気がついた。ホントに察しがいい子だな、もう。
「土井先生と何かあったの?」
『きりちゃんに隠し事は出来ないなぁ』
私はきりちゃんと目線を合わせるために廊下に膝立ちになりながら、はーーっとため息をつく。
「わかるよ。前はもっと打ち解けた感じだったのに、最近のユキさんと土井先生、どっか二人共緊張してるもん」
凄い洞察力だ。きりちゃんは良い忍者になれること間違いなしだ。と私は言い当てられて苦笑しながら自分の頭の後ろを掻いた。
『前みたいな雰囲気と関係に戻りたいのにその方法が思い浮かばなくて』
「それってお互いにお互いを意識しているからでしょ?」
『きりちゃんのおませさん』
ニシシと両手を頭の後ろに回して笑うきりちゃんの頬をきゅぅと引っ張って私の方は力なく笑う。
しかし、今日はこのこと考えちゃうだろうから眠れないだろうな。明日は夜勤日なのに。
本当に、どうしたものか・・・そう考えていると、
「僕に任せてよ」
『へ?』
「僕と」
「「「「「「「「「「一年は組の僕たちに!!」」」」」」」」」」
スパッ スパッ スパーーーン
長屋中の扉が開いた。
うわっ!と驚きの声を上げる私の周りにわーっと一年は組の良い子たちが駆け寄ってくる。
「僕たちが土井先生とユキさんの仲が戻るようにどうにかします!」
と頼もしく胸を叩く庄ちゃん。
「ユキさん。スマイル、スマーイル!そんな顔していたら運が逃げちゃうよ。僕みたいに笑って、笑って!」
可愛い笑顔の三次郎くんが自分の両頬に人差し指を当てて私に笑いかけてくれる。
「ユキさんが寂しい顔していると、僕たちも寂しくなるよ」
と伊助くんが言ってくれ、
「笑いが足りなかったらくすぐりカラクリ作ってあげようか?」
とニーっと笑って兵太夫くんが言う。
「ユキさん最近眠れていますか?」
心配そうに言う乱太郎くんに、
「眠れないときはホットミルクがいいってパパが言ってたよ」
としんべヱくん。
「今日は僕たちがかわりばんこにお話してあげるよ。ね、虎若」
「うん、団蔵」
私は団蔵くんと虎若くんの手をかりて立ち上がる。
「ユキさんに僕の元気を分けてあげるっ。ぎゅーーー」
「あっずるい。僕も、僕もー」
私の腰にぎゅっと抱きついてきてくれる喜三太くんと金吾くん。
『みんな・・・』
なんて優しくて良い子なんだろう。
みんなにぎゅうぎゅうと抱きつかれる私の目には涙が滲んでいた。