第二章 十人十色
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1.体験入学
朝食の席でお味噌汁に入っていたジャガイモの多さで留三郎と喧嘩していると学園長先生から呼び出しをくらった。
私は留三郎にジャガイモを取られないように手で朝食をガードしながら朝食を掻き込み、
学園長先生のもとへと向かう。
『おはようございます。雪野ユキです』
「入りなさい」
呼びに来てくれたヘムヘムと一緒に学園長室に入って正座すると学園長先生がオホンと咳払いをして私を見つめた。何か嫌な予感がするな・・・
「忍術学園にも事務員の仕事にもそろそろ慣れてきた頃じゃろう。しかし、まだお主は忍者というものを良く分かってはおらぬ。そこで、儂は思いついた。
ユキ、今日は一日忍術学園の生徒として過ごすのじゃ!」
『はい。畏まりえ、ええっ!?』
朝ごはんを掻き込んでゴロゴロ鳴るお腹をさすっていた私の口から甲高い驚き声が出る。良い案じゃろう、と笑顔で言われても困りますよ。
『無理です。嫌です。お断りします』
では、と腰を上げた私の足に何かが絡みついて私は床に顔から突っ込んだ。
めっちゃ痛い。見ると私の足にヘムヘムが縋り付いていた。
くぅ、犬って何をしても可愛いな。
『学園長先生、よく見てください。この細い体、軟弱な腕。
くノたまに混ざって授業を受けられるわけないじゃないですか』
学園長先生に考え直してもらおうと出来ない理由を並べる。
「ふぉふぉ、何を言っておる。ユキが体験に入る組は忍たまの組じゃ」
『余計無理ですよ!』
「まあまあ。落ち着きなさい。みんなが普段どんな生活をしているか見るのも事務員の仕事に役に立つと思うがのう」
生徒が可愛くないのかのぅ?なんて断りにくい言葉を続ける学園長先生に頭を抱えていると後ろの戸がススっと開いた。
「失礼いたします。学園長先生、お呼びでしょうか?ん、ユキ?」
部屋に入ってきたのは半助さん。
頭を抱える私を見て不思議そうな顔をしている彼にペコリと会釈する。
「よし来たな。半助よ、今日一日ユキを一年は組に体験入学させてくれ」
「ハアァァ!?」
当然のことながら驚き仰け反る半助さん。
「もしや、またいつもの思いつき・・・」
こういう思いつきって日常茶飯事なんだ・・・。
ヒクヒクと顔を痙攣させる半助さんに私は自分のピンチも忘れて同情の目を向けた。忍術学園の先生って色々な意味で大変。
「こんなこといきなり言われても困ります!午後からは実習も入っているんですよ!?」
『私も今日中に終わらせたい仕事があるんです。考え直して下さい!』
迷惑な思いつきを撤回させようと抗議の言葉を言う私たちだが所詮は雇われの身。
この学園の最高権力者である学園長には逆らえない。
結局私たちは肩を落として学園長室を後にすることになってしまった。
ぶつける先のないイライラを髪をグシャグシャに掻き回すことで沈めていると、トボトボ隣を歩いていた半助さんが大きなため息を吐いた。
『ご迷惑をおかけします』
「いやいや。一番大変なのはユキだから」
そう言いながら胃の辺りを摩る半助さんの困り顔に私は覚悟を決める。
こうなってしまったからには仕方がない。
せめて半助さんに迷惑をかけないように一日を過ごすことにしよう。
それに大変だろうけど一年は組のみんなと過ごせるのは嬉しいことだよね。
『半助さん、いえ、土井先生。今日一日よろしくお願いしますね!』
「ハハ、ユキの前向きさにはいつも感心するよ」
そう言って苦笑いをする半助さんの声はどことなく明るく感じられた。
「喜三太と金吾の間に座ってくれ」
『はい。お邪魔します』
半助さんから学園長の思いつきを説明された一年は組の皆は大喜びで私を迎えてくれた。授業受けるの何年ぶりだろう。
自分の心がワクワクしてくるのを感じていたが喜三太くんと金吾くんが出した教科書を見て盛り上がってきていた気持ちは急降下。
「30ページを開いて。今日は城の面積を求める方法をやるぞ」
算数と聞いて私が思い浮かべるもの。
赤点、追試、補習、そして何度見たかわからない通知表の1の数字。
今まで何人の先生が私の理解力のなさに匙を投げたことか・・・。
過去の暗い記憶を辿っているとにこりと教師らしい爽やかな笑みをたたえた半助さんと目が合ってしまった。
「ユキ、前に出てきて一番の問題を解いてくれ」
『私!?』
「「ユキさん頑張って!」」
応援してくれる両隣の金吾くんと喜三太くん。
私がいることでいつもとは違う授業の雰囲気を楽しんでいる一年は組の良い子たちに見守られながらヨロヨロと前に出て行く。
黒板に書かれた四角い図形と問題文。
「どこに行くんだい!?」
『え、あれ?』
気がつけば半助さんにバッと腕を掴まれていた。
私の体は無意識のうちに教室から逃亡しようとしていたらしい。
苦笑いをしながらチョークを手に取り黒板を見る。
問い:台形の面積を求めなさい
A. 記憶にございません
台形って何よ!?下が短くて上が長い四角形に私の目が点になる。
私はこんな踏み台認めない。こんなアンバランスな台に乗れるのは曲芸師くらいだ。
どこをどうしたら良いか分からない私は閃いた。
よし、カンニングをしよう!助けて、は組の良い子達!!
「ゴホンッ」
『ひいっ』
半助さんの咳払いに驚いた拍子に落としたチョークが床で砕けた。
振り向けば苦笑いやら哀れみの目を向けてくる皆の顔。
どこから手をつけたらいいのやらと正直な感想を述べる私に半助さんが頭を抱えた。
「よし。ヒントをあげよう。台形の面積を求める公式は底辺『てぇへん?(江戸っ子的な?)』庄左衛門、前に!」
半助さんが助っ人を召喚した。
「ユキさん・・・」
『ごめんね、庄ちゃん!』
ありがとう、と庄ちゃんにチョークを押しつけようとして叱られた。
代わりに解いてもらおうと思ったのに庄ちゃんったら冷静なんだから・・・。
「「「「ありがとうございました」」」」」
『ありがとうございました・・・』
1時間ってこんなに長かったっけ?ゴロンと仰向けに転がると寄ってきてくれたは組のみんなが心配そうに私の顔を覗き込んだ。
「ほにゃあ。ユキさんが倒れちゃった」
「まだ一時間終わっただけだよ」
両隣の喜三太くんと金吾くんがしっかり!と私の体を揺さぶった。
『次の時間も理数系の科目だったら泣いちゃう』
「残念だけど次はもっぱんの調合だよ」
教科書で私に風を送ってくれる三治郎くんが眉をハの字にして言った。
もうこれ以上頭使ったら知恵熱で倒れるよ。
「お、本当にいるぞ」
目線を動かして教室の入口を見ると逆さまの視界に留三郎の姿。彼の後に続いてわらわらと教室に入ってきたのは六年生。どうやら野次馬に来たようだ。迷惑な奴らだなぁ。
「ユキちゃんと一緒に勉強できるのいいなぁ」
「そんなことないですよ、伊作先輩。ユキさんったら数学ダメダメで」
『庄ちゃんにはお世話になりました』
「まったく一年生の忍たまに迷惑をかけるとはどれだけ馬鹿なんだ?」
『言ったわね。おりゃっ』
「っ何をする変態!!」
手を伸ばすと仙蔵くんの下衣に届いたので思いっきり引っ張ってみる。
さすが忍たま、素早く反応してズリ落ちないように押さえられてしまった。チッ、残念。
私を取り囲む六年生の輪がさっと広がった。
は組のみんなは命知らずな私に尊敬の眼差しを向けてくれたが仙蔵くんからは顔を足で踏まれるという屈辱を受けることになった。
「げっ。次はもっぱん調合なのか?」
喜三太くんが出した教科書を見て文ちゃんが声をあげた。
『むぅ。文ちゃんったら何よその不安そうな目つきは』
「お前のボーロを見た奴なら誰でも不安な気持ちになるだろ。前の世界でこういう事やったことあるのか?」
『ある。ただし、一度もみんなと同じ結果になったことはない』
「威張るなよ!それから、そろそろ体を起こせ」
文ちゃんが私の脇を支えて起き上がらせてくれた。
赤ちゃんのように扱われて少々照れる。
『文ちゃん、いいお父さんになりそう』
「い、いきなり何言ってんだ」
カアァと顔を赤く染める文ちゃんに目を丸くするは組のみんな。そんな様子が可愛くて笑みを零しているとプイっと文ちゃんに顔を背けられてしまった。なお可愛い。
「・・・・しかし、催涙弾の扱いは素人には危険だ」
『私もそう思うよ』
長次くんの意見に激しく同意。催涙弾が爆発したら両隣の二人も巻き込むことになる。
きっとそのあたりは半助さんも考えてくださっていると思うけど・・・。
『あれ、そういえば小平太くんは?』
「私を呼んだか?」
『うわっ!』
キョロキョロ小平太くんを探しているとスパンと戸が開いた。
教室に入ってきた彼はいつにも増してご機嫌な様子。その証拠に小平太くんが私を回す速度がいつもより速い。
目を回して再び床の上に転がる私に二パッと明るい小平太くんのドアップ。
『機嫌いいけど何かあったの?』
「実はユキが困っているだろうと思い学園長先生に直談判してきたところなのだ。午後からの実習は六年生と一年は組の合同実習に変更された!次の時間は休講で作戦会議になるぞ」
小平太くんの話を聞いたみんなから歓声が上がる。
あのいけいけどんどんで何も考えていなさそうな小平太くんが私を気遣ってくれるなんて!
「今、私について失礼なことを考えているだろう」
『しょんなことにゃいよ』
半眼の小平太くんに図星をさされて顔を背ける。ほっぺた引っ張らないでよっ。
痛い、痛いっていうより恥ずかしい!
『ふぉ、それで、実習の内容は?』
「おぉ、それを説明しないとな」
頬っぺたを揉みほぐしながら小平太くんの説明を聞く。
彼の説明はこう。
六年生を含めた三人ひと組のチームを6グループ。チームのリーダーにハチマキを付ける。
ハチマキを他のチームに奪われたらその時点でアウト。終了の鐘が鳴るまでに自分のチームも含めて一番多くのハチマキを獲得したチームが優勝。
「ハチマキをつけていない者はリーダーを傍で守るもよし、積極的に他チームのハチマキを奪いに行くもよし」
「武器は?」
文ちゃんが気になることを聞いてくれた。
「特に制限があるとは言っていなかったぞ」
「よし!燃えるなギンギーン」
小平太くんの答えにテンションの上がる六年生と震え上がるは組のみんなと私。
「では、さっそくチーム分けだ!」
小平太くんが作ってくれたクジを引く。
私が引いたのは緑色。
誰と一緒かな?
『緑色の人手挙げて~!』
「やったぁ僕だ」
『金吾くん、よろしくね』
パチンと金吾くんとハイタッチ。
「僕たちのチームの六年生は・・・」
「私だ」
小平太くんが私たちの後ろから肩に手を回して二カッと笑った。
「・・・・小平太、謀ったであろう」
仙蔵くんの声に振り向けば黒いオーラを放つ六年生の面々。
再び震え上がるは組の皆と私。
「細かいことは気にするな!ユキ、金吾、ランチを食べながら作戦会議をするぞ。
いけいけどんどーん!」
さっと私たちを両腕に抱き上げて走り出す小平太くん。
凄いスピード!
私と金吾くんは頼もしい彼の小脇に抱えられながら顔を見合わせて笑ったのだった。
『誰がハチマキをつけるリーダーになるかが重要だよね』
私たちはランチをしながら午後の実習に備えて作戦会議中。
「せっかくだからユキさんがリーダーになったらいいよ」
『そう言ってくれるのは嬉しいのだけど、みんなに追いかけまわされるの怖いよ。あ、金吾くん頬っぺにソース付いてる』
手拭いで拭ってあげると金吾くんは「ありがとう」と頬を染めながら照れ笑い。
可愛い笑顔に癒される。
バンッ
『「!!??」』
突然小平太くんがお皿に顔を突っ込んだ。
「私も拭ってくれ!」
『アホかっ!自分でやれっ!!』
何を考えているんだこの人は。持っていた手拭いを投げつける。
ションボリする小平太くんの思考回路が怖すぎる。
「うぅ私も金吾みたいに世話を焼かれたい・・・。」
「お、落ち込まないで下さい、七松先輩。元気出してください。良かったら僕が拭きましょうか?」
「ユキがいい」
「そうですよね!えっと、どうしよう・・・」
『コラ!金吾くんに気使わせるんじゃないわよッ』
「では、拭いてくれるか?」
『そんな子犬みたいな目で見つめても拭かないからね』
「むう・・・こうしてやる!!」
『ぅおおおおい!!』
ヤケを起こした小平太くんが私の上衣で顔を拭った。
慌てて引き離すも胸元はソースでべったべた。
苦笑する金吾くんと満足そうな顔の小平太くん。
さっき小平太くんを頼もしいと思った自分に今の状態を見せてやりたいよ・・・。
「ハチマキのことだがな、私もユキがつけるのがいいと思うぞ」
『私がつけてたらすぐに取られちゃうよ?』
手拭いで服のソースを落としながら聞く。これは、シミになるな。恨むよ、小平太くん!
シミ取りに集中していると金吾くんがポンと手を叩いた。
「わかった!七松先輩はユキさんにはみんな手加減するはずだとお思いなのですね」
なるほど、と頷く金吾くん。
『どうかな・・・さっき満面の笑みで私の顔を踏みつけていた仙蔵くんが手加減するとは思えないけど』
「まぁでも、一年は組と文次郎、長次くらいは手加減するさ」
「伊作先輩は?」
私と小平太くんは同時に首を横に振った。
「ユキさん大変かもしれませんね・・・」
「だから金吾には頑張ってもらわねばならないのだ!」
「僕ですか?」
自分を指差してキョトンとする金吾くんの頭を小平太くんがワシワシと撫でる。
「私が他のチームのハチマキをとりまくっている間に金吾はユキを守ってくれ」
「僕がユキさんを・・・」
『金吾くんが守ってくれるなら私も頑張れそう!』
不安そうな金吾くんにそう言って笑いかけると金吾くんは覚悟を決めてくれたようで「はい!」と頼もしい返事をしてくれた。
『これで作戦は決まったね!』
「絶対に優勝するぞ!!」
「おぉ!」
もともと体を動かすのは大好き。
初めは不安だったけど、午後の実習が楽しみになってきたな。
三人で気合を入れていると戸口から騒がしい声。
「立花せんぱ~い。ナメクジさんたちも参戦していいですかぁ?」
「ダメだ!持ってくるな。部屋に置いておけっ」
「先輩、先輩、お菓子はいくらまでですか?」
「しんべヱ、遠足に行くんじゃないんだぞ!」
入ってきたのは 白色チーム 仙蔵くん、喜三太くん、しんべヱくん
「プッ。厳禁チームだ!」
両腕をしんべヱくんと喜三太くんに抱きつかれて食堂に入ってきた仙蔵くんの姿を見て小平太くんが吹き出した。
『厳禁って?』
「立花先輩の得意武器、宝禄火矢は湿気に弱いのでしんべヱの鼻水と喜三太のナメクジと
相性が悪いんです」
金吾くんから良い事聞いちゃった。
ニヤニヤしていると廊下から凄い音。
団蔵くんと兵太夫くんを抱えた留三郎が飛び込んできた。
「ふう。危なかったですね」
「流石巻き込まれ不運と呼び声の高い食満先輩」
「へ、兵太夫!巻き込まれ不運言うなっ」
青色チーム 留三郎、団蔵くん、兵太夫くん
「はあぁ突然天井が腐り落ちるなんて不運・・・二人とも大丈夫だった?」
「僕たちは・・・伊作先輩、危ない!!うわっ」
伊作くんと乱太郎くんが食堂に入ってきた瞬間、なぜか戸がギギっと外れて彼らを押し倒した。乱太郎くんは伊作くんが庇ってくれたみたい。あぁ、良かった。
「庄ちゃん、不運サンドイッチ」
「わあぁぁ金吾ったら不吉なこと言わないでよっ」
私の隣で呟く金吾くんに庄ちゃんが叫んだ。
黒色チーム 伊作くん、乱太郎くん、庄左ヱ門くん
「いいか、お前ら。ぶっちぎりで優勝を狙うぞ!」
「「おう!!」」
「三治郎は足が速いからハチマキをつけるリーダーに任命する。しっかり走れよ!」
「ハイ!」
「虎若は目がいいから俺と一緒にハチマキを奪いに行くぞ」
「わかりました!」
気合の入ったこの三人組。
『三次郎くんも虎若くんも生物委員・・・ここはアニマルチームだね』
「おぉ、そうだな。ユキ、ナイスネーミング」
親指を立ててにやっと笑う私たち。
「コラアァユキ。お前の脳みそからいい加減に俺とお前の犬を切り離せッ。小平太もナイスネーミング言うなよっ」
叫ぶ文ちゃん
「「犬?」」
キョトンとする三治郎くんと虎若くん
「きょ、興味を持たんでいい。作戦会議は外で行うぞ!」
文ちゃんが興味津津な顔をする三治郎くんと虎若くんを連れて外に出ていった。
金吾くんには私の愛犬、文ちゃん(犬)の写真を見せてあげた。
赤色チーム 文次郎、虎若くん、三治郎くん
最後に入ってきたのは長次くん、きりちゃん、伊助くんの黄色チーム
「ユキさーーん」
「一緒に食べてもいい?長次先輩、いいっすか?」
「・・・あぁ」
長次くんの答えにパアァと顔を輝かせた伊助くんときりちゃんが駆け寄ってきた。
『あーーストップ!服汚れているの』
「ホントだ。凄いシミ。ちゃんと食べないと・・・」
「箸が苦手ならスプーンもあるよ?」
『伊助くん、きりちゃん。私が食べこぼしたんじゃないよ。そんな目で見ないでっ』
疑いの目で見つめる二人の前でブンブンと両手を振る。隣の小平太くんはそっぽを向いて
ピューピュー口笛を吹いていた。アアン?いい度胸だな。
「実習が終わったらシミ抜く方法おしえてあげるよ」
『ありがとう!伊助くんの実家は染物屋さんだったね。助かるよ』
は組の子たちは良い子だなぁ。
『ねぇ、きりちゃん何か良い事あった?』
普段より笑顔が三割増のきりちゃんの頬をムニっと引っ張る。
「えへへ、よくわかるね」
『顔がいつもと違うもの』
「土井先生と廊下で会ってね、学園長先生がこの実習の優勝チームにご褒美を用意しているって言ってたんだ」
伊助くんがキラキラした目でおしえてくれる。
ご褒美は何か聞いてみたら実習が終わるまで秘密ということだった。
気になる!優勝してご褒美欲しいな。
「チームワークでいったら僕たち黄色チームが一番っスよね、長次先輩!」
「モソ」
『フフ、気合入っているね。さあ、ご飯食べないと優勝できないよ。おばちゃんにお昼ごはんもらっておいで』
「「はーーい」」
元気よく走っていくきりちゃん、伊助くんを見守るよう後に続く長次くん。
このチームは強敵になりそうだ。可愛いは組のみんなでも勝負は勝負。
全力で戦わせてもらうわ!
「ユキさんが燃えてる」
「アハハいいぞ!勝負は真剣に取り組まないとな!」
メラメラ闘志を燃やしていると食堂に入ってきた半助さんと目があった。
私に用事みたいで手招きしている。
『呼ばれているみたい。集合は中庭だよね?そこで落ち合おう』
「あぁ、後でな。私と金吾は武器を調達してからいく」
二人に手を振り、きりちゃん達にも声をかけて廊下で待っている半助さんのところへ。
『お待たせしました』
「実習の前に教えておきたいことがあるからいいかい?」
『お願いします!』
「じゃあ、ちょっとこっちへ」
半助さんと歩きながら緑色のハチマキを頭に結ぶ。
ちょっと緊張してきたかも。
「緊張しているみたいだね」
『うっ、分かります?』
「うん。顔が強ばってる」
半助さんがチョンと私の頬をつついて笑った。
私が照れるの分かってやっているような・・・。
「ハハハ、百面相だな」
ぷくーと頬を膨らませる私を見て半助さんが楽しそうにしている。
意地悪なんだから。
『そ、そんなに笑うことないじゃない』
「ゴメン、ゴメン。可愛いからつい苛めたくなって」
『もう!またそう言う事言うんだから』
でもこうやって普通に話せてよかった。半助さんのこと意識して話し難くなると思っていたけど大丈夫みたい。
嬉しい気持ちになりながら歩き、半助さんと山田先生の部屋の中へ。
「これの使い方を教えようと思ってね。見たことあるかい?」
半助さんが箱の中から取り出した物を見て首を横に振る。
「これは狼煙といって遠くにいる相手に情報を伝える時に使うものなんだ」
『あ!聞いたことあります。わぁ、これがそうなんだ』
今回の実習でハチマキをつける人はこれを持ち、自分のハチマキが取られた時に狼煙を上げることになっているそうだ。
使い方も教えてもらう。
『上下間違えそう』
「墨で上下を書いておこう」
お世話おかけします。
赤い墨で狼煙の筒に上下を書いてくれる半助さんから「頼むから自分に向かって狼煙をあげないように」と何度も念を押される。
狼煙への着火は仏壇のロウソクをつけるために買っていたライターがあったのでそれを使うことに。
「大砲の音が授業終了の合図だ」
派手な就業チャイムにビックリ。
裏裏山あたりにいても終業チャイムを聞き逃すことはなさそう。
「時間だ。中庭に行こうか」
『ん~~ワクワクしてきた』
「くれぐれも無理はしないようにな」
『はい!優勝賞品なんだろう?フフフ楽しみ。いけいけどんどーーーん』
「・・・(心配だなぁ)」
燃える闘志。
私は小平太くんと金吾くんの待つ中庭へと走っていった。
┈┈┈┈┈後書き┈┈┈┈┈┈┈
白色チーム 仙蔵くん、喜三太くん、しんべヱくん
黒色チーム 伊作くん、乱太郎くん、庄左衛門くん
赤色チーム 文次郎、虎若くん、三治郎くん
青色チーム 留三郎、団蔵くん、平太夫くん
黄色チーム 長次くん、きりちゃん、伊助くん
緑色チーム 小平太くん、金吾くん、ユキさん