第二章 十人十色
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12.いけどん川遊び
放課後の見回中に戸部先生と金吾くんを発見。
「ゆら~りゆらーーり」
「戸部先生っ!」
仲の良さそうな師弟の姿を鑑賞していると突然戸部先生が倒れた。
しかも顔から。痛そう。
痛みを想像して顔を歪ませながら二人のもとに走っていく。
小腹を満たせるものはないかな?とポケットを探ればお饅頭が一つ。
『お腹がすいているなら僕の顔をあげるよ!』
お饅頭を差し出しながらユキちゃんウィンク。
「・・・」
「!?」
『え?嘘だよ。ちょっとした冗談。冗談だって!ただの饅頭だから金吾くん剣を下ろしてぇぇ!!』
私のボケに笑うでもなく、突っ込むでもなく、ただこちらを見つめる戸部先生。
涙目になりながら私に真剣を向けてくる金吾くん。
私の何が悪かったのでしょう?
疑問に思いながら普通の饅頭であると説明。
「頂戴する」
『どうぞどうぞ』
安心してくれたらしく戸部先生はパクリとお饅頭を食べてくれた。
「これで立ち上がれ・・・むむ」
「戸部先生!」
お饅頭を食べた戸部先生は立ち上がれるようになったけど、まだ歩けそうもない。
ユラリと立ちくらみしてしまった。愛と勇気と餡子の力が足りなかったようだ。
「戸部先生、しっかりなさって下さい」
「すまん、金吾」
戸部先生に肩をかす金吾くんの体は重さでフラフラ。
仕方ない。ここは私が頑張ろう。
戸部先生の前にいって背中を向けてしゃがむ。
『どうぞ負ぶさってください』
「「え゛っ」」
『えって、戸部先生。金吾くんはおんぶ出来ませんから。さあ』
首だけ振り返って言うと戸部先生と金吾くんが後退した。
「あ、有難いが雪野くんも大変だろう。遠慮しておく。金吾、肩をかしてくれ」
「ハ、ハイ!」
なぜか顔を引きつらせて歩き出す戸部先生の腕をガシッと掴む。
『遠慮することありませんよ』
「え、いや、その、え~と(うわあぁ)」
オロオロする戸部先生。あともうひと押し。
戸部先生に向かって両手を広げてみせる。
私の胸にウエルカム戸部先生。
『ぜひ鍛えられたその体を私の背中に預けて「失礼する(この子怖い)」・・チッ』
戸部先生は砂埃を巻き上げながら校舎へと走っていった。
走れるくらい元気になっていたのか。
残念だが今日のところはオロオロする珍しい戸部先生の姿を見られたからそれでよしとしよう。
お饅頭を渡したことを軽く後悔していると横から視線。
「ユキさん。僕の、先生を、いじめないで」
『・・・・ご、ごめんなさい』
真剣な声と目で言う金吾くん。ズキリと胸が痛む。
私は自分の欲望を押さえ込む練習をしようと心に決めた。
『あー、金吾くんは戸部先生に稽古をつけてもらっていたの?』
金吾くんに白い目で見つめ続けられるのが耐えられず口を開く。
すると私の言葉を聞いた金吾くんはションボリと肩を落としてしまった。
「実は戸部先生が引っ越すことになって」
『引越し!?え・・じゃあ忍術学園からいなくなっちゃうってこと?』
「いえ、そういうわけでは・・」
驚く私に首を横に振る金吾くん。
それでは何故?と落ち込む金吾くんの様子を見て首をかしげる私に彼は
実家が遠いから長期休み中は戸部先生の家に居候させてもらっていると話してくれた。
『そうだったんだ!』
「休み中も剣の稽古をつけて頂いてとても有難いのですが戸部先生には一つ困った癖がありまして」
『困ったくせ?』
「はい。戸部先生は動くものを見ると刀を振り回す悪いクセがあるんです」
『げっ。ところかまわず?』
私の言葉にガクリと力なく頷く金吾くん。
悪いクセというか私の世界だと即逮捕で三面記事に載ってしまうよ。
『引越しってまさか・・・』
「そのまさかなんです。先日も家に入ってきたハエに反応されて刀を振り回し、気がついたら家中ボロボロに。それで借家を追い出されてしまって」
『うわー苦労してるね』
苦笑いする私に「それでも戸部先生と一緒に生活するのは楽しいです」
と言う金吾くん。なんて良い子なのでしょう!
『もうすぐお風呂の時間だから長屋に戻る?』
気分を変えようと励ますように言って金吾くんに笑顔を向けると彼は可愛い笑顔を見せてくれた。
「うん!でもその前に喉渇いたから井戸に行っていい?」
『もちろん。一緒に行こう』
金吾くんと引越しについて話しながら井戸へと向かう。
良い借家を探すのは大変らしい。
話を聞いている私も他人事ではない。荷物も増えてきたし私にもそろそろ家が必要。
夏休みに入るまでに住む場所を決めなければいけない。
しかし、それは後で考えるとして、
『ところで金吾くん、今度のお休み暇かな?』
「はい。暇ですけど・・?」
私の唐突な問いに首をかしげる金吾くん。
『ハチマキ争奪戦で私たち緑チームが優勝したとき、ご褒美で花祭りに行けることになったけど、金吾くん風邪ひいて行けなかったでしょ?
風邪もすっかり治ったみたいだし一緒に遊びに行けたらなって思ってたの」
私の言葉にパアァと笑顔の花を咲かせる金吾くん。
「ユキさん、あの時の約束覚えていてくれたんですね!」
『可愛い金吾くんとの約束だもん。忘れないよー』
今にも飛び上がりそうな勢いで喜んでくれる金吾くんが可愛い。
顔を緩ませながら金吾くんに行きたい場所があるか聞く。
「あ!そうだ!」
暫く考え込んでいた金吾くんがポンと手を打った。
行きたい場所が見つかったのかな?
「暖かくなってきたので川遊びがしたいです!」
『いいね!気持ちよさそう』
「もしよかったら体育委員会の先輩たちも誘っていいですか?」
『フフ、賑やかになって楽しそうだね。魚をとって川原で食べるのも美味しそう。わぁー楽しみになってきたな』
心がワクワクする。魚だけじゃ足りないからお弁当も作ろう。私が!今度の休みが待ち遠しい。
『小平太くんと体育委員の子たちには私から伝えておくね』
「ありがとうございます!」
私は元気な金吾くんの声に顔を綻ばせた。
***
やってきたお出かけの休日。
お弁当作りに苦戦した私はバタバタと待ち合わせである正門に走っている。
時計を見ると待ち合わせ時間ちょうど。間に合った!
「おーーい、ユキーー!」
私に両手を大きく振る小平太くん。
彼の周りには他の体育委員のメンバーも揃っている。
『遅くなってごめんね』
「時間ピッタリだ!謝る必要なんかないぞ」
肩で息をする私の頭を小平太くんがワシワシと撫でた。
「ところで、ユキ」
急にズイっと迫ってきた小平太くんに心臓を跳ねさせる。
いきなりどうしたの!?顔が近くて照れるよ。
「どーして春祭りの時のような小袖姿ではないのだ?」
『へ?』
心臓をドキドキさせながら自分の姿を見る。
私の姿は体育委員メンバーの格好と同じ。小袖の下に短めの袴。
『だって山登って川まで行くんでしょ?動きやすい服装の方がいいじゃない』
「っ全然よくないぞ!私はユキの小袖姿を楽しみにしていたのだ」
『小袖だと歩きにくくて皆に置いていかれちゃうよ』
「私がユキを抱いていくから心配いらないッ」
『アハハ無茶言うなぁ』
「無茶ではないぞ!着替えてきてくれ」
『また今度ね。みんなー出発するよー』
「あ、待て。ユキっ」
「まあまあ七松先輩、落ち着いて」
「むうぅ」
なだめ役を滝夜叉丸くんに任せて正門を出る。
今日はカラっとした良い天気。
「ユキさん。荷物持ちます」
青い空を見て満足げに笑んでいると四郎兵衛くんが声をかけてくれた。
私の手には大量の風呂敷包み。みんなにお弁当配るの忘れてた。
『ありがとう四郎兵衛くん。これは皆のお弁当なの。一人一つずつ持ってもらっていいかな?』
「お弁当!」
「嬉しいです!」
私の言葉にわあっ!と寄ってきた金吾くんと三之助くん。
「ユキさん、朝早くから私たちの為にありがとうございます」
と礼儀正しい滝夜叉丸くん。
『どういたしまして』
「ユキの手作り弁当だ!」
よかった。小平太くんの機嫌も直ったみたい。
みんなにお弁当を配って出発準備完了。
「よし!それでは今から体育委員会の遠足を始めるぞ。いけいけどんどーーん」
「「「「オォーー!!」」」」
『ちょっ!?三之助くん、どこ行くのかな!?』
「す、すみません(またやっちゃった)」
『手つないで行こう』
「っ!?ハ、ハイ!!」
私たちは小平太くんを先頭に澄んだ空の下を走っていった。
小一時間ほど走って(よく頑張った、私)目的地の川に到着。
小平太くんが選んでくれたその場所は川底が深く、流れも止まっているように見えるくらい穏やかな場所だった。思い切り川遊びが楽しめそう。
「川に入る前に準備運動だ」
ニパっとした笑顔で小平太くんが言った。
一時間走ってこの元気。さすがは体力勝負の体育委員を引っ張る委員長。
『水分補給と休憩の時間を下さいっ』
グルグル腕を回している小平太くんに訴える。
休まないと準備運動が終わった直後に体力の限界がきてしまいそう。
「おぉ、そうか。では暫し休憩!」
小平太くんの号令に他の体育委員メンバーもホッとした様子。
竹筒を出して川の水を飲む。冷たい水が喉を潤していく。生き返ったよ!
『プハッ。美味しい』
もう一杯飲みたいな、と屈んだ私は動きを止めた。
川の中で何かが動いたからだ。
『見て見て!あそこに魚がいるよ!』
動いていたのは魚だった。
思わず興奮した声をあげる私の周りにみんなが集まってくる。
「ホントだ!けっこう大きいね」
目を輝かせる金吾くん。
「わぁ美味しそうだなぁ」
「あれは多分ヤマメだ。塩焼きにしたら美味しいんだよ」
魚の塩焼きを思い浮かべてじゅるっとヨダレを拭く四郎兵衛くんと三之助くん。
「七松先輩、魚釣りをしてはどうでしょう?」
「良いアイデアだ!」
滝夜叉丸くんの提案に小平太くんが頷く。
川で遊びながら魚釣り。釣った魚は食べられる。
遊んで、お腹も満たされて楽しさ二倍。
「捕って、捕って、捕りまくるぞーーー!!」
『うおぉぉぉぉ!!』
(((七松先輩とユキさん熱いな)))
「ところで、釣竿持ってきてましたっけ?」
三之助くんの言葉を聞いて拳を空高く掲げたままピシリと固まる私と小平太くん。
竿のことなんて頭になかったよ。どうしよう・・・
「竿がなくても大丈夫。手で掴み捕りすればいいのだ」
((((掴み捕り!?))))
『小平太くん天才!』
((((即諾!?!?))))
頭の回転の早い小平太くんとハイタッチ。
しかも彼はさらに良いことを思いついたみたい。
みんなの顔を見渡してニッと笑う小平太くん。
「せっかくなら魚掴み勝負をしよう」
その方が盛り上がるだろうと言う小平太くんの言葉に私もみんなも大賛成。
さっそくクジが作られてチーム分けが行われる。
「打倒!白組だッ。いけいけどんどーーん」
「どんど~ん」
「先輩方、宜しくお願いします!(あっちが白組ってことは僕たち赤組・・?)」
小平太くん、四郎兵衛くん、金吾くん チーム
そして、
『フハハハハ!陸上の人魚の異名を持つ私の前に敵などいないっ』
「!?ユキさん陸上ってところを詳しく説明して頂いても!?って三之助はどこだ!?」
『森の中に入りそうになっているのそうじゃない?』
「三之助ええぇぇ!!」
私、滝夜叉丸くん、三之助くん チーム
ルールは単純。
多く魚を獲ったチームが勝ち。
しっかり準備体操もしてやる気十分。
「ところで、ユキさん。お着替えは持ってこられたのですか?」
ようやく滝夜叉丸くんに捕獲されて戻ってきた三之助くんが言った。
『持ってきてないよ。あ、滝夜叉丸くんて褌までオシャレなんだね』
「ありがとうございます!この滝夜叉丸は見えないところにも気を抜かないのであります。なにしろ私は忍術学園の輝ける一等星!誰もが振り向くこの美貌、他を圧倒するこのグダグダ
「良かったら俺の服を水練服代わりにかしましょうか?」
『三之助くん!?』
滝夜叉丸くんのオシャレ褌から三之助くんに視線を移すと
「だってユキさんは下着で泳ぐわけにいかないですから」
と言って私に自分の服を差し出してくれた。
私のために自分の服を犠牲にしてくれようとする三之助くん感動しながら『大丈夫だよ』と遠慮して足の脚絆を外していく。
『実は服の下に水着を着てきているのです』
良く分からないといった様に眉を寄せる三之助くん。
昨日、夜中に一人ムダ毛処理をした私。自信を持って脱ぎましょう!
私はお腹を引っ込めながら上衣を脱いだ。
『ジャンジャジャーーン』
恥ずかしさを隠すために自分で効果音をつけ、ふざけたポーズを決めてみる。
空気が凍った
ポカンと口を開けて動かなくなったみんな。
この世界に来る前に買った水色花柄プリントの上下が分かれた水着。
冒険しすぎたとは思います。でも、お願いだから反応してよおぉぉぉぉ!
恥ずかしさで顔を覆っているとタタタッと誰かが近づいてくる音。
「ユキさん。すごーく可愛い!これ水着っていうの?」
「とっても素敵だよ!僕、ビックリして声出なかったよ」
覆っていた手をどければ二人がニッコリと私を見上げていた。
ジーザス!この二人の天使を地上に使わしてくれてありがとうございます。
『四郎兵衛くん、金吾くん。ありがとう』
エヘヘと照れた笑みを浮かべる四郎兵衛くんと金吾くん。
感謝を込めて彼らの手をブンブン上下に振る。
『まだ皆着替えてるし、先に川に入ってみよう』
四郎兵衛くんと金吾くんの手を繋ぎながら川の中に移動する。
勝負前に水に慣れておこう。いきなり飛び込んだら心臓がビックリしちゃうからね。
『冷たいっ。けど気持ちいいね』
「今年初めての水遊びだ!」
「ユキさんバシャバシャ~」
四郎兵衛くんがニパッと笑って私に水をかけてきた。
『やったわね(バシャバシャ)金吾くんにも(バシャバシャ)』
「わーー!」
「アハハ冷たい」
可愛い良い子たちと川で水の掛け合いっこ。
絵本の中のように平和で穏やかな一時。
私は水と良い子達と戯れながら幸せを噛み締めた。
「七松センパーーイ!川に入らないのですか?」
プルプルと顔を振って水を落とし、金吾くんが川原に向かって手を振った。
私も川原に目を向ける。そろそろ魚捕りしたいな。
『滝夜叉丸くんも三之助くんも脱いだんなら早く入っておいでよー』
気持ちいいよと手を振って二人を誘う。
小平太くん、滝夜叉丸くん、三之助くんの三人は顔を見合わせてからおずおずと川の中に入ってきた。
どうしてあんなに慎重になってるのかしら?
『先輩たち泳ぎ苦手だって言ってた?』
両隣を見ながら尋ねると二人とも首を横にフルフルと振った。
じゃあどうした?腹イタ?
四郎兵衛くん、金吾くんとパシャパシャと小平太くんたちのもとに行く。
『三人とも急に元気なくなったけど、お腹痛いとか?』
「「「イイエ!!」」」
凄く元気な否定の言葉が返ってきた。
キョトンとする私と目のあった三人が一斉に私から視線を外す。
三人のいつもとは違う様子に目を瞬いていると私の手を四郎兵衛くんがクイクイと引いた。
内緒話をするように口に手をあてたので身を屈めて彼の口元に耳を近づける。
「(きっと先輩たちはユキさんの水着姿に照れちゃってるんだよ)」
「「「四郎兵衛ッ」」」
こっそり言う四郎兵衛くんの声に勢いよく反応する三人。
見ると彼らの顔は真っ赤。
驚くべき事にどうやら四郎兵衛くんの言った通りだったみたい。嬉しい・・・
私は彼らの可愛らしい反応に思わず笑みを零した。
『フフ、これは褒められてると取ってもいいのかな?ありがとね』
さらに顔を赤くさせて俯く三人。
私は、珍しい先輩たちの姿を見て私の背後で楽しそうに顔を見合わせている四郎兵衛くんと金吾くんの頭をクシャリと撫でた。
『さあ、お昼ごはんの時間もあるし魚捕りを始めよう』
私は空気を変えるためにパンッと手を打った。
『四郎兵衛くん、金吾くん。沢山お魚捕ろうね』
「負けないぞー」
「オー!」
歓声を上げながらパシャパシャと駆けていく四郎兵衛くんと金吾くんの背中を見送る。
彼らが遠ざかったところで・・・この三人をどうしましょうか?
私はいまだに顔を紅潮させて固まっている小平太くんたちを見て息を吐いた。
『もう!三人とも緊張しすぎ』
「だって、ユキが、その」
モゴモゴと口ごもる小平太くんに苦笑する。
困ったな。緊張しないで楽しんで欲しいんだけど。
場を和ませるにはどうしたらいいだろう?
んーと暫く考えた私は強引な手を使うことに。
『たーきやしゃ丸くん』
「えっ、は、はい!」
名前を呼ばれて顔を上げた滝夜叉丸くんは私のニヤリとした笑みを見て頬を赤く染めながら訝しげに眉を寄せた。
フフフ、多分その嫌な予感は当たってるよ。
彼の鼻をキュッと摘んで耳元に口を寄せる。
『私の全裸を見たことがある滝夜叉丸くんが恥ずかしがるなんて、い・が・い・ね?』
「何いいィィィィ!?!?どういう事だ、滝夜叉丸!!」
私の声に反応して叫ぶ小平太くん。
「お前、まさか、私のユキを・・」
「お、落ち着いてください。誤解です七松先輩ッうわああ」
声を潜めて言ったがバッチリ小平太くんの耳には聞こえたようだ。
上流に向かって逃げていく滝夜叉丸くんと彼を追いかける小平太くん。
追い駆けっこしている間に照れていた事も忘れるだろう。
「ユキさん助けて下さいッぬわあっ」
遠くの方で小平太くんが巨大岩を持ち上げたのが見えた。
ちょっと強引すぎたかな?すまんね、滝夜叉丸くん。
心の中で合掌してから三之助くんを振り返る。
『さて、三之助くん。下級生に負けてられないよね?ガンガン魚捕るわよ』
「えぇっ!?平滝夜叉丸先輩を放っておいていいんですか!?」
『細かいことは気にするなッ!』
「エェーー!?」
大きな魚を捕りましょう
どうかご無事で、という呟き声を聞きながら私は清らかな川を覗き込んだ。
***
パチパチと赤く燃える火を囲む私たちは笑顔。
素早く動ける忍たまたちは魚掴みも上手かった。
私も二匹取れた。満足だ。
「焼けたぞ!」
『わーい。小平太くん、ありがとう』
声を合わせて食事のご挨拶。
「おいふぃい」
「あっちっち」
パクッと焼きたての魚にかぶりつけば口一杯に幸せ。
前を見ればハフハフと熱がりながらお魚を食べる可愛い下級生を見ることができる幸せ。
「ちゃんと三角だッ」
今夜は良い夢を見られそうだと思っていると隣の小平太くんが奇妙な言葉を吐いた。
彼の手には私のおにぎり。口におにぎりを運ぼうとする彼の手をガシッと掴む。
『今のは聞き捨てなりませんね』
「す、すまん。つい(ちゃんとしたおにぎりにビックリして・・)」
私の眼光に小平太くんが怯んだ。
他の体育委員メンバーの口から感嘆するような声が漏れた。
私に注目が集まったところで皆にお知らせを一つ。
『ゴホンッ。ここでユキさんから素敵なお知らせです。実はこの中のおにぎりに“当たり”を混ぜています』
「当たりって?」
キョトンとして聞く金吾くんに『おかかと梅以外の具が入ってたら当たりだよ』
と答える。
『当たりが出たら、ユキさんがユキさんに出来る範囲で(ここ重要)お願いを一つ聞いてあげましょう!』
歓声があがった。
みんなのワクワクした顔を見て嬉しくなる。
『ではみんなで一斉に食べてね!せ~~の!』
私の合図でパクリとおにぎりを口に入れるみんな。
当たりは誰かな?
「シャケだ!」
『滝夜叉丸くん、当たりーー!』
パーっと顔を輝かせる滝夜叉丸くん。
「そのおにぎりを譲ってくれッ」
パチパチと拍手していると小平太くんが無茶を言った。
滝夜叉丸くんが困った顔でオロオロした。なんて迷惑な先輩だ。
『コラ!後輩を困らせちゃダメでしょ』
「うぅ。私もユキにお願い聞いて欲しい・・」
「七松委員長、泣かないで下さいっ。よ、良かったら先輩におにぎりお譲りします」
「いいのか!?」
『いいわけあるか!後輩に気を使わせないでよ!』
「私は水着のユキと添い寝したいのだ!」
『アーーホかッ。そんなの当たり引いてたってお断りだッ』
「では普段もその格好で過ごしてくれッ」
『水中で着てこその水着なのだよ小平太くん!っ何しようとしてんの!?』
「小袖を燃やしてしまえば水着で過ごすしかなくなるだろう?」
『っ!?だ、誰か、止めて、止めるの手伝ってえエエェェェェ』
慌てて手を伸ばす体育委員メンバーたち。
青い空に響く私の絶叫。
灰に変わる私の小袖。
満足げに二カッと笑う暴君の隣で私は地面に手をついた。