第三章 可愛い子には楽をさせよ
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2.苦手なこと
そうか・・・このまま食堂で待っていれば今日中に全委員会に誕生日会準備のお手伝いをお願い出来るかも。
お茶を飲み終えた私は一人手を打った。
忍術学園のみんなは仲が良い。
今日のように委員会活動があった後はそのままゾロゾロと委員会メンバー揃って食堂に移動して夕食を食べている委員会も多かった。
各委員会へのお願いもその時に伝えればいいのだ。
「あっ。ユキさん発見!」
『きりちゃん』
私の予想通り。きりちゃんを先頭に食堂に入ってきたのは図書委員さんたち。
「委員会の時に来るって言ってたのにお茶飲んでる~」
『あはは、色々あってさ』
むぅっとした顔のきりちゃんに抱きつかれた私は気まずさを誤魔化すように後頭部に手をやった。
「ユキ」
「ユキさん」
『長次くん、雷蔵くん。それにみんなも』
私のいるテーブルに集まってきてくれた図書委員さんたち。
『委員会中に図書室に行けなくてごめんね』
「いや・・・・それより、その怪我は」
『ここに書いてあるのが図書委員さんにお願いしたいことです』
「・・・。」
私は長次くんの言葉を遮って紙を彼の目線の位置に掲げた。
見てる。
長次くんが包帯の巻いてある手首をめっちゃ見てるよっ。
だけど理由を話したら怒られるのは必須。
私の馬鹿さ加減に怒った長次くんが笑い出してしまう。
ここは強行突破しよう。
『長次くんたち図書委員さんにはメイン料理のお手伝いをお願いします』
まだ手首の包帯を見ている長次くんに気づかないふりをしながら説明を開始する。
普段より品数が多いからおばちゃん一人で誕生日会の料理を作るのは大変。
忍たまのみんなにも手伝ってもらうことにしたのだ。
せっかくだからおばちゃんと相談しながらメニューのアイデアも出して欲しいと伝える。
「・・・・わかった。おばちゃんと相談しよう」
『ありがとう、長次くん』
直ぐに快諾してくれた長次くん。
図書委員にはお菓子作りが趣味の長次くんをはじめ、雷蔵くんやアルバイトで家事の手伝いもしているきりちゃんもいる。
怪士丸くんと久作くんも手先が器用。
メイン料理は図書委員さんにお任せすれば安心だ。
「エプロンをつけるべきか、割烹着にすべきか・・」
『雷蔵くん。私の好みは割烹着です!』
隣で迷い始めた雷蔵くんに自分の好みを伝えておく。
「お料理上手くできるかな~」
『おばちゃんも頼りになる上級生もいるから大丈夫だよ。安心して、怪士丸くん』
「俺は唐揚げが食べたいな」
『久作くんの意見に一票。私も唐揚げ大好き』
私の話を聞いてすぐにメニューについて考え始めてくれた図書委員さんに嬉しくなっていると横から視線を感じた。
横を見ればきりちゃんと目が合う。
「ユキさん張り切ってるね」
『みんなでワイワイするの好きだから今から楽しみで仕方ないんだ。協力よろしくね、きりちゃん』
「うん!」
ニシシと笑うきりちゃんの頭を撫でる。
長次くんたちはみんなで夕食を取った後、もう一度図書室に戻ってどんな料理がいいかを本を見て話し合ってくれると言ってくれた。
『兵助くん。みんなも委員会お疲れ様』
続いて兵助くんと火薬委員さんが食堂にやってきた。
私のいるテーブルに火薬委員のみんなが来てくれる。
私はさっそくお誕生日会について話をする。
『兵助くんたち火薬委員さんには杏仁豆腐などのデザート作り「え?杏仁豆腐は決定!?」をお願いします』
今日も反応の早い三郎次くんに拍手。
火薬委員さんに手伝ってもらうのは食事のデザート作り。
ちなみに杏仁豆腐は既に決定済み。理由は私が食べたいから、だ。
「どんな豆腐のデザートがいいかな?」
「豆腐限定ですか!?」
豆腐委員長代理の言葉に「えぇ!?」と叫ぶ三郎次くん。
「実家の父が豆腐入りの葛餅を買ってきてくれたことがあったんです。おいしかったな~」
「タカ丸さん!豆腐の話を広げないで下さいっ」
ぽわわんとした顔で言うタカ丸くんに三郎次くんが訴える。
「確か母ちゃんがダイエット中の時におから入りのおやつを食べていた気がする」
タカ丸くんの言葉で思い出したのか伊助くんが呟く。
『わあ!それ凄く興味ある。伊助くん、お母さんからおからのおやつの話を聞いてきてもらいたいな』
そしてダイエットの言葉に反応する私。
「うわあぁんどうして僕以外にツッコミ役がいないんだよおぉ」
頭を抱えて叫ぶ三郎次くん。
『三郎次くんもいっそ豆腐好きになっちゃえば?』
「そういう問題じゃないですから・・・」
疲れきった目で私を見る三郎次くん。
残念。お豆腐同盟への勧誘は失敗に終わった。
「食事をしながらどんな豆腐のデザートにしようか話し合おう!」とカウンターへ向かっていく火薬委員さん。
火薬委員さんが作るデザート楽しみだな。
そんな彼らの次に食堂にやってくるのは――――――
「夕飯どんどーーーんっ!」
小平太くん率いる体育委員会さんだ。
『あらら・・金吾くんも四郎兵衛くんもぐったりだね』
「裏裏山まで塹壕を掘りに行って」
「ぼ、僕、もう歩けない」
ふらふらしながら歩いてきた二人は私の前でペタリと座り込んでしまう。
『頑張ったね』と二人の頭をヨシヨシと撫でると疲れていた顔を上げてふにゃりと笑ってくれた。んー可愛すぎっ。
『あれ?滝夜叉丸くんと三之助くんはどこにいったの?』
なかなか食堂に来ない二人が気になって小平太くんに聞いてみる。
「ん?細かいことは気にするな!」
小平太くんが二カッと笑った。
いやいやいやいや!!
『滝夜叉丸くんが三之助くんを探し回っている姿が目に浮かぶから助けに行ってあげてよ』
無自覚な方向音痴の三之助くんを一人で探すのは大変。
「ユキが言うなら仕方ないな」
『ありがと。暗くなってきたから気をつけてね』
「おう!では行ってくる。金吾たちはここで休んでろよ。探すぞどんどーーん!」
金吾くんと四郎兵衛くんの頭をワシワシ撫でて、小平太くんが食堂から走って出て行った。
まだまだ元気いっぱいといった感じ。さすがだ。
『金吾くん、四郎兵衛くん、ここに座って。先輩たちの代わりに体育委員さんへのお願いを聞いてもらいたいの。いいかな?』
「「はいっ」」
しっかりしている金吾くんと四郎兵衛くんなら上級生にちゃんと伝えてくれるよね。
私は体育委員さんへのお願いをまとめた紙を渡して説明する。
体育委員さんはゲームを企画してもらう。
「はいっ。七松先輩や先輩方にお伝えしておきます」
『お願いね、金吾くん』
「どんなゲームがいいかな~」
『フフ。楽しみにしているね、四郎兵衛くん』
金吾くんと四郎兵衛くんは先輩たちの夕飯をテーブルに運んでおこうと言いながら歩いて行った。
私は優しい二人の背中を見送る。
次に食堂にやってくるのはどこの委員会かな?
「ユキさんだ!」
「わーーい。抱きついちゃえっ」
タタっと走ってきたしんべヱくんと喜三太くんが私の胸に飛び込んできた。
『委員会お疲れ様』
私に頭を撫でられて満足そうに表情を崩す二人が可愛すぎて辛い。
胸をキューンとさせていると私の上衣がチョンチョンと引っ張られた。
斜め下を見ればそこにいたのは同じく用具委員、1年ろ組の平太くん。
『どうしたの?』
「ユキさん、あのね。僕も撫でて?」
ドッキューーンッ
隊長!ユキは平太くんの可愛さに心臓を撃ち抜かれました!
思わず抱き上げ、ぎゅっと抱きしめてしまう。
「僕も抱っこしてほしいっ」
「僕も~~~」
用具委員一年生に左右から抱きつかれる私。
どうしよう。幸せすぎるよ。
「おいおい。顔が緩みきってるぞ」
『だって可愛いんだもん。仕方ないよ』
開き直る私に苦笑を向ける留三郎の前でもう一度ぎゅーっと一年生を抱きしめてから床に下ろす。
「いいなー、一年生」
『へ?』
ぼそっと呟かれた声に顔を上げるとハッとした顔の作兵衛くんと目があった。
「え、いや、あの、これは違くて。え!?ユキさん!?」
真っ赤になって慌てる作兵衛くんをギュッと抱きしめてしまう。
『えへへ。ありがとね』
体を離してにこっと笑いかければ赤かった作兵衛くんの顔が更に紅潮する。
「あ、あのね、ユキさんっ」
ちょっとやりすぎてしまっただろうか、と心配になっていると真っ赤な顔で俯いていた作兵衛くんが顔を上げた。
何か私に言いたいことがあるようだけど、恥ずかしいのかもじもじとして言い出せない様子の作兵衛くん。
なあに?と小首をかしげると、作兵衛くんは大きく一つ深呼吸して思い切ったように言った。
「こ、今度、僕たち三年生にも寝る前のお話しに来て下さいっ」
これはビックリ。そして嬉しい。
『長屋に遊びに行ってもいいの?』
「前に錫高野与四郎さんが来た時にユキさんが話してくれた風魔忍者のお話の続きを聞きたくて・・・」
作兵衛くんは話の途中で寝てしまい、続きが気になっていて。と言ってくれた。
『わかった。今度日にちを決めよう』
「ありがとうございます!他の三年生も喜びます」
パアァと顔を輝かせる作兵衛くん。
三年生ともっと交流したいと思っていたから私も嬉しい。
『話は変わりますが、誕生日会の準備で用具委員さんに手伝ってほしいことがありまして・・・』
話がひと段落したところで話し出す。
「しんべヱと喜三太から聞いてる。詳しく話してくれ」
留三郎にお願いを書いた紙を渡す。
彼ら用具委員さんに手伝ってもらうのは会場準備だ。
「んー場所は考えた方がいいかもな。食堂だと忍術学園全員は入りきらない」
『た、確かに・・・』
改めて食堂を見渡す。
食堂を会場にして用具委員さんには人数分の椅子とテーブルを準備してもらおうと思っていたのだけど―――――困った。
「心配すんな。会場のことは俺たちが考えておくよ」
眉を寄せて考えてくれると留三郎から頼もしい言葉。
「大丈夫だからそんな顔しないで、ユキさん!」
「僕たち用具委員が知恵を合わせて解決してあげる!」
ぎゅっと胸の前で握り拳を作るしんべヱくんと喜三太くんも力強く言ってくれる。
『みんな、ありがとう』
あそこがいい、ここがいいと話しながら用具委員さんがテーブルから去っていき、入れ替わりにやってきたのは会計委員さん。
「仙蔵から誕生日会準備の各委員の分担をユキが食堂で説明していると聞いて来たのだが・・・」
『文ちゃん、来てくれてありがとう。みんなも座って』
文ちゃんたち会計委員さんに椅子をすすめながら私は首を伸ばして仙蔵くんの姿を探す。
ちょうど仙蔵くんが作法委員の集まるテーブルに戻ってきたのが見えた。
『仙蔵くん、ありがとうっ』
口元に笑みを作った仙蔵くんが片手を上げて私の声に応えた。
さり気ない優しさと気遣いに胸がキュンとなる。
『どうしよう文ちゃん』
「あ?」
『私、本気で仙蔵くん嫁に欲しいかギャウッ!?』
箸が棒手裏剣のように飛んできた。
しかも眉間に直撃。
めっちゃ痛い。
「ユキッお前はもう少し可愛らしいことが言えないのか!?」
『えーーー・・・そんなこと言われましても』
怒りで口元をピクピクさせてしまっている仙蔵くん。
急に可愛いらしくしろと言われても困るよ。
しかし、今すぐ可愛らしいことを一つでも言わなければ彼の機嫌はさらに悪くなりそうだ。
必死に可愛いについて考える。
可愛い、かわいい、カワイイ・・・・・・・ラムちゃん??
『仙蔵くんをお嫁に欲しいだっちゃ??』
ラムちゃんポーズの私は激しく後悔しながら固まる。
痛い沈黙
白い目を向けてくる周りの忍たま
「よし。作法委員は作法室に移動だ」
「「「「はーーーい」」」」
『ええええぇっ!?!?』
ガタンと立ち上がって作法委員が食堂から出て行った。
うおおぉぉいっ!この空気どうしてくれるのよ!!
とんだ羞恥プレイじゃないかッ。
『うわーーーん』
机に突っ伏して恥ずかしさに身悶える。
作法委員なんかS法委員に改名してしまえッ!
「恥辱に耐える訓練か?」
「ユキの趣味かもよ?」
『どっちも違うわッ』
ヒソヒソ声に顔を上げてクワッと叫ぶ。
怪訝そうな顔の三郎くんと勘右衛門くんの顔があった。
何故、そんな、顔を、するんだ???
私が彼らの頭の中を理解することは永久にないだろう。
『うぅっ。疲れた』
どっと疲れを感じてべたんと机に上体を投げ出してしまう。
『お腹すいた。文ちゃん、食べながら話してもいい?』
「そうしたほうが良さそうだ」
よっぽど悲愴な顔をしていたのだろう。
文ちゃんが苦笑いで頷いた。
私は会計委員さんのテーブルに混ぜてもらって食事を取ることに。
隣のテーブルには学級委員長委員会が座っている。
『おいふぃいね』
「ユキさんって嫌いな食べ物あるの?」
里芋の煮っ転がしをおかわりしようか迷っていると隣に座る団蔵くんが聞いた。
『基本的に胃で消化できるものなら何でも食べるよ』
「強者の答えだね」
『家系的に胃腸が強いのよ』
若干引き気味の佐吉くんに肩を竦めてみせる。
「好き嫌いがないのはいいことなんだがな」
私は対面に座る文ちゃんの苦笑いを見ないふりして立ち上がった。
さて、おかわりに行こう。我慢はよくない。
私の脳内にダイエットなんて言葉はない。
それにほら、我慢したらストレスで逆に太るって言うじゃん?
そんな自論を脳内で展開していると隣のテーブルから声が聞こえてきた。
「里芋おかわりしよー」
「お、勘右衛門。私のも頼む」
「自分の分は自分で、だ」
話しているのは勘右衛門くんと三郎くんだ。
のろのろしていては奴らに食べ尽くされてしまう。
私は小鉢を持ってカウンターに向かって走る。
私の動きに気づいた二人も走り出す。
『「「里おば芋ちゃん下おかさいわり」」』
「あなたたち、おかわりは沢山あるから落ち着きなさい」
小鉢を差し出しながらカウンターから身を乗り出す私たちにおばちゃんが笑う。
「お残しは許しまへんで!」
「「「はーーーい」」」
美味しい食事に楽しい会話。
温かい時間がゆっくりと過ぎていく。
『会計委員さんにお手伝いして欲しいことですが―――――
食器を下げて綺麗になったテーブル。
私は紙を出して、会計委員さんにお手伝いして貰いたい事を話し出す。
会計委員さんにお願いするのは誕生日の人に渡す色紙作り。
「僕たちはみんなからの一言を集めればいいんですね」
左門くんの言葉に頷く。
『人数が多いから大変だけど、お願いね』
「大丈夫ですよ。任せてください!」
『ありがとう・・・』
ハキハキと答えてくれる左門くん。
決断力のある方向音痴な彼の言葉に不安になる私。
左門くん、こんな気持ちになってゴメンね・・・・。
『三木ヱ門くんは自分の色紙を当日まで見ないように注意ね。では、私は隣のテーブルに行ってきます』
よろしくね。とぺこりと頭を下げて学級委員長委員会のもとへ移動する私を文ちゃんが呼び止める。
「この誕生日会の計画表見てもいいか?」
『もちろん』
わくわくした顔で計画表を覗き込む会計委員さんのみんな。
私はそんな彼らから離れて学級委員さんたちの元へ移動する。
『おまたせしました。庄ちゃん、隣に座っていい?』
「いや、ユキは私の膝の上だ」
後ろから手を引っ張られた私は、気づいたら三郎くんの膝の上に座っていた。
「あーーずるいっ。俺もユキを膝にのせたい!」
絶対言うと思ったよッ
この二人は日頃からかまってちゃんだ。
下級生だったら可愛いんだけどな・・・・・。
私は半分大人の彼らの取り扱いに少々戸惑い気味だ。
「そうだ勘右衛門!ユキの足は二本ある!」
「そうか三郎!半分ずつにしたらいい!」
『良いわけあるかッ』
声を大にして言おう。
私は、本当に、戸惑い気味、だッ
他の5年生がいたらこの二人の暴走を止めてくれるのになぁ。
『私は庄ちゃんと佐吉くんの間に座るから』
ハアァと溜息をつきながら座ろうとした私だが
『ん?どうしたの??』
隣のテーブル、会計委員のテーブルがおかしな雰囲気になっていることに気がついた。
何故かみんなめっちゃコッチを、というか私を見ている。
『ええと、何故そんな目で私を・・・・?』
嫌な予感とは当たるもの。
私の絶叫が食堂に響き渡った――――――――
「こんのバカタレ!」
『返す言葉もございやせん』
食事を終えた忍たまが長屋に戻っていき、ここにいるのは会計委員さんと学級委員長委員会さん。
私は彼らの真ん中で頭を抱えて呻き声を上げている。
「これは節約や切り詰めるといったレベルではないですよ・・・」
『どうしようぅぅ』
三木ヱ門くんが修正してくれた予算表から
目を逸らしてしまいたい。
私が去った会計委員のテーブルでは誕生日会の計画表を見ながら和やかに会話を弾ませていたらしい。
が、それも彼らが私の作った予算表を目にするまでの話。
数字に疑問を感じた文ちゃんの指示で10キロそろばん(どこで売ってんの?自作??)を取り出して予算の計算をし直す会計委員さんたち。
結果、食費+プレゼント代+もろもろの項目を足した金額と合計金額欄に私が書いていた金額 が違っていた。
合計金額に書いていた数字は予算内。
しかし、実際の数字は大幅にオーバーしていたわけで・・・・
『くぅ、何故こんなことが!』
「それは私たちのセリフだぞ?」
半眼の三郎くんから顔を背ける。半眼の文ちゃんと目があった。
喜八郎くんの穴に入りたい気分になる。うわああんっ
何とも言えない空気が漂う食堂。
『うむむむむ・・・』
私はその中でない脳みそ(大袈裟ではなく)を使って考える。
きりちゃんみたいにアルバイトする?
いや、足りない金額を稼げるほどの時間はない。
それじゃああちらの世界から持ってきた物を売りさばく?
学園長先生に給料の前借りをする?
それともいっそ身売りでもしたらいいだろうか・・・・・
『兎に角!!』
急に大声を出して立ち上がる私に周りのみんながびっくりした声を上げた。
みんなの顔を見渡した私ははっきりと言い切る。
『この件は保留ってことで』
「「「「「「はあああぁ!?!?!?」」」」」
さっきよりも大きな声が上がった。
「でも、お前、こんなに足りないのに」
『どうにかなるよ』
「どうにかなるってお前・・・」
私よりも崩壊していた予算表にショックを受けて、私よりも深刻に悩んでくれている文ちゃんに私はニッと笑った。
実は“身売り”で思い出したことがあったのだ。
『取り敢えず今日はこれで解散。それから、このことはみんなには内緒でお願いね』
口元に人差し指を持っていき言う私。
みんなの不安と戸惑いの視線を背に受けながら、私は食堂から出て行ったのだった。
****
私の崩壊予算が発覚した次の日。
仕事が終わった私は自室でやる気を燃やしていた。
計算が残念なくらい間違っていた私だが、今のところどこからか予算を削るという気が全くない。
だって美味しい料理をお腹いっぱい食べたいし、みんなに喜んでもらえるようなプレゼントも揃えたい。
恐ろしいほど無謀でわがまま。
時々こんな自分の性格が嫌になる時があるのだがこれが私なのだ。仕方がない。
自分を自嘲しながら私は部屋の戸を開ける。
「ユキさんっ」
『きりちゃん!』
廊下に出た私の胸に小判型の目をしたきりちゃんが飛び込んでくきた。
「ユキさん、ユキさ~~ん。ちょっとご相談があるのですがっ」
『いいよ。中に入って』
これは何か企んでいる顔だな。
私はクスクス笑いながら彼を部屋に招き入れる。
『実は私もきりちゃんに会いにいくところだったの』
「え?俺に?」
『そう。きりちゃんに』
コテンと首を傾げるきりちゃんに笑いかける。
部屋に入って向かい合って座るきりちゃんと私。
私は先にきりちゃんの用件を聞くことにしたのだが――――――
『ビックリ。私もきりちゃんに同じことを頼もうと思ってたの』
どうやら私たちはお互いに同じことを頼もうとしていらしい。
ポケットから折り畳んでいた紙を取り出し広げる。
手にそれぞれ紙を持つ私ときりちゃん。その内容は全く同じ。
私たちが手にしているのは酒豪王選手権大会のチラシだ。
「ユキさんがエントリー済なら抜天坊さんからきた話は断るよ」
『当日もし会っちゃったら気まずくならない?大事なバイト先の雇い主さんなんでしょ?』
「いーの、いーの。きっと抜天坊さんが雇う人は男。もし会場で会ったとしてもユキさんを見て、何だ女かーって俺たちのことなんか気にしないと思うよ」
きりちゃんが肩を竦めた。
もし仮に私がきりちゃんの紹介で抜天坊さんのところに行っても女だからと断られる可能性の方が高かったかも。
『周りの人達を油断させておくのも作戦だね』
「うん!」
にやっと笑う私にきりちゃんがにやっとした笑いを返す。
酒豪王選手権大会
これは馬井屋さんという酒造も行っている酒屋さんが創業三百年を記念して開く大会だ。
優勝すれば賞金と幻の二十年熟成酒がもらえる。
私は以前町に行った時にこの大会を知り、出場申し込みを済ませてきていた。
『ねえ、抜天坊さんのところではどんなバイトしてるの?』
「抜天坊さんは土倉で――――」
きりちゃんがよくアルバイトに行く抜天坊さんは土倉という高利貸し屋さんということだった。
ちなみに酒屋さんもお酒を売りながら高利貸しの仕事をしているらしい。
『酒造も高利貸しもしてるから儲かっているんだね』
「うん。この賞金は凄いよ。だから抜天坊さんもエントリーしたみたいなんだ」
大会の申し込みは代理受付可能、ニックネームでの参加も可。
だから抜天坊さんは後でお酒の強い人を雇うことに決めて先にエントリーしていたそうだ。
賞金と転売したら結構なお金になる幻のお酒。
先程まで抜天坊さんのところでバイトをしていたきりちゃんは酒豪王選手権大会のチラシを見せられて、お酒の強い人がいたら紹介して欲しいと言われたらしい。
きりちゃんが紹介した人が優勝したら、抜天坊さんから御礼にお駄賃がもらえるということだった。
だからきりちゃんはお酒の強い私のところに来てくれたわけだが、
「ユキさんが優勝したら賞金山分けだもんね~~アハアハ」
仮にきりちゃんの紹介者が優勝しても彼が貰えるのは微々たるもの。殆どは抜天坊さんの懐に入ってしまう。
きりちゃんとしては私と直接組む方が割がいいわけだ。
『飲み比べは負けないとして、問題は知識だね』
「大会までに一緒に勉強しよう!」
『うん!』
大会ではお酒についての問題も出される。
私は飲み比べには自信があったが知識はない。
しかも勉強しようにもまだ文字が正確に読めない。
だから私はきりちゃんの力を必要としていたわけだ。
『きりちゃん』
「ユキさん」
『「優勝目指して頑張るぞーーーー」』
拳を天井に突き上げる私たち。
きりちゃんは授業料を稼ぐため
私は誕生日会の足りない予算を稼ぐために
二人で頑張ればきっと優勝できるはず。
「さっそく図書室に本を借りにいこう!」
『了解!』
私たち二人は弾むような足取りで図書室へと向かっていった。
細かく分かれていて読み難く申し訳ありません。
春誕生日(牡羊座、牡牛座、双子座)
図書委員→きりちゃん 火薬委員→なし 体育委員→金吾くん,四郎兵衛くん,日向先生
用具委員→しんべヱくん,留三郎 会計委員→三木ヱ門くん 学級委員→三郎くん
そして大木先生も春誕生日です。