第三章 可愛い子には楽をさせよ
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1.事務員のお願い
今日の放課後は委員会活動日。
私は春誕生日会の協力を各委員会に仰ぐために事務室を出て庭を横切っていた。
まず初めに向かうのは作法委員会。
『作法委員会の使っている倉庫は確か・・・地下、か』
さすがは穴掘り小僧所属の委員会。
そしてその委員会の委員長はサディスティック仙蔵。
地下倉庫に入ったが最後、二度と陽の光を見ることが出来なかったらどうしよう。
地下倉庫という陰気な場所に向かう私のテンションはダダ下がり。
自然と視線は地面に落ちる。
『ゴミ見ーーっけた』
ゴミを拾って持っていた資料束の上に乗せる。
学園内を綺麗にするのも事務員のお仕事。
自分で自分を褒めながら優秀な事務員である私は落ちているゴミを拾いながら地下倉庫へと向かっていく。
『ここから既に暗い』
授業で使う忍具を保管する倉庫内の下に地下倉庫は作られている。
ギギギと地面の扉を引っ張り開け、向こうの世界から持ってきたペンライトを口に咥えて地下へ続く梯子を降りていく。
地下独特の湿っぽい匂い。
『事務員の雪野ユキです。作法委員さんいますかーー??』
叫んだが反応は帰ってこない。
もしかして私を驚かせようと何処かに隠れてる!?
そ、それだけはやめてよね。
こんな暗いところで驚かされたら心臓が止まってしまう。
ペンライトの明かりで前方を照らすが光が細すぎてよく見えないので私は仕方なく前進することにした。
よく確認せずに逃げ帰って後からチキン扱いされるのは嫌だからね。
足元を照らしながら奥へと進む。
作法委員会って首実検に使う生首フィギュアを扱っているんだっけ。
という事はここに保管されているのって・・・
生首に囲まれている自分を想像してしまい身震いする。
『こ、怖いものとは向き合うべし』
怖いが思い切って生首フィギュアを見たほうがいいかもしれない。
実際に見ていないから色々想像してしまって怖いんだ。
お化け屋敷のお化けだって間近でまじまじ見たら怖くなくなる。
勇気を出して生首フィギュアを見てみよう。
ゴクリと唾を飲み込んで、地面を照らしていたペンライトの光を上へと上げていく。
目の前に現れた人の顔
『キャアァァ斜堂先生イイィィ!!』
手から滑ったペンライトが地面に落ち、光が消えてしまう。
大パニック
恐ろしい生首から逃げようと出口の方へ走るが、地面に置いてあった何かに足を取られて転倒。
ううぅ鼻血出たかも。顔面強打して地面に転がり身悶えていた私だが、ある事に気がつき動きを止める。
私、さっき何て叫んだっけ??
「・・・雪野さん・・大丈夫ですか・・?(名前絶叫された・・)」
『一年ろ組教科担当の斜堂影麿先生っ』
「!?」
ヤダー私ったらドジなんだからっ!
急に現れた斜堂先生にビックリして取り乱してしまった。
斜堂先生なら逃げる必要なんかない。むしろ救世主だ。
「雪野、さん・・苦し・・」
『あ、すみません。斜堂先生にお会いできた嬉しさでつい』
安心感から強くハグし過ぎてしまったようだ。
斜堂先生の首に回していた手を解いて謝る。
目の前にいるはずなのに全く斜堂先生の姿が見えない。
見えないのに顔とか殴らずにハグ出来た奇跡。
「・・・灯りを灯しますね」
シュッと火打ち石を合わせる音。
斜堂先生が松明に火をつけてくれて地下倉庫が一気に明るくなる。
急な明かりが目に痛くて手で光を遮っていると、斜堂先生に上げていた手を取られてしまった。
『斜堂先生?』
「・・・血が出ています」
『あらら、ホントだ』
「・・・私のせいですね」
私は否定の言葉を飲み込んだ。
斜堂先生がせっかく点けた火を消したからだ。
何がしたいんだこの人は・・・
再び周りは真っ暗闇。
「・・・外に出て治療しましょう。背中におぶさって下さい・・」
『ふぇ!?』
ポカンとしていると両手をグイっと引っ張られた。
「よいしょ」と小さな声が聞こえて私の体はあっという間に斜堂先生の背中の上。
突然の斜堂先生の行動に目をパチパチ。
斜堂先生っていきなりこんな事する人だったっけ!?
「梯子を登るのでしっかり掴まっていて下さい」
『え!?梯子!?重いからやめた方がいいです。自分で登ります!斜堂先生が梯子から落ちちゃったら大変ですから』
焦りながら斜堂先生の肩をパンパン叩く。
失礼承知で言うけど斜堂先生には無理だって!
常に生気のない斜堂先生は力も弱そう。
斜堂先生の背中が私の体重で折れてしまわないか心配な程だ。
「私も、忍者ですよ・・あなたの体重くらいなんてことありません・・」
私の失礼な心を見抜くように斜堂先生が言った。
頼もしい。と思えないのは声がか細いせいからか・・・
いまいち斜堂先生を信用しきれない私だったが、そんな私の失礼な思いとは裏腹に斜堂先生は軽やかに梯子を登っていく。
『ありがとう、ございます』
「・・・いいえ・・・」
もしかして私は今、凄くレアな体験をしているのでは?
だってあの斜堂先生におんぶされているんだよ!?
自分の中の斜堂先生のイメージがいい意味で覆されていくのを感じて私の口角は自然と上がっていく。
『うおおぁ眩しいっ。溶けてしまう!』
「それは・・ええと・・・?」
『これは・・ええと・・・吸血鬼ドラキュラの真似です』
「そうでしたか・・・ハハ、おもしろいです(取り敢えず笑っておきましょう)」
『!?斜堂先生、気使わなくて大丈夫ですッ』
出来心でつまらない事を口走ってすみません。
いつも安藤先生のオヤジギャグにも律儀に反応してあげている優しい斜堂先生の無理矢理な笑い声に心が痛む。
もう一度地下倉庫の暗闇に戻ってしまいたい。
「おでこにも傷が・・・」
『顔から転んだみたいで』
咄嗟に手をつけなかった反射神経の悪い自分に苦笑い。
「水を汲んできます・・座っていて下さい・・・」
斜堂先生が背景に溶けていくようにスーッと消えた。
見ていたはずなのに突然目の前からいなくなったような不思議な気分にさせられる。
口数の少ない斜堂先生は私の中で謎の多い人ナンバーワンだ。
せっかくだからどの先生とも仲良くなりたいと思って、私は食堂で一緒になった先生のテーブルに時々お邪魔させてもらっている。
斜堂先生とも勿論同じテーブルになったことはある。
ただ、斜堂先生と私だと圧倒的に私の方が喋る量が多い。というかほぼ私が喋っているといってもいい。
『えへへ、得した気分』
さっきの斜堂先生の様子を思い出した私は楽しくなっていた。
地下倉庫で斜堂先生の意外な強引さを見ることが出来た。
誰かの知らなかった一面を知るのは楽しい。
「・・お待たせしました」
『ありがとうございます!』
やけに元気のいい私に不思議そうな顔をしながら斜堂先生が桶を地面に置いた。
手ぬぐいに水を含ませて傷口についた土を優しく拭き取ってくれる。
『痛いです。うぅ』
「しっかり薬を塗らないと痕が残りますから・・・」
おでこに傷薬を塗ってもらい、絆創膏も貼ってもらった。
料理出来る人や絆創膏や傷薬を持っている人・・・
忍者さんって女子力高い人多いよね。私も見習おうっと。
「終わりました・・念のため新野先生にも診てもらって下さいね・・・」
『はいっ。ありがとうございます』
「ところで、雪野さんはどうして地下倉庫に?」
『作法委員の子たちに頼みたいことがあって探しに来たんです。ここにいると思ったんですけどハズレだったみたいですね』
兵太夫くんに会った時に「今日は地下倉庫で活動」って聞いたんだけど場所が変わっちゃったのかな?
「あ、すみません・・私が用事を頼んで今日の活動は作法委員会室に変更になってしまったんです・・・。無駄足を踏ませてしまいました・・」
『いえいえ。お気になさらずに!地下倉庫は入ったことなかったら一度入ってみたいと思っていたんです。それに私の知らない斜堂先生も発見できたので全然無駄足なんかじゃないですよ』
「は・・・?雪野さんの知らない私、ですか?」
『斜堂先生って意外と強引な面もあったんですね。おんぶされた時はビックリしました』
「あれは血が出てるのを見て・・動揺して咄嗟に・・・不快な思いをさせてしまいましたね」
『不快だなんて一寸も思っていませんっ。私は嬉しかったんですよ!』
思わずぐわっと身を乗り出してしまう。
自分の思っていた事とは全く違うことを言われて口まで尖ってしまった。
『息切れもせずに私の阿呆ほど重い体重を運んで下さる斜堂先生の勇姿、一生忘れません。カッコよ良かったっス』
キランと音がしそうな顔で親指を突き立てる私の顔を斜堂先生が珍獣を見るような目で見つめた。
くぅ、恥ずかしい。やるんじゃなかった!!
カアァと顔が赤くなっていくのを感じながら、私はこの微妙な空気を打破すべく話題を変えることにした。
『そういえば聞いてくださいよ。ここに来るまでに葉っぱの船がたくさん捨ててあったんですよ』
私は少し離れたところに置いてあった資料の束を持ってきて斜堂先生に見せる。資料の束の上にはここに来るまでに拾ったゴミ。
ゴミといっても川に流して遊ぶような棒がささった葉っぱの船のようなもの。
たぶん下級生の忍たまちゃん達がこれで遊んでいたのだろう。
小さい子供にとって自然は遊び道具。
松ぼっくりを人間に見立てて一人おままごとをした記憶が蘇る。
「あの・・・非常に言い難いのですが・・・」
幼少の記憶に思いを馳せていた私は斜堂先生の声に現実世界に引き戻された。
何だろう?心なしか斜堂先生の顔が引きつっているような・・・
「実はコレ・・ゴミではなく印なのですよ」
『はい!?』
声を裏返らせて驚く私に斜堂先生が説明してくれる。
これは仕掛けた罠に仲間が引っかからないようにするための目印なのだそうだ。
罠といえば思い出すのは一人。
『もしやこれは綾部喜八郎くんの落とし穴目印』
「そうだと思います・・・これだけ拾い集めてよく綾部くんの穴に落ちませんでしたね」
『私、運だけは強いんで・・・』
嘘だ。この場合はついているとは言わない。
これから行く作法委員でこのことを報告したらどうなることか!
綾部くんはヘソを曲げるだろうし、仙蔵くんにいたっては・・・考えるだけで失神しそうだ。
『斜堂先生っ』
「!?」
座っていた岩から飛び降りて跪き、斜堂先生の手を両手でガッと握る。
斜堂先生が息を呑む音が聞こえたような気がしたがきっと空耳だ。
『私の代わりに作法委員さんに伝えて頂きたいことがあります』
これは自己保身じゃない。
仙蔵くんに今回の失態を知られたら最後、私は肉体的にも精神的にもボロボロになりお誕生日会の準備を進められなくなるだろう。
よって、これはみんなのための選択だ。
『作法委員さんには飾りつけを担当してもらうことになっています。紙にやってほしいことは書いてあるので頭の良い仙蔵くんならこれを見るだけで十分だと思います』
そう言って斜堂先生に作法委員へ渡す紙を押し付けてしまう。
先生を使いっぱしりにする事務員なんて最低だとは思うのだが鬼姑の逆鱗に触れたくはない。
斜堂先生には近いうちに日陰で楽しめそうなグッズでも贈ろうと思う。
「紙は渡せますが・・・罠はどうしましょうか・・・?」
『私が責任を持ってどうにか致します。生徒に危険が及ばないようにするので安心してください!』
「はあ・・・」
『では、よろしくお願い致します』
お辞儀をして斜堂先生の前から立ち去る。
『急がなくては』
忍たま下級生やくノ一教室の子が罠にハマってしまったら大変だ。
拾った葉っぱの船は15個。作りすぎだよ喜八郎くん!
『確かこの辺だったはずっぬわあっ』
足元から地面が消える。
ズドンと落ちて上を見上げれば星型に切り取られた青い空。
『痛たた。でも、これで一個目の罠解除だね』
私は胸元にしまっておいた葉っぱの船を一つポイッと捨てたのだった。
『うわっ』
私はまた滑り落ちてしまった事とジンジン痛む両足に顔を顰めた。
斜堂先生に『罠をどうにかする』と宣言した私が考えた方法は庭を走り回って罠に引っかかるという体を張った解決法だった。
天才トラパーの作った落とし穴は見ただけではどこにあるか分からない。
これが私の出来る最善策だ。
七つ目までは順調に罠にハマっては脱出を繰り返していたのだが、
『はぁはぁ、何度やっても登れない』
私は八つ目の落とし穴からどうしても這い上がれないでいた。
この落とし穴は喜八郎くんが気合を入れて作ったらしくとにかく深い。
『ちょっと・・ハァ、ゴホッ、休憩』
登ったり落ちたりで疲れてしまった。
今日中に全委員会にお誕生日会のお手伝い協力をお願いしに行く予定だったのになぁ。
一年は組の子に私が訪ねていくことを各々の委員会メンバーに話しておいて欲しいと言ってあったのだが、この調子では今日中に全委員会を回るのは難しそうだ。約束破っちゃったな。
体育座りをしてズーンと落ち込む。
『あーあ。私って使えない奴』
膝にコツンと額をくっつけて己の不甲斐なさに溜息をついていると首筋に冷たい何かが落ちてきた。しかもコレ、動いてるッ!!
『ヒャアッ』
ビックリして立ち上がった私は自分の口から出た悲鳴に更に驚き、真っ赤な顔で口を覆った。
首筋に落ちた冷たい何か・・・・・・これって蛇!?
後ろ襟から入った蛇は落下して腰紐のところで止まった。
素肌と服の間でニョロニョロ動く蛇。
出られなくて焦る気持ちは分かるよ、蛇くん。でも、私も君と同じくらいパニックなのだよ。頼むから大人しくしていてくれ。
とにかく腰紐を解いて蛇をださなくちゃ。
しかし、腰紐のリボン結びを解く寸前で私は動きを止める。
腰紐解く→下衣落ちる→蛇脱出
まではいいが、私が下衣を履き直すまでに万が一にでも誰かがこの穴を覗いたら?
穴の中で下半身の服だけを脱いでこの事務員は何をしているんだ!?という事にはなるまいか。
露出狂という不名誉な烙印を押されてはお嫁に行けない。
蛇が服の中に入っている恐怖よりも嫁に行けない恐怖が勝った。
『脱がずにどうにかしてみよう』
蛇も先程よりも大人しくなっている。というか動いていない。
私の体温が心地よくて眠くなったのかもしれない。
それなら無理に引っ張り出さなくてもいいのではないか?とこの面倒臭い状況から現実逃避しかけた時だった。
「おほー、ユキが落ちてる」
『八左ヱ門くん!それに生物委員のみんなも!』
八左ヱ門くんを初め、生物委員会の子達が穴から顔を出した。
「手を伸ばせ。引っ張ってやるよ」
『ごめん。それが出来なくて』
「ん?」
蛇が服に入った状態で穴から這い出すのはキツい。
もしも落とし穴の壁と私の間で蛇さんがサンドウィッチされちゃったらかわいそ過ぎるからね。
私の今の状況を伝えると八左ヱ門くんがケタケタと笑いだした。
「あはは、ユキの服に入ってんの多分ジュン子だ」
『ちょっと待てい!笑うとこじゃないだろッ』
私の服の中にいるのってマムシ!?
体張った芸人さんだってこんなことしないわッ。
真っ青になって両手をあげる私の横に八左ヱ門くんと孫兵くんが降りてくる。
「僕もユキさんの近くいきたーい」
「僕も!」
「先輩、僕たちも降りまーす」
「ジャーンプ」
「げっ、お前たちヤメロッ」
八左ヱ門くんが止めたが遅かった。
三治郎くん、虎若くん、一平くん、孫次郎くんが次々と穴の中に飛び降りてくる。
「まったく!お前たちが降りてきたからギュウギュウじゃないか」
「「「「ごめんなさーーいっ」」」」
ペコっと一年生が揃って頭を下げた。
小動物みたいで可愛いなぁ。
「ジュンコ動かないね」
三治郎くんが私のお腹のあたりを見ながら言った。
『しばらく暴れてたから疲れて寝ちゃったのかも』
「服の中で暴れ・・・ユキさん、尊敬します」
虎若くんの言葉に他の一年生が同意するように頷いた。
「ジュンコを服の中に入れる・・まるでジュンコと一体化した感覚を味わえる『孫兵くん。服の中からジュンコ引っ張り出してもらっていい?』
孫兵くんを危ない妄想から引き戻す。
「わかりました!」
『お、ジュンコが背中の方に動いた』
しゃがむ私の背に孫兵くんが回り込む。
これでヘビin服の中という寿命が縮みそうな状態から脱せられる。ふーっと安堵の息を吐き出す。
「ま、待て、孫兵」
八左ヱ門くんの声で服の中に入ろうとしていた孫兵くんの手が引っ込んだ。
「竹谷先輩?」
『どうしたの?八左ヱ門くん』
「どうしたって、その・・ユキは・・女だし・・その・・・」
私は振り返って二人の顔を見比べた。
顔を上気させてあたふたした様子の八左ヱ門くん。
八左ヱ門くんをキョトンとした目で見ている孫兵くん。
気づけ、八左ヱ門くん。この穴の中で思春期真っ盛りなのはあなた一人だということを・・・
『孫兵くん、八左ヱ門くんの事は気にせず取っちゃっていいよ』
「ダ、ダメだ!別の方法を・・・あっ!そうだ。良いこと思いついたぞ」
ポンと手を叩いた八左ヱ門くんが私にニカッとした笑みを向ける。
「ユキが逆立ちすればいいんだ。そうすればジュンコは服の中から落ちてくるだろ」
どうだ!と言った顔をする八左ヱ門の意見を即却下する。こんな狭い場所で倒立したくない。倒立は頭に血が上るから嫌いだよ。
『急に天地がひっくり返ったらジュンコちゃんビックリしちゃうでしょ?可愛そうだよ』
「ユキさんはいつもジュンコの事を考えてくれますね(ジーン)」
『でもジュンコちゃんは孫兵くんが一番好きなんだよ。だから早く服の中から救出してあげて』
「ハイ!」
孫兵くんを促すと、元気のいい声で返事をした彼の手が背中に入ってくる。
一人騒ぐ八左ヱ門くんを不思議そうに見る一年生。
「ジュンコ!!」
<シャー(出られた)>
私の服の中にいたのはやっぱりジュンコだった。
今回も噛まれずに済んで良かったよ。
生物委員さんの手を借りて穴から脱出する。
『ありがとう。助かりましたっ』
ようやく八つ目の穴から脱出。
葉っぱの船を地面に置く。
「これって罠を知らせる“印”じゃないか?」
八左ヱ門くんが首を傾げた。
『そうなんだよ。実はさ――――』
私の話を聞いたみんなの顔に広がる苦笑い。
「自ら罠に落ちて罠を探すなんて・・」
「ユキさん勇敢」
『それほどでも~』
「褒めてないからな!怪我したらどうするんだよっ。無茶するな」
一平くんと孫次郎くんの言葉に照れていたら八左ヱ門くんに怒られた。
「罠はあと何個あるんだ?俺たち生物委員も手伝う」
『でも印ないからどこに罠があるか分からないんだよ?一年生や孫兵くんを危険な目にはあわせられないよ』
「俺は?」
『八左ヱ門くんは頑丈そうだから』
「ひでー。拗ねるぞ」
何だその可愛いセリフは!
ふくれっ面をする八左ヱ門くんが可愛すぎて鼻血が出そうになった私はパッとにやけそうな口を手で押さえて横を向いた。
その瞬間引き攣っていく私の顔。
「雪野ユキ」
『た、立花仙蔵さま・・・』
体を張った努力は水の泡。
私は力なく地面に膝をついた。
「お前はどうしてこう馬鹿なんだ!」
『お前は馬鹿なのか?じゃなくて?』
「疑問形にする必要はない!」
仙蔵くんの前で正座させられてお説教を受けている私。
「僕の落とし穴に落ちたいなら言ってくれたらよかったのに~」
『いや、喜八郎くん。断じて落ちたかったというわけではないから』
そして正座する私に何故か背中合わせで寄りかかっている喜八郎くん。
他の作法委員と生物委員の忍たまに苦笑いで遠巻きに見られていてとても恥ずかしい。今すぐ真横の穴に飛び込んでしまいたい気分だ。
「服はボロボロ。顔に切り傷まで作っているではないか」
『!?』
喜八郎くんの体重に前のめりになりながら震えていると、仙蔵くんが私の顎に手を添えてぐっと上に持ち上げた。
「馬鹿者」
『ご、ごめん』
羞恥心で顔がボンッと赤くなる。
このサディストめ!
満足そうに口元に弧を描く仙蔵くんは意地悪だ。
あまりの恥ずかしさに発狂しそうになっていると視界がブンッと動く。
喜八郎くんが私をヒョイと横抱きしたのだ。
ビックリして声も出ないまま仙蔵くんの横を通り過ぎる。
滅多に見られない仙蔵くんのポカンとした顔。
「コ、コラ、喜八郎!何をしている!」
喜八郎くんの突然の行動に頭がついていかなかった仙蔵くんがハッとした顔で叫ぶ。
「だって保健室に連れて行くって言っていたじゃないですか~」
『私を保健室に?』
喜八郎くんの言葉に小首を傾げているとタタっと駆け寄ってきた兵太夫くんが手を挙げる。
伝七くんと藤内くんも寄ってきてくれた。
「僕たち斜堂先生からユキさんが罠の印を取っちゃったから落とし穴探しを手伝うように言われたんです」
「ここに来る道すがら立花先輩がユキさんは絶対無茶な方法で落とし穴探しをしているから保健室に連れて行かないと、と仰っていて」
「無茶な方法って何だろう?って思ってたんですけど、まさか自ら罠にハマりに行くだなんて・・・」
兵太夫くん、伝七くん、藤内くんが「無茶しすぎだよ」「危ないよ」「痛くない?」と心配してくれる。
『仙蔵くんも心配してくれてたんだ・・・』
ジーンときながら仙蔵くんを見る。
「仮にも女なのだから体に傷を作るような真似をするな」
『反省します』
むすっとした顔だが私の頭を撫でてくれる仙蔵くんの手は優しい。
胸がとても温かい。
「喜八郎、保健室への付き添いは兵太夫にかわってくれ」
「えー何でですか~」
「落とし穴を作ったお前がいなくては作業がはかどらんだろう」
ぶーっと膨れた喜八郎くんだが仙蔵くんの指示に従って私を地面に下ろす。
「自分で歩けますか?」
『歩けるよ。ありがとね、喜八郎くん』
「後でお見舞いに行きます」
『ふふ、ありがとう』
結局、残りの落とし穴は作法委員会と生物委員会が見つけてくれることになった。迷惑かけてごめんね。
私は兵太夫くんに送ってもらって保健室へ。
「ユキさん!?ボロボロじゃないですか!」
保健室に入れば心配顔で駆け寄ってきてくれる乱太郎くん。
「ユキさんったらね・・むぐぐ」
兵太夫くんの口を塞いで恥ずかしエピソードを語られるのを阻止。
『ちょっとしたハプニングがあってね』
あははと笑う私の体が冷気に震える。
保健室の一番奥で黒いオーラをまき散らしながら微笑む伊作くん。
「乱太郎、伏木蔵、ユキちゃんをこっちに連れてきて。兵太夫は僕の隣に来てユキちゃんがこうなった理由を教えてくれるかな?」
ハキハキと伊作くんの質問に答えた兵太夫くんが作法委員のもとへと帰っていき、私は伊作くんにたっぷり怒られてしまう。
「ユキさん今日来るって言ってたのになかなか来ないからみんなで心配してたんですよ。まさかこんな事になっていたなんて・・」
『乱太郎くん、ごめんね』
治療してもらった私は申し訳なさで縮こまっている。
心配してくれていた皆に更に心配をかけさせてしまった。
申し訳ない。ちゃんと反省します。
『そうだ。保健委員さんへのお願いを話させてもらっていいかな?』
私は持ってきた資料の束から保健委員さん用に書いた紙を取り出して伊作くんに渡した。
『春のお誕生日会の準備をみんなにも手伝ってもらいたいの。協力をお願いしてもいいかな?』
「もちろん協力するよ」
ニコッと微笑んで承諾してくれた伊作くん。
他の保健委員の子も笑顔で頷いてくれる。
「委員会によって係が違うんですか?」
『そうなの。数馬くんたち保険委員さんにはプレゼント選びを手伝ってもらいたいと思っています』
「わあっ今年はプレゼントがあるんですね!」
嬉しそうに声を上げる乱太郎くん。
他の下級生の子も自分が祝われる時のことを考えて目をキラキラさせている。
『それぞれに担当を振り分けて誕生日の人が好きなものを調べてください。伊作くんは自分の分を担当しちゃダメだからね』
「「「「「はーーい」」」」」
みんなから良いお返事。
「ビックリさせたいから分からないように調査しましょう!」
「上級生にもバレないように調査なんてスリル~」
保険委員さんたちがワイワイ話し合うのを聞いていると保健室の戸が開いた。
「治療は終わったか?」
『仙蔵くん、みんなも来てくれたんだね』
保険委員のみんなにお礼を言って私は廊下へ出る。
私の前にはズラリと作法委員さんと生物委員さんが勢ぞろい。
『穴探し上手くいった?』
「全部見つけて埋めたから安心してくれ」
二カッと笑って八左ヱ門くんが頷いた。
みんな泥だらけだが怪我している様子はないみたい。
心配が消えてホッとする。
『みんな本当にありがとう』
「このくらい大したことはない。ところで、私たちに何か頼みたいことがあると聞いていたが?」
『そうなの、仙蔵くん。誕生日会のお手伝いを頼みたいの。今から食堂に行って話してもいいかな?』
ぞろぞろと食堂へ移動する私たち。
「くす玉を作りたいです!」
「兵太夫、普通のくす玉なら許可しよう」
「うっ・・・普通のですか・・」
『私はカラクリくす玉興味あるけどな~』
「ハアァユキ、頼むから兵太夫を煽らないでくれ」
仙蔵くんたち作法委員会さんには会場の飾りつけをお願い。
「おほーこれはなかなかの難問だな!でも、盛り上がるのを考えるから任せておけ」
『楽しみにしてるね!』
「あ!せっかくだから生物委員で飼っている動物にも協力してもらいましょうよっ。ね、ジュンコ」
<シャー?>
八左ヱ門くんたち生物委員さんには余興を担当してもらう。
『フフ、盛り上がってきたなぁ』
残りの委員さんには時間がある時に伝えるとしよう。
一生懸命考えてくれている作法委員さんと生物委員さんの会話を聞きながら、私はみんなにお茶を入れるために席を立った。
┈┈┈┈┈後書き┈┈┈┈┈┈┈
春誕生日(牡羊座、牡牛座、双子座)
保険委員→伊作くん 作法委員→伝七くん、喜八郎くん 生物委員→木下先生