第二章番外編
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湖上デート(君が好き~Ver.食満留三郎)
*2章21話後あたり
寝る前の自主鍛錬を終えた俺が食堂に行くと
厨房にユキがいた。
『自主鍛錬?お疲れ様』
「あぁ。ユキは夜食か?」
太るぞ。と言う俺にユキは頬を膨らませる。
『違いますー。私はこれにお湯を入れるところなの』
からかいがいのある反応にケタケタ笑いながらユキを見るとその手には湯たんぽがあった。
使ってくれてんだな。
俺は顔が緩みそうになるのを堪えながら「そうか」と素っ気無い返事だけを返す。
『気に入って使っているよ。ありがとね』
ったく、ユキのくせに可愛い顔しやがって。
俺とは対照的に思い切り表情を崩して笑いかけてくるユキを見て心臓が跳ねるのを感じ、俺は慌てて視線を逸らした。
『あ、お湯沸いた。ついでにお茶飲む?』
「あぁ。頼む」
先に座って厨房の中にいるユキをぼんやりと眺める。
元気になって良かったな・・・
不思議な力で俺たちのいる世界とは別の世界からやってきたユキは慣れないこちらの生活で神経過敏になってしまい不眠になってしまったことがあった。
それを知った俺たち六年生はユキが安眠できるように各々一つずつ解決法を考えたことがあったのだ。
今ユキがお湯を入れているのは、体が冷えていては寝られないと思い俺が贈った湯たんぽだ。用具委員で管理しているアヒルボートの形をしたカバーがついている。
自分が贈ったものを使ってくれているのを見るのは嬉しいものだ。
『おまたせ』
「ありがとな」
ユキがお茶とアヒル湯たんぽを持ってやってきた。
何となくアヒルの顔とユキの雰囲気が似ていて笑える。
『そういえば用具委員でアヒルさんボート管理しているって言っていたよね。今度乗せてくれたら嬉しいな』
「そうしてやりたいとこなんだが・・・」
ユキからお茶を受け取りながら今のアヒルボートの状態を話す。
用具委員で管理しているアヒルボートは二つあるが1号も2号も修理中。
『それは残念・・・』
しょんぼりという音が聞こえてきそうなユキの顔にどうにかしてやりたいという気持ちにさせられる。
それについこの間、女装用の小袖を買いに行くのにユキについてきてもらったのだが、俺の言葉足らずでユキを不愉快な気持ちにさせてしまい、怒らせてしまったことがあった。
ユキとは仲直りしていたが、近いうちに先日のリベンジを兼ねて二人で出かけたいと思っていたのだ。
気軽に冗談を言い合えるユキとは良い友達だ。
そんなユキをデートに誘うのは照れくさく、今日まで誘えないでいた。
だが、今の話の流れなら自然に誘えるだろう。
俺はズズッとお茶を啜って緊張を解し、口を開く。
「アヒルボートの修理には時間がかかるから・・天気が良ければ今度の休み、湖かどっか行くか?まだ休みの予定が入ってなければの話だが・・」
『行きたいっ!』
断られるかもなんて不安は杞憂だった。
ユキがバンッと机に両手をついて立ち上がる。
目をキラキラさせるユキに俺の口元にも自然と笑みが浮かぶ。
「今度の土曜でいいか?」
『空いてるよ。きっと遠出になるよね?私がお昼のお弁当を作っていくよ』
「うっ・・あーええと・・・」
脳裏にユキが作っていた黒焦げの唐揚げが浮かび俺の口から呻き声が漏れる。
『アハハそんな顔しなくても大丈夫。作るのは与四郎くんに高評価をもらったおにぎりにするよ。それなら留三郎も安心でしょ?』
「あぁ、おにぎり。そう、だな。それなら安心だ」
おにぎりに絶対的自信を持っているらしく、フフンと胸を張るユキに頷く。
女装用小袖を買いに行ったあの日、ユキが俺のために昼の弁当を作ってきていたと後から知った。
俺が食べ損ねたおにぎりが収まった先は風魔流忍術学校六年錫高野与四郎さんの胃の中。
俺に怒ったユキは俺の前から雑踏の中に消え、その後偶然に錫高野与四郎さんと出会い、仲良く昼飯を食べたということだった。
完全に俺の自業自得。だが、何となく気分がモヤモヤするのは俺が錫高野与四郎さんに先を越されたと感じているからだろう。
「ちょっと早いが辰の刻に正門前に来てくれ」
『了解!』
これって嫉妬なのか?認めたくねぇ・・・
ニコッと頷くユキの前で、自分の気持ちに戸惑う俺は残りのお茶を一気に飲み干したのだった。
***
ユキと出かける日の辰の刻少し前。
正門に行くと既にユキの姿があった。
「早いな」
『楽しいことがある日は自然と目が覚めちゃうんだよね』
忍の訓練など受けたことのないユキの感情表現はいつもこっちが照れるくらいストレートだ。
「その荷物って弁当か?」
顔が紅潮していくのを感じた俺は慌てて話題を変える。
『そうだよ』
「そうか。朝早くからありがとな。向こうつくまで俺が持つ」
こっちにかしてくれ、と手を差し出す俺にユキが目を丸くする。
『わーお。留三郎が紳士だ』
「うーるせっ」
今日が楽しみだったのはユキだけじゃなくて俺もだったらしい。
自分の声が弾んでいるのが分かる。
『小松田さん、行ってきます』
「ユキちゃん、食満くん、気をつけて行ってきてね~」
外出届けを渡した俺たちは小松田さんに見送られて門の外へ。
「ちょっと遠いから疲れたら言えよ」
『うん、わかった』
並んで歩く俺たちが向かうのは、小さな山を一つ越え、村を二つ通り過ぎた場所にある湖だ。
途中でユキがへたったら俺がおぶってやればいい。
そう思っていたが普段から下級生の忍たまに混じって運動場で遊んでいるユキは俺が思っていた以上に体力があったようだ。
休憩を挟みながら山道を歩いていく。
村を抜け、林を抜けたその先―――――――
『うわあー凄い!これって海じゃないの!?』
「おぉっ。聞いていた通りでかいな」
『対岸が見えないね!』
俺たちの前には海かと見紛うような水面がどこまでも広がっている。
ユキの言う通り反対側の湖岸は見えない。
知らずに来たら海だと勘違いしてもおかしくない。
それぐらい目の前にある湖は広かった。
春の柔らかな光が反射する湖面。
「まだ昼前だし、湖の上に出てみようぜ」
『は?どうやって?』
「筏を作ってだ。手伝ってくれ」
『えぇ!?う、うん・・・』
ちょうど俺たちの後ろには竹林がある。
竹を切っている間に丈夫そうな蔓をユキに拾ってきてもらう。
『これでいいかな?』
「あぁ、十分だ」
ユキの手を借りて竹を縛っていく。
二人乗りの筏だからそんなに大きく作る必要はない。
湖に浮かべるまでそれほど時間はかからなかった。
櫂で水底を押して陸から離れる。
『凄い!進んでるよっ』
「あんまり動くと落ちるぞ」
手で水をバシャバシャしたり、水底を覗き込もうと身を乗り出すユキ。
一年生の忍たまのようなはしゃぎ方に思わず笑っているとユキが首だけ振り返って俺をじっと見つめた。
「ん?なんだ??」
『留三郎を見直し中』
「なんだそれ」
ユキの唐突な言葉に苦笑が漏れる。
『だってあんな短時間でこんなに本格的な筏を作れちゃうなんて凄いなって思って』
「・・・一応、用具委員だからな」
真面目な顔、ストレートなユキの褒め言葉に照れて、俺はモソモソと口を動かす。
『留三郎となら例え地球に隕石が落下して人類が二人だけになったとしても生きていけるような気がするよ』
真面目な顔を保ったままするユキの例え話に俺は小さく吹き出す。
「褒めても何もでねーぞ」
『アハハ、出るよ!風を感じたいからスピード上げて!』
「じゃあ落ちないように掴まっとけよ」
『やったー!』
グンと大きく櫂を動かす。
掴まっていろと言ったのに、風を感じたいのか両手を大きく広げて歓声を上げているユキ。
俺はそんなユキの背中を見ながらさっきの彼女の言葉をふと思い出す。
人類が二人だけになったとしても・・・
『!?!?ちょ、ちょっと留三郎!?これは早すぎ!』
一瞬、ユキと夫婦になっている自分を想像してしまった俺はユキの抗議を無視して、気持ちが落ち着くまで思いっきり櫂で水をかいたのだった。
『ありがとう。お疲れ様』
「おっ、悪いな」
十分陸から離れたところで櫂を置き、ユキから竹筒を受け取って喉を潤す。
柔らかな春の日差しが降り注ぐ湖面の上は余計な音が聞こえず静かで気持ちがいい。
『せっかくだからここでお昼を食べない?』
ニコニコ顔で言ったユキの顔が一瞬で真っ赤に染まる。
静かな空気の中に響く腹の虫。
「ブフッ。俺もちょうど腹が減っていたところだ」
『それは良かったデス』
吹き出して笑い声をあげる俺を拗ねた顔で見ていたユキだったが堪えきれなかったらしくプハッと吹き出した。
筏の上で俺たちは気の済むまで笑い合う。
『もう、・・フフ、笑いすぎてお腹痛いよ』
まだ目に涙を溜めながらユキが風呂敷を解いていく。
弁当箱を覗き込んだ俺は首を傾げた。
箱いっぱいに入っている黒い筒型の物体。
これは何だ??
「・・・海苔巻き?」
『正解!』
当たっていたらしい。
上下二段。切られていない太巻きがどーんと四本丸々入った弁当はなかなか迫力がある。
何故切ってこなかった!?と心の中でツッコミ。
しかし、切ってこなかったのには理由があったようだ。
小さなまな板の上に乗せられた太巻き。
包丁で切られた海苔巻きの切り口を見た俺の口からあっ!と声が漏れる。
「しんべヱ!?」
『分かってくれて良かったー!フフ、可愛いでしょ?』
ぽわんとした表情がしんべヱにそっくりだ。
『実は4本とも違う柄なんだ』
悪戯を仕掛けた時のようにニッと笑ってユキが次の太巻きに包丁を入れる。
「こっちは喜三太か!ハハッ、面白いな」
喜三太の顔の周りにはイカのナメクジがいた。喜三太がいたら大喜びしそうだな。
『で、こっちは留三郎』
「え!?俺の顔も作ったのか!?」
切られてコテンとまな板に倒れた巻き寿司の中には俺の顔があった。
嬉しいような照れ臭いような気持ちに胸がくすぐったくなる。
『そして最後はコレ!ラブリー文治郎犬耳バージョンッ』
「ハハッ最高だ!」
ジャーンという効果音とともに切られた最後の太巻きは文治郎の顔に狼の耳がついた柄だった。
モンは生物委員が飼っている狼でユキが名前をつけた狼だ。
5年の竹谷八左ヱ門の話によるとユキは向こうの世界で文治郎という名前の犬を飼っていたらしい。
『文治郎くんにも見せたくて忍術学園に数切れ置いてきたんだ』
食堂で絶叫している文治郎を想像して笑ってしまう。
忍術学園に戻ったら思いっきりからかってやろう。
ユキが太巻きを切っているのを見ながら、それにしても、と俺は四つの太巻きを見た。
単純ではない四つの柄の太巻き。
コイツ、意外と器用なとこあるんだな・・・
『留三郎、心の声がダダ漏れてるよ』
「げっ」
『それに、感心するなら食べてからにして欲しいな』
ニッと笑うユキから箸を受け取る。
『「いただきますっ」』
俺はしんべヱ柄の太巻きを選び、口へと運んだ。
味は――――――
「旨いな!」
『ホント!?良かった!』
俺の反応を見ていたユキの顔にパアァと笑顔の花が咲く。
「~~っ!」
なんだよ。ユキのくせに可愛すぎだ、ばか。
眩しさを感じるような笑顔を直視出来なくなり、俺は喜三太柄の太巻きを口に放り込む。
『フフ、いっぱい食べてね』
「おぅ」
『あのさ、留三郎』
普段とは違う女っぽいユキの様子に煩く鳴る心臓を鎮めているとユキがコテンと首を傾げた。
途端に穏やかになりかけていた心拍数は急上昇。
今のは反則だろっ!
『留三郎っておにぎり嫌い?』
「は?」
沸騰しかけていた頭が冷静さを取り戻す。
いきなり何の話だ??
『あーじゃあ、私の気のせいだったのかも』
怪訝そうな顔をする俺の前でユキは肩を竦めて言葉を続ける。
『食堂で今日のお弁当おにぎりにするって言った時に留三郎の顔が曇ったような気がしてさ。変な質問してごめんね』
あはは、と笑うユキの前で俺はビックリして固まっていた。
まさかそんな風に思ってくれていたとはな・・・
食堂でのあの時、ユキは錫高野与四郎さんに嫉妬した俺の表情をおにぎりが嫌いなのかも。と解釈したらしい。
「おにぎりも普通に好きだぞ。良かったら、今度作ってくれ」
『わかった。楽しみにしてて』
ユキに言うと笑って頷いてくれた。
俺のことを考えてメニューを変えてくれたことが素直に嬉しい。
嫉妬の心もどこかへ吹っ飛んでいく。
唐揚げを炭に変えるくらい不器用なのに・・・・ありがと、な
『おいっ。心の声ダダ漏れアゲインだッ』
「悪い意味じゃねぇよ。感動してんだぜ?」
『(許せん)強奪じゃッ』
「あ!最後のしんべヱを!!」
『一年生は私が食べる。留三郎はムサい六年だけ食べやがれ』
「自分で作った太巻きだって覚えてるか?」
『・・・・。』
「ブッ。その顔やめろっ、ククッ」
自分で作ったものに自分で悪口を言ったことに気がついてユキが白目を剥いた。
俺たち二人は、笑いながら美味しく残りの海苔巻きを食べていく。(もちろん俺と文治郎柄のも)
『帰りは私が漕いでもいい?』
「女にはキツいぞ?」
『私を甘くみないでほしいな。それにこういうのお父さんの専門分野だったから私も心得があるの』
立ち上がったユキが櫂を動かす。
俺の心配をよそに筏はスムーズに動き始める。
「へえ。上手いな」
『えへへ、ありがと』
「ユキの父親って船頭だったのか?」
『ううん。お父さんは冒険家』
「ボウケンカ??」
知らない単語に首を傾げる。
先ほどの“隕石”のように、向こうの世界からやってきたユキは時々俺たちの知らない単語を使う。
不思議そうな顔をする俺にユキが冒険家について説明してくれる。
人が足を踏み入れたことのない場所や未知なるものを目指して山に登ったり、海を渡ったりする人を冒険家というらしい。
「変わった職業もあるもんだな」
『ホントだよ。行方不明になるたびに、もう帰ってこないかもって心配させられてさ』
ザッと水をかいたユキが昔を懐かしむようにフッと小さく笑った。
その視線はどこか遠くを見つめている。
「疲れただろ。そろそろ交代する」
『ん?ありがとう』
寂しそうだった顔がふっと和らぐ。
『おっ!?』
「ん!?!?」
それは、表情の変化にホッとしながらユキから櫂を受け取ろうとした時だった。
ザッバーーン
急な風が吹いて筏が揺れ、バランスを崩した俺たちは揃って湖へと落下した。
最近は暖かくなってきたとはいえ、まだ泳ぐ時期じゃない。冷たい水が体を包む。
「おいっ、ユキ!大丈夫か!?」
ユキは無事か!?
慌てて水面から顔を出す。
しかし、俺の耳に響いたのは楽しげな笑い声だった。
『プハッ。あはは、びっくりしたねー』
湖から顔を出したユキが楽しそうに笑う。
『このまま陸まで泳ぐ?』
「バカ言え。体が冷えちまうだろ」
『そうだね。風邪ひいたら大変か。残念』
筏に上がり、ユキの手を引っ張って引き上げてやる。
『私、こういうハプニングって大好き』
「ったく。お前って奴は」
にっと笑うユキの頭をグリグリと撫でる。
すっかり憂いの消えた横顔。
俺は大きく腕を振って櫂を動かした。
パチパチと木が爆ぜる音。
陸に戻った俺とユキは焚き火を囲んで体を温めていた。
『急に焼き芋が食べたくなってきた』
「もう腹減ったのか?」
『デザートは別腹というか、なんというか・・・』
「ユキの食欲はしんべヱ並だな」
『ううむ。それは否めない』
プッと同時に吹き出す俺たち。
ユキは面白い奴でサッパリした性格をしているから話しやすい。
性別を越えた友達だと思っている。
そう・・・ユキは“友達”だ。
気の合う、ただの友達―――――――
トン
「ユキ?」
軽い衝撃を右肩に感じ顔を横に動かす。
「~~っ!?」
横を向けば思ったより近くにあったユキの顔。
体が温かくなって眠くなってしまったらしい。
ユキが俺の体に寄りかかってスヤスヤと寝息を立てている。
「うぅ・・・・認めるしかないのか?」
大食いで、馬鹿で、変顔が得意で、小袖よりも男装姿が似合っちまう男っぽいユキ。
どうしてもコイツへの感情を認めたくない自分がいるが――――――――
『留、三・・郎・・・』
「あ?」
『・・カッコいい・・・ね・・スースー』
「・・・・この馬鹿」
ユキのくせに可愛い、という捻じ曲がった言い方。
「ユキ、可愛いな」
・・・・無理だ。
自分の言葉に照れて手で顔を覆う。
やっぱダメだ。暫くはコイツへ芽生え始めてしまった感情を無視することにしよう。
ユキは“ユキのくせに可愛い”だ。
『ふがっふが・・・フガッ!?』
「よっ。起きたか?」
『~~っ!!』
鼻を摘むと、ふがふが言って顔を歪ませながらユキが目を覚ます。
『へ、変な起こし方しないでよねッ』
「悪ぃ悪ぃ。ユキの変顔が見たくなってつい、な」
『・・・いいだろう。貴様もお揃いにしてくれるわッ!』
「うわっ。やめろ!ぬわああぁぁ!!」
目を吊り上げてシャーッと飛びかかってくるユキから笑いながら逃げる。
君が好き
俺は今の関係を気に入っている。
だから今しばらくは、この関係を続けようと思う。
┈┈┈┈┈後書き┈┈┈┈┈┈┈
風の館の琉花様に捧げます。