第三章 可愛い子には楽をさせよ
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4.三人の協力者
小雨が降る朝。
愛狼のモンちゃんとの散歩をし終えた私は
モンを小屋に戻して丘を下っていた。
ちなみに八左ヱ門くんは昨晩から実技授業を
受けているのでいない。ちょっと寂しい。
ピシャピシャと足元で泥が跳ねる音。
『げっ。凄いことになってるじゃん』
ふと下を見た私の顔が引き攣る。
泥道を歩いていたモンちゃんにじゃれつかれて私の服はドロドロになっていた。うわー気づかなかった。
このまま屋内に入ったらまずいよね。
しかし自分のためだけにお風呂を沸かすわけにはいかない。
ではどうしよう?と考えた私が向かうのは食堂だ。
『おはようございます。おばちゃんと、あ!雅之助さんだ!』
食堂の勝手口から顔を覗かせるとおばちゃんの他に野菜を届けに来ていた雅之助さんの姿があった。
週に一度は雅之助さんと会っているが、こうやって予定外に会えるのもサプライズみたいで嬉しい。
『雅之助さん、おはようございます』
「おぉっユキ!」
『ストップ、ストップ!』
二カッと笑いながら両手を広げた雅之助さんに手で待ったをかける。
『私に抱きついたら汚れちゃいます』
「うわっ本当だ。どうしたんだ!?頭から泥をかぶったような姿じゃないか」
目を丸くした雅之助さんに上から下まで見られる私。
『そんなに見られたら恥ずかしいですよぉ。生物委員で飼っていて私が名付け親の子狼と散歩していたんです。途中で雨に降られちゃって』
「それは災難だったな」
雅之助さんが苦笑いで笑った。
「あらあら。泥だらけね。もしかしてお湯をご所望かしら?」
『そうなんです!』
そう私に声をかけてくれるおばちゃんの手には既にお湯の入った桶。さすがおばちゃん!
「ちょうどお湯が沸いていて良かったわ」
『ありがとうございます!』
これで温かい手拭いで体を拭くことが出来る。食堂に来て良かった。
「そうだわ。今、大木先生と誕生日会のお話をしていたのよ」
桶を受け取る私におばちゃんが言った。
誕生日会の話をして大木先生も良ろしければご一緒に。ということになったらしい。もちろん雅之助さんなら大歓迎だ。
『ぜひいらして下さい。ちなみに雅之助さんは牡羊座、牡牛座、ふたご座のどれかに入りますか?』
聞くと雅之助の星座は牡牛座。
この春誕生日会ではお祝いされる側だ。
『良かった。雅之助の誕生日もお祝いできますね。忍たまたちも準備を頑張ってくれているんです。楽しい誕生日会になる予定なので
楽しみにしていて下さい』
「ハハ、そりゃあ楽しみだ」
誕生日を祝われるなんて何年ぶりだろうな、と呟く雅之助さんの顔は嬉しそうに見える。
よし、当日楽しんでもらえるように頑張らないとね。
「そろそろ着替えに行ったほうがいい。お湯が冷えてしまう。誕生日会の前にユキが風邪を引いてしまったら大変だぞ?」
『そうですね。それでは誕生日会の詳細は後日伝えに行きますね』
「ありがとな。風邪引くなよ」
ワシワシと頭を撫でてくれた雅之助さんに挨拶をして私は自分の長屋へと歩いていく。
うーー寒い。体が冷えてきたみたい。
やることがいっぱいあるのに体調を崩してしまっては大変。
小走りに庭を横切っていく。
「ユキさん泥だらけじゃん!」
大きな声に桶の中で揺れる水面から顔を上げる。
廊下にいたのはきりちゃんと乱太郎くん、しんべヱくんの三人。
『良かった。ナイスタイミングだよ~』
廊下に桶を置いてお願い!と両手を合わせ、私の部屋から着替えを持ってきて欲しいと頼む。
「仕方ないなぁ」
呆れた顔をしながらも私の部屋に足を向けるきりちゃん。
これで廊下を汚さなくてすむよ。ありがとう。
「きり丸、僕たち先に行って席とっているね」
「わかった」
「ユキさんも一緒にごはん食べよう」
『うん。一緒に食べよう』
早く来てねと食堂へと走っていく乱太郎くん、しんべヱくん。
「どうしたの?・・あ、ユキさん。おはようございます」
「おはようございます。えっと、凄いことになっていますね」
『アハハ見つかったか』
きりちゃんが行く前に私の部屋の戸が開いた。
出てきたのは昨晩私の部屋に泊まっていた一年い組の伝七くんと佐吉くん。
最近の私の部屋へのお泊まり会は他の組や二年生にも広がっているのだ。
「伝七、佐吉、ユキさんの部屋から着替えと手ぬぐいを持ってきてくれない?」
「わかった」
「押入れの中にありますよね?」
『開けたら直ぐに見つかると思う。ありがとう』
私の部屋に戻っていく伝七くんと佐吉くん。
お世話おかけします。
「もう!ユキさんったら大会近いのに風邪ひいちゃったらどうするのさ」
戸が閉まったのを確認してからきりちゃんがキッとした目をして怒る。
『アハハ。モンとの遊びに夢中になっちゃって・・・以後気をつけます』
散歩に出たとき雨は降っていなかったが今にも雨が降り出しそうな空模様だった。
遠くまで行かないようにと思いながら歩いていたはずなのにモンと遊びながら歩いているうちにいつの間にか遠くへ・・・
そして雨に降られてびしょ濡れ。私って馬鹿。
「そうだ。今日の放課後もいつもの時間でいい?」
腰に手を当てて咎めるような目をするきりちゃんから目を逸らせていると話題が変わった。
お酒の知識も競わされる酒豪選手権大会。私はきりちゃんに手伝ってもらいながらほぼ毎日勉強している。
今日は夜勤日ではないから忍たまたちと同じ時間で行動できる。私は笑顔で頷いた。
『うん。何事も無ければ定時でお仕事終えられるはず。今日は図書室で新しい教材を探そう』
「了解!」
お酒の作り方の本を探そうなどと話していると伝七くんと佐吉くんが私の着替えと手拭を持って来てくれた。
『ありがとう~』
「風邪ひかないでくださいね。泊まらせて下さってありがとうございます」
「今度お泊りするときもユキさんの世界のお話、たくさん聞かせてください」
ピシッとしたお辞儀をしてから布団セットを持って自室に帰っていく伝七くんと佐吉くんを見送る。
真面目な性格の二人。はじめは私が6年生と同い年とあって話し方もよそよそしかったが、色々と話しているうちに打ち解けることが出来た。
私は忍たまたちと仲良くなれるのが何よりも嬉しくて楽しい。
にまにまと二人の背中を見送った私だが、顔を前に戻して異変に気づく。
心なしかきりちゃんがむすっとしているような・・・
思い当たることがないので
『・・・どうかした?』
と聞いてみれば、
「ユキさんはどーして一年は組以外にもお泊まりしていいって言っちゃったの?」
と言葉を返された。
大変だ。鼻血噴く!!
きりちゃんが拗ねていらっしゃる。
私はにやけ出さないようにするのに必死。
母性本能をくすぐられ、今にも萌え死にしそうです。
『私はみんなのこともっと知りたいって思っているの。でも日中はみんなお勉強に遊びに忙しいでしょ?夜だと寝るまでの時間にいっぱい話せるからね』
「ふうん」
表情が緩まないようにしながら言うときりちゃんがつまらなそうな相槌を打つ。
もうっきりちゃんったら可愛いんだから。
手を後ろで組んでぶーっとした顔をしている
きりちゃんに手招き。
顔を寄せた彼の耳に秘密の告白。
『近々家を探そうと思っているの。決まったら泊まりに来て』
「いいの!?」
『もちろん。というか町中での生活の仕方を教えてよ』
「いいよ。任せておいて!節約術をたーくさん教えてあげる」
『フフ、頼もしいや』
トンと自分の胸を叩くきりちゃんにお礼を言う。
彼の機嫌はすっかり直ったようだ。
私はきりちゃんに手伝ってもらって新しい服にお着替え。
汚れた服は休み時間に洗濯しよう。
「食堂に急ごう。乱太郎としんべヱが待ってる」
『うん。お腹ペコペコだよー』
きっと雅之助さんのお野菜が朝食に入っているはず。
野菜の味噌汁?サラダもいいな。
私はスキップするような足取りできりちゃんと食堂に向かって行った。
***
放課後になり私ときりちゃんは予定通り図書室へ。
鍵を開けて中へと入る。
私たちは酒豪選手権大会の勉強会をするようになってから図書室を利用するときは一番乗りすることにしている。
私は酒豪選手権大会に出場することをきりちゃん以外に話していない。みんなから呆れた目で見られたり、大会当日に野次馬に来られるのが目に見えているからね。
絶対にバレたくない!というのが私の気持ちだ。
「返却手続きをしておくからユキさんは本を元の場所に返しておいて」
『了解です』
誰が何の本を借りたかなど見る人はいないから、こうやってきりちゃんに返却手続きをしてもらって期限内に返却していれば私が借りた本のタイトルが人目に触れることはない。
それに何かこうやって秘密裏に動くのって楽しいよね。
「ユキさんったら何一人でニマニマしてるの?」
考えていたことが顔に出ていたらしい。きりちゃんに怪訝そうな顔をされてしまう。
そんな彼に『こうやってこっそり動くのって忍者っぽいなーと思って』と伝えると、
「あ、それ実は僕も思ってた!」ときりちゃんが破顔した。
同意してくれて嬉しい。
『でしょ!気分は重要な内部文書を城から盗み出す忍者だよ』
頭の中で自分を凄腕の忍者に置き換えた私たちは顔を見合わせる。
私たちが考えることは同じ。
きりちゃんがサッと立ち上がる。
「むむ、曲者!ここに忍び込んで何をしていたっ」
突如忍者ごっこが始まった。
私に向かって手裏剣を撃つポーズをするきりちゃん。
すかさず私もこのごっこ遊びに乗っかる。
『しまった。見つかったわ・・・仕方がない。城を出るにはあなたを倒すしかないようね』
私は持っていた本を近くの机に置き、きりちゃんの襲撃に備える。
覚悟!という声と共に私にきりちゃんが飛びかかってきた。
『フフフ、甘いな!』
「うわあっ」
普段から一年生と忍者ごっこで遊んでいる私の動きは慣れたものだ。
きりちゃんの体を受け止めた私はそのまま脇の下に手を入れて高い高い。
そして畳に下ろしてからはくすぐり攻撃。
「ぷはははっ。く、くすぐりとは卑怯、プハッ、卑怯らぞっ」
きりちゃんが私に反撃してきた。
脇腹をくすぐられた私はゲラゲラ笑いながら畳に膝をついてしまう。
ヒーヒー言いながらくすぐり合いをする私たちは図書室ではなく自分たちの長屋にいる気分になっていた。
大笑いする私たち。
「あははははっ苦ひぃっ」
『ぷふっアハハ、や、やめてよー』
「・・・フフ、フハハ・・フフ・・・」
いつのまにか増えていた笑い声。
「フハッ、フッ、フッ、フッ、ワハハハハハ」
『「!?!?」』
私ときりちゃんの顔が一瞬で青ざめる。
「な、中在家先輩!」
『ちょ、長次くん、いつの間に!!』
気が付けば図書室の入口に立っていた長次くん。
『「ごごごごゴメンなさい!!」』
図書室ではお静かに
私ときりちゃんは怒りの炎を背中に背負う長次くんの前で正座してお説教を受ける事になったのだった。
「・・・以後気をつけるように」
『「申し訳ありませんでした」』
「モソ」
たっぷりお説教された私ときりちゃんが頭を下げたと同時に戸が開く。
「こんにちは。委員の仕事に・・ってこの状況は・・・・?」
顔を上げると困惑した顔の雷蔵くんが立っていた。
その後ろには三郎くんの姿もある。
うげっ。見られちゃった。
図書室で遊んで怒られていたなんて知られたら恥ずかし過ぎるよ。
私はブンッと首を回して『反省しているから言わないで欲しい』と長次くんに目で訴える。お願い長次くん!届けテレパシー!
「・・・・なぜ雷蔵が当番をしに?」
『!!』
みんな聞け、神はここにいる
長次くんが話題を変えてくれた。
三郎くんがつまらなそうな顔をしているのが見える。
ありがとう。本当にありがとう、長次くん!
心の中で感謝の涙を流している私の横で雷蔵くんとの会話を続ける長次くん。
「今日の当番は久作のはずだが」
「それが昼休みに久作に会いまして―――――
今日の図書当番は長次くんと二年生の能勢 久作くんだったらしい。
しかし、昼間に雷蔵くんが久作くんと偶然廊下ですれ違った時に雷蔵くんは久作くんが顔を火照らせていたことに気がついた。
大丈夫かと聞けば昨晩から寒気もあるとのこと。
直ぐに久作くんと一緒に保健室へと向かった雷蔵くん。
「保健室に連れて行って新野先生に診てもらったら風邪だと言われていました」
だから久作くんの代わりに自分が来たと言う雷蔵くん。
雷蔵くんは良く気がつく後輩思いの先輩だ。
『そういえば学級委員長委員会が風邪に注意の張り紙を廊下に貼っていたね。この時期って毎年風邪流行るの?』
「季節の変わり目だからな。冬ほど多くないが・・」
『そうなんだ』
三郎くんと会話をする私の足はそろそろと本が置いてある長机へと向かっていた。
何故なら本のタイトルが知られたら最後、勘のいい彼らに私が酒豪大会に出ることがバレてしまうからだ。
私の視線は机の上の本にロックオン。
「そういえば八左ヱ門が今朝方降った雨にゆきさんがあたっていないか心配していたよ」
『んぁ・・あぁ雨ね。見事に当たって服がペラペラになっちゃったんだ。でもちゃんと着替えたから風邪の心配は本なんだ』
「それは良かった(ペラペラ?本?)」
『心配してくれてありがとぽん、雷蔵くん』
雷蔵くんに微笑みながら本に手を伸ばす。
ババッ
疾きこと風の如し!
私は素早い動きで長机の上に置いていた本を手に取り、胸に抱きしめた。
もちろんタイトルが見えないように注意することも忘れない。
任務成功!
まるで凄腕忍者のような完璧な動きだ、と思ったのだが、
「ふうむ。どうやらユキは隠したいことがあるらしいな」
どうやらそう思っていたのは自分だけだったみたい。
半眼の三郎くんにニヤリとした笑みを向けられてしまう。
『な、何故バレた・・・』
「ユキさんの動きが怪しすぎるからだよ。しかも本に意識が行き過ぎて変な言葉が混じってたから」
『えっ!?嘘!』
やれやれと言った様子でため息をつくきりちゃん。
きりちゃんの左右を見れば長次くんも雷蔵くんも何かあったな、という顔で私を見ていた。
「もしかして本壊しちゃった?」
優しい雷蔵くんが心配そうに聞いてくれた。
『いえ、そんなことはないですっ。私はただ借りた本のタイトルを見られたくない・・・あ』
私のおバカさんッ
言ってしまってからハッとする。
墓穴を掘ってしまった。
顔つきの変わった三人。
どうやら興味を持たせてしまった様子。しまったーー。
「何の本を借りたんだ?」
問い詰めるように三郎くんが私の方へと一歩踏み出した。
『い、言えないよ』
「そう言われるとますます興味が出てくるんだよなぁ」
『きょ、興味なんて持たなくていいから!』
ヒュッと三郎くんの手が伸びてきた。
体を捻ってガード。
窮地が身体能力を上げたようだ。
グッジョブ私。
「痛てて。随分ムキになるな」
私の二の腕で突き指した三郎くんが手を
ブンブン振りながら言う。
『プライバシーだもん。絶対言わない』
「人に言えない本ってどんな本借りたんだよ。艶本か?ここの蔵書は素晴らしいなッ」
『飛躍しすぎだ。三郎くん、取り敢えず落ち着こう』
急に妄想と現実がごっちゃになったらしい。
三郎くんがカッと目を見開いて興奮したように叫んだ。
この子相当危ない子だわぁ(知ってたけど)
本のタイトルを見られたくないのと危ない三郎くんから距離を置くために私は自然と後退していく。
そんな私をじりじりと追い詰める三郎くん。
私はついに壁際まで追い込まれてしまう。
私を逃がさないように三郎くんが壁にドンッと手を付いた。
今の私はいわゆる壁ドンされている状態。
あぁ、どうせなら別の意味でドキドキしたかったよ。
「ユキ、抵抗しても時間の無駄だぞ?」
『くぅぅ悔しい』
追い詰められてしまった。
人の悪い笑みを浮かべながら三郎くんが私の肩に手を置いた。ビクッと私の体が跳ねる。
言い逃れる言葉は浮かばない。
もうダメだ。私の負けだ。
これ以上の抵抗は無駄だと判断した私はついにガックリと肩を落としながら胸に抱いていた本を手渡すことになる。
「どれどれ・・ユキの性癖は『いい加減艶本から離れろよッ』あ、これ艶本じゃない!?」
あったりまえだっ。そして驚くなよッ
残念そうな顔に変わった三郎くんはようやく現実世界に戻ってきたらしい。
長次くんがきりちゃんの耳を塞いでいた手を離し(ありがとう、長次くん)三郎くんが本のタイトルを読み上げる。
・日の本における酒の種類
・酒の名産地と気候風土
・水の違いと酒の出来
机に並べられた三冊の本。
「ユキさんは本当にお酒が好きなんだね」
苦笑いをする雷蔵くん。
『みんなに飲兵衛だと呆れられたら嫌だな~と思ったからつい隠しちゃって。他意はないよ、ホントに。アハハ』
残念だ。
誰も私の言葉を信じていない。
私が何かを隠していると踏んだ三人は各々の思考に耽っている。そして忍者な彼らは答えを導き出してしまう。
「・・・・馬井屋という酒屋が創業300年を迎えて催し物をすると聞いた」
緊張した時間が続いた後、ポツリと長次くんが呟いた。
私の肩がビクッと跳ねる。
「そういえば僕も町で立て看板を見た」
「私も見たぞ。たしか酒豪選手権大会に出る選手を募集していた」
黙秘を続ける私に三人の視線が集中する。
長い、長い沈黙
「ユキさん、もう話しちゃったら?もう隠せないよ」
きりちゃん本日何度目かの溜息。
私の周りで首を縦に振る三人。
『くぅぅ』
だんまりを突き通すのは無理そうだ。
悔しさでギリリと奥歯を噛み締める。
誰にも知られたくなかったのに!!
『はあぁこの本を借りた理由はね―――――
私は結局洗いざらい話してしまうことになる。
私の話を聞いた反応は三者三様。
「プハッどんだけ酒好きなんだよ」
出場費用分飲めば損にはならないと力説する
私を見て吹き出す三郎くん。
「ええと・・・・ユキさんは本当にお酒が好きなんだね」
迷った挙句先ほどと同じ台詞を繰り返す雷蔵くん。
「フハ・・フフ、フフフ。フハハハハハハ!!」
『な、何故に!?!?』
そして何故か笑いだした長次くんに怯える私。
怒られる理由がさっぱり分からず頭を混乱させる私に怒り笑いを終えた長次くんが言ったのはこんな事。
「酒を呑む催しは危険だ。きり丸と二人で出かけてタチの悪い酔っ払いに絡まれたらどうするつもりだ・・・」
真剣な目で言ってくれる長次くん。
私のことを心配してくれていたんだね。
胸の奥がキュンとなる。
「ユキさんったらキュンとしている場合じゃないよ。僕たちこんなこと考えてなかったじゃん。どうしよう・・」
『うーん。真昼間だし観客も多いと思うから身の危険は心配しなくていいと思うけどなぁ』
「バカ。悪い奴ってのはココが働くもんだ。大会中に目を付けられて帰りの道中で襲われるぞ?」
私はとんとんと自分の頭を叩く三郎くんの前で唸るしかない。
一般人の私とまだ一年生のきりちゃん。
シラフの時でも逃げ切れるか分からないのに酔っ払った状態の私ではきりちゃんの足でまといになってしまう。
きりちゃんに何かあっては困る。
これは真剣に考えた方が良さそうだ。
『うぅ。でも困ったな。実は大会の優勝賞金を誕生日会の足りない費用に充てようと考えているんだよね』
私の無茶な考えに三人は唖然としているようだ。
何か良い方法はないかな?
私は良い案がないか頭を一生懸命働かせる。
『誕生日の足りない費用を稼ぐ方法は別のやり方も考えているけど・・・でも、きりちゃんとも約束してるしチャンスだし、やっぱり大会には出てみたいんだよね』
エントリーして出場費用も支払い済み。
優勝すれば賞金と幻のお酒が手に入る。
私としてはどーしても出場したい。
かくなる上は――――――
『長次くん、三郎くん、雷蔵くん。護衛してくれない?タダで!「タダ!?タダって何が!?アハアハ何が無料なの『どわぁきりちゃんッ!?!?』
タダの言葉に反応したきりちゃんに飛びつかれた私は後ろにひっくり返った。この子ったらもうっ。
「落ち着け、きり丸・・・」
長次くんがきりちゃんの体を抱き上げた。
私の方は三郎くんに手をかりて起き上がる。
『ありがとう。ええと、三郎くん・・・さっき言ったことどうかな?』
おずおずと聞いてみる。
この三人がいれば安心安全。
図々しいお願いだが頼んでみることにした。
顎に手を当てて考えてくれている三郎くん。
「ユキときり丸の二人なら三人いれば何かあっても守れると思うが・・・」
「大会は昼間だしね。僕も三人いれば安全は確保出来ると思う」
三郎くんの言葉に雷蔵くんが頷く。
二人とも護衛を引き受けてくれるみたい。
残るはあと一人。
我に返ったきりちゃんと私、そしてちょっとワクワクした顔の三郎くんと雷蔵くんが長次くんを見つめる。
緊張の一瞬
長次くんが出した答えは―――――
「・・・・わかった」
「「「「やったーーー!!!」」」」
私ときりちゃんと一緒にさぶらいの二人も一緒にバンザイ。
この三人がいてくれたら怖いものなしだ!
「先輩たちがいてくれたら百人力っすね」
『うん。安心してお酒が飲めるよ~』
やったね!と私ときりちゃんはハイタッチ。
『そうだ。皆さん、私がこの大会に出ることはくれぐれもご内密にお願い致します』
「わかった・・・」
「言わないよ。約束する」
「ハハハ。知られたら恥ずかしいもんな」
『みんなありがとう』
三人目に軽く腹パンしながらお礼を言う。
これで思い切り大会を楽しむことが出来そう。
「新しい本を探すなら手伝うよ」
『ありがとう、雷蔵くん。お酒の作り方を知りたくて――――
有難いことにきりちゃんが補習やバイトでいない放課後は長次くん、三郎くん、雷蔵くんが代わりにお勉強するのを手伝ってくれることになった。
大会まであと一週間。
この時の私は酒豪選手権大会にあの城のあの人やこの人まで出場することを知らなかった。
そして
<六年生と先生方への緊急指令! 酒豪選手権大会に出場して幻のお酒を入手せよ>
という学園長の突然の指令が大会三日前に
発表される事になるのを知らなかったのでした・・・・