第二章 十人十色
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ハチマキ争奪戦で優勝した私たち緑チーム。楽しみにしていた学園長先生からのご褒美は町の神社で行われる春祭り。
思いっきり楽しんでくるといい、とお小遣いを頂いたのだけれど―――
『ヨシヨシ。お薬飲んだし熱も下がってくるからね』
「金吾、タオル換えるぞ」
「クシュン!七松先輩、ありがとうございます」
遊びに行く前日に予定を決めていたら金吾くんがフラフラと倒れてしまった。
急いで保健室へ行けば新野先生から下された診断は風邪。池に落ちて体冷やしちゃったもんな。
「七松先輩、ユキさん、明日はお二人で行ってきて下さい」
『ううん。それは』
「春祭りは明日一日だけだもの。学園長先生が言ってた神社で売っている名物のお団子食べたいんです」
だから二人で行ってきて欲しい、と言ってくれる金吾くん。
『・・・わかった。また別の機会に三人で遊びに行こうね』
「ハイ!」
「金吾、たーーくさんお土産買ってくるから早く治すんだぞ!」
小平太くんに頭を撫でられて金吾くんは嬉しそうに笑みを零す。
優しい金吾くんの風邪が早く治りますように。
3.春祭り
空色の小袖。せっかくだから薄くお化粧も。髪はハーフアップにして利吉さんからもらったリボンを結ぶ。
『いつの間にかこんな時間!』
腕時計を見ると小平太くんとの待ち合わせ時間5分前。風呂敷に包んでおいた荷物と守刀を持って部屋を出て、待ち合わせをしている食堂に急ぐ。
『小平太くん!お待たせしました』
六年生と談笑中だった小平太くんに声をかける。え?何・・・?私を見たみんなの目が点になる。あ、前にもこんなことあったよね。デジャヴ。
『雪野・・・ユキですが・・・』
「っユキなのか!?」
『そんなに違うかな!!??』
ガタンと椅子から立ち上がった小平太くんに叫び返す。
あれ?小平太くんの顔が真っ赤。
「っ!?」
『風邪引いてない?』
小平太くんの額に手を当てて熱を計る。ウーン。平熱だと思うけど。
このまま出かけて大丈夫?
『聞いてる?』
「ハ、ハイ!私はだ、大丈夫だ。見ての通り元気いっぱいだぞ!」
グルグル手を回して元気なことをアピールする小平太くん。
『フフ、変な小平太くん』
つい笑ってしまうと彼は顔をさらに赤くさせた。
ちょっと変だけど(失礼)風邪ではないみたい。
『じゃあ行こっか』
「ハイ!」
『??どうしちゃったの?あ、みんなにはお土産買ってくるね。行ってきまーす』
いまだにポカンとしているみんなに手を振って、私と小平太くんは春祭りが行われる町へと出発した。
「ユキちゃん可愛いね」
「モソ」
「あれが山賊をシメていた奴だとは思えんな」
「にらめっこで変顔を披露していた奴だとは・・・」
「文次郎、留三郎、それは言わない約束であろう」
先ほどの小袖姿のユキを思い出し感嘆の息を吐き出す六年生。
(((((小平太が羨ましい)))))
彼らが大人しくしているはずもなく、さっそく尾行が開始された。
私はそんなこととは知らず小松田さんに外出届を提出し、お祭りが行われる町を目指して歩いている。
『――でね――でさ、―――だったんだよ。・・・小平太くん聞いてる?』
小平太くんの顔を覗き込むと彼はビクッとと肩を跳ねさせた。
「お、おう。聞いているぞ。良かったな!」
『聞いてなかったでしょ』
「・・・。」
三郎くんにヘムヘムの顔に変装させられた時のエピソード。小松田さんと笑い転げて吉野先生に怒られたって話だったんだけど・・・
ジーと見つめると彼は顔を赤くして気まずそうに顔をそらしてしまった。
今日の小平太くん、何か変なんだよね。いつものカラッとした明るさがないというか。
どうしたらいいかな・・・そうだ!
『ねえ、小平太くん!』
「ん?プハッ!?」
にらめっこで優勝した私の変顔を披露。
こちらを見た小平太くんが吹き出した。
「ユキ!そんな顔ばかりしていたら元に戻らなくなるぞ?」
『ばかりって?』
「アハハ、細かいことは気にするな!」
小平太くんが私の両頬を引っ張ってふにーと伸ばした。
笑っている彼の頬を私も引っ張ってやる。
『へんにゃかお~』
「ユキほにゃ!プッハハハハ」
『アハハやめてよ!小平太くんったら白目は反則だよ~』
お互いの全力の変顔に耐えられなくなり笑いを爆発させる。
お腹を抱えながらゲラゲラ笑う私たちは過呼吸寸前。
私たちの横を通過する人がいるので真面目な顔をしようとするが笑ってはいけないと考えるほど可笑しさがこみ上げてくる。
『フフ、でも良かった』
ようやく呼吸が落ち着いてきた私は袖で涙を拭いている小平太くんを見る。
「良かったって何がだ?」
『だってさ。今日の小平太くん元気ないなーと思ってたから』
私の言葉を聞いた小平太くんは目を丸くさせたあと右手で頭をワシワシと掻いた。
「元気がなかったわけではないのだ。ただ・・・」
『ただ?』
言いにくそうな表情をする小平太くんに『何でも言って』と促すと彼は目を恥ずかしそうにパチパチ瞬いてから躊躇いがちに口を開いた。
「ユキが可愛くて緊張してしまって」と言って照れたように笑う小平太くん。
「普段は小松田さんと同じ灰色の忍装束だろう?今日は髪も下ろして化粧までしているから別人に見えて・・・あ、決して普段のユキが可愛くないということではないぞ!」
予想外の小平太くんの言葉に私の顔はカーッと赤くなっていく。
そんな風に思ってくれていたんだ。
オシャレしてきて良かったな。
「私は袴姿で元気に走り回るユキも好きだ。見ていて楽しい」
『うん。ありがとう、小平太くん』
お礼を言いながら、褒められて溢れてくる笑みを小平太くんに向ける。
「ッカワイイ奴だな!!」
『うわああぁぁ、そ、その癖やめてよーー』
小平太くんに抱き上げられてグルグル回される私は悲鳴を上げる。
ほ、本当にやめて!
通行人の人が大道芸と勘違いして集まり始めたから!
グルグル回され終わった私は小平太くんとともに大きな拍手を貰った。
幾つかおひねりも飛んできた。きりちゃんがいたらさぞ喜んだことだろう。
とにかく、笑って、回って、小平太くんは普段の細かいことは気にしないいけいけどんどんな彼に戻ったみたい。
私たちは町に着くまでお喋りしたりふざけたり。
「着いたぞ、町だ」
『賑わってるね。人がいっぱい』
町に入ると人、人、人。
老若男女、色々な身分、職業の人で通りは埋め尽くされていた。
迷子になったら大変・・・いや、大丈夫だわ。
『私たち、とび出てるね』
小平太くんも私と同じくらいの身長なので周りの人達と比べると私たちは頭一つ分くらい大きい。
行き交う人たちは私くらいの身長をした女性が珍しいのか通りすがりに私を驚いた顔で見つめてくる。
あーあ。私の身長、もうちょっと低かったら良かったのになぁ。
「私はユキが大きくても小さくても気にしないぞ」
重いため息を吐いていると小平太くんは私の心を見透かしたように言って、大きな手で私の手をキュッと握り二カッと笑った。
「誰が何と言おうとユキは可愛いのだ!」
真っ直ぐな言葉と彼の明るい笑顔に私の心臓は早鐘を打つ。
ストレートな言葉が嬉しい。
いつの間にか、私は自分の身長の高さが気にならなくなっていた。
「神事舞が始まるまで時間がある。少し早いが先に昼飯を食べてしまうか」
『うん。そうだね。しんべヱくんにオススメのお店聞いておいたんだ』
「流石だな!」
『食い意地は誰にも負けないからね。地図はコレなんだけど読むの苦手でさ。お願いしてもいいかな?』
「あぁ。店はこっちのようだ」
小平太くんに手を引かれて人ごみの中を歩き出す。小袖姿の私を気遣ってゆっくりと歩を進めてくれる彼の優しさに気づき私は顔が綻んでいく。
「あそこだ」
そう言う彼の指差す方を見るとしんべヱくんが教えてくれたお店が見えていた。
お店の看板には蕎麦の文字。
お昼には早い時間帯なのに祭りの日だからか既にお店は賑わっていた。明るい店のおばちゃんに案内されて私たちは席に座って注文をする。
「旨い!」
『うん。美味しいね』
私はニシン蕎麦で小平太くんは天ぷら蕎麦。私たちは熱々のお蕎麦をフウフウしながらツルツル食べる。
『ニシン半分いる?』
前に座っている小平太くんの顔が輝く。
「欲しい!では私の海老を一本あげよう。」
『わーい。小平太くん太っ腹』
小平太くんから貰ったエビの天ぷらにパクリとかぶりつく。ん~海老がプリプリで美味しい。シアワセ~!
『ふう。ごちそうさま』
「ごちそうさま。旨かった」
同時にトンと丼をテーブルに置いて満足の吐息を吐き出した私たちの顔から自然と笑みが溢れる。
「綺麗に食べてくれてありがとね」
お店のおばちゃんがニコニコしながら食後のお茶を出してくれた。
「華咲神社の祭りには夫婦円満祈願をしに?」
咽せそうになるお茶をどうにか飲み下して、おばちゃんに『違いますよ~』とカラカラ
笑いながら否定する。
「あら、それじゃあ」
「今日は子宝祈願です!」
『ブフッ小平太くん!?』
もっと違うじゃない!
ゴホゴホ咳き込みながら小平太くんを見るとスゴく楽しそうにウインクされた。
まあ!と手を打つおばちゃんは私が唖然としている間に「若いっていいわね~」と笑いながら厨房へと戻っていってしまう。
『完全に勘違いされちゃったよ?』
「イヤか?」
『嫌ってわけでは・・・』
「そうか!」
ニカッと満面の笑みになる小平太くん。彼の笑顔が伝染して私の顔も緩んでいく。
こんなに嬉しそうにしてくれるなら勘違いされたままでもいっか。実害ないし・・・
そろそろお勘定して行こう、と話しているとタイミングよくおばちゃんが私たちのテーブルに来てくれた。
でも、何故かその隣には料理人ぽくない男の人。
「実はお願いがあるのよ」
おばちゃんの言葉に私と小平太くんが首を傾げていると、おばちゃんの横に居る華咲神社祭のイベント係だと名乗る男性が実は・・・と話しだした。
「ぜひ夫婦競技に参加して頂きたいのです。豪華な賞品も出ますので」
男性のお願いというのは祭で行われるイベント競技に私と小平太くんで参加して欲しいということだった。
どうやら出場予定の夫婦が何組か棄権しまい
人数が足りなくなってしまったらしい。
『ちなみに競技というのは?』
「奥様は特になにもする必要はありません。旦那様にお任せしていれば大丈夫です。ご心配なく!」
祭役員の男性の顔を見る。
なーんか嫌な予感がするんだよね。
『どう思う?』
「私はどちらでもいいぞ。ユキに合わせる」
「優勝商品は華咲神社名物の花団子百人分と夫婦円満セットですよ!」
迷っている私を見て役員の人が熱を込めて言った。
役員さんの言葉に私は苦笑い。
『百人分はちょっと(持って帰れないよ)お団子は5本くらい買って帰ればいいかなと思っていたから』
役員さんには悪いけど、今日はゆっくりお祭りを見させてもらおう。
「あら、今の時間だったらお団子売り切れちゃってると思うわよ」
ごめんなさい。と断りを入れようとしていたらおばちゃんが言った。
『「えぇっ!?」』
二人で声をあげて顔を見合わせる。
金吾くんにリクエストされたお団子が売り切れ!?楽しみに待っているはずなのに!
『小平太くん』
「あぁ。優勝するしかなさそうだ!」
金吾くんを落胆させたくない私たちは競技への出場を決めた。
「ありがとうございます!」
「ふふ、あなたたちなら優勝できそうねぇ」
目指せ優勝!
がちっと気合を入れて拳を突き合わせる私たちを見て、おばちゃんが楽しそうに笑った。
まだ出場者を探すという役員の人と別れ出場者集合場所に向かう私たち。
「ハアァァ」
すると突然、急に立ち止まって小平太くんが自分の頭をクシャクシャしだした。
『どうしたの?』
「イヤだ!!」
『ぎゃあっ本当にどうしたのおぉ!?』
小平太くんは急に私を肩に担ぎ上げて走り出した。
肩に当たるお腹。揺れるし苦しい。
降ろしてと叫びながら彼の背中をポカポカ叩く。何かが飛び出しそう・・・。
リバースのカウントダウンが始まっていた時、小平太くんが急ブレーキ。その勢いで
私の体は小平太くんに足を固定されたまま進行方向に飛んでいった。
『うえ~』
小平太くんに足を抱えられたまま地面に手をついて倒立する私。
小袖が捲れていく!
足の間と片手で太ももが顕にならないように必死に押さえ込む私の逆さまの視界に入ってきた見慣れた人たち。
「どうして出てきたのだ!今日は邪魔しないという約束だったではないか!」
と叫ぶ小平太くん。
目の前にいるのは六年生。
私たちずっと尾行されてきたってこと?
「もう十分楽しんだだろ?そろそろ合流させろ」
「ヤダ!文次郎、ヤダ!!」
文ちゃんの言葉にダダをこねる子供のように叫ぶ小平太くん。
「せっかくのお祭りだしみんなで楽しもうよ」
「ユキのお守り一人じゃ大変だろ?」
ちゃっかり飴細工を手に持つ伊作くんとヨーヨーでポスポス遊んでいる留三郎。
あのヨーヨーゴム製?この世界は不思議でいっぱい。
「私はユキと二人きりでデートを楽しみたいのだッ」
「・・・・そう言うな小平太」
「小平太も尾行を気にしながら行動するより我々が姿を現したほうが思う存分楽しめるであろう?」
長次くんと仙蔵くんの言葉にプクーと頬を膨らませる小平太くんの前で華咲神社に行こう!とワイワイ言う尾行組。
もうダメ。その様子を見ながら歯をギリギリ言わせていた私は我慢の限界。
『あのさ。そろそろ気づいてくれるかな?私がまだ倒立してるってことをさ!!』
ピタリと会話をやめて私に注目が集まった。
今気がついたみたいな顔をしている彼らを殴ってやりたい。
私の足を掴んでいた小平太くんさえ忘れていた様子。なぜ忘れることが出来たんだ!?
手を離された私は器用に小袖を足に挟みながら地面に足を着く。
『フラフラする』
バランス感覚を失って足取りの危なくなった私の体を伊作くんが支えてくれた。
そういえば、フラフラした時いつも背後にいる伊作くんに助けてもらう気がするな。
私の体を悪寒が走った。
「神社まで抱いていこうか?」
『いや、ありがとう。乗り物酔い?だから自分の足で歩くね』
「チッその方が良さそうだね。(連れ去ろうと思ったのに・・・)」
『え?ごめん。舌打ちが聞こえたのは幻聴?』
「舌打ち?ヤダな。僕はそんな事しないよ」
『だ、だよね・・・』
やっぱりこの人怖い!
私は笑顔の伊作くんの後ろに黒いオーラが見えた気がして彼から距離をとった。
みんなでゾロゾロ神社へと歩き出す。
「まずは華咲神社名物の花団子食べに行こうぜ」
『留三郎。それ売り切れたみたいだよ』
「何!?」
さっきお蕎麦屋さんのおばちゃんから聞いてと言うと留三郎はショックを受けたらしく
うな垂れた。
「華咲神社名物の花団子は有名なんだよ」
「花団子は神社が祭のために用意する団子で普段は買うことができない。残念だったな」
眉をハの字にする伊作くんに仙蔵くんが言葉を続ける。
今日を逃したら食べられるのは一年後になってしまうのか。
『それじゃあ、何が何でも優勝しないとね』
フンと気合を入れる。
あれ?夫婦競技だけど私はやることないんだっけ。祭役員の人の言葉を思い出していると文ちゃんにガシッと手を握られた。
「優勝ってなんだ?勝負か??」
うわあスゴく目がキラキラしてる!
「何の勝負だ?強い奴は出るのか?ユキ、説明しろ!」
留三郎も食いついてくる。
他の三人も興味津津のようなので私は小平太くんと夫婦競技に出ることになったことを皆に話す。
彼らが熱くならないはずはなく――――
「ユキは私の嫁だ。私と出場すべきであろう」
「仙蔵は危険だよ。僕と組もう」
「・・・両方とも危険」
「俺と組めば優勝間違いなしだ。俺と組め」
「頭を使う競技だったら文次郎に勝ち目はないぞ。俺にしておけ」
「なんだとオォォ!!」
「お前たち!ユキとペアを組むのは私だ!」
「選ぶのはユキだろう」と口々に言う仙蔵くん、伊作くん、長次くんに怒る小平太くん。
文ちゃんと留三郎は既に組み合っている。
本格的に喧嘩が始まってしまいそう。
困ったな。
私は急いで解決策を考える。
『そうだ!競技に出たいなら誰かが女装してペア組んだらいいんじゃない?』
私はポンと手を打った。
我ながらナイスアイデア。
みんなの女装姿も見てみたいな。ぜったい笑えると思うから。
「・・・・一人余るな」
みんなの女装を想像してニヤニヤしていると冷静な長次くんが口を開いた。
『うーん。それじゃあ』
もう一度頭を捻る。
どうしようか・・・
私が抜けよう!
そうしよう!!
「私が抜けたらちょうど3ペア作れる「「「「「「ダメだ!!!」」」」」」
グルっとこちらに首を回した皆が声を揃えて言った。
その迫力に声を詰まらせる。
なぜ?勝ちたいなら私とペアを組まない方がいいのに・・・
「誰が組むかくじ引きにしようぜ」
『ストップ!悪いけどそれは却下』
「!?」
留三郎の案に賛成する皆の声を遮って小平太くんの隣にタタッと駆け寄り彼の腕をとる。
『この競技は小平太くんと出ることにする。ね、小平太くん』
「っ~!」
見上げると小平太くんがコクコクと首を上下に振った。
『実は金吾くんにお団子をお土産で頼まれててさ。優勝して持って帰れたら、金吾くんには小平太くんと私からだよって言って渡したいの。同じチームだし』
だからごめんね。と皆に遠慮して欲しいと伝える。
『あ、もうすぐ集合時間』
「あぁ。行ったほうがいいな」
『緑チームの絆を見せてやろう!』
落胆するみんなを置いて私は小平太くんと集合場所へ向かう。
結局他の皆は誰が女装するかで揉めて出場しないことにしたみたい。
みんなの女装見たかったのに残念。
「良かった。参加してくれてありがとうね」
声をかけてくれた祭役員の人に競技に参加させてもらうお礼を言う。
私は祭役員の人に導かれ、小平太くんとエントリーを済ませて競技の説明を受けたのだけど・・・
『お願いします。誰でもいいので交代してください』
私はガタガタ震えながら皆に頭を下げている。
すぐ後ろではやる気いっぱいに準備運動する小平太くんの姿。
「ハハハ僕たちには務まらないよ」
「ユキが適役だ」
無理無理と手を顔の前で振る伊作くんと励ますように私の肩にポンと手を置く留三郎。
「ガッツで乗り切れ!」
『文ちゃん、気持ちじゃ乗り切れないって』
「フン。緑チームの絆を見せてくれるのだろう?」
楽しそうに口の端を上げる仙蔵くんに私は顔を青くする。
「ユキ」
『た、助けて長次くんッ』
助けて、私の救世主!
「・・・・何かあったら伊作が診てくれる。安心しろ」
頭を撫でてくれる長次くん。
診てくれるって怪我する前提ですか・・・
<競技参加者は位置についてください>
地獄のアナウンス
「ユキ、どこに行くのだ?」
『か、帰らせていただきます!』
「アハハ今更何を言っているのだ!いけいけどんどーーーん」
『イヤアァァァァ助けて、無理無理、無理だってギャアアアァァ!!』
スタートの合図と共に会場に響き渡る私の悲鳴。
「妻担ぎレースか・・・ユキちゃん無事だといいね」
巻き上がる土埃
誰もが小平太の背中に逆さまにしがみつくユキの無事を祈った。
**
小平太くんと私のペアは当然ながらぶっちぎりで優勝。
レース中、全力疾走する彼の背中で逆さ宙吊りになりバウンドしていた私は朦朧とする意識の中で生きてゴール出来たことを神に感謝した。
「お水もっといる?」
『ありがとう伊作くん。良くなってきたよ』
伊作くんから湯呑を受け取り、喉を潤してホーっと息を吐いて木に背中を預ける。
競技を盛り上げてくれたお礼にとお茶やお菓子を祭役員の人から頂き、私たちは神社の木陰に移動して休憩中。
「団子百個って凄い量だな」
留三郎が優勝賞品を見て言った。
『金吾くんだけじゃなく学園の皆にも配れそう』
お蕎麦屋さんでお団子百個と言われたときは持って帰れないと思ったけど今は六年生が六人もいる。皆で分ければ持って帰れる。
ちょっと大変だったけど参加して良かったな。
あぁ、でも、まだ気持ち悪い。
揺れる視界に顔を顰めていると腕が引かれて私はポスンと横に倒れた。
上を見上げれば小平太くん。私の頭は小平太くんの膝の上。
「落ち着くまで寝ているといい」
『あ、ありがと』
突然の小平太くんの大胆な行動に私の体温はカーッと上がっていく。
至近距離から見つめられて恥ずかしくなり視線を外し目を瞬く。
『小平太くん、優勝してくれてありがとう。金吾くん喜ぶね』
ちょっと上ずった私の声。
「ユキも頑張ったな」
小平太くんに頭を撫でられて私の体がピクリと反応する。
「嫌か?」
『ううん。気持ちいい』
私の答えを聞いた小平太くんは安心したように体の緊張を解いて再び私の頭を撫で始める。
普段の彼からは想像できないような優しい手つき。
新しい小平太くんの一面を知ることが出来た嬉しさに頬を緩ませながら私は心地よさに目を瞑った。