第二章 十人十色
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4.健康診断
穏やかな春の午後。
私はのんびりと事務処理中。単純作業にぼんやりしていると吉野先生が机の前にやってきた。
「雪野くんは健康診断受けてきたかい?」
『はい!』
吉野先生が無言で私の顔の前に紙を出した。
雪野ユキ 健康診断表
「白紙ですよ?」
『アハハハあれーおっかしいなー』
半眼の吉野先生から顔を逸らしてから笑い。座布団の下に隠して置いたのにいつの間に見つかったんだろう。
「小松田くんもまだだから二人で行ってきなさい」
吉野先生がため息をつきながら言った。
「小松田くん、雪野くんが逃げ出さないようにしっかり見張っておいてくださいね。」
『えーー』
「えーーじゃないですよ!」
逃げようと考えていた私の不満声を聞いて吉野先生がキュッと私の鼻を摘んだ。
「ユキちゃん行こう」
『・・・わかりました』
仕方ない。行くしかないのか・・・。
ガクンと肩を落とす。
私はついに小松田さんに監視されながら保健室へと向かうことになった。
「どうして落ち込んでるの?」
隣を歩く小松田さんは不思議そうな顔。
もちろん私が落ち込んでいるのには理由がある。
『・・・身長測らないといけないからです』
「身長?どうして?」
私の答えに首をかしげる小松田さん。
『私の身長、女性の平均身長より大分高いじゃないですか。
だから身長測ってハッキリした数字を見せられるのが嫌で』
「そんなの気にすることなんかないのに!」
『気にしますよぉ。体重を気にする人と同じように私は身長を気にしてるんです』
向こうの世界ではそんなに気にならなかったんだけどなぁ。
「でもね、背が高くても低くてもユキちゃんはユキちゃんだよ」
ハアァと溜息をついていると小松田さんが言った。
真面目な彼の声に私は思わず足を止める。
小松田さんの方に顔を向けると彼は目を丸くしている私にフニャリと笑った。
「人は外見なんかじゃないよ。僕は優しくて、可愛くて、明るい性格のユキちゃんが好き。 背が高くっても低くっても変わらないよ」
彼の言葉に私の心臓がトクリと跳ねる。
これって・・・
『告白?』
「え!?あ、ち、違う!!」
違うのか。
小松田さんが真っ赤になって打ち消すように手をブンブン振った。
そんなに焦らなくても分かってますよぉ
「わあぁぁ何言ってるんだろう。これは告白じゃなくて、今言ったのは嘘じゃないんだけど、えっと、その」
からかい過ぎちゃったかな。
大慌ての小松田さんに私はクスクスと小さな笑みを零してしまう。
『励まして下さってありがとうございます。告白じゃないってちゃんと分かってますから。安心してくださいね』
「ウ、ウン(そう言われちゃうと残念な気もするんだけど・・・複雑)」
『??小松田さん、行きましょう』
立ち止まっている小松田さんに声をかけて保健室に向かってテクテク歩いていく。
健康診断は身長、体重、眼科検診に問診・・・すぐ終わるよね。
早く終わらせて戻ろう。
保健室の扉を開ける。
『失礼しまーーす。ごめんなさい』
開けた扉をピシャリと閉めた。
私の顔は一気に紅潮する。中に人がいた。
しかも褌一丁。
ノックしてから開けるべきでした。
「どうしたの?」
『あ、小松田さん。忍たまが健康診断受けている途中なので私は後から「どうして閉めるんだ?」どうして開けたのよ!』
クワっと言うと勘右衛門くんがニッコリ笑った。
目のやり場に困っていると私に気がついた他の五年生も保健室から出てきてしまった。
「ユキも今から健康診断?」
『そうなんだけど後からにしようかなって』
「なんで?一緒に受けようぜ」
八左ヱ門くんが私の手を引っ張って保健室の中に引き入れた。
『わ、私、女の子だし一緒に受けるのはちょっと・・・みんなも困るでしょ?』
「「「「「全然」」」」」
むしろ歓迎と三郎くんが付け足した。君たちが良くても私が困るのだよ。
ほら、身長とか身長とか身長とかさ!
『私は後の方がいいですよね、新野先生って・・・新野先生はどこ?』
保健室をキョロキョロと見渡すが見当たらない。
「新野先生ならくノ一長屋に問診に行っているよ」
五年生が左右に割れて保健室の奥に座る伊作くんと目が合った。
悲しいお知らせ。
新野先生がいないということは今の保健室のボスは彼。
私は天を仰いだ。
「まずは眼科検診からだよ」
黒い微笑み。
保健室の出口を塞いでいる五年生。
なんてこった。
逃げることはできないようだ。
「さあ、おいで」
『よろしくお願いいたします・・・』
しかし諦めがいいのが私のいいところ。観念して伊作くんに頭を下げる。
逃げられないならサクッとやってサクッと帰ろう。
伊作くんに言われて眼科検診のスペースへ移動。
「まずは右目からね」
『こんなに見られていると緊張するのですが・・・』
印の位置に立って眼科検診を受けようとする私の周りには五年生がズラリ。
小松田さんまでニコニコ顔で混じっている。
みんな自分の検診やろうよ!
「ユキちゃん」
『はい?』
「右目からやるから右目隠さないでね」
『あっ・・・・ほ、ほら、皆に見られて緊張してるから。アハハ』
嘘です。素でやってました。
お願いだからそんな悲しそうな目で私を見つめないで。
バツの悪い気持ちになりながら左目を隠す。
「じゃあ書かれている文字を言っていってね」
伊作くんが棒で紙を指さした。
まずは一番大きなところから。これは楽勝。
『い』
「正解。次」
『さ』
「次」
く、す、き・・・
オイッ!
何を言わせるんだ。
「俺も勘右衛門好きって言わせたい!」
「善法寺先輩、左目は私にやらせて下さい」
『却下!!』
ハイ!と勢いよく手を挙げる勘右衛門くんと三郎くん。
二人の申し出は黒い微笑みで一蹴された。
勘右衛門くんと三郎くんが検診係だったら何を言わせられるか分からなかったよ。
だってほら「あぁ春画のセリフ言わせたかったのに」って三郎くんが悔しがっている。
助けてくれてありがとう、伊作くん!
ちなみに左目の文字を繋げると善法寺ユキになった。眼科検診で『濁点』と
答える貴重な体験。
血圧、聴力検査と私の後について回ってくるみんな。
「ユキってさぁ」
公開健康診断に半ば開き直っていると勘右衛門くんが私の目をジーッと見つめながら口を開いた。
負けじと見つめ返してしまう精神年齢の低い私。
勘右衛門くんを凝視していると彼は視線を逸らして頬をぷくっと膨らませた。
『どうしたの?(勝った・・)』
「ドキドキしないわけ?」
『この年で高血圧は辛いよ』
診断表に目を落とす。
最近食べ過ぎている自覚はあったけど血圧も脈拍も正常です。
「違うって!」
言いたかったこととは違ったようで勘右衛門くんは両手の握り拳をブンブン上下に振って更に膨れた。可愛いなー。
「勘右衛門が言いたいのは褌一枚の我々に少しはときめいたりしないのかという事だ」
勘右衛門くんの可愛い仕草を鑑賞していると三郎くんが言った。
改めて三郎くんを上から下まで見る。
『ドキドキか・・・うーん。ごめん。トキメキより、面白いが勝っちゃってるわ』
「面白い!?」
私の言葉に三郎くんが顔を顰めた。
「少しも意識されないの寂しい」
「ユキさん、もしかして男慣れしてる?」
肩を落として言う兵助くんと雷蔵くん。
私は隣で苦笑いしている小松田さんと顔を見合わせる。
意識して欲しかったんだ・・・。
思春期男子の感情は複雑。
『ゴホン。まずは雷蔵くん。私は男なれなどしていないよ。決して!』
重要なことはしっかり否定しないとね。遊び人だと思われては困る。
自分の名誉を守るために決然と言う。しかし“決して!”と力を込めて言った瞬間、心が物悲しくなった。乙女心も複雑。
『初めはビックリしたよ?でも、私の世界の下着と違うからさ。私の世界では褌はお祭りの時に履いているイメージしかなくて』
下着姿というよりもイベントの衣装を着ているという感じ。それに水泳の授業があったから上半身裸のみんなの姿もすぐに慣れてしまった。
そう言うと、みんなは「ふうん」とつまらなそうに相槌を打った。
「ユキちゃん泳げるの?」
『はい。水泳は割と得意でしたよ』
小松田さんが褌から話題を変えてくれたので私は嬉しくなりながら答える。
度胸試しで滝壺ジャンプ。
楽しかった幼い頃の思い出。
「じゃあ暖かくなったらみんなで海に遊びに行くのはどうかな?」
雷蔵くんの言葉にみんなから賛成の声が上がった。
もちろん私も大賛成。運良くこちらの世界に来るときに持ってきた買い物袋の中に水着が入っている。
「その時は僕たち六年生も誘ってくれる?」
『伊作くん、もちろんだよ!一緒に行けたら嬉しいよ』
みんなでビーチバレーしたいな。お昼はバーベキュー?海で魚や貝もとれるかも。
想像するだけで楽しい。
「よかった。約束だよ」
『うん』
ふわりと笑う伊作くんと指切り。
「五年生もいいよね?(否は言わせないよ?)」
「「「「「ハ、ハイ!!(黒いオーラが見える)・・・」」」」」
五、六年生で海へお出かけが決まった。何月に行けるだろう?
早く暖かくならないかな。
「それじゃあ健康診断続けようか」
伊作くんの声で想像の世界から現実に引き戻される。
ここからが難関―――
『身長体重はトップシークレットだからダメ』
ここだけは譲れない。
あれこれ言われるかと思ったのだけど、
「わかった。後ろ向いているよ」
そう言って後ろを向く兵助くんとみんな。
やけに素直。
いいことだけど・・・
拍子抜けしながら体重計に乗る。
ピタリと止まった針
165kg
『関取かッ!』
「おほー俊敏なツッコミ。さすがユキだな!」
振り向くと体重計に体重をかけている八左ヱ門くんからお褒めの言葉を貰った。
お約束の展開を予想してツッコミの言葉を考えていた私は何を目指しているのだろう?
八左ヱ門くんの足をぺシリと叩いて計りなおし。
体重は(結局みんな見ていた)・・・ピタリと止まった針。
アハハおばちゃんのご飯が美味しいから仕方ないよね。仕方ないよ!
自分を慰めながら体重計から下りる。
そしていよいよ問題の身長測定。
意を決して台に乗る。
伊作くんがゆっくりと私の頭にカーソルを下ろす。
緊張の一瞬
「ええと、140cm?」
『はーいありがとうお疲れ様です』
「な訳ないよね。コラ、足曲げちゃダメだよ」
台から下りようとした私は困り顔の伊作くんに引き戻されてしまった。
彼に後ろから羽交い締めにされて(酷い!)柱に背中をくっつけさせられる。
そして雷蔵くんによって読み上げられた数字は・・・
『・・・。』
「ユキちゃん骨削ったら?(僕より高い・・・)」
『軽いトーンで恐ろしいこと言わないでよ!っ~痛い!』
カーソルをスライドさせて私の頭にぶち当てた伊作くんを私は保健委員とは認めません。
さっきの優しくふんわり笑う伊作くんはどこに行ったの!?
「二、三回当てれば縮むかな?」
『縮まんわッ!』
この人怖いよっ
二回目が振り下ろされる前に計りからおりる。体をひねりながら逃げたせいで計りの板と床の間に踵を引っ掛ける不運。さすがは不運委員会の根城。
私にも不運が移ったようだ。
倒れていく私ができるのは間抜けな驚きの声をあげることのみ。
『ん?』
「まったく。ユキはすぐ転ぶな」
温かい?
痛みとは違う衝撃に瞑っていた目を開けると数十センチ前に床。
顔を上げると八左ヱ門くん。
『おほー』
「それ俺のセリフ」
八左ヱ門くんが優しく笑った。
私のアノ体重を片手で受け止めるなんて力持ちなんだな。
改めて見ると他のみんなも鍛え上げられた体つき。
「ひゃあ!?ユキ、ちょ、ちょお前何やってんだよ!?」
『八左ヱ門くんて体脂肪いくつ?』
筋肉硬い!
ペシペシと八左ヱ門くんの腹筋を触ってみる。
「六パーセントだけど。えっと・・・(これはヤバイ)」
凄い。カッコイイ!アスリート並?
八左ヱ門くんの体つきに私の中の対抗心が燃え上がる。私もこの体を目指したい。
六つに割れた腹筋、引き締まった腕。これくらいになるには一日何時間の運動が必要なのかしら?
『自主鍛錬ではどんなことをやっているの?』
「っ~!(そんなに触られたら・・・)」
水着を着る時期までにシェイプアップしないとね。
自分のお腹を摘んでみる。否、握ってみる・・・うわぁ。
夏まであと何ヶ月?時間ないじゃん!
忍たまなら効率のいい体の絞り方知ってるよね。是非教えてもらおう。
『八左ヱ門くん?』
返事がない八左ヱ門くん。
固まっている彼の目の前で手を振ると彼はハッとした後カーッと顔を紅潮させた。
『どうした「ダメだ、もう無理、限界!」・・・え?』
私から逃げるように突然保健室から飛び出していってしまった八左ヱ門くん。
『え?え?八左ヱ門くん??』
褌一丁でどこへ!?
ポカンと口を開けながら周りを見ると気の毒そうに保健室の出口を見つめているみんなと目があった。
『お腹下しちゃったのかな?褌一枚だから体冷えたよね。悪いことしちゃった』
「ユキちゃんのせいじゃなくて男の事「まあ気にすんな、ユキ!」わぁ、ごめん。そうだよね」
三郎くんが小松田さんの口を慌てて塞いで言った。
なぜか二人とも複雑そうな表情。なんだったんだろう・・・
暖かくなってきてはいるがまだ風も冷たい。
事務員の私が忍たまの体調を崩させる原因をつくるなんて。
三郎くんは気にするなと言ってくれるけど心には罪悪感。
『検診終わったらみんなも体冷えないうちに着替えてね』
風邪引いてしまったら大変。
『伊作くん。下痢止めの薬を八左ヱ門くんに渡したいのだけど・・・』
「僕が用意して渡しておくよ。(下剤をね)」
『ありがとう!』
良く効く薬を調合するねと言ってくれる笑顔の伊作くん。
私は後ろで五年生と小松田さんが顔を青ざめさせていたことに気づかなかった。
『伊作くんありがとう。八左ヱ門くんの事もよろしくね』
健康診断が全て終わったので伊作くんにお礼を言って保健室を出る。五年生も次の授業があるので教室へと戻っていった。
事務室に向かって歩いていると楽しそうな声。
「あ、ユキさんでしゅ。こんにちは!」
『こんにちは』
廊下でおしゃべりをしていたのはおシゲちゃん、トモミちゃん、ユキちゃんの三人。
『楽しそうだね』
盛り上がっていた三人に声をかけると私の顔を見たユキちゃんが何か思いついたようにポンと手を打った。
「そうだ。ユキさんにも聞いてみようよ」
ユキちゃんの言葉に頷くトモミちゃんとおシゲちゃん。
何だろう?
「あの、ユキさんの理想の恋人の身長っていくつですか?」
『うーん。そうだなぁ・・・』
目を楽しそうに輝かせて質問をしてくるトモミちゃんの様子に私の頬は自然と緩んでいく。こういう女子トーク久しぶりだな。
『みんなはどうなの?』
身長について理想のなかった私はパッと答えが言えなかったので逆に質問してみることに。
「160cmはあってほしいな」
即答したのはユキちゃん。
160cmはこの時代の平均男性より5センチ大きいくらい。
『トモミちゃんは?』
「私は自分よりも20cm高いのが理想なんです」
「ウンウン。それみんなよく言うわよね」
「そのくらい身長差があったほうが並んだ時に絵になりましゅよね」
各々理想の恋人を想像してウットリしている三人の横で私は苦笑い。自分の身長に20センチ足したら185センチになってしまう。
この時代でそんな長身の男性を見つけるのは難しそう。
『おシゲちゃんの理想は?』
「ふふ、しんべヱしゃまの身長が私の理想の身長でしゅ」
「まあ!おシゲちゃんったら」
「ごちそうさまです」
キャッキャと明るい笑い声が上がる。
恋バナで盛り上がるの久しぶり!胸がワクワク。
どうしてこういう気持ちを忘れてしまっていたのだろう。あぁ、そうか。
普段は上級生と拳で会話だから乙女心が枯れていたんだわ・・・。
「ところで、ユキさんは彼氏とかいないんですか?」
『えっ!?』
遠い目をしていた私にズイっと迫る三人の瞳は好奇心でキラキラ。
みんなの期待に応えられなくて申し訳ない。
サッパリいないよと乾いた笑い声を上げると三人からエーっと不満そうな声。
「ユキさんモテそうなのに!」
『あはは、トモミちゃんありがとうね』
私にだっていい感じになる男の子はいた。
が、しかし、上手くいったことは一度もない。
好きだと言ってくれた男の子の私への愛が醒める瞬間を何度も見た。
それは、弟から毒蜘蛛が脱走したと緊急コールがかかってきた時、母が買っている蛇の餌(冷凍マウス)を購入しているところを見られた時、一年間のジャングル生活を終えた父が直行で私の授業参観に来た時などなど―――
―――ううん。家族のせいにしちゃダメだよね。
一番の原因はガサツな上に何かあったらすぐに頭に血がのぼって手が出る私の性格です。
「好きな人もいないんでしゅか?」
『今のところいないよ。仕事にも慣れていないし、この時代に慣れるのに精一杯って感じで』
「えーユキさん可愛いのに彼氏いないなんてもったいないよ」
「そうですよ。あ!そうだ。ユキさんて六年生と同じ年齢ですよね?」
『うん。そうだけど・・・』
頭にクエスチョンマークを浮かべているとガシッと興奮気味のユキちゃんが私の手を握った。ビ、ビックリした。
「食満先輩はどうですか?」
『食満って・・・・・・・・・留三郎のこと?』
「ハイ!」
留三郎ごめん。
いつも名前で呼んでいるから食満=留三郎だって思い出すまでかーなーり時間がかかってしまったよ。
「六年生の中で食満先輩と一番親しくされてるじゃないですか。
よく食事の時にお二人で仲良くじゃれあっていらっしゃるし!」
『うん?』
私は首を傾げながら右手の甲をさすった。
温泉たまごを留三郎に奪われそうになった私は奴の箸を手でガード。
おかげで手の甲には丸い点々が二つ。
食事のたびに生傷が増えていく野性味あふれるカップル?そんなの嫌です。
「それなら私は立花先輩の方がユキさんの彼氏に合ってると思うわ。
美男美女のカップル。 言うこと無しよ。それに私の妻になれってユキさんが立花先輩に言われているのを聞いたことがあるもの」
ユキさんがOKすればカップル成立。いいえ、目出度く夫婦ですよね。
と頬を赤くさせるトモミちゃんは仙蔵くんの恐ろしさを知らないだろう。
彼の私の妻発言は言い換えると一生私に仕えて働けという恐怖の宣告。
仙蔵くんと付き合ったら彼氏彼女じゃなくて主人と下僕になってしまう。
逆らったら宝録火矢。付き合うのも命懸け。
「善法寺伊作先輩はどうでしゅか?誰にでも優しい保健委員長の善法寺先輩ならユキさん必ず 幸せになれると思いましゅ」
純粋な目のおシゲちゃんにどうやって伊作くんの真の姿を伝えたらいいのか。
彼は今日が子作りに最適な日だね、と笑顔で私の部屋に入ってきた学園一の危険人物。
どうやって最適な日を割り出したのかは怖くて聞けなかった。
「食満先輩よ!」
「立花先輩に決まってるじゃない。」
「善法寺先輩がいいでしゅ」
誰と付き合っても身も心もズタボロになりそうだと考えていた私はハッと我に返る。
いつの間にか仲良し三人組が喧嘩を始めてしまっていた。
『落ち着いて。喧嘩しないで』
「「「ユキさんは誰が一番魅力的だと思いますか?食立善満法花寺先輩ですよね??」」」
三人の勢いに思わず仰け反ってしまう。
私には魅力がサッパリ分からないけど、ユキちゃんは留三郎、トモミちゃんは仙蔵くん、
おシゲちゃんは伊作くんのファンみたい。
誰を選んでも三人の間に亀裂が走ってしまいそう。
困った。
どうしたらいいだろう。
別の六年生の名前をあげたら丸く収まってくれるだろうか・・・
ドカッガチャガッチャーーン!
考えていると騒々しい音が廊下に響いた。
「「「!!??」」」
顔を見合わせて音のした方に走る私たち。
音がしたのはやっぱり事務室。そして原因はやっぱり小松田さん。
『小松田さん!』
「うわあぁんユキちゃんどうしよう。学園長先生にお世話頼まれてた盆栽割っちゃったよ~」
『どうして部屋の中に盆栽入れ危ない!』
眉をハの字にして私に救いを求めようと駆けて来た小松田さんが躓いて転ぶのは予想通り、というか予定通りなので彼が転びそうな場所で手を広げて待ち構えておく。
「うぷっ!?」
『部屋の中で走らないで下さいっていつも言っているでしょう?』
「ユキちゃん、ごめんね。受け止めてくれてありがとう」
『はいはい』
いつも通りのナイスキャッチ。
小松田さんは私の腕の中から顔をあげてフニャリと笑った。
荒れた心を癒してくれる小松田スマイル。
『怪我してないですか?』
「実は突き指しちゃって・・・」
『大変じゃないですか!すぐに保健室で新野先生に診てもらってきて下さい』
「でもここの片付けしないと」
『ここは私に任せてください。さあ、怪我人は保健室へ』
「それじゃあお言葉に甘えて。行ってくるウワッ!?」
再び躓く小松田さんを支える。
本当に危なっかしい人なんだから。
『ユキちゃん、トモミちゃん、おシゲちゃん。小松田さんを保健室に送りに行くから今日はここまで。また話そう!』
六年生の話をうやむやに出来た事にホッとしながら彼女たちに別れを告げて保健室へと向かう。
小松田さんを一人で保健室に向かわせるのが不安だなんて私ったら過保護すぎ?
でも、放っておけないんだよね・・・
「ユキさんて」
「「ダメ男に引っ掛かりそう」」
(((私たちが良い相手を選んであげなくちゃ)))
各々が好きな先輩とユキをくっつけようと心に決めたくノたま三人組は小松田スマイルにだらしなく顔を緩ませるユキを見て溜息をついたのだった。
┈┈┈┈┈後書き┈┈┈┈┈┈┈
身長は
六年 170cm→長次 168cm→小平太 166cm→留三郎 165cm→文次郎 163cm→仙蔵、伊作
五年 168cm→三郎、雷蔵 166cm→八左ヱ門 165cm→兵助 163cm→勘右衛門
ユキさん165cmに設定しています。