第二章 十人十色
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2.いざ勝負
いよいよ始まった学園長の思いつきによるハチマキ争奪戦。
優勝目指していけいけどんどんの私でしたが開始早々ピンチを迎えています。
「ユキさん、こっち」
『ハ、ハイ!』
私と金吾くんは黒色チームの伊作くんに見つかって山道を転がるように逃げている。
さっきまでは距離があったのだけど六年生の足は速い。
伊作くんにすぐ後ろまで迫られている。
ここでハチマキを取られては小平太くんに申し訳ない。
「フフ、必死に逃げてる姿を見るのも楽しいね・・・」
背後からゾッとする言葉が聞こえた。
小平太くん、申し訳ない。
私は何より自分の身が可愛いです!!
『命があるうちにハチマキを伊作くんに渡そう』
「えぇっ!?ダメですよ!」
金吾くんがハチマキを外そうとする私の手を制した。
「僕、戦います。ユキさんは逃げてください」
『金吾くん・・・』
真っ直ぐな心と真っ直ぐな目が向けられ、私の良心が痛む。
金吾くんを腹黒大魔王の餌食にさせるわけにはいかない。
『策を考えよう』と金吾くんの手を引っ張り走る。
どうしようかと考えていたとき耳元で風を切る音。
『ひいぃ当たったらどうするのよ!』
手裏剣の突き刺さった木の横を走る。当てる気はないと分かっていても
(あれ?伊作くん、当てる気ないよね??)背筋が凍る。
私と金吾くんは真っ青になりながら走り続ける。
「そろそろ鬼ごっこは終わりにしよう」
穏やかな声が私の恐怖心を倍増させる。振り向くと汗だくの私たちとは打って変わって涼しげな顔をした伊作くんが木からスーーっと飛び降りてくるところ。
横の金吾くんが刀を抜いた。
あ、木刀じゃなくて真剣なんだね。
「っ!?」
ガンッ
伊作くんは地面に降りた瞬間、方向を変え自分に向かって飛んできた苦無を弾き返した。森の空気の中に消えていく金属音。
私と金吾くんが伊作くんの視線を追っていくと、そこにいたのは青色チームの留三郎。
「留三郎、邪魔しないでくれるかな?」
「フン、取りやすそうなところから取っていかないでどうすんだよ」
ヌンチャクらしきものを取り出した留三郎が木から飛び降りながら攻撃を仕掛け、伊作くんが応戦する。
ぶつかり合う武器と武器。
激しい戦いを唖然として見ていると金吾くんが私の袖を引っ張った。
「(今のうちに逃げよう)」
よく気がついてくれたよ!
気づかれないようにジリジリと後ずさりしてから茂みの後ろまで移動し、そこから全力で逃げる。
「こっちに行こう。隠れながら逃げられる」
『おぉ、金吾くん賢い』
背の高い雑草が生えている茂みの中を金吾くんの後ろに付いて進んでいく。
「あそこ見て」
小声の金吾くんが指差す方を見ると辺りを警戒しながら歩いている乱太郎くんと庄ちゃんを発見。
庄ちゃんの頭には黒色のハチマキ。私と金吾くんは顔を見合わせて二人に向かって走り出した。
私たちが庄ちゃんのハチマキを取れば同じチームの伊作くんもアウト。命が助かる。
「あっ!庄ちゃん、誰か来る!」
「ユキさんと金吾だ!」
雑草の擦れる音に気づいた乱太郎くんと庄ちゃんが振り向いて私たちを見つけてしまった。
「しまった。気づかれた!」
『ハチマキイイィィィ!!』
((ユキさん怖っ!!))
追われる側から追う側へ。
私の必死の形相を見た乱太郎くんと庄ちゃんが「わあぁ」と悲鳴をあげながら逃げ出ていく。
しばらく追いかけっこをしていると背中に悪寒。
振り向けば木の枝を飛びながらこちらに迫ってくる伊作くんの姿。
『留三郎は!?』
「急にいなくなったよ」
『あんの役立たずッ!』
しっかり伊作くんを引き止めておいてよ!
追う側から再び追われる側になり獣道を下っていく。
『っ乱太郎くん、庄ちゃん、どいて!』
「「えぇ!?」」
下り坂を下っているうちにスピードがつきすぎて自分をコントロールできなくなった私は乱太郎くんと庄ちゃんを追い抜いてしまった。
減速したくても出来ない。
気を抜いたら足が絡まってとっても痛い転び方をしそう。
「ユキさん止まって!」
背後から聞こえる息の上がった金吾くんの声。
同じ事を言う乱太郎くんと庄ちゃん声も聞こえる。
止まりたいけど、無理やり止まったら転んで地面に顔面強打するよ。
平らなところまで走ってから減速するのがいい。
そう考えていると急に視界が開けた。
「その先、池だよッ」
先にそれ言ってよおぉ!!
金吾くんの叫び声と同時に空中へ飛び出した私は無駄だと知りながらも前に進もうと足をばたつかせる。
しかし、そんなことをしてもどうにもならないわけで―――ザバーーンッ
『ブハッばっちい』
濁った水面から顔を出す。
水中で目を開けてしまったことを激しく後悔。
酸素を吸おうと大きく開けた口の中に池の水が入ってむせ返る。
ゴホゴホと咳き込みながら前を見ると波立つ水面に水色の頭巾が3つ。
「僕たちも足が止まらなくなっちゃって」
プカプカ浮かびながら金吾くんがアハハと笑った。
みんな無事みたい。
「おーーい。怪我はないかーーい?」
上を見ると伊作くん。
大丈夫だと手を振り返すと伊作くんはホッとした表情を浮かべた。
服を着たまま泳ぐのって難しい。
動きにくい体を必死に動かして泳ぎ、金吾くんたちに続いて岸にあがる。
「全員怪我はしていないようだな」
『あれ?ゴホッ、山田先生』
岸辺で上がった息を整えていると山田先生が現れた。
水分を含んだ服は重い。
伊作くんとの追いかけっこと水泳で一年分の運動をした気がする。
座り込んで疲れた顔をする私を見て山田先生が苦笑した。
「金吾とユキさんはまだ先が長いぞ」
『?』
「こういう事だよ」
『ぎゃあっ!!』
山田先生の問いに疑問符を浮かべていた私の真後ろに伊作くんが立っていた。
いつの間に!?
驚きで心臓をバクバクさせて固まる私の背中に伊作くんが手を伸ばし、何かをつまみ上げた。彼の手には黒いハチマキ。
「ない!」
それを見て頭に手をやった庄ちゃんが叫ぶ。
「池に落ちた拍子にとれてしまったんだ。そしてハチマキは庄左ヱ門の後ろを泳いでいた
幸運なユキちゃんの背中にくっついたってわけ」
話を聞いてガクリと肩を落としてしまった乱太郎くんと庄ちゃん。
落ち込む二人の頭を撫でながら「よく頑張ったね」と声をかける優しい伊作くん。
久しぶりに見る、裏のない優しさ100%の笑顔が眩しくて私は目を細めた。
「二人とも擦りむいてしまっているね。保健室に行こう」
「ユキさん、金吾、私たちの分まで頑張って!」
「優勝目指して下さいね!」
伊作くんに連れられて校舎に向かう乱太郎くんと庄ちゃん。
彼らの分まで頑張りたい、けどその前に濡れた体をどうにかしたい。
『山田先生、着替えてきてもいいですか?』
「実習中だから・・・」
『あ、じゃあ、私と服を交換してくれませんか?』
「ヒィ(ヤダ、この子、怖い!)」
山田先生の方へ一歩踏み出した瞬間、目の前から山田先生が消えた。
「ユキさん・・・」
振り向けば呆れ顔の金吾くん。
『寒いね。風邪ひいちゃう』
そうは言っても着替えることはできないので、取り敢えず服を脱いで水を絞る。
濡れた服に袖を通しているとヒュルヒュルと花火が打ち上がるような音。
遠くの森の中から青い煙が上がった。
続いて校舎からも黒い煙が上がる。
「アウトになったチームの狼煙だ」
『黒が伊作くんのチームで青い煙は・・・』
「食満留三郎先輩、団蔵、兵太夫のチームです」
『という事は残っているのは長次くん、仙蔵くん、文ちゃんのチームだね。
どのチームとも鉢合わせしたくないよ』
休憩したいがここは草木もなくて目立つ。
私と金吾くんは身を隠す場所を探すために移動することにした。
獣道もない山を登っていくと大きな木があったので、私たちは地面に剥き出している木の根に腰を掛けることに。
「ユキさん疲れてない?」
私を気遣ってくれる金吾くんの優しさで疲れなんか吹っ飛んじゃう。
『ありがとう。けっこうタフだからまだまだ平気だよ。それにしても忍者ってすごいな。
山道を何日間も移動しないといけない時もあるんでしょ?大変なお仕事だね」
実習に参加させてくれた学園長先生のおかげで忍の過酷な仕事を少しだけだけど経験する
ことが出来た。こういう機会を与えてくださった学園長先生に感謝。
『金吾くんはどうして忍者になりたいと思ったの?』
「僕は将来、忍者じゃなくて侍になるんだ」
聞くと金吾くんの家はお侍さんのお家。甘えん坊の性格を直すために修行に出されて忍術学園に入ったそうだ。長期休みも剣術師範の戸部先生の家に居候。
『寂しくない?』
「ちょっとだけ」
夢の中に父上と母上が出てくる時があるんだ、とはにかむ金吾くん。まだ十歳だもの。
家族に甘えたくなるよね。
「ねえ、ユキさん」
『なあに?』
「今度一緒のお布団で寝てもいい?」
喜三太から聞いて羨ましくなっちゃってと言う金吾くんをギュッと抱きしめる。
『もちろん。遠慮せずにいつでもおいで』
嬉しそうな顔で金吾くんも私にギュッと抱きついてきた。
親元から離れて暮らすみんなのために少しでも役立つことができたらいいな。
先生たちのように強くないし小松田さんのような特技もないけど、忍術学園のためにできることをしたい。
私にしかできないことってなんだろう。
そう考えていた時、目の前の茂みがガサガサと揺れた。
私と金吾くんは同時に立ち上がる。
「あーーユキさんと金吾見っけ!」
『きりちゃん!伊助くん、長次くんも』
黄色チームに見つかってしまった。
こちらは二人。相手は六年生の長次くんを入れた三人。
再び迎えた大ピンチにアワアワしていると金吾くんがスっと刀を抜いた。
「ここは僕に任せて逃げてください」
『で、でも』
「・・・・・相手になろう」
長次くんが苦無を構えた。
「きり丸と伊助はユキを追いかけてくれ」
私と目の合った長次くんは大丈夫だというように私に頷いた。
そうか!これは一年生の実習。
金吾くんには六年生と手合わせできる良い機会。
『金吾くん、私絶対に逃げ切るから』
「!?」
勇敢な金吾くんの幸運を祈って彼の額に軽くキスをする。
『絶対優勝しよう。後でね』
「ウ、ウン!」
私はみんなにクルリと背を向けて走り出した。
「行こう、きり丸」
「おう!」
伊助くんときりちゃんに追われながら道なき道を走っていく。
脇腹が痛くなるくらい走った私は木の生えていない自然にできた広場に出た。
膝に手をついて荒い呼吸を繰り返しているときりちゃん達に追いつかれてしまった。
「ユキさんってハァ、ハァ足速い」
息の上がった伊助くんが言った。その横で疲れきったきりちゃんがペタンと地面に腰を下ろす。
『一時休戦しない?』
「「賛成」」
私と伊助くんも地面に座り込む。
学校の持久走大会でもこんなに走ったことないよ。
「我々の優勝が決まったな」
突然聞こえた声の方に私たちはギギギと顔を動かす。
いたのは白色チーム、仙蔵くん、しんべヱくん、喜三太くん。
顔を青くする私を見て仙蔵くんが口の端を上げた。
最悪だ・・・。
宝禄火矢でジャグリングしている仙蔵くん。次にお茶を淹れるときに長次くんの爪の垢を煎じて飲ませてやろう。
「っ!?しんべヱ、喜三太、下がれ!!」
急に目つきを鋭くした仙蔵くんが二人を庇うように前に出た。
「いけいけどんどーーーん!」
ドシーーン
舞い上がる土埃。
私は背中に風を感じた。
「どうして濡れているのだ?」
『小平太くん!』
後ろから私を抱きしめる小平太くんを見ると不思議そうな顔をしていた。
小平太くんあったかいな。冷たい私の体に伝わってくる彼の体温。
自然と顔を綻ばせる私につられて小平太くんも二カッ笑った。
『濡れたのは池に落ちちゃったからなんだ。金吾くんは私を逃がすために長次くんと戦ってくれているの』
「金吾が長次と!後で褒めてやらなきゃな」
『うん。それに私、金吾くんに絶対優勝しようって言ったの。だから――』
「あぁ、私が仙蔵の相手をしている間にユキがハチマキを奪うんだ」
『わかった!』
ニヤっと一年は組のみんなを見る。
『そういう訳で鬼ごっこ再開だよ』
もうひと頑張り。
「きり丸、分が悪いよ」
「急いで中在家先輩のところまで戻ろう」
走り出すきりちゃんと伊助くんを追いかける私。
「しんべヱ、喜三太、ハチマキを奪うのは任せたぞ」
「「ハイ!」」
しんべヱくんと喜三太くんに追いかけられる私。
激しい金属音と宝禄火矢の爆音を背後で聞きながら、私は追い、追われつつ本日何度目かの山道ダッシュ。
『あれ?見失った?』
茜色に染まってきた森に目を凝らす。いつの間にか前を走っている二人を見失ってしまったみたい。困ったな・・・
「ハァハァ、ユキさん追いついたよ!」
「ま、待ってよ喜三太~」
どちらに進もうか迷っているうちに喜三太くんとしんべヱくんに追いつかれてしまった。
ますます困ったな。
手のひらを二人に向けて来ないでとジェスチャーしながら後退する私。逃げるタイミング
を伺いながら後ずさりしていた私はピタッと足を止めた。
きりちゃんと伊助くんの声が聞こえる。
<逃げよう>
<うわあぁぁ>
切羽詰まった声。
「あ!きり丸と伊助の声が聞こえる」
「ホントだ。助けてって言ってるよ」
しんべヱくんと喜三太くんも聞こえているから間違いない。
二人を助けに行かなくちゃ。
『きりちゃん、伊助くん!!どこにいるの?』
二人の声が聞こえてきた方に走りながらきりちゃんと伊助くんの名前を呼ぶ。
確かにこっちから声がしたのだけど・・・。
助けを呼ぶ声が聞こえなくなり、この方角であっているか不安に感じ始めたとき、右の茂みが揺れて小さな二つの影が飛び出してきた。
「「ユキさん!!」」
『きりちゃん、伊助くん。良かった!』
飛び出してきた二人を抱きとめる。無事で良かった。息を荒くし、体を震わせている二人の背中を安心させるようにトントンと叩く。
「何があったの?」
「しんべヱ、山賊が出たんだ」
後ろを気にしながら言うきりちゃん。
「ヒゲモジャの大男で」
「三人いたんだけど、どの人も強そうで」
「怖いよ。見つからないうちに早く逃げよう」
きりちゃんと伊助くんの言葉を聞き、私の袖を引っ張りながら不安そうに瞳を揺らす喜三太くん。
可愛い良い子を怖がらせる山賊、GO TO HELL
私の中で何かのスイッチが入った。
バキバキと木の枝が折れる音。
私は足元にある大きめの石を拾って、狙いを定める。
出てきた瞬間気絶させてやる。
大きな手が目の前にある茂みの木が払いのけて山賊が姿を現した。
『地獄へ落ちろ!!』
「「「仰せのままに!!」」」
『へ?』
ポカンとする私。
ポカンとするは組のみんな。
跪く山賊たち。
二度ある事は三度ある。
私は心の中で呟いて、持っていた石をポイと投げ捨てた。
「この人たち知り合いなの?」
『ヤダなぁ、しんべヱくんったら。柳の木のように細くてか弱い私がこんな山賊風情と知り合いなわけない「そりゃありませんぜ姐さん!!」ヒイィィやめてよ!』
私の足に泣きついてきた山賊頭の頭をバコッと叩く。
殴られた山賊頭がスゴく嬉しそうな顔をした。
気持ち悪いと罵るとさらに嬉しそうに顔を歪めた。
その様子を見ていた山賊の部下二人が小さな悲鳴を上げた。
私は自分達の頭がMだと知って衝撃を受ける手下達に哀れみの目を向けた。
「姐さんって、ユキさん・・・」
白い目をして私を見る伊助くんに『知らない、この人たちと関わりなんかない』と両手を顔の前でブンブン振りながら否定する。
『あんたたちが変なこと言うから変な目で見られてるじゃない。姐さんって何よ!?』
「勝手に姐さんと呼んだ事お詫びいたしやす。ですが、あっし達は尊敬する姐さんを姐さんと呼びたいんです。どうか姐さんと呼ばせてください」
「「お願いします」」
『却下!』
キラキラした目で私を見つめる山賊たちの言葉をバサリと切り捨てる。
は組の良い子には「お姉ちゃん」と呼ばれてみたいが、むさ苦しい男たちから姐さんと呼ばれたくない。
私の足にすがりついてくる山賊頭が鬱陶しい。
『離しなさいよ。だいたい何で姐さんなんて呼ばれなきゃいけないわけ?
あんた達に尊敬される筋合いないわ!』
「ありますよ。姐さんは俺たち手本です。脅しの仕方、強請の仕方、それにグエッ」
頭の首を掴んで言葉を遮る。
『(喉仏取って小鳥みたいな可愛いソプラノ声にしてやろうか?)』
「(すいませんでした・・・)」
頭の耳元でドスを利かせた声で言ってやると、頭は目に涙を浮かべて震えた。
これでもう余計なことは言わないだろう。
「悲鳴を聞いて駆けつけてみたら・・・」
私の顔がピシリと固まる。
振り向くと、は組のみんなの後ろに苦笑いの文ちゃんが立っていた。彼の後ろには同じチームの虎若くんと三治郎くんの姿も。
文ちゃんから「可哀想だから離してやれよ」と言われてしまう私って一体・・・
確かに今回は私が悪かったけどさ。
そんな目で見ないでよ!泣いちゃうよ!
「お前たち何をしているのだ?」
「この男たちは?」
「・・・怪我はないようだな」
私が地面にのの字を書いていじけているとザザッと音がして小平太くん、仙蔵くん、長次くんが現れた。もちろん金吾くんの姿も。
は組のみんなから事情を聞いた六年生の反応は三者三様。
「さすがユキだな」と笑う小平太くん、なぜか山賊に「だらしない」と喝を入れる仙蔵くん、「危ないことをするな」と不気味に笑いながら私に言う長次くん。
きりちゃん曰く、長次くんは笑っているほど機嫌が悪いらしい。
エエエェェそうなの!?私はガタガタ震えながら金吾くんの後ろに隠れた。
「それで、実習の続きはどうする?」
「あー仕切り直しってのもなぁ」
仙蔵くんの言葉にクシャクシャと頭を掻く文ちゃん。
彼の言う通り今から再スタートは体力的にも精神的にも辛い。
再スタートしても、もうすぐ日暮れで終業の鐘が鳴ってしまうから勝負はつかなそう。
「・・・・ハチマキを賭けて勝負をしたらどうだ?」
「そうだな!グダグダのまま時間切れになるよりサクッと勝ち負けを決めたほうが気持ちいい」
問題はどうやって勝敗を決めるか。
みんなで頭を悩ませていると、しんべヱくんが何か閃いたらしくポンと手を打って元気よく手を挙げた。
『聞かせて、しんべヱくん』
しんべヱくんの提案に目を丸くする六年生と盛り上がる一年生。
「リーダーはユキだ。ユキが代表で戦ってくれ!」
『いやいや。私なんかには無理だよ。一年生の実習だし金吾くんがいったら?』
「ううん。僕よりユキさんの方が強そう!ユキさんに任せます!」
『エッ!?ちょっと待って!私の方が勝てそうって・・・どういう意味かな金吾くん?』
「あっ(しまった!)え、え~と、え~と」
「まあ細かい事は気にするなってことだっ」
『ちょっとおぉ!?』
「ユキ、いけいけどんどーーん!」
小平太くんが金吾くんに詰め寄っていた私の肩を掴んでクルリと体を反転させ、トンと背中を押して決戦の舞台へ押し出した。
白色チームからはしんべヱくん
赤色チームからは三治郎くん
黄色チームからはきりちゃん
そして、緑色チームからは私
集まる注目
ゴクリと唾を飲み込む。
雪野 ユキ、覚悟を決めて勝負に出ます。
「用意はいいか?いくぞ!」
仙蔵くんの合図で最後の勝負が始まった。
***
食堂で重いため息をつきながら緑茶を啜る。
「そんなに落ち込むなよ。優勝したんだろ?っぷ、くく」
吹き出した留三郎の横で頬を膨らませる。
最後の勝負。私は二人の期待に応えて勝負に勝った。
しかし、勝利の代償は痛かった。
「ねーねー僕たちとも勝負してよ」
「ユキさんお願いー」
『ま、また今度ね。ユキさん心がズッタズタだから』
ブーブーと可愛く頬を膨らませてむくれる団蔵くんと兵太夫くんが私の両手を掴んで駄々をこねている。
「えー他のチームだけズルいよ。ユキさんお願い。」
私の背中に抱きつく庄ちゃん。
「ユキさん、一回だけ。ね?お願い!」
目の前でパチンと両手を合わせた乱太郎くんにお願いされて心が揺れる。
四人の可愛い生徒のお願いを断れない、とことん下級生に甘い私。
『・・・じゃあ一回だけだからね』
「「「「やったーーー!!」」」」
にらめっこしましょ、笑ったら負けよ、あっぷっぷーー
周りで私たちの様子を見ていた忍たまの半分は大爆笑で半分はドン引き。
もう、こうなったら思いっきり楽しんでやろう。
『他のみんなも呼んでこようよ!』
私の提案に賛成の声。
ドン引きされたって気にしない。
だってみんなの笑顔が見られるのが楽しいのだもの。
私たちは、一年は組のみんなを集めるために食堂から出て校舎に散っていった。