第三章 可愛い子には楽をさせよ
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9.アプローチ
無事に酒豪選手権大会で優勝し、賞金を手に入れた私は約束通りきりちゃんと賞金を分け分けし、自室で春誕生日会“私の手伝い係(という名の何でも係)”の三郎くんに足りない予算を賞金で補えるか計算してもらっていた。
私の部屋でパチパチパチとそろばんを弾く三郎くんは、うん。と頷いて私にニッと笑う。
「足りなかった予算、この賞金で十分補えるぞ!」
『よ、良かった~~』
三郎くんに計算してもらった結果、私のミスで足りなくなっていた春誕生日会の予算は酒豪選手権大会の賞金で補えるという事だった。
安堵から力が抜けて後ろにひっくり返ってゴロンと床の上に寝転がる。
これで計画通り誕生日会の準備を進められそう。一安心だ。
「・・・・おい、ユキ。私の前でその格好。襲われたいのか?」
春誕生日会の準備、何から手を付けようか。と天井を眺めながら考えていると三郎くんのお顔がズイっと視界に現れた。
『安堵からつい気を抜いちゃっていたよ。これは失礼』
足を振り子のようにグンッと振って勢いをつけて起き上がる。
「ちぇっ。つまんねぇ」
『うん?』
「お前ってこういう時、けっこう冷静だよな」
なぜか不満顔の三郎くんに首を傾げて見せると三郎くんはつまらなそうにそう言った。
イマイチ要領を得られず、さらに首を傾げる私。
『こういう時って??』
「うぅ~~~っ。こういう時ってのはこういう時!うまく説明できねぇよ。そんなの」
むすっとした顔でそっぽを向いてしまう三郎くん。
ううむ。彼の気持ちが理解できん。まあいいか。放っておこう。三郎くんだしね!
横でぶーたれている三郎くんを放っておいて私は考える。
「雪野が計算を間違えて春誕生日会の予算が大変な事になっているらしい」という話が学園全体に流れてしまっている件をどうすべきか。
酒豪選手権大会で賞金は得たものの、このお金の出処をあれこれ詮索されて私が大会に出たことがバレてしまっては困るのだ。
相手は忍たま&くノたま。よくよく考えて良い言い訳を考えねばならぬ。
タタタタタッ
机に向かってしょうもない言い訳を紙に書き連ねていると廊下を誰かが走ってくる音が聞こえてきた。
この小さな足音は下級生かな?
そう思っていると小さな足音は私の部屋の前で止まった。
「ユキさーーん。いらっしゃいますか?」
乱太郎くんだ。私がシュッと戸を開けると可愛い笑顔が私の目に飛び込んでくる。あぁ癒されるっ。
『どうしたの?』
「うん。あのね。ユキさんときり丸に荷物が届いたんだ」
『私ときりちゃんに?』
廊下を見れば、きりちゃん、しんべヱくんが小包を持って廊下を渡ってきていた。乱太郎くんに視線を戻せば彼の手にも小包。
『随分多いね』
「ほとんどユキさん宛なんだよ」
『え?そうなの?』
こんなにたくさん???
これから他の人のところに配りに行くものだと思っていたから面食らう。
この世界にはまだまだ知り合いが少ない私。
いったい誰からの届け物だろう?
沢山の葛篭や風呂敷包み。乱太郎くんたちも含めて届けられた荷物を中心に円になっている私たち。
私はまず、宛先がきりちゃんと私の連名になっている葛篭を手にとった。差出人はというと・・・
『諸泉尊奈門さん』
「んなっ。あいつか!!爆破するっ」
隣の三郎くんが叫んだ。
きりちゃんが荷物を守るために三郎くんに飛びかかった。
ナイスきりちゃん!
「鉢屋三郎先輩!これは僕が“もらった”ものなんです。いくら先輩と言えども、“僕のもの”に手出しをしようとしたら許しませんからね」
ガルルと箱を抱き抱えながら三郎くんを威嚇しているきりちゃん。
うん。きりちゃんって何をしていてもかわゆいわ~。
「悪かった。悪かったよ、きり丸。ちょっとユキに色目を使う男にイラっとしてしまって、つい頭に血が上ってしまったんだ」
肩をすくめる三郎くん
「「色目って??」」
首をかしげる乱太郎くん&しんべヱくん
『さっそく葛篭を開けてみようか!』
私は純真無垢な瞳をパチパチさせて乱太郎くん、しんべヱくんが首を傾げたのを見て慌てて言った。
チラと三郎くんを見たら反省した顔をしていた。うん。反省しろ。
下級生の美しい心を汚してはならない。は、私たち忍術学園の上級生&大人の暗黙の約束事なのです。
「ねえねえ。僕が開けてもいい?」
『いいよ。開けてみせて』
ワクワクした顔をして私の上衣を引くきりちゃんにコクリと頷くと、きりちゃんは期待に満ち溢れた顔で荷を開きだした。
プレゼントを開けるときってワクワクドキドキするよね。
私もクリスマスの時のように胸をときめかせながらきりちゃんが荷物を開封するのを見つめる。
葛篭を開け、風呂敷を解いて出てきたのは―――――
「衣だ!!」
『わあ。素敵な色』
嬉しさにぴょんと立ち上がったきりちゃんが持っているのは上下セットの衣だった。
白藍色の上衣には小さな風ぐるまの刺繍が散らばっている。下衣は萌黄色。
これからの季節にピッタリな涼しげなコーディネートの上下の衣。
「ここにお手紙が入っているよ」
乱太郎くんが葛篭の中にあった手紙に気づいてくれて私に渡してくれた。
「ユキさん、読んで!」
『うん!』
―――――ユキさん、きり丸くん
命の恩人である君たちに、先日再び会うことが出来た事をとても嬉しく思っている。
ささやかだが、あの時の感謝を込めてお礼を贈らせてもらった。
よかったら使ってくれ。また二人に会える日を楽しみにしている。
諸泉 尊奈門
――――――――――
『だって』
手紙を折りたたんでニコリときりちゃんに微笑む。
「きりちゃん良かったね」
「いいなー。僕もプレゼント欲しい!お饅頭とか!!」
わいわい騒ぐ三人に目を細めながら私は葛篭に入っていた薄桃色の風呂敷を取り出す。
「そっちがユキのだな。ここに名札がある」
三郎くんの指さす先を見ると、風呂敷の結び目の間に私の名前が書かれた紙が挟まっていていた。
私がするすると風呂敷を解いていくと・・・
『凄い!』
思わず感嘆の声を漏らしてしまう。中に入っていたのは優しげな珊瑚色の衣とくちなし色をした帯だった。
衣に織られている刺繍がこれまた見事で、貝殻や可愛らしい小さな魚たちが刺繍されていた。
『素敵・・・』
袖を通して前襟を合わせて自分の姿を見てみる。
私には勿体無いくらい素敵な衣で、私は尊奈門さんに感謝しながら幸せで顔をほころばせる。
『えへへ。どうかな?』
「かわいい!」
「ユキさん素敵だよ!」
「いいかんじ!」
調子に乗ってその場でクルンと一回転しながら聞くとしんべヱくん、乱太郎くん、きりちゃんは口々にそう褒めてくれた。
『夏になったらこの衣を来て夏祭りにいきたいなぁ。きりちゃん、一緒に行こうよ』
「うん!」
「私も行きたい!」
「僕も~。屋台でおいしいものいっぱいたべたいなぁ」
『もちろん。みんなで一緒に行こうね』
指切りげんまん。四人で指を絡めて夏祭りの約束をしているとヘムヘムが鳴らす鐘の音が聞こえてきた。
「夕御飯の時間だ!」
「待って、しんべヱ!」
飛び出していったしんべヱくんを追いかけようとした乱太郎くんだったが、部屋の出口で立ち止まった。
「ユキさん、鉢屋先輩。良かったらお夕飯ご一緒にいかがですか?」
優しい。そしてかわいい。
一緒にご飯を食べたい。だが、私の足元にはまだ荷物がたくさん。
『ごめんね乱太郎くん。私は届いた荷物の中身を確認して、お片付けしてから行きたいから先に食べていて』
ごめんね、と両手を合わせながら乱太郎くんに言う。
「私はまだそんなに腹が減っていないから、後にする。誘ってくれてありがとな、乱太郎」
三郎くんももう少し後から食べることにしたようだ。悪いな、と言って乱太郎くんの誘いを断った。
「分かりました!きりちゃん行こう」
「うん。この衣、部屋に片付けたらすぐ行くから。俺の分の席も取っておいて」
「了解!」
足取り軽く私の部屋から出ていく乱太郎くんときりちゃん。
私は部屋に残っている三郎くんの方を見た。
動かない。
???
『??三郎くんは部屋に戻らないの?』
「ここにいちゃ悪いか?」
何故か三郎くんが少しむっとした表情で言った。
『いや。全然悪くないけど・・・暇じゃない?』
人の片付けを見ていてもつまらないだろうと思って言うが、三郎くんは帰る気はないらしい。
「暇だからここにいるんだ。退屈しのぎにこうしてユキを見るのは楽しいからな」
ニシシと笑う三郎くん。
『おいおい』
壁に寄りかかって私を眺めている三郎くんに苦笑しながら私はまだ残っている荷物に目を向けた。
あずき色の風呂敷に包まれている荷物を手に取り、開けてみる。
風呂敷をあけると直ぐに出てきたのは文だ。
「それは誰からだ?」
手紙を開いていると三郎くんが聞いてきた。
『魔界之小路先生からだって。この前貸した傘と、ちょっとした贈り物をいれてあります。だって』
ふうん。と相槌を打つ三郎くんから手紙に視線を戻す。
少し前、魔界之小路先生に折りたたみ傘をお貸しした事があった私。
手紙には本当は直接返しに来たかったのだが、授業と任務で忙しくいつ返しに行けるかわからないので飛脚便で送らせて頂きました。と書いてあった。
そこまで読んで、中身が気になって我慢できなくなり、手紙を横に置く。
私がワクワクしながら葛篭の中を開けると中に入っていたのは・・・
『??寒天???』
中には乾燥した寒天が入っていた。
いや、寒天美味しいから嬉しいけれども・・・
なぜ寒天なんだ!?と思っていると隣から三郎くんの声。
「ぶっ。魔界之小路先生、どうやら注文間違いしたようだ」
と笑いながら先ほど私が読みかけで置いてしまった手紙を渡してくれた。
―――ユキさんすみません。通販で素敵な簪があったのでそれをあなたに贈ろうと思ったのですが、注文の時に間違ってしまったらしく、寒天が届いてしまいました。贈りたかったものとは違いますが、宜しければ食べてください 敬具 ――――――
『追伸、ちゃんと簪もあなたに贈りたいので、宜しければ今度街に二人で出かけませんか?お返事お待ちしております・・・わーお!』
デートのお誘いキターーーーー!!
思わずガッツポーズである。
魔界之小路先生と初めて会ったときは忍たまたちの臨時授業について、二回目に会った時は私がドクタケに拉致されたことに関してしか話せていなかった。
今度会ったときは個人的な話、趣味とか、彼自身のこととか、仕事以外のことを話したいなと思っていたんだよね。
『っ!?むに~~~~!?!?』
「ユキのばか」
『!?ば、ばかってらによ」
嬉しいお誘いに自然と顔をほころばせていると、両頬を三郎くんにむに~~っと引っ張られた。なんで!?
『な、なにふゅんろよーー』
「フン。べっつにー」
パチンと離された頬をさすりながら三郎くんを軽く睨みつける。
この子は一体何がしたいのか・・・
あ、わかった!今日はあれか、情緒不安定な日か。なるほど。って女子かよッ!!
と、一人心の中でノリツッコミをしていると、「さっさと次の包を開けたらどうだ?」と腕を組みながら三郎くんに言われた。
本当にどうしたよ・・・・
しかし、理由も思い浮かばないので彼の言う通り次の包に手を伸ばす。
差出人名 山 賊
「おっ。ユキの子分からじゃないかっ」
ん?ちょっと機嫌なおった??
弾んだ声の三郎くんに目を瞬きながら私は風呂敷を解く。入っていたのは長い棒。ではなく、
『刀・・・・』
「だな」
半眼になって刀を見つめる私の横で三郎くんが苦笑した。
刀とともに入っていた手紙を読んでみる。
――――先日入った貴族の屋敷から盗んだ刀です。床の間に大事そうに飾ってあったので値の張るもんだと思いやすが―――――
『やっぱり盗品かいっ!あんの馬鹿どもがッ』
手紙を左右に引っ張って引きちぎってやった。
盗品贈るとか何考えてるんだよ、あのバカん賊どもガアアアァ。
「まあまあ。落ち着けって」
『落ち着けないよっ。だってこれ盗品だよ?あわわわわ。私もしかして、この世界の警察的な組織に捕まっちゃうのでは?』
「しっかし、この刀。いい刀だなー」
『ああんもうっ他人事だと思いやがって!!』
山賊からの手紙を丸めて三郎くんに投げたら三郎くんは盗品刀で紙くずを真っ二つに切った。お見事!!(ぉぃ私)
『う~~~しかし、この刀どうしよう』
「もらっておけよ」
『あっさり言うね』
私の言葉に肩をすくめる三郎くん。
鉢屋三郎、他人事だと思って適当な奴である。
そんな事を思っていると三郎くんが急にポンと手を打った。
『どうした?』
「ユキ!いい事思いついてやったぞ」
三郎くんのドヤ顔に不安しかわいてこない。
聞くべきか、聞かざるべきか・・・いや、どうせ聞くことになるのだから聞いてみよう。
恐る恐る、思いついたことを聞いてみると・・・・
「ユキが酒豪選手権大会で獲得した賞金は、この山賊たちから巻き上げたって事にすればい『よかないわッ』
アホか!!
ゲシッと足であぐらをかいていた三郎くんの足を蹴ってやる。
聞く前からロクでもない思いつきだろうと思っていたが大当たりだ。こんな噂を流されてしまっては大変。
みんなが残念そうな目をしながら私に苦笑いを向ける様が目に浮かぶ。
『ハアァ。兎に角、どうするにしてもこの刀については山賊たちに聞いてみないといけないね。それから、賞金の出処についても良い言い訳を早急に考えないと』
山積みな問題にふーっと息を吐き出しながら山賊からもらった手紙を拾い上げ、広げて皺を伸ばす。
山賊たちはご丁寧にも自分たちのアジトが書かれた地図を同封してくれていた。こんな大事な情報私に教えちゃっていいのか?
奴らは山賊に向いてないと思う。
取り敢えず、この刀については落ち着いたら山賊のアジトに行って(もちろん忍たまの誰かに付き添ってもらって)どうするか決めるとして、最後に残った文を見てみよう。
私に届いたものは、尊奈門くんからの衣、魔界之小路先生からの寒天、山賊たちからの刀。そして今手元に有る一通のお手紙。
包み紙?を外して本文が書いてある手紙を取り出し読んでいく。
あ・・・このお手紙って・・・・
トク トク トク
鼓動が優しく鳴っているのが分かる。
私が目尻を下げて読んでいるのは利吉さんからの手紙だった。
来週末のユキさんとのお出かけ、今から楽しみにしております―――――
山田 利吉
「お前、利吉さんともデートするのか?」
『ぴぎゃあっ!?』
突然耳元で聞こえた声に私の口から変な叫び声が漏れる。
いつのまにか私の背後に移動していた三郎くん。ビックリするわ!
『ちょ、ちょっと!人の手紙のぞき見しないでよね』
慌てて胸に手紙を押し付ける私の前では、むすっとした顔で私を見る三郎くんがいる。
彼はさっきからどうしてこんな顔ばかりするのだろう?
『さっきから何なのよ』
理不尽さを感じてトゲっとした声を出してしまう。すると、三郎くんはパッと俯いてしまった。
あ・・・しまった。ちょっとキツく言いすぎた?
ごめん。と謝ろうと俯く三郎くんの顔を覗き込もうとした私だったが、言葉を出そうとしていた口を閉じた。
彼の口から聞こえてきた小さなボソボソという声。
「・・・・い。・・・だって・・・」
余りにも声が小さすぎて聞こえない。
『ごめん。ちょっと聞こえないか「だ、だからさ!」
聞こえずに眉を寄せているとダンっと三郎くんが勢いよく立ち上がった。
突然の動きにぽかんと三郎くんを見上げた私は彼の言葉に大きく目を見開くことになる。
『三郎くんどうし』
「お、俺だってユキとデートしたい!!」
私の言葉にかぶせるように、叫ぶように言う三郎くん。
真っ赤な顔で見下ろされる彼の前で、
私は真っ赤な顔で彼を見上げる。
『三郎くん・・・』
「ダメか?ユキ」
『ダメなわけないじゃない!』
私はもちろん、と満面の笑みで笑う。
『一緒に出かけよう。楽しみだよ!』と言葉を足して。
いたずら好きな三郎くんは、自分の感情にストレートに見えてどこか本心を隠しているような、そんな底知れぬ雰囲気があった。
でも今は、彼の生の心がダイレクトに心に感じられた。
私はそれがとてもとても嬉しくて、感動したと言ってもいいような胸の熱さを感じていた。
『どこに行こうか・・・』
「どこに行きたい?」
『そうだなぁ。うどん屋、団子屋、あ!しんべヱくんが美味しい甘味処ができたって言ってたからそこもいいかも』
「ぷっ。全部食物屋ばっかじゃないか」
顔を見合わせて二人で笑い合う。
先程までの表情とは一転して、今の三郎くんの顔はニコニコ笑顔に変わっていたのだった。
***
三郎くんが部屋から去り、荷物の片付けをした私は今食堂へと向かっている。
尊奈門くん、魔界之小路先生、山賊は置いておいて、利吉さんからのお手紙。
どれもすごく嬉しかった。
すごく嬉しかったのだけど・・・・
さっきから私の頭の中には半助さんの顔が浮かんでは消えている。
うぬぼれでおこがましいのは分かっているのだが、半助さんからのアプローチは私に告白してくれて以降何もない。
半助さんと私は付き合っていない。
だから、他の方からこうやってプレゼントを貰ったり、デートに誘ってもらうことは、何にもやましいことはない。
はずなのだけれど・・・・何だろう?この胸にあるしこりは・・・
なんとなく、今の状態が半助さんに対して悪いことをしているような気分になっているんだよねぇ。
食堂に向かいながらハアァとため息を吐いていると、私の耳に賑やかな声が聞こえてきた。
ビックリして立ち止まる。
何だろう?と思って耳を澄ませていると―――――
「どこんじょ~~」
「違うぞッ北石!!もっと大きな声で!ド根性―――――!!!」
「どっ、ド根性――――――!!!!」
あの声は雅之助さん?
それからくノたまちゃんだろうか、女の子の声もする。
一体何をしているのだろう?と思いながら食堂に入った私は唖然として入口で立ち尽くした。
「いいぞ北石!その調子だっ。ワシの野菜を食べれば嫌なことなど吹っ飛んでいくぞっ。がははははは」
「うっえぐっ。大木しぇんしぇい、そんな気がしばふぅ~~」
わぁお。
食堂に入ったら女の子が野菜の丸かじりショーをしていました。(ちなみに、彼女はくのたまちゃんではなかった)
凄いです。旬のお野菜、人参、じゃがいも、青梗菜、はてはごぼうまでまるかじりしております。歯強いなッ
ばりばりボリボリ食べている彼女に何があったのでしょう?
「!?」
『!!』
衝撃を受けながら北石さんと呼ばれる彼女を見つめていたら、顔を上げた彼女と視線が合ってしまった。
うわっ。じっと見てて失礼だったよね。どうしよう。
恥ずかしそうに頬を赤らめさせたその子に申し訳ないと思いつつ、私は無視も出来ないので、思い切ってその子に話しかけてみることに。
『こ、こんばんは』
「こ、こんばんは・・・」
お互い微妙な雰囲気の中挨拶していると、雅之助さんが私の存在に気がついてくれた。
ニッと笑っていつものように私の頭をガシガシと撫でてくれる。
「おぉ!ユキじゃないか。今から晩飯か?」
『そうです。ええと、珍しいですね、雅之助さん。こんな時間に忍術学園にいらっしゃるなんて』
微妙な空気を破れてこれ幸いとばかりに雅之助さんに話しかける。
「あぁ。家におったらワシがまだ教師だった頃に教育実習生として来た北石がやってきてな。色々話を聞いているうちに、学園長先生に話に行ったほうが早いということになって一緒についてきたんだ」
と、ざっくりここにいる訳を話してくれた雅之助さんに手招きされて二人が座っているテーブルへと近寄る。どうやら北石さんを紹介してくださいるみたい。
「北石、こっちは最近入ったばかりの忍術学園の事務員、雪野ユキだ。で、ユキ。こっちは北石照代。ワシの教え子だった生徒でここで教育実習生をしていた」
「「よろしくおねがいします」」
二人同時にぺこりと頭を下げていると雅之助さんから呆れた声。
「おいおい。二人共硬すぎるだろ。お前たち二人、年齢も似たようなものなんだからもっと砕けて話したらどうなんだ?」
雅之助さんに言われて私と北石さんは見つめ合った。
確かに、年齢も雅之助さんが言うように似たような年齢。
それに・・・・
『あの、良かったら一緒のテーブルに座っていいかな?』
「うん!もちろん」
私たち、なんだか気が合いそうな予感。
北石さんもそう思ってくれていたみたいで、初めはおずおずと話していた私たちだが、一緒に夕食を食べながら話すうちにすっかり意気投合。
『ねえねえ照ちゃん。明日予定なかったら今から私の部屋で飲みながら話さない?』
「話すーー!ここじゃ話せないことまだまだいっぱいあるもん。あ、大木先生はどうなさいます?」
「あー、いやワシは明日の朝一で村の会合があるからな。参加したいが帰らにゃならん」
「えーー残念。今から大人の禁断トークが始まるのに」
「北石、お前まだシラフだよな・・・・」
女子強し。
独特の女子のノリに若干引きつつ雅之助さんは杭瀬村へと帰っていった。
『それじゃあ照ちゃん。私の部屋にレッツゴー!』
「れっつごー!(れつご?よく分かんないけど合わせとけ!)」
私の部屋へと向かう私と照ちゃん。
食堂では私がここにいる経緯(ビックリしていたけど信じてくれたみたい)。それから照ちゃんが雅之助さんに相談していた就職のお話をした。
なんと照代ちゃんは本物のくノ一さん!忍術学園を卒業してから派遣で忍者のお仕事をしている。城付きの忍者になりたい照代ちゃん。でも、なかなか忍者の就職も厳しいらしくて今日は雅之助さん、学園長先生に相談しに来たという事だった。
こういった“まとも”な話をした食堂での会話。
打って変わって私の部屋での女子トークと言えば・・・・
「最っ低なのよあいつ!浮気を問い詰めたら、俺たちは忍者だぜ?騙されるほうが悪いだろ。とか言ったのよ!」
『そいつクズだわ。クズすぎる!浮気男なんて二度と浮気できないようにピー(放送禁止用語)されちまえばいいのよッ』
「ぎゃはははは。ユキちゃんったら言うーーー」
絶対に良い子な一年生、否、上級生にも聞かせられたいような単語を連発しながら下品で楽しい女子トークを楽しんでいた。
『てるちゃんってさぁお酒強いよれぇ』
「ユキもれぇ~あひゃひゃひゃひゃ」
夜酒に毎日飲んでいる一升瓶入りの梅酒を2本丸々開け、イカゲソを噛み噛みしながら脳みそを使わないでお喋りする幸せ。女子会最高!
照ちゃんは明日の予定がないということなので私の部屋にこのままお泊り。だから時間を気にする必要はない。
良い感じにお酒が回っている私たち。
「そういえばさ、ユキは好きな人とかいないわけ?こっちの世界に来てもう二ヶ月近くでしょ?毎日年頃男子に囲まれているんだしさ。気になる人とかいないの?」
めんどくさがっている照ちゃんが座ったまま押入れから布団を引っ張り出そうとしているのを見ながら私は唸る。
あのままじゃ照ちゃんの上に布団が雪崩のように落ちてくるな。
というのは置いておいて(いいのか?)
『さすがにまだ二ヶ月だもん。恋愛したいと思う人は見つからないよ。どの子もいい人だなーって思うけど、思うんだけどさぁあああああ』
「!?!?いきなりどうしたのよ!?」
突然ぐしゃぐしゃと頭をかきむしる私に照ちゃんが叫んだ。
ポンと私の頭に出てきたことは忍たまのことだ。
最近、忍たまに対してドキドキしてしまうことが多々ある。
でも私は事務員。彼らは生徒。恋愛関係にはなってはいけない関係だ。
今までこんなことを相談できる人はいなかったから、自分の胸の内に秘めていたのだが、最近この問題が私の心の中でどんどんと大きくなっていると感じていたのだ。
この問題が頭の中で大きくなりすぎて頭がパンクし、先ほどのように奇声を発してしまった私。
今日だって三郎くんにデートに誘われたしな・・・
私の頭は難しい問題で沸騰中。私はこれ以上自分で考えても答えはでないと思い、照ちゃんに聞いてみることにした。
『どう思う?照ちゃん』
深呼吸して心を落ち着けながら聞いてみる。
『忍たまとの恋愛ってありだと思う?』
すると、
「え?私はいいと思うけど。忍たまとの恋愛」
と、あっさり照ちゃんは言って、布団の雪崩に押しつぶされて目前から消えた。
「イタタタタ」
『大丈夫?』
「うん。へーき。それよりさ、さっきの話よ」
体の上から布団をどけて、その上にゴロンと横になりながら照ちゃんは言う。
「ユキがいた世界はどうか知らないけど、私たちの世界では十五歳が成人。成人と同時に嫁を貰う男子は多いし、女子なんか十三歳から十五歳の間に結婚するのよ?」
『え?まじで?じゃあ私既に行き遅れてるじゃん』
「・・・その話は今は置いておこう。私も悲しくなるから。ゴホンッ。で、話を戻すとさ・・・」
忍たまとはいえ六年生は既に大人。四年生も、五年生も半分既に大人に足を突っ込んでいるもの。
「彼らは自分の奥さんになる人、真剣に探しているんだよ。ユキ、確かに彼らは学生だし、忍者の三禁にもある通り学業を疎かにして恋愛に溺れるのは御法度。でも、彼らの真剣な気持ちを受け止めてあげないのも、私はどうかと思うよ」
『照ちゃん・・・・』
真面目な顔で私にそう告げる照代ちゃん。
彼らの真剣な気持ち、か
その言葉がずんと私の胸に響いた。
前の世界の基準で、この世界の子供たちを見ちゃいけないのかも。
彼らは卒業と同時に自立していく大人。
結婚適齢期を前にしている彼らは真剣に自分の伴侶を探しているのかもしれない。
そうだったら、私も彼らの気持ちに対して、ちゃんと向き合わないと・・・
『ありがとう、照ちゃん。もし、忍たまとそういう事になりそうになったら、その時は真剣に考えてみるよ』
「ふふ。その時は報告よろしくね」
『うん。頼りにしてる』
「この恋愛マスター北石照代になんでも聞いてちょうだいなっ」
どーんと胸を張る照ちゃん。
彼女にもう少し甘えさせてもらおうかな。
『あのね、もうひとつだけ相談に乗ってもらってもいいかな?』
心に引っかかっている半助さんのこと。
彼に対してどう接していくべきか分からなくなっていた私は、照代ちゃんの力を借りるべく、ごくりと手元の梅酒を一口飲んでから口を開いたのだった。