第二章 十人十色
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22.混迷
吉野先生から初めて大きな仕事を任された。
『パーティー!イヤッホウ!!テンション上がってきたあぁ!』
「ハハ、お願いしますね(ジャンプする程嬉しいのですか・・・)」
忍術学園では数ヶ月に1度まとめて誕生日会を開いているらしい。
私はその会の幹事役を任されたのだ。
今回の主役は春休みだった3月と4,5月生まれの人たち。
『今から楽しみです。絶対成功させますっ』
誕生日会を空想する。
料理とケーキは?プレゼントも渡したい!
飾りつけも華やかにしたいよね。
みんなの笑顔を想像するだけで嬉しい気持ちになってくる。
とっても楽しい仕事。考えるだけでワクワクだよ。
「僕も手伝うから言ってね」
『ありがとうございます、小松田さん』
私の役目は誰にどんな準備をしてもらうか決めること。
当日に慌てないようにしっかり考えないとね。
誕生日の人リストに目を落とす。
牡羊座、牡牛座、双子座が今回の誕生日会の主役たち。
3ヶ月まとめてだと結構な人数だよね。
サプライズパーティーにしたいところだが、私が幹事をやっている時点でサプライズにするのは不可能だろう。
それなら、いっそのこと誕生日会開催はおおっぴらにして主役も含めた全員に準備を手伝ってもらうことにしよう。
吉野先生と小松田さんに話すと二人にも賛同を得られたのでこの方針で決定。
『料理のことをおばちゃんに相談してきますね』
一番予算がかかるのは料理だからここから準備を始めよう。私は早速おばちゃんに会いに食堂へ。
『おばちゃん、今いいですか?』
「あら、ユキちゃん。お昼ご飯はまだなのよ。ごめんね」
『違いますっ。仕事ですよー』
「アハハごめん、ごめん」
口を尖らせる私を見ながら「冗談よ」とケタケタ笑うおばちゃん。
確かに毎日フライング気味で昼食取りに来ているからな・・・
からかわれても仕方ないですよね。ハアァ恥ずかしい。
「それで、どうしたの?」
『誕生日会のメニューをご相談したくて』
「もうそんな時期なのね!いいわよ。そこに座って相談しましょう」
おばちゃんとテーブルに座って料理の相談。
今までの人気メニューを聞くと“肉料理”というワイルドな答えが返ってきた。育ち盛りって感じだ。
「毎回直ぐにお皿が空になるから沢山作ってあげたいのだけどお肉って値段が張るでしょ?予算もあるから難しいのよね」
『私が裏山に狩りに行ってお肉を調達「お願いだから無茶しないでッ」
じょ、冗談ですよ!
ガッと私の手を握り締めたおばちゃん。
おばちゃんの目に私はどう映っているのですか!?
人様から見る自分が気になって仕方ない今日この頃である。
「料理法で工夫出来ないか考えてみるわね」
『お願いします。あ、そうだ。今から町に行くのですが買ってくるものありますか?』
町へ来客用茶菓子の購入と誕生会のプレゼントの下見に行くので、ついでにと思って聞いてみる。
「じゃあ、お願いしようかしら」
『ハイ!』
おばちゃんに買う物を聞いてメモをする。
帰りがお昼にかかりそうなのでおにぎりを握ってもらった。
外食しなくて済むので非常に有難いです。
『それでは行ってきます』
「気をつけてね~」
小松田さんに見送られて忍術学園を出発。
最近は町にも慣れてきたので迷わず行きたい
お店に辿り着ける。
自分の成長ぶりに拍手だ。
買い物と下見を終えて町の出口へ歩いていると人だかりが目に入った。
野次馬根性いっぱいの私は人だかりへと吸い寄せられていく。
『あの、すみません。この先には何が?』
「馬井屋さんの創業三百年イベントがあるんだよ。それの宣伝さ」
人がいっぱいで前が見えなかったので、近くにいたおじちゃんを掴まえて聞いてみる。
馬井屋さんという酒造も行っている老舗の酒屋さんが創業を記念してイベントを行うらしく、その催しの看板をみんな読んでいるそうだ。
お酒大好きな私はイベントに興味津々。
荷物を抱えながら(邪魔でゴメン)ジリジリと前に進んでいく。
ようやく看板の前まで来ると看板とその横に長机。
「どなたでも参加できるよ!自信のある人は申し込んでくれっ」
威勢のいい呼び込みの声を聞きながら看板を読む。
『酒豪王選手権大会・・・か』
成年している者なら誰でも出場可能。
出場料は少々かかるがその金額分この選手権で飲んでしまえば損はしないよね。
おまけに優勝すれば賞金と幻の二十年熟成酒がもらえる。
聞こえる、聞こえる、聞こえるぜ!
幻のお酒が私に「飲んで欲しい」と訴えてきているのが聞こえます!
これは出場するっきゃない。
男性率100パーセントの列に並んで受付の順番を待つ。
そしていよいよ私の番。
『お願いします』
「えっ!?お嬢ちゃんが!?」
受付男性の驚いた顔に苦笑い。
うーん、予想通りの反応だ。周りはお酒に強そうな男の人ばかり。
さっきから周りの視線が気になってはいたんだよ。
これじゃあ周りが気になって楽しくお酒が飲めないかも・・・。
あぁ、でも、楽しくなくても飲みたい!
要はどんな目で見られようと止める気なんかさらさらない。
酒豪女だと思いたい奴は勝手に思えばいい。
忍の三禁の一つに酒があるから忍術学園の人も見に来ないしね!
周りの視線を鉄の心臓で無視しながら参加申込書に記入していると横から涼やかな女の人の声。
「すみません。代理の者が申し込みを行っても大丈夫ですか?」
「もちろんですよ」
よかった、と言いながら女の人が去っていった。
・・・・うん。私も代理だったことにしよう。
都合のいいことにお名前記入欄に“ニックネーム可”とも書いてある。
受付の人に聞いたら「奥さんや家族に怒られる人がいるから」と言っていた。素晴らしい配慮だと思う。
「五分遅刻で失格となりますので、旦那様にくれぐれも良くお伝え下さい」
『わかりました。よろしくお願いします』
性別偽装。ニックネームで登録。
当日は男装していけば周りなんか気にせずガバガバお酒を楽しめる。
帰ったら早速休みを調整しよーっと。
町から出て行く私はご機嫌。
鼻歌交じりで帰り道を歩いていく。
『わー!ユリがいっぱい』
町から出てしばらく行ったところで足を止める。
野原一面にユリの花が咲いていた。
『今日の運勢は大吉だね!』
朝から良いことだらけのラッキーデイ。
少し持ち帰ってお部屋に飾ろう。
白、黄色、赤色もあってどの色も綺麗。
『ん~良い香り』
甘い香りを胸いっぱいに吸い込みながら鼻歌を通り越して愉快に歌いながらユリの花を摘んでいく。
『はーるがきーたー』
パカラッ
『はーるがきーた~』
パカラッ パカラッ
『なーんーかーー来たああぁぁ!!』
「何かとはなんじゃ、失敬だなッ」
絶叫する私におじさんがクワっと叫んだ。
おかしな効果音とともに(自分で言ってたよ)目の前に来たのは白馬(張り子)に乗った殿様コスプレのおじさん。
さて、どうする?
A.無視してユリを摘み続けよう!
B.怪しい奴はぶっ飛ばしちゃえ
C.四の五の言わず逃げるべし
当然、正解はCだ。
たった一人で殿様コスプレをしながら(大勢いても怖いけど)作り物の馬に乗ってユリ畑にいるおじさん。
どう考えてもノーマルな人間じゃない。
危険な匂いがプンプンする。
素早く荷物をまとめて立ち上がり、殿コス男に背を向けてダッシュ。
ご機嫌な一日をぶち壊されては大変だ。
呼び止める声を無視して走っていると・・・
「うぎゃあああぁぁ」
と背後で断末魔が響いた。
振り返るとどこにも殿様コス男の姿は見当たらない。
よし、これはチャンスだ。
今日は本当についている。
今のうちに逃げ切ってしまおう。
私はくるっと反転して再び走り出す。
「だ、だれかーー」
『・・・。』
「助けてくれ~!・・・あたた、痛い、痛い」
『・・・・。』
「痛いよぅ。怖いよぉ・・・たちけて」
あぁ、もう!!
ついに涙声になってしまった助けを求める声に私はガクリと肩を落とす。
『こんのお人好しがッ』
関わりたくないと思っていたのに助けに戻ってしまうお人好しな自分に悪態をつきながら荷物を置き、声のする方へ走る。
居場所を突き止めれば殿様コス男は穴の中に落ちていた。
『お怪我は?』
「お、おぉ!そ、そなた戻ってきてくれたのか。動物用の罠に落ちてしまったのじゃ。助けてくれ!」
格好だけでなく言葉使いまで殿様だったおじさんに思わず鼻に皺を寄せながら穴を覗き込む。
穴は猪が入るくらいの深さ。
何故こんなところに罠があるかは置いておいて穴の底に竹やら槍やらの仕掛けがなくて良かったね。
『手をかして下さい。引っ張ります』
「うむ、頼む」
先に張り子の馬を救出。次に殿様コス男の両手を掴んでぐっと引っ張る。
お、重い・・・
『は、早くっ』
「むむ、もう少しじゃ」
ウソつけッ
穴から顔も見えてないじゃないのよっ。
これじゃあ埒が明かない。私の手もちぎれてしまう。
『おじさん!一旦手を放して穴の端にへばりついてて』
「ん?う、うむ」
おじさんが端に避けたのを確認して穴に飛び降りる。
「そなたまで穴に入ってどうするのじゃ!?」
『上から引っ張っても無理だと判断しました。頑張って踏み台になってあげるので上がって下さい』
ピシャリと言って地面に両手をついて四つん這いになる。
この人の体重を支えきれるか不安だが他の方法を思いつかない。
『さあ、どうぞ』
「え、いや、しかし、おなごの『さっさと乗る!』ハ、ハイ!」
私の一喝にビクッとなりながら返事をした殿コス男の足が動く。
呼吸を止めて体に力を入れる。
うええぇ重い。潰れちゃう。
ミシッと骨の軋む音。
『は、早ぐぅ』
「も、もう少しじゃッ」
折れる、骨が折れるよっ。
両腕もガクガクし始めて潰れそうになっていた私だが体が急にフッと軽くなった。
痛い腕を摩りながら上を見れば笑顔の殿様コス男。
「見よ!上がれたぞっ」
私って単純だ。
両手を広げて凄く嬉しそうな顔をするエセ殿様を見て腕の痛みは消えていってしまう。
『今度は私を引き上げて下さい』
「よし。手を伸ばすが良い」
エセ殿様に引っ張り上げてもらって穴から這い上がる。
地面に座って荒い呼吸を整える私たちの間には年齢と性別を越えた友情さえ芽生えそうな雰囲気。
「そなたのお陰で窮地から脱することが出来た。娘よ、礼を言う」
『いやいや、窮地って大袈裟な。どういたしましてですよ』
ちょっと・・・訂正、かなり変わった外見の人だけど、ちゃんとお礼も言えるし悪い人じゃないかもしれない。
それに笑顔は敵じゃないって証拠だよね。
そう考えて気を緩みかけていたのだが、
「ワシはドクタケ城の城主、木野小次郎竹高じゃ。そなたの名は?」
という自己紹介を聞き、一瞬で凍りつく。
記憶をほじくり返して思い出す。
たしか、仙蔵くんと文ちゃんがドクタケ城は戦好きの好戦的な城だって言ってたよね。
もし、この殿様が本物だったら近くにドクタケ城忍者隊もいるのでは?
これはまずいことになった。
血の気がサーッと引いていくのを感じる。
逃げよう。急いで逃げよう。
一刻も早くこの場から立ち去ろう!
『っ痛ッ』
立ち上がって逃げようとした私。しかし、一歩も進まないうちに地面に顔を打ちつけてしまった。
鼻を摩りながら後ろを向けば私の足首を掴んでいるドクタケ城主殿。
「お主、何故逃げるのじゃ」
『呼び止めるにももっと別の方法あるでしょッ』
思わず殿様に対して『痛いわ、馬鹿ッ』と叫んでしまった命知らずの私の前で「だって逃げるから」と口を尖らせる殿様。
短気で不遜な私も私だが、この殿様も殿様だと思う。
「そなたに褒美をとらせたいゆえ、名を教えよ」
寺に修行にでも行こうか、と考えていると殿様がきりちゃんが喜びそうな申し出をしてくれた。
でも、私は喜べません。「褒美を届けさせるから住まいも教えよ」とか言われても迷惑なだけだからね!
「褒美は何が良い?遠慮するでない」
『困りますっ』
せっかくのご好意ですが辞退させて頂きます。
叫ぶ私にキョトンとする殿様。
私はそんな殿様に出来るだけ魅力的に見えるような笑みで微笑みかけながら立ち上がった。
『私は褒美欲しさにあなたを助けたわけじゃありません』
ツンとした言い方で言ってやる。
「いや、しかしだな・・・」
『もしや、あなたは私がそんなに卑しい人間に見えたのですか??』
「っそんなことはない!」
慌てたように言う殿様にほくそ笑む。
『・・・よかった。では、私は名乗る程の者ではありませんのでこれで失礼致しますわ』
「!?ま、待ってくれ」
何が、では、なのか私自身も謎なのだが上手く逃げられたからよしとしよう。
途中で放り出していた荷物を拾い、苦しくて走れなくなるまで走り続ける。
『ハァ、ハァ、もういいかな・・』
後ろを確認してホーっと息を吐き出す。
ちゃんと逃げ切れたみたい。
ここは裏裏山あたりだろうか。
もう走らなくても大丈夫だよね。
良かった、安心だ。と歩き出した私だが、急に茂みがガサリと揺れて凍りつく。
「ばあぁ!」
『ギャアアアァって、あれ?きりちゃん!?』
「ワシもいるぞ」
『大木先生も!?』
茂みから出てきたのはドクタケの殿様でも忍者隊でもなくきりちゃんと雅之助さんだった。
『もー!驚かさないでよっ』
「アハハ、ごめん、ごめん。ユキさん何処か行ってたの?」
『町に事務用品とかを買いにね。きりちゃんたちは?』
「僕は大木先生の家で農家のアルバイトさせてもらってたんだ」
珍しい組み合わせに目を丸くしているときりちゃんが言った。
「遅くまで手伝わせちまったから忍術学園まで送ることにしたんだ」
『そうでしたか!ありがとうございます』
「いやいや。忍術学園には別の用事もあったからな」
『別の用事?』
首を傾げる私の頭に雅之助さんの大きな掌が乗る。
「ユキに会うっていう大事な用事だ」
『っ大木先生ったらふぐぐぅ』
キュッと私の鼻をつまんだ大木先生。
「稽古の時以外は雅之助だろ。ま・さ・の・す・け!」
『ま、ましゃのふけひゃん』
「ぷはっ。このままじゃ喋れんな。すまん、すまん」
ピンと私の鼻弾いてから手を放して笑う
雅之助さんの前で顔を赤くする。
顔が近いし、変な声出しちゃうし恥ずかしいよ!
しかも「名前で呼べ!ほらっ」と顔をキラキラさせて両手を広げられたので更に羞恥心が増していく。
どうにか恥ずかしさを抑えて『雅之助さん』と呼べた時には私の顔は沈む夕日よりも赤く染まっていた。
『ハアァ忍術学園に帰りましょう』
私は手で顔を扇ぎながら雅之助さん達と忍術学園へ向かって歩き出す。
「あ、そういえば気になってることがあるんスよ。忍術学園じゃ話しにくいので今話してもいいですか?」
雅之助さんがいるのでいつもより丁寧口調で
きりちゃんが聞いた。
「最近五年生のみなさんの様子、変だと思いませんか?」
そう言って眉を寄せるきりちゃん。
「同じ委員の不破雷蔵先輩と一昨日一緒に仕事していたんですけど、いつもの穏やかさが見る影もなく落ち込んでいて・・」
『そんなに落ち込んでたの?』
「はい。委員長の中在家先輩も心配するほどに。で、この話をは組でしてたら他の五年生の先輩方も元気がなかったって言ってて」
『そう・・・』
「ユキさん、何か心当たりありませんか?」
うっ、どうしよう。
落ち込んでいるのは知っていたし、私も気になってはいたけど・・・
心配そうな顔のきりちゃんの前で私は声を詰まらせる。
「その顔は心当たり有りって顔だな」
地面を見ながら歩いていた私の顔を雅之助さんが覗き込んだ。
そうなのだ。
雅之助さんの言う通り、心当たりはある。
五年生の元気がないのは、ドクタケ忍術学講師の魔界之小路先生に拉致された私を奪還する実習を失敗した日から。
あの日から五年生の元気がなくなって気になってはいたのだが、私は忍者じゃないからアドバイスは出来ない。
その上、私は彼らにしたら救出できなかった当人。
今日まで何と声をかけたら良いか分からずにいたのだ。
下手に慰めてもプライドを傷つけるだけだしなぁ・・・。
『ごめん。思い当たることあったと思ったけど、きっと違うや。私も五年生の様子を注意して見てみるね』
「そっか・・・」
言おうか言うまいか迷ったが、結局嘘をつくことにした。
シュンとして肩を落とすきりちゃん。
彼の様子に胸がチクリと痛む。
「おかえりなさ~い。あれ?大木先生もこんにちは」
話をしているうちにいつの間にか忍術学園に到着していた。
ほんわか笑顔で小松田さんが門を開けてくれる。
「ただ今帰りました!」
『遅くなりました』
入出門表を受け取り、私たち三人はサインして門を潜る。
「じゃあ、俺は一旦長屋に戻るから後でね!
大木先生も失礼致します」
「おう!またよろしくなっ」
タタッときりちゃんは長屋へと走って行き、小松田さんも校舎に戻っていく。
「浮かない顔だな。さっききり丸が言ってた事考えてるのか?」
横を向けば気遣わしげな雅之助さんの顔。
『そうなんです。けど・・・』
「どうした?ワシで良かったら聞くぞ?」
確かに元忍術学園教師だった雅之助さんになら相談しやすい。
話聞いてもらおうかな。
『散歩しながら聞いて頂けますか?』
「あぁ」
委員会や自主鍛錬中の忍たまがいない場所を探しながら歩いていた私たちは池の畔で腰を落ち着けた。
そして、私は魔界之小路先生に拉致された話とそれが五年生の実習だったことを話し出す。
『何と声をかけたらいいか分からなくて』
「そうだな・・・」
眉を下げる私と同じように雅之助さんも眉を下げた。
「あいつらが落ち込む気持ちは分かる。目の前でお前が攫われて、しかも魔界之先生の策略に嵌まり奪還できなかった。実習とはいえショックは大きかっただろう」
『私に出来ることはないでしょうか?』
「・・・今回は難しいだろうな」
首を振る雅之助さんの横で落ち込む。
「辛いかもしれないがこれはあいつらの問題だ。ただ、この実習は非常に意味のあるものだったと思うぞ」
任務に失敗すればどうなるか。
判断ミスをすればどうなってしまうのか。
危機感を持つという意味で今回の実習は五年生にとって有意義なものになると雅之助さんは言った。
『うぅ。でも、このままは彼らも私も辛いですよ』
「何か自信を回復させられる機会があればなぁ・・・よし!ユキ、ワシに攫われてみるか?今から家に泊まりに来い」
『明日も仕事です。それに雅之助さんに攫われても元ここの教師だったんですから誰も助けに来ませんよ』
「そうか。つまらんな」
つまらんってこの人は・・・・
あ・・・でも、さっきより気分が明るくなったかも・・・
「嫁に来ーい」と冗談を言いながら池に小石を投げている雅之助さん。
彼の優しい気遣いに私は頬を緩ませる。
これは彼らの中の問題・・・か
ポチャン、ポチャンと水音が鳴る。
何もできないもどかしさを感じながら、私も池に石を放り投げた。