第二章 十人十色
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17.パイレーツ
柔らかな陽光と澄み切った空。
生命力に溢れた新芽が芽吹くこの季節が大好き。
爽やかな一日の始まり。
掃き掃除していた手を止めてググッと伸びをしていると正門をトントンと叩く音。
「すみませ~ん。開けて下さい」
『はーい。お待ちください』
箒を片隅に立てかけて潜り戸を開けるとワイルドな感じのオジサンが勢いよく飛び込んできた。
『入門表に「小松田さん・・じゃない!?新しい事務員さんかい??じゃなくて、申し訳ないがバケツを借りられないかな?」
『バケツ?掃除用で大丈夫ですか?』
「うん。お願いします!」
ワイルドな見た目と違って話し方の柔らかいオジサンにホッとしながら辺りを見渡す。
バケツは看板を拭くのに雑巾と一緒に持ってきた―――あった。
見つけたバケツを手に取ると潜り戸から今度はペールブルー色の手拭いを頭に巻いた青年が顔を出した。
「頭!バケツお借りできましたかって、うわっ!」
なんとも忙しい。
ペールブルーのお兄さんが誰かに突き飛ばされて消えた。
そして中へ入ってきたのは額と左頬に傷のある別の青年。
だが、彼の様子は明らかにおかしい。真っ青な顔をした彼は両手で口を押させている。
その瞬間にピンとくる。
バケツが必要なのは彼ですね。
「うっぷ」
『お兄さん、バケツここ!』
私の方を見たお兄さんと目が合う。
手を伸ばすお兄さんとバケツを差し出す私の心が通じ合った。
お互い駆け寄る私たち。
しかし―――
『人生何事も経験』
「お姉ちゃんカッコイイなッ」
地面に尻餅をつきながら言うと頭と呼ばれていた男性が感嘆の声をあげた。
私の方へ走ってきたお兄さんは焦っていたのか足をグキッと捻ってしまったのだ。
バケツから手を放してお兄さんのことを受け止めることに成功した私だが、転んだ衝撃もあってお兄さんは私の上衣に胃の中身をリバース。
さようなら、私の爽やかな一日よ!
「お嬢さん・・・すみば、うっぷ・・」
『っ!?(お嬢さん!)』
「鬼蜘蛛丸さんこっちへ」
「うえぇ」
ナイス!
再び吐き気の波に襲われる鬼蜘蛛丸さんに青年がサッとバケツを差し出してくれたおかげで私は二度目の被害を免れた。
「あの、その・・うちの部下がすみません」
『あら、お気になさらないで下さい』
心底申し訳なさそうな頭をしているお頭さんに私はニコリと微笑む。
爽やかな一日の始まり
それをぶち壊された私だが全く怒っていなかった。
その理由は目の前でバケツに顔を突っ込んでいる鬼蜘蛛丸さんに「お嬢さん」と呼びかけられたから。
私はここ最近、男装したつもりがなくても袴を履いていただけで男と間違えられ続けていた。
それが今日はどうだ!
こんな地味な灰色の事務員服を着ていた私を鬼蜘蛛丸さんはひと目で“女性”だと認識してくれたのだ。
そんな彼に怒りなど湧かないよ。
粗相くらいドンと来いさっ。
「初対面、うっ・・方・・に」
『謝らなくていいんですよ。気分が悪いのですから気なんか使わないで下さい。あ、髪の毛邪魔そうなので上にあげますね』
髪が揺れて邪魔そうだったのでポケットからゴムを取り出して鬼蜘蛛丸の髪で簡単な髷を作る。
「お、お嬢さん・・・(ジーン)」
『落ち着いたら保健室に移動しましょう』
目指すはナイチンゲール。
お嬢さんと呼んでくれた彼に優しくしましょう。汚れた上衣に対して私の心は今日の空のようにスッキリ清快でご機嫌。
『えっと、この方は落ち着いたら保険室に行くとして・・・』
鬼蜘蛛丸さんの背中を摩りながら頭と呼ばれる男性と青年を見ると彼らは「申し遅れました」とお辞儀をしてくれた。
「オレたちは瀬戸内海で活動している兵庫水軍の者で、オレは総大将を務めている兵庫 第三協栄丸です」
「兵庫水軍所属の重と申します。こちらは先輩の鬼蜘蛛丸さんで・・」
「鬼蜘蛛丸は陸酔いが酷いんです。ご迷惑をおかけしました」
重さんの言葉を引き継いでお頭さんが言った。
『いえいえ、本当にお気になさらずに。でも、えーと、陸酔いとは?』
聞きなれない言葉に首を傾げる。
「あぁ、オレたち海賊は普段海の上で生活しているもので、船酔いする人のように陸に上がると酔っちまう者がいるんです」
困ったものです、と頭を掻く兵庫第三協栄丸さん。
その前で私は凍りついていた。
サラッと言われた海賊という単語。
海賊ってアレだよね?髑髏の旗を掲げた船に乗りながらヨーホーヨーホー言ってる怖い人たちの事だよね?
どうしよう。もしかしたら私ったらとんでもない人たちを中に入れちゃったのかも。
サーっと血の気が引いていく。
「あ、海賊といっても山賊のような悪人じゃないんですよッ」
『え?そうなんですか?』
顔を青ざめさせているとブンブンとお頭さんが両手を顔の前で振った。
お頭さんの説明によると兵庫水軍さんは漁業、海運、商船の護衛などを生業としているちゃんとした組織という事だった。
もう、もう、もう!怖い人たちかと思って心臓はち切れそうだったよ。
『私は先月から事務員として働いております雪野ユキと申します』
安堵しながらご挨拶して入門表に記入してもらう。(鬼蜘蛛丸さんの分は重さんに代筆してもらった)
『ところで、今日の御用は?』
そう尋ねるとお頭さんの顔がニコニコ笑顔に変わった。
「雪野ちゃん、お魚好きかい?」
『?大好きです』
突然の質問を不思議に思っているとお頭さんの顔がさらに笑顔になる。なんだろう?
「よかった!今日はサバとメバルが大量に捕れたからおすそ分けに来たんだよ」
『ワァ!嬉しいです!』
思わず手を打って喜ぶ私を見てお頭さんと重さんは表情を崩す。
おばちゃん、どんな風にお料理してくれるだろう?
今日の夕食が楽しみだな。
「食堂のおばちゃんに魚を届けに行くから、鬼蜘蛛丸を頼んでいいかな?」
『場所はお分かりになります?』
もちろん、とお頭さんに頷いて言う。
「何度か来てるから大丈夫だ。重、魚は俺一人で運べるからお前は鬼蜘蛛丸についていてくれ」
「ハイ、お頭」
兵庫第三協栄丸さんは沢山のお魚が乗った台車を引いて食堂へ。
私たちは医務室へと向かう。
『あらら、外出かぁ』
医務室についたのだが部屋の前には外出中の札がかかっていた。
昨日から6年生は実習で外に出てしまっているから伊作くんもいない。うーん、困ったな。
『取り敢えず中へ。布団を敷きましょう』
重さんにお願いして布団を出してもらって敷いてもらう。
私はまだバケツを手放せない鬼蜘蛛丸さんの背中を摩りながら眉を寄せていた。
思い出すのは小学生の時。
調子に乗りすぎてジェットコースターに連続で乗って気分を悪くした時があったっけ。頭はグラグラ、吐き気も強くて辛かったな。
早く楽にしてあげたいけど・・・・
『あっ!』
「雪野さん?」
『直ぐに戻ります。ちょっと待っていて下さい』
急に大声を出した私に不思議そうな顔を向ける重さんを置いて医務室から出て行く。向かうのは自分の部屋。
スパンっと戸を開けて戸棚から鞄を取り出し中身を探る。
あった!目当ての物を見つけて笑顔になる。
私は着替えをして医務室へと猛ダッシュ。
『お待たせしましたッ』
呼吸を整えながら医務室に入り、鬼蜘蛛丸さんが寝ている布団の枕元に座る。
視線を感じて顔を上げるとキョトンとした顔の重さんが「何だろう?」と言った顔で私の手元を見つめていた。
『酔いを止めるお薬です』
「これが薬??へぇ、初めて見るや」
私たちの世界の薬に目を丸くしている重さんの顔を微笑みで受け止めつつパッケージの説明書きを読む。
青い顔の鬼蜘蛛丸さんも興味深そうな顔で体を起こした。
『鬼蜘蛛丸さんはおいくつですか?』
「にじゅう、ご・・うっぷ、です」
『成人は3錠ですね。水なしで飲める薬なので舌の上にのせて、溶けたらそのまま飲み込んじゃってください。はい、あーん』
「っ!?・・・あ、あーん」
素直でよろしい。恥ずかしそうに視線を宙に彷徨わせながらも鬼蜘蛛丸さんは口を開けてくれた。
「ん、美味しい」
『グレープフルーツ味だそうです』
「ぐれーぷふるーつ?」
『異国の果物の名前です。さぁ、薬も飲んだし楽な体勢に戻りましょう』
重さんに背中を支えてもらいながら再び布団に横になる鬼蜘蛛丸さん。
まだ顔色が悪い。早く薬が効くといいな。
『さて、それじゃあ私は食堂に行ってお茶を淹れてきますね。鬼蜘蛛丸さんはお水の方がいいですか?』
「あ、はい(優しい・・・)」
「ありがとうございます(俺もアーンされたい・・)」
布団の中でコクッと頷く鬼蜘蛛丸さんと頭を下げる重さんに微笑んで医務室を出ていく。
海の男かぁ。カッコイイな。どんな風にお仕事しているんだろう?
この世界の船はどんな船かな?忍術学園と街以外の場所は殆ど知らないから兵庫水軍の話を聞きたいな。
『お頭さん』
「おぉ!雪野ちゃん」
食堂に入ると兵庫第三協栄丸さんが山田先生、半助さんとお茶を飲んでいた。
そのテーブルをグルリと囲むのは一年は組の良い子たち。
パッと私の方を向いたは組のみんなが駆け寄ってきてくれる。
「わーい。今日は僕が一番!」
『フフ、兵太夫くんがイッチバーン』
一番初めに私の胸に飛び込んできた兵太夫くんの両脇に手を差し込んで高い高いをする。わーっと両手を広げて喜ぶ姿が可愛い。
「どうして小袖姿なの?今からお出かけ?」
兵太夫くんが私の首にギュッと抱きつきながら聞いた。
『あー・・・たまに小袖で過ごすのもいいかなと思って』
目の合った兵庫第三協栄丸さんに『言う必要はない』と首を横に振る。
『たまにはいいでしょ?みんな褒めて!』
「褒める前から褒めてって言っちゃダメだよ」
「ユキさんったら目が回る~」
兵太夫くんを抱っこしたままクルクルと回転してアピールしていると眉をハの字にしてきりちゃんが言った。
そんな私たちを見て笑うは組のみんな。
ところでみんなは何をしていたところなのかな?
「兵庫第三協栄丸さん達は仕事柄全国の情報を得られるから時々こうやって忍術学園に来てもらって情報交換して貰っているんだよ」
『あぁ、なるほど』
目が合った半助さんが教えてくれた。
戦は情報が命!だと授業中の教室の前を通り過ぎた時に聞こえてきたのを思い出す。
「ユキさんも一緒にお話聞く?」
『う~ん。せっかくだけど(難しそう、パス!)』
「言うと思った!」
『あらら?どういう意味かな兵太夫くん?』
「うわっ、く、くすぐったい!アハハ!」
にやっと笑って言った兵太夫くんをひとしきりくすぐってから床に下ろすとみんなから「僕も」「僕もくすぐって」と声がかかる。
くすぐりっこして遊びたいところだけど・・・
『みんなお話聞いている途中でしょ。それに私は医務室に戻らないといけないからまた今度にしようね』
「怪我人ですか?」
心配そうな顔で聞いてきたのは乱太郎くん。
さすが保健委員さん。
責任感の強い彼の頭を撫でながら首を横に振る。
『兵庫第三協栄丸さんと一緒にいらした鬼蜘蛛丸さんが具合を悪くされて寝ているの。お薬飲んだから少しは落ち着いたと思うのだけど・・・』
「もしかして陸酔い?」
苦笑しながら頷く。どうやら鬼蜘蛛丸さんの陸酔いは忍たま達にも知れ渡るほど有名なものらしい。
「鬼蜘蛛丸さんが忍術学園に来たの久しぶりだよね。会いたいなぁ」
『重さんも一緒だよ』
「そうなんだ!」
顔を輝かせる庄ちゃん。
他のみんなも鬼蜘蛛丸さんと重さんに会いに行きたいようでソワソワしている。
そんな様子に気がついた兵庫第三協栄丸さんから大きな笑い声。
「みんなに聞かせたい話は大体話終わったから、は組のみんなは鬼蜘蛛丸と重に顔を見せに行ってやってくれ」
兵庫第三協栄丸さんの言葉でみんなの顔がパアァと輝く。
「お前たち、保健室で騒ぐんじゃないぞ」
「魚を頂いたお礼も申し上げなさい」
ハーイ!と山田先生と半助さんに元気よく返事をして皆は一斉に食堂から駆け出していく。
ドタドタと廊下を走っていく音を聞いて同時に溜息をつく山田先生と半助さん。
元気いっぱい一年生の担任は大変。
クスクス笑みを零しながらお茶を淹れて私も保健室へ。
『失礼します』
は組のみんなの弾んだ声が聞こえる医務室の戸を開けると布団から上体を起こしている鬼蜘蛛丸さんと目があった。
よかった。さっきより顔色が良くなっている。
『具合はどうですか?』
「雪野さんのおかげでだいぶ落ち着いてきました」
『それは良かったです。お水どうぞ。あと、ユキでいいですよ」
「ありがとうございます。えっと、ユキさん」
枕元に座ってお水を差し出す。
ちょっと触れ合った私たちの手。鬼蜘蛛丸さんの手はゴツゴツしていて鋼のように強そうな手。さすが海の男って感じ。
お茶を手渡す時に見たら、鬼蜘蛛丸さんより少し若そうな重さんも同じようにガッシリした手をしていた。
5,6年生と海へ遊びに行くのは夏。それまでに私も体を鍛え上げねば・・・
二の腕、お腹、太もも――――うわぁ間に合うかなぁ。
『いきなりですが、お二人共普段からお仕事以外に特別なトレーニングとかされているんですか?』
「「へ??」」
ポカンとする鬼蜘蛛丸さんと重さん。
う、しまった。いきなり、と前置きしたけどいきなりすぎた。
『いやぁ、その・・・お二人共いい体してるなって思って、見習いたいな、と』
思ったことを全て口にしてしまう単細胞な自分に心の中で悪態をつく。
「いい体してる」って完全にエロオヤジの発言だよ。
あああぁ、私の馬鹿。どうやってごまかそう?
頭をフル回転させていると膝の上に重み。
「ユキさんダイエットしてるの?」
膝の上に乗って私を見上げる喜三太くん。助かった!
大きな声で『うん!』と返事をする。
その瞬間、私の周りで起こる笑いの渦。
誤解は溶けたが恥ずかしい。
「そうですね。特別なトレーニングという程ではありませんが俺たちは毎日泳いでいますから、それで体が自然と鍛えられるのだと思います」
カアァと赤くなっていると鬼蜘蛛丸さんが少し笑いながら言った。
『水泳か・・・んー、時期的にまだ泳ぐには早いですよね?』
「そんなことないですよ!!」
『わわっ!?』
「イテッ!重っ!」
私たちの会話を聞いていた重さんがガバッと身を乗り出してきたのだが、勢い余ったのか私と布団を挟んで対面に座っていた彼は鬼蜘蛛丸さんの上にダイブ。
重さん顎打ったように見えたよ。痛そう・・・
「まったくお前は・・・」
「す、すみません」
『お二人共大丈夫ですか?』
「「っだ、大丈夫デスッ!!」」
顔を覗き込んだ瞬間、二人の体が弾かれた様に私から離れた。
彼らはまだ 雪野=エロオヤジ(エロ乙女?)だと思っているのかもしれない。
私から思い切り顔を背ける二人。
大声で泣き出したい衝動に駆られる。
『えっと、話を戻しましょうか。今の時期から泳げるんですか?』
泣きたいのをぐっと堪え、出来るだけ柔らかな笑顔を作って聞く。
「はい!春になって水温も上がってきて泳ぎやすくなっています」
元気よく言う重さん。
泳ぎやすいって何度くらいなんだろう?海が近くになかったから泳ぐといったら室内プールだから基準が分からない。
頭の片隅に情報が埋もれてないか探していると重さんに右手を握られた。キラキラした顔に目を瞬く。
「あの、よかったら雪野さん!兵庫水軍に遊びにいらっしゃいませんか?」
大声で思い切ったように言う重さんに、私も鬼蜘蛛丸さんもは組のみんなもビックリ。
キョトンとしている私たちに気づいた重さんの顔は真っ赤。
「俺ったら急に大声でスミマセン。なんか、ユキさん可愛いから緊張しちゃって、アハハ」
照れを隠すように首の後ろに手を当てる重さんに微笑む。
『ご迷惑でなければ是非遊びに行きたいです』
「全然迷惑じゃないですよ!」
「大歓迎です!」
明るい声で重さんと鬼蜘蛛丸さんが同時に言った。
心の中でガッツポーズする。
脱・エロ乙女。
私はただの乙女。ヒャッホウ!
私たち三人はとっても良い笑顔。
「俺、自分で言うのもアレなんですけど泳ぎは得意なんです。もし、泳ぐの苦手だったら一生懸命教えますんで」
緊張しているのか、言葉を探しながら言う重さんが可愛くて思わず笑みを零してしていると左手を鬼蜘蛛丸さんに取られた。
キョトンとする。
膝の上の喜三太くんも私と鬼蜘蛛丸さんを交互に見てキョトンとしている。
「魚は白身と赤身、どちらがお好きですか?」
『!?』
突然ですね!
「え、あ、いや、急に変な質問してすみません」
私の驚いた顔を見てオロオロする鬼蜘蛛丸さん。
海の男だから「俺について来い!」みたいな性格だと思ってたけど違うみたい。
海で仕事をしていると女性と話す機会がないのかも。
慣れない様子で一生懸命話しかけてくれる彼らの不器用な感じにハートをズキュンと撃ち抜かれてます。
『フフ、変な質問じゃないですよ。私は赤身も白身も両方好きです。強いて言うなら、お刺身で食べるのが一番好きです』
「刺身!そりゃあいい!釣りたてを食べさせますよっ。赤身も白身も両方俺が釣って、さばいてお出ししますッ」
鬼蜘蛛丸さんはオロオロした顔からパッと笑顔へ。
「ほにゃあ~ユキさんのお膝から落っこちちゃうよぉ」
「お、すまんッ」
私の手をブンブン上下に振る鬼蜘蛛丸さんに抗議しながら喜三太くんが私の体にギュッと抱きついた。かわいい・・・
あ、そうだ。遊びに行くときは是非忍術学園の子と一緒にお邪魔したいな。
「もちろんですよ」
「楽しみにしています」
尋ねると鬼蜘蛛丸さんも重さんも笑顔で快諾してくれた。
わあ!とは組のみんなから歓声が上がる。
「温かくなったといってもまだ海の中も冷たいですから、泳ぎに来るのはもう少し待った方が良さそうです。水温が上がったら直ぐに知らせに来ます」
『ありがとうございます!』
みんなで海遊び、楽しみだな。
よし、ダイエット頑張るぞ!!!
「うーん。今日のユキさん、なんかお淑やか!?アハハ!!」
『!?(喜三太くん!もう少し猫かぶらせて~)』
「ほにゃや、くすぐったい!」
くすぐり攻撃で喜三太の言葉を遮るユキ。僕もくすぐって、とユキに飛びつくは組の生徒。
ユキの前で顔を紅潮させながら表情を崩す海の男ふたり。
「(あーあ。また土井先生のライバルが増えちゃったみたい)」
うかうかしてたら誰かにユキさん取られちゃうよ。
頑張れ、土井先生!
きり丸少年は心の中で大好きな先生にエールを送っていた。